某妖怪「超有名冒険譚の主人公が目の前にいるんやが」 作:ピコッピコ
19
「ガネラが人魚姫に惚れていたッ……カァ〜〜〜〜〜〜やっぱこの解釈しか勝たん〜〜!!!」
「はわ〜〜〜!!!!恋する人魚姫がジッと去っていく船を見つめる……ッ! 切ねぇ〜〜!!切なすぎるにゃん!!」
「久しぶりに出た原作準拠のドラマだからただでさえ高かったハードルを易易と超えていく……! 今までにない斬新なキャラクター解釈や展開、現代的な要素を取り入れていながら上手く纏まり、尚且つ原作愛も忘れない……! この監督の次作が今から楽しみです……!!」
「あ〜〜〜キスして欲しかった〜!!」
他人の家で何してんの?
ケータは一瞬そう思ったが……
なんか、口に出したら面倒そうだったので黙った。
ケータ家の妖怪達は、ヒキコウモリのクソデカテレビで新作のドラマを見ていた。どこから持ち込んだ?
このドラマはガネラの冒険譚を元にした作品らしく、うんがい鏡曰く、ほぼ公式みたいなもん……らしい。
ケータには公式とそれ以外という括りがよく分からなかった。
オタク文化に詳しくなかったし、妖怪たちはもはや何を見ても「これもう公式じゃん!」と叫んでいるからだ。
もう公式なら、それは公式では無いのだろうか。
せっかくだから後方普通面少年ケータも鑑賞会に参戦し、普通に感動して、前の方の妖怪の熱気にちょっと引いていた。
穏やかな海が広がり、その中で浮かぶ山や船、時には鳥や人。
一度海の中へ潜れば、そこは極彩色であった。
静かで、それでいて極めて鮮やか。
まるで別世界のような心地さえするその空間で暮らす者たちは、星々のような鮮烈な輝きを放っては、自由にどこかへ消えていく。
悩み、怯え、困り、難しい何かのせいで……あるいは理由もなく囚われている誰かに対し、ガネラは軽々しく言葉を発する。
莫大な時を経た、妖怪の言葉を。
──ガネラってこんな冒険してきたんだ。
ケータはそう思った。
最初こそ理解しきれなかった冒険譚も、映像にされるとわかり易かった。
子ども向けらしく難読な漢字は無いが、その物言いや考えはあまりに達観している。……それか、謎に満ちている。
もしかしたら、現代に合わせてマイルドにされているのかも知れない。
そう考えながら、ケータはベッドで仰向けになった。
天井を見つめると、今日は何をするかなんて考えが自然と巡っていく。
うわ〜今日何しよ。
クマとカンチは今日……あ、クマあれだ、家族で出かけてる。カンチは塾の合宿だったっけ。
そういえばめちゃくちゃ嘆いてたなぁ。キツイんだって。
「聞きたいことがあるんだけど」
「うわっ!!」
突如として頭上から華やかな声が降ってきて、ケータは跳ね上がってベッドから転げ落ちた。
器用な事に形そのままに宙へ浮き、ゴチン!と頭を打ちつけて、痛みを抑えながら顔を上げる。
「な、なに!? 急に!」
黄金の毛並み、フワフワな狐のような容貌。
サクラニュータウンの守り神とされるキュウビがそこに居た。
威圧感がすごい。
「──なんでキュウビがここに居るの!?」
「ウワーーッッッ!?」
「キュウビサン!? キュウビサンナンデ!?」
ケータが叫ぶように言うと、キュウビと呼ばれた妖怪はハンッと偉そうにふんぞり返った。
「ボクだって、好き好んでこんな湿っぽいとこ来た訳じゃないよ。でも、今日は聞かなきゃならない事があるからさァ……」
分かりやすく不満そうに首を振ってキュウビは言う。
振る舞いが逐一偉そうだ。
「真っ白い娘は何処だい?」
ケータたちの脳内に現れる、ガネラとキュウビのファーストコンタクト*1の記憶……
ケータ家のご一行は、気づかれぬように唾を飲み込んだ。
「へ、へぇ〜、小鳥がどうかしたの?」
「ふーん……アレ小鳥って言うんだ。で、居るの居ないの。どっち」
「いっ、いない」
「じゃあ今何処にいる?」
「知らない。」
「は? なんで? なら普段はどこにいるんだい」
「わかんない……」
圧がすごい。
ケータの答えに、キュウビは睨めつけるように妖怪を見回す。
が、どの妖怪も首を横に振った。必死に。
だって本当に知らなかった。
あの妖怪(普段は人の姿をしている)は、気がつけば消えているし、突然現れて話しかけてくるのだ。
そもそも所在を確認するという発想すらなかった。
神出鬼没すぎて……
その様子にキュウビは溜息を吐く。
ふと、テレビを見た。
ヒキコウモリが買ってきた高画質かつ大画面なテレビである。どうやって持ち込んだ?
今からドラマを一から見直そうと開かれたメニュー画面が、高画質に輝いている。
キュウビの視線がそこで固まった。
「…………あの〜、キュウビさん?」
「何? ボクすごく忙しいから、無駄話してる暇も無いんだけど」
「そんなに忙しいの?」
「君達には関係の無いことだよ」
へ〜、妖怪達は相槌を打った。
「それにボクはSランクだしね。こんなドラマに現を抜かす暇は無いわけ。」
うんうん。
妖怪達はちょっと疑問符を浮かべながら頷いた。
「大体こんな創作物コドモの妖怪が見るものであって一人前のキュウビは見るわけもない。本だったら教養の為に読んだりするだろうけどね。」
うん?
妖怪達はちょっと戸惑い始めた。
「それ「はじまりの漁港」を元にしたドラマだろう? アレは孤独な人魚姫と主人公の掛け合いや関係性の変化が魅力的だと人気だし確かに歯切れの良い終わり方で読後感の良い作品だけどそれを言ってしまえば空飛ぶ国が」
どうした?
キュウビはなんか急にめちゃくちゃ喋りだしたので、妖怪とケータは困惑した。
「えっと、見てく……?」
「はぁ!? 見るわけないじゃないか、いい加減にしておくれよ」
ええ……?
キュウビはそう言うとドロンと消えていった。
ええ…………
ケータたちは混乱した。
「ウィスパー、キュウビどうしたの?」
「え? ええっと〜〜〜その〜〜〜」
ウィスパーが半歩程度下がり、しきりに背後を気にしだした。検索である。
ノッソノソとヒキコウモリが近づいてきて、耳打ちを始めた。
「ここだけの話────」
ガネラこと小鳥はサクラEXツリーにいた。
「高いのね。バベル塔みたい」
「もんげぇ……」
「見たこと無いけどね。」
コマさんを抱えて。
──事の発端は、少し前まで遡る。
又もや迷子になっていたコマさんを見つけ、事情を聞き出し、親切心で目的地であるココまで連れてきたのだ。
サクラEXツリーに小鳥の目は輝き、コマさんの顔はしおしおになっていた。
コマさんは緊張していた。
人見知りをしている訳では無い。
ファーストインプレッションが最悪だったからだ。
悪い妖怪に絡まれて助けてくれて優しい人なのだとは分かっても、身体は緊張してしまうものだ。
そんなこと露知らず、小鳥は思案する。
登るのには、お金が必要だったっけか。
小鳥は全く金銭を保持していないが、いけるのか。
妖怪に戻るか。無銭で侵入するのか。いけるのか。
そう考えながら、サクラEXツリーを見上げていた。
てっぺんまで視線が行こうとして、突如として小鳥の喉がゴキュリと鳴った。
肌が粟立つような感覚がする。
思わず振り返って、弾かれたように逃げ出したくなるような感覚。
──殺気を感じる。
小鳥がゆったりと振り返る。
表情はまるで少女のように、そして普通に。
舐められないように。
「なにか……ご用かしら」
そこには少年がいた。
人間であろうか。
しかし何処か妙な感覚も覚える。
色素の薄い、クリーム色の髪やキレイな瞳を持つ少年だ。
なぜ、殺気を向けてきているのか。
小鳥には皆目見当もつかなかった。
少年がゆったりと口を開く。
「貴方が御館様の言っていた
「何の話かしら」
えっ? 本当に何の話?
「貴方が企んでいることは、もう分かっているんですよ。」
なに? 本当に何の話?
「大人しく着いてきなさい。さもなくば、どうなるか……分かりますよね?」
絶対に行きたくない。
小鳥はすごく嫌な気持ちになった。
まーた何かに巻き込まれたよ。これ。
コマさんの表情は死んだ。
この子、何をしでかしたズラ……?という怖さ。
何もしていないとは一瞬たりとも思わなかった。
「ああ、ごめんなさいね。貴方のその言葉だけでは理解がしきれなくって。御館様って?」
「なっ……御館様を知らないと!?」
「ええ」
少年は愕然とした様子で、大きな声で言う。
御館様と呼ばれる妖怪には本当に覚えが無い……いや……土蜘蛛と大ガマか……?
「貴方、キュウビは知っているでしょう? 御館様はそのキュウビ。そして、ここサクラニュータウンを守る……言わば守り神なのです!」
そっちだったか〜!!
存在しない内蔵が引き攣れるような気持ち悪さを覚え、小鳥は誤魔化すように笑みを浮かべた。
品の良い笑みだった。
キュウビ……確か……
ケータの家に行った初日に来たな……
小鳥は細く息を吐いてから、頭をとにかく回す。
どうにかせねばなるまい。
「貴方は、私の名前を言える?」
「……は?」
「名前よ。私のフルネーム」
務めて優しく柔らかく聞くと、少年は目を丸めた。
小鳥は大人しそうに微笑む。
「ああ、責めている訳ではないの。でも、おかしいわね。私の名前も知らずに探しているの?」
「お、御館様からは真っ白い服の娘を探せとだけ……それに、名前云々は貴方の知るところでは無いですよ!」
今は人間に化けている。
それで小鳥に話しかけてきたということは、どうやら
妖怪であることで狙われている訳ではなさそうで、一先ずとして安心を覚えた。
旅人時代関連では無さげで安心した。
負の遺産は山のようにある。
さて、どうやって誤魔化すべきか。
「たっ」
「……?」
急に小さな声が聞こえて、小鳥は腕の中を見る。
同じように白くて可愛い妖怪が小さく震えていた。
「たすけて……ずら……」
コマさんが泣き出した。
みゅえみゅえ泣き出したコマさんに、小鳥の笑みは凍る。
目を少し見開いた後、慌てて降ろした。
「ごめんなさいね。抱えていたことを忘れていたの。わざとじゃないのよ。」
「……」
「ああ、どうしよう……」
ビックリするくらい静かに泣いたものだから、小鳥の心も軋むというもの。
小鳥、ガチ焦りである。
古代では泣く子どもは滅多に見られなかったので。
考えてみよう。
子どもとは泣くものだ。
しかし、環境が切迫していてはそうも言ってはいられない。
可愛いものでも、騒がれては命の危機がある。
周りに対しても、子どもに対しても。
しかし小鳥であるガネラは、元はと言えば人間であった。現代文明を生きるそれ。
この世に目を覚まし、
簡潔に言えば、小鳥は子どもが泣いてると何とかしてやりたくなる。おばあちゃん心。
コマさんはコドモという程の年齢では無いが。
小鳥から見たら爆裂に赤ちゃんであった。
というか、振る舞いが完全に
「ああ、そうね。」
「なっなんです?」
少年と目が合う。
「ねえ、コマさん。貴方牛乳好きよね? あとコーラも気に入ったと言っていたでしょう? ほらあの炭酸─シュワシュワの」
「ずら……」
「驚かせてしまったお詫びにお渡しするわ」
「ずら…………」
コマさんが少し泣き止んで小鳥を見る。
不安げで優しそうな面持ちの小鳥を見て、コマさんは目元を拭い。
「飲むずら……」
と言った。
「買いに行くわよ」
「……えっボクもですか?」
「コマさんベンチで座って待ってるずら……」
コマさんはトボトボ歩いて日陰のベンチに向かっていく。
小鳥は少年の腕を引いて、耳元で囁いた。
「ちょっ……」
「若い子の好きな物分からないの。手伝って下さらない?」
少年は酷く慌てた様子で小鳥と目を合わせる。
微かに赤くなった頬を見るに、かなりの美少年であった。
そして眉を下げて本当に困った顔で微笑む小鳥は、めちゃくちゃ困った人間の女の子だった。
しゅんと困っていて、悲しそうで、何とかしてあげたら心からの感謝と喜びを示してくれそうな可愛げがある。
澄んだ瞳が困ったように少し欠けていた。
「………………付き合ったら着いてきてくださいね!」
謎の少年、魂の敗北である。
ヤンデレや試し行動してくる子は好き?(備考程度の質問)
-
嫌い
-
好き
-
デレや好意が分かり易ければ好き
-
裏でドギマギしまくってたら好き
-
上二つがあるなら好き