某妖怪「超有名冒険譚の主人公が目の前にいるんやが」 作:ピコッピコ
和解を記念した宴会にて
「ねぇ、小鳥さま」
「小鳥ちゃんで良いのよ」
「じゃあ、小鳥ちゃん」
「どうしたの?」
小鳥と名乗った娘がいる。
ケータよりも背が高く、ひどく大人びた……胡散臭い印象すら与える少女だ。
このナリで、世界を旅していたのだという。
最初こそ信じられなかった。
もっと昔ならいざ知らず。
この時代に、子どもと言われるような齢の娘が旅などをするもんか、と。
だが話を聞くうち、信じざるを得なくなっていった。
底の見えない知識の豊富さ、品があるが何処か親しみやすい仕草、堂々たる振る舞い。
極めつけには、旅の噺だ。
大将に喧嘩を売るという無謀さと釣り合わないほど、それはそれは面白い話だった。
一度目は、噺に夢中になって問題を忘れてしまって答えられなかった。
二度目は、少し分かりそうになっては逸らされてしまって見つけられなかった。
三度目は……
「いいのかい、大ガマ」
近くに座る側近の言葉に、突然現実に戻された。
気がつけば、先程まで幼い妖怪と話していた小鳥が目の前で座っている。
小鳥はまろやかで澄んだ瞳で射抜くように、見つめていた。
ああ、そうか。
今は元祖と本家の和解を記念した宴なのだったと思い返す。
「おふたりに未だ語っていない物語があるので、それを今語っても宜しいでしょうか」
「吾輩は構わぬ。」
土蜘蛛の言葉に続くように、大ガマも「いいぜ」と答えた。
途端、歓声が湧き上がる。
大ガマと土蜘蛛に喧嘩を売ったと話題になった時は、皆すました面をしていたが……どんな問題であるかを皆気になっていたようだ。
……珍しいことに、意識が逸れていた。
自他ともに認める隙のないオトコである大ガマは、その事実に少しばかりショックを感じる。
見渡すと、ケータやケイゾウも物珍しげに耳をそばだてていた。
「ギリシアと呼ばれる異国の地での出来事です。」
ぎりしあ、と呟く声が近くから聞こえる。
大ガマは聞いたことはあった。
海を越えた遥か遠くに位置する国だという……が、詳しくは知らない。
未来から来たケータは知っているだろうか?と見てみると、余りピンと来ていないようだった。
「とある人物を尋ねる為に私は船に乗り長い航海をしました。……海に出たことがない人〜?」
突然訪ねだした小鳥に、おずおずと何名かが手を上げる。
ここにいる大半は海になんて出たことがない。大概が古典妖怪だ。
県からすら出たことない妖怪ばかりだろう。
「航海は高い波と激しい揺れ、そして少しのカイブツで出来ています。突然船に乗り込んできて謎かけをしかけてくる老婆、歌で惑わしてくるセイレーン……そして、大きな嵐。」
「やっとの思いで辿り着いたのは、荒れ果てた砂漠でした。」
「私と友人は驚きました。……噂に聞くギリシアは美しい国。緑は豊かで、発展した文明による豪奢ながらも実用性のある建物が彩る"文明の国"であると聞いていたからです。」
「ですが我々の目に映るのは、どこまでも続く砂漠。よく見ると、崩れ落ちた建物の残骸や瓦礫の数々が見られますが、それだけでした。」
やけに通る声が、会場を少しづつ静かにしていく。
「我々は道中出会った若い羊に連れられ、人里に辿り着きます。」
……………羊?
大ガマは羊自体もだいぶ気になったが、小鳥は語るつもりがないらしい。
「小さな村です。」
「広大な砂漠とはうってかわり、そこには初々しいまでの緑がありました。高い木々や花々、足元には青い雑草。遠くでは家畜が鳴く音が聞こえ、無邪気な犬が駆け寄ってきました。」
「私と友人は羊にお礼を言おうと振り返ると、そこに姿はありません。見ると、遠くに逃げるように走っていく姿が見えました。その後を、犬が追いかけます。」
「不思議に思いながら、私達は村に立ち入りました。」
「──静かな村です。」
「静かすぎるのです。」
「こんなにも豊かな場所であるのに、子どもの笑い声すら聞き取れない。赤子が泣いてたって良いのに、呼吸する音すら耳に入りません。例え、そばだてたとしても。」
「『ああ、小鳥!』」
「友人の叫ぶような呼び声を聞いた途端、私は背後から地面に押し倒されました。そして私達の前に、少人数の男たちが現れました。みな、隠れていたのです。」
「暴漢の内、一番顔色の良い男が私に声をかけました」
「『お前、お前が小鳥であるな?』『ええ、まあ』『頼みがある』『……何を』」
「断らせる気も無い雰囲気で、男は口を開こうとして、仲間に止められます。『はやく連れていこう』『待て、この女、怪しいぞ。こんな砂漠になってしまった林ばかりであるのに、汚れが殆ど見当たらない。』『だがこうでもしないと、早くしないと、我々が死ぬ羽目になる』…………どうやら、私を探していたようで、誰かの前につき出そうとしているではありませんか」
「私は少しばかり焦って、友人を見ます。──般若がおりました。友人は
「『良い子だから穏便にしなさい』と私が言うと、瞬きの内に友人が人間に化けました。」
何の予備動作や媒介も無く変身したのだろうか。
なら、相応に強い妖怪の可能性が高い。
そういった妖怪はプライドが高く、
人に偏見が無いのか、それともこの娘が相当気に入ったのか……
「『ぶっ殺すぞーーーーーッッ!!!!!!!!!!!!!』友人はそう言って男たちに物凄い勢いで襲い掛かりました。」
迫真すぎる
声は決して大きくは無いが、目の前で叫ばれているような臨場感を感じて、大ガマは顔を引き攣らせた。
見れば土蜘蛛なんかは目を見開いている。油断していたのだろう。
側近は小さな声で「ええ……?」と言っていた。
「本当に最悪だと思いました。」
だろうな
「襲いかかられた側であるのに、男達を守らねばならなくなったからです。」
そういう理由?
「私が腰の抜けた男達を庇うと、友人は男たちに向けて舌打ちをしながら『人ッ間ッ如きがァ……ッッ……調子に乗るんじゃあないぞォ……』と凄みました。」
嫌いそう。人間。
それもかなり嫌いそう。
ここまで露骨に人間を嫌っている妖怪は寧ろ珍しいくらいだ。かつての土蜘蛛を思わせる。
大ガマは忍者と手を組んだこともある程度には人に友好的なので、そういう感じの客観視が出来た。
何故この娘は無事なのか甚だ疑問。
が、大ガマは何も言わずに話の続きを待った。
ここにいる妖怪全員がその友人との馴れ初めを気になっている。
「私は友人を宥めて、腰を抜かした男たちに話を伺いました。」
「すると、すぼめた様な声で『長に会わせなくてはならない』と言いました。『この村の周辺で、ヘンな奴が蔓延っているんだ。』同じ男が語り始めました。」
「『昔は美しい場所だった。緑は溢れ、小鳥のさえずりが聞こえ……危ない動物も多かったが、今ではそれも豊かさだったと思える。』」
「『ある日から、急に辺りが砂漠になり始めた。それと同時に、子どもが攫われるようになったのだ。』」
「『砂漠を歩くと、人が消える。かと言って家にいると子どもが攫われる。助けを求めようにも、もうどうしようも無い』」
「『長が、白い服を着た女が何とかしてくれる筈だ、と』」
「その事件を、私に解決してもらいたい。」
「概ね、そういった内容でした。」
シンと静まり返った会場で、どこかの妖怪が「攫われた子どもはどうなったんだ……?」と呟いた。
子どもが好きな妖怪だ。
それを聞いた小鳥は笑って「無事よ。取り返したわ」と言った。
強い。
「私は長に会い、子どもを集めた家に泊まることになりました。窓ひとつ無い家です。」
強すぎやしないだろうか。
怖いもの無しか?
大ガマは思わずそう言おうとしたが、噤んだ。
随分と勇気のある少女であるとは思っていたが、まさかここまでとは。
「その日の夜、ノックがして、声がした。」
「『開けてくれ!俺だ!今朝、お前に襲いかかったやつ!』母親が開けようとしたのを、制します。『開けてくれ!さっき犯人みたいな奴を見つけたんだ!連れていきたい!』友人と目が合い、友人は武器を取り出しました。『開けてくれ!早く!』」
「『ご存知かしら。決まり事があるのよ。』私はそう言いました。」
「声が止みます。決まり事とは……」
「
「そう考えていると、扉の向こうも『ああ、知ってるぞ!』と言いました。」
「『じゃんけんぽん』と言って、私はパーを出しました。そして、扉の向こうで『勝ったぞ! オレはグーだ! さあ入れてくれ!』と言われました。」
「かくして扉の向こうが人ならざる者であることを突き止めた私は、ソレを仕留め、居場所を聞き出し子どもを取り返したのです。」
「おしまい」
数秒ばかりの沈黙が降りる。
そうして、
「え!?終わり!?」
「そうよ」
「今のが全部!?」
「そうよ」
「嘘だあ!絶対!」
「ちがうよ」
ケータの問いかけに全て肯定して見せた娘をキッカケに、喧騒と変わらぬざわめきが会場を占拠する。
近くに座る側近も口を開けて驚いていた。
物珍しいものだ。
「おいおい、なんだい今の話……」
「俺、アレを一個解いたぜ」
「大将であるキミが分からないんじゃ話にならないんだよ。それに、アッチとほぼ同時なんだろう?」
側近が土蜘蛛に目を向けた。
それを見無かったことにして、大ガマが小鳥を見る。
目が合う。小鳥が笑みを浮かべた。
溜息を吐いてしまいそうだ。
きっとこれも言っていないことがあるに違いない。
「全ての質問に答えるのは難しいから代表────ケータとケイゾウに別れて聞いてちょうだい。」
「ゲーッ 俺ぇ!?」
「お、俺にか!?」
瞬く間に妖怪に囲まれたケータとケイゾウの悲鳴に、小鳥は心底愉快そうに笑った。
本家元祖に別けなかったことに少し呆気に取られ。
そして、大ガマは不安そうに見る妖怪に「気にすんな」と笑った。
土蜘蛛もそんな風だった。
……もう争いは終わったのだと言う気遣いか。
何だか小鳥のイメージ的に煽っているような気がして仕方がなかった。
貴方達の権力はここで終わりなのよ、みたいな。
ケータ、ケイゾウの元に集まった妖怪たちはめいめいに考えを口にする。
聞き取るのは難しいだろう。
元祖も本家も関係なしに集まり、眉間に皺を寄せたり首を傾げたりしながら話し合っている。
「おや……」
隣の側近が目を丸くしたのが分かった。
対立の溝は深い。
争いが終わったからといって、こんなに直ぐに仲直り出来るものなのだろうか。
その問いに、大ガマは否と答えられる。
物事は移り変わるものだ。永遠など、あまり存在しない。
だが、それは簡単では無いはずだ。
「これで全部でいい?」
「いけ! ケータ! 答えを引き出せよっ!」
「ケイゾウ! ぶっ潰せ〜 !」
「いや戦わないぞ!?」
一騎打ちくらいの熱気がある。
ケータとケイゾウだけは困惑した面持ちであった。
二人は立ち上がり、小鳥に近づく。
そしてお互いを見合わせると、譲り合うように目線を交錯し、最終的にケイゾウが口火を切った。
「なんで入れなかったんだ?」
「入ろうと思えば入れたから。鍵すらもかけていなかったのよ」
「待て。荷物を持っていて両手が使えなかったんじゃないか? 俺たちならまだしも、人間は浮いたり浮かせたりを出来ないだろう?」
「荷物を持っていたのなら、ノックなんて出来ないわ」
次にケータが聞く。
「勝ったら入れるって言ったのに入れなかったって、約束破ったってこと?」
「言霊とかのことを気にしているの? 破っていないから無意味よ。そもそも、あの妖怪に言霊は向いていない。フィジカル……殴り合い勝負一辺倒だったわ」
言霊?
ケータが疑問に思うや否や、ウィスパーが必死に妖怪パッドでググッた。
「えぇ〜と、言葉に宿る力って意味ですね。宣言通りのコトが起こると言われています。」
「じゃあオレっちが「チョコボーの雨降れ!」って言ったらその通りになるにゃん?」
「それは無理ですね。」
「なんでにゃん!」
言霊を使いこなせる妖怪は年々減って言っている。
高い想像力と強い妖力なんかが必要だからだ。
あとは完全に
大ガマや土蜘蛛は当然の如く使えるが……言霊は気まぐれだ。
想像と全く違う結果が訪れることも多い。
古代なんかだと違ったらしいが、それは大ガマが誕生するよりも、うんと昔のことだ。
ちなみに小鳥は全然使えない。
誰も知らないが。
「戦ったのか?」
「ふふ、殴り合いよ。」
「おお……」
「勝ったから居場所を聞き出したの」
ケイゾウの目が少しばかり輝く。
隣に座るフユニャンはキラッキラしていた。
引いてないのは、この二人とケータ達のみである。
この人間、マジで怖いモノ無しか?
「決まり事っていうのは、いつ決めたんだ?」
「ノックされてから咄嗟に決めたの」
その言葉に強い疑問を持った妖怪は、大ガマが見るだけでは思ったよりも多かった。
隣で側近が威圧するように、「ハァ??」と呟く。
土蜘蛛は己と同じく、もう
……どちらが先かは分からなかったが。
「どっちが勝ったの?」
「アッチよ。勝った瞬間に大喜びしていたわ。」
その言葉に幾つかの妖怪が「アッ」と呟いた。
大ガマの隣の側近も、気が付き顔を歪める。……少しの達成感も感じるが。
「分かった!!分かった分かった!」
「はぁ!?俺の方が先だろ!」
「え〜全然わかんない……」
声が湧き上がり、会場は大きく盛り上がった。
みんな答えが見えてきたのだ。
口々にあーでも無いこうでもないと言い合い、それでも喧嘩は起きない。
笑みを零したり、眉間に皺を寄せ、懸命に思慮を深めていた。
ふと、大ガマの方を小鳥が向く。
目と目が合い
──その瞬間だけ、微かな違和感を感じた。
は?
大ガマが奇妙に思うまでもなく、その違和は消え去る。
そこに残ったのは、ただの娘であった。
黒髪と白いドレスの澄んだ瞳の少女。
「決まり事なんて、元々決めてなかったの。」
「……………えっ」
決定打を小鳥が言って、大ガマは又もや現実に戻ることが出来た。
辺りが一瞬静かになって、直ぐさま騒がしくなる。
「扉を叩かれた時に、私が扉の正面に立った時に考えたのよ。本当に
「私は「じゃんけんをして勝ったら入れるという決まり事を決めた」と考えました。頭で。頭の中だけで。
「人って、心の声聞こえないのよ」
「それにじゃんけんって、相手の手を見ないと勝ち負けが分からないでしょう?」
「あの妖怪、私は何も言っていないのに、勝手に扉の向こうで『勝った勝った』って騒いだからね」
「扉を倒して、下敷きになった妖怪を取り押さえて、居場所を聞き出した。それだけだよ。」
言葉が終わって、妖怪が叫んだ。
「そんなのありぃ!?」
皮切りに、安堵ともつかないざわめきが支配する。
めちゃくちゃだ、そう思う。
大ガマはこの場で素早く答えに辿り着けた。土蜘蛛も。
だが、それは小鳥の出題する噺を既に一つ解いていたから傾向を感じ取ったからだ。
初めて聞いただけの妖怪達では、到底辿り着けないのは明白だった。
「オレ結構合ってただろ?」
「いや、オマエ全然だったよ。」
「アンタ意外と頭いいんだ〜」
「そりゃそうよ!こう見えて頭脳派なワケ」
妖怪達の顔に浮かぶのは喜楽だ。
誰一人として、不満そうにしていない。
「なるほどねえ」
側近が呟くように言うと、大ガマは目線だけでその口元を見て、目を合わせた。
「あの娘、これを見せつけたかったんだ」
元祖も本家も構わず、関係なく、力を合わせ笑い合う。
因縁深いソレを変える。
それをたった一つの噺で成し遂げて見せたのだ。
大ガマは、小鳥が少し前に己は平和主義であるとボヤいていたのを思い出した。
見せつけられた。
そもそも、勝負を申し込む時点で変ではあったのだ。
……まさか、こんなことをする為であるとは思わなかったが。
「喧嘩売られたねえ。二回も。」
大ガマは口角を上げ、それを手で覆って隠した。
心底愉快でならないと言った雰囲気の側近を無視して。
人間は嫌いじゃない。
文化に関しては目を見張るものがあるし、大ガマは粋が好きだ。
それにしたって、変な人間。
変人と言って憚らない、本当に気味の悪い、面白い人間である。
「うわ」
至極楽しそうな大ガマを見て、側近は気味が悪いものを見たように目を逸らした。
ふふ、盛り上がってる盛り上がってる……
ガネラこと小鳥はちょっと喜んでいた。
旅人であるので、騒いだりするのは好きなのだ。
小鳥は騒がしく喜んでいる妖怪たちを眺めながら、ジュースを口に含んだ。
口の中で弾けるような感覚がして、直ぐさまそれが炭酸であると気がつく。
甘い。そして人工的に爽やか。
ふと、小鳥は旅をしていた頃を思い出した。
旅をしていると旅銭が尽きる事がしばしばある。
そういう時は頼み事を解決した報酬や手に入れた不要な物を売ることで手に入れるが……稀に
吟遊詩人ってやつだ。
どんな楽器であろうと美しく演奏できる親友の音に乗って、小鳥の歌が乗る。
思い出してしまう。
生きるというのは、なんて楽しいのだろう。
──そうして思い出を肴に、隠れて酒を飲もうとして
「小鳥ちゃ〜ん? なぁにしてるのかしら〜」
あっあっ
「まだお子様なのに〜、なに飲もうとしてるの〜?」
「えっえんらえんら……これはその……」
「没収です〜!!」
「ああ……!」
般若を背負ったえんらえんらに止められた。