某妖怪「超有名冒険譚の主人公が目の前にいるんやが」 作:ピコッピコ
「私は何もしませんわ」
少女はそう言って優雅に微笑んだ。
たわんだ目から、澄んだ瞳が覗き込む。
そんな真っ白い少女の言葉に、キュウリくんは唖然とするしか出来なかった。
「でもさっき協力すると……!」
「
「ぐっ」
確かにそうだ。
キュウリくんとて馬鹿では無い。言葉の小さな機微なんて簡単に分かる。
一瞬ばかり言葉に詰まってしまう。
「コマさんは協力するずら! ドラマがどうなるのか気になるし、何よりお手伝いしてみたいずら!」
「……貴方が何か役に立つんですか?」
「ず、ずら!?」
刺々しい言葉に、コマさんはショックを受けたようによろめいた。
仮にも助力を打って出た妖怪への対応では無い。
しかし、キュウリくんはSランクであった。
並の妖怪よりも位も高く強く、そしてキュウビ族であるから賢いのだ。
高ランクだから許される。
Dランクの妖怪が役に立つとは思えなかった。それも事実。
そんなヤツに手伝ってもらうなど、プライドが許さない。これも事実。
己を巻き込んできた癖に、一人で逃げ出す小鳥への苛立ち故に、八つ当たり。
それも事実だった。
「わかりました。ええ、わかりました。確かに、貴方は確かにそう言った。……この程度、ボクにとって造作もありません! 貴方の助けなど無くとも、どうとでもなる!」
「あら、私のことはどうするのかしら」
「ボクが責任を持って監視しますし、探ります」
「それって本人に言うことズラ?」
「黙りなさい」
「もんげぇ……」
しゅんと萎れたコマさんを、フンと鼻を鳴らして一蹴して。
キュウリくんは小鳥に向き直った。
「では! ボクはこれで失礼します!」
プライドの高そうな別れの挨拶に、小鳥は小さく手を振った。
……コマさんと小鳥だけが残る。
「貴方はどうするの?」
「コマさん、断られちゃったから帰るズラ……」
「あらそう」
そう呟いて、小鳥は真っ白いドレスを揺らしながらコマさんの前にしゃがみ込んだ。
「気にしない方が良いわ。」
覗き込むようであっても、視線は小鳥の方が高い。
コマさんはタレがちで大きな目を上向かせて、悲しげに小鳥を見つめていた。
小鳥はそれに、にこやかな笑みを浮かべる。
「気位(きぐらい)の高い妖怪って、みんなあんな感じよ。むしろ、あの子は優しい方かな」
「……コマさん、迷惑だったズラ?」
「いいえ。まったく。あの子はプライドが高いのよ。真っ赤な山くらいにはね。」
あはは。と笑って、小鳥は揶揄うようなひどいことを発した。
真っ赤な山。
そう言われて、コマさんは何一つとしてピンとこず。
ぼんやりした顔を更にぼんやりさせてしまった。
「あら知らないの。真っ赤な山」
「富士山のことズラ? 見たことは無いけど、赤くなるって聞いた事あるズラ」
「ふふふ、違うわね」
赤富士という景色がある。
夏の終わり頃から秋の始まり。晩夏から初秋にかけて、早朝に現れる富士山のもう一つの形のことだ。
コマさんは一度たりともソレを見たことは無い。
青い富士山すらも、遠目から見ただけ。
他に赤いのならば、紅葉だ。
そう感じながら、コマさんは言葉を聞いて、心底驚いた。
「燃え盛る山よ」
「山火事ズラ!?」
コマさんは怯えた。
山頂に位置する神社の狛犬であるので、山については敏感だった。
特に山火事はめちゃくちゃ怖い。震える。何故なら山は燃えると森が燃えて一大事。
小鳥はコマさんの震えた姿を見て、少しばかり気持ちの良い笑み浮かべて、口を動かす。
「
ただ、一言そう言った。
そう聞いて疑問を感じていると、小鳥は言葉を重ねる。
「この世の何処よりも太陽に近いから、常に何処かしらが燃えている熱い国でね。その国の持ち物で、世界でもっとも太陽に近い。結構有名だと思うのだけれど……知らない?」
「知らないズラ」
「そう。そうなの。」
常に何処かしらが燃えているなんて、随分と住みにくそうな国だ。と、思う。
でもそれ以上に気になったのは、小鳥が少し寂しげな表情を見せたことだ。
一瞬ばかりのこと。
しかし、ずっと飄々とした笑みばかりを浮かべる人間の人間らしい一面を見て、コマさんは心の隅っこで驚いたのだ。
「妖怪に聞いたら、もっと詳しく教えて貰えるでしょうね。……気になったら聞いてごらん。」
「誰にズラ?」
「ランクが高い妖怪とか?」
──そうしてコマさんは、キュウリくんを訪ねた。
キュウリくんの、吊っていて鋭く色白な目に射抜かれて足踏みをしてしまう。
そんなコマさんに、キュウリくんは呆れたような溜息を吐いた。
「なんです? つけてきたんですか?」
「つ、つけてきたのは本当ズラ。でも」
「はぁ。全く。再三言うようですがボクには手伝いなんていりません。キュウビですからね。まあボクのような美しく強い妖怪の
そう言われて、コマさんは「えっと」と呟くように言った。
「普通に聞きたいことがあってきたズラ……」
「…………」
沈黙。
コマさんは自然と口を閉じた。巾着の口みたいにキュッとする。喋らんとこ。
「…………」
「…………そ、そうですか」
顔もんげぇ赤けえズラ……
コマさんはそう思った。
ちょっと鼻高々になっていたキュウリくんは耳を赤くさせながら咳払いをしてみせる。
そうして髪を手で靡かせた。
「聞きたいこととは何です」
「この前、小鳥が言ってた……」
「小鳥?」
「真っ白い女の子ズラ」
「ああ、アレですか。それが何か?」
コマさんはあの日のことを回想しつつ、言う。
「
「は? なんですそれ?」
意を決して言ったつもりだった。
しかし、あっけらかんと否定……むしろ質問とすら思えるような言葉を返され、コマさんは少し気落ちした。ほんの少しだけ。
キュウリくんは至極疑問そうに首を傾げた。
本当に知らない言葉だ。
太陽にもっとも近い国。
それだけなら、神系なんかが住まう国なんかが当てはまるだろう。噂に近しいものではあるけども…
それに、太陽に関する妖怪には覚えがある。
しかしながら、太陽にもっとも近い国というのが気にかかった。
国に対して、太陽の方が偉いとも言いたげな雰囲気を感じる。
大概、太陽を強調するなら
何故なら。
王や国は己に誇りを持つが故に、太陽そのものであるように強調するからだ。
そう考えると、その国は随分も謙虚に思える。
「太陽にもっとも近い国……ボクは博識な方ではありますが、聞いたこともありませんね。」
「真っ赤な山があって、常にどこかが燃えてるって言ってたズラ」
「ふーん、誰がです?」
キュウリくんが少しの好奇心で尋ねると、コマさんは事も無に答えた。
「小鳥ズラ」
キュウリくんの口が、コマさんの口を真似るように、同じことを呟いた。
小鳥。
真っ白な洋服を着て、吸い込まれるような目を持つ、やけに落ち着きがあって胡散臭いまである少女だ。
御館様──桜ニュータウンの守り神である妖怪が、近しい部下へ命じていたことを思い出す。
……やけに目立ち、心を吸い込むような、真っ白い妖怪を探せ
確かに小鳥は目立つ。
しかしながら、誰もが目を奪われるような絶世の美貌という訳でも無く、何でも言う事を聞いてしまいそうな蕩ける声という訳では無い。
だだ白い。目立つ。
そして話せば関心を向けてしまう。
キュウリくんは直感的に「コイツだ」と思ったし、「違う」とも思った。
御館様の役に立ちたいというだけで、衝動的に動いてしまった。
全くもって後悔などしていない。
むしろ良い動きをしたとすら思う。
「人間の世界に、そんな国があるとは聞いたことがありません。」
「コマさんも無いズラ」
「……常に燃えているといえば、火山のある国などが当てはまるでしょう。火口から飛び出す溶岩や岩石は何でも砕き燃やします。ですが……国と呼ぶからには他国と比べていることは明らか……」
つまり、世間一般的な評。
好奇心が無いと言えば嘘となる。
キュウリくんは、己をキュウリくんなどと呼ぶ小鳥に興味があったし、単純に知識に貪欲だ。
片手間に調べてみても良いだろう。
キュウリくんは小さい端末を取り出して、ポチポチと調べ始めた。
「もんげ〜! 都会はすげえズラ〜!」
「ふん。こんなの普通ですよ」
何個か趣向を変えて検索する。が、しかし。
「………見つからないですね」
見つからない。
「作り話だったんじゃないですか?」
「そうズラか……」
しょんもり
コマさんは首を下げて、しとしとした声でそう言った。
少しばかりの罪悪感を感じて、キュウリは眉をピクリと動かした。
微かな動きだ。
「まあ、でも。」
「……?」
今のキュウリくんには耳が無い。
人間の粘土みたいな耳はある。
だが、絹のような黄金に煌めくモフモフは跡形もない。
だから、キュウリくんはいつもよりもクールであったし、優しくもあった。
「図書館や、ボクよりもうんと年寄……旧い妖怪なら知っているかもしれません。」
そう言って脳裏に浮かぶのはSランクの妖怪ばかりだ。
御館様は当然。テレビなんかで見かけたことのある者も。
聞きに行ってやっても良い。
まあ、ボクはSランクですから? やや繋がりありますし? 頭を下げるなら吝かでも……別に自分も気になっているからとかそんなのでは
「図書館! 行ってみるズラ!」
「あ、ちょっと!」
コマさんは走り出した。
ソワソワしているキュウリくんを放置して、まあまあ速く走った。
とててーと。
「ま、待ちなさい! このボクが下手に……ああもう!」
キュウリくんは額に手を当て溜息を吐くと、諦めたように追いかけた。
ヤンデレや試し行動してくる子は好き?(備考程度の質問)
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