某妖怪「超有名冒険譚の主人公が目の前にいるんやが」   作:ピコッピコ

24 / 31
書き忘れがあったので追加しました


24

 

 

 

月の出る夜とは良いものだ。

 

太陽のように燃え盛り、輝くのではなく、静かな微笑みが暗闇を淡く照らす。

 

土蜘蛛は夜が好きだった。

あり方、生まれ方からしてそのような妖怪なのである。

 

人に仇なし討伐されるまでは、霧と暗黒に紛れて音もなく人の首を落としていたのだから、目の暗くなる夜は都合が良くて好ましい。心が休まる心地すら覚える。

 

そして、土蜘蛛はそんな夜の中でも、月の輝く夜が好きだった。

 

満月だ。

丸く空にぽつねんと浮かび上がる黄色く白く、そして明るい月を眺めていると、土蜘蛛はとある作品を思い出す。

 

いつか相まみえてみたいものだと夢想して、しかし、嘘そのものの創作であると、かぶりを振って無かったことにするのだった。

 

そんな夜を繰り返してきた。

 

今宵も良い月だ。

土蜘蛛は畳仕立ての品も質も良い部屋の窓辺で、ゆったりと空を眺めていた。

 

「やだわ〜えんらえんら、女は星の数ほどいるのよ?」

「わ゛た゛し゛は゛月゛か゛ほ゛し゛い゛ん゛て゛す゛〜゛〜゛〜゛!!!」

 

大変なことになっている。

 

土蜘蛛が眉をひそめても、くだんの……目の前の妖怪たちは気にした様子もない。

 

「もう泣かないの()()()()()()! アンタの魅力に気が付かないで、あまつさえ弄ぶような女なんて忘れなさいっ!」

「でも、でも、でもぉ〜!! 忘れられなくって゛ぇ〜! 起きたらあの子に会えるかもって髪を整えてしまいますしお菓子をご用意する時には「あの子だったらもっと甘いものが好きよね」なんて微笑ん゛じゃうん゛て゛す゛う゛ぅ゛〜!」

「うーん、重症!」

 

彼の娘、思うとたよりも悪い女であったな……

 

土蜘蛛は流石に悲痛すぎるえんらえんらの言葉に、何とも言えない顔でソッと目を逸らした。

 

脳内に浮かぶのは白く華やかな衣服を身にまとい、読めぬ食えぬ笑みを浮かべ、自分を翻弄してきた少女。

 

屋敷の者やえんらえんらが仕切りに言うから、名をしっかりと覚えてしまった。

 

名は──

 

「ウッウッ……小鳥ちゃん……」

 

小鳥。

 

()()()()()()()()()、トキヲウバウネの狂行を止めた立役者の内の一人。

 

未来からやってきたという娘だ。

 

妖怪を恐れず対等に接して見せたケータの天真爛漫さへの友愛とは違い

 

妖怪たちがアレに感じたのは、畏敬だった。

 

自分の配下たちが、たかだか人間の少女一人に恐れをなしたなど笑い話にもならない。

しかしながら、事実として、妖怪たちは警戒という意味で小鳥に一目置いていた。

 

だが、妖怪たちの言うことも分かる。

 

柔らかく品の良い笑みは、こちらに安心感と好感を与える代わりに身を引きしめてくる。

 

凛としつつも可愛らしい声と言葉は、どうにも落ち着かない気持ちにさせてくるし、どうにも穏やかな心地をもたらすのだ。

 

このような雰囲気を独特だと人は呼び、妖怪はカリスマだと感じる。

 

名高い妖怪であると言われた方が、まだ納得ができた。

 

手元に置いておきたくもなるだろう。

 

何よりも拒否権などない()()()()で勝負を仕掛ける胆力。

 

並大抵ではない。

 

土蜘蛛ですら目を見張るような敏さと知識、そしてあっという間に懐に入ってくる立ち回り。

それでいて侮ることの出来ない、その在り方。

 

記憶に残らぬという方が無理な話だ。

 

聞くに今回の怪魔の騒動の立役者である、と。

尚更忘れることなどできようものか。

 

そんでもってこの女誑しである。

 

三周回ってドン引きであった。

 

話を聞けば聞くほど惨い女だとは思う。

それはそれとして帰って欲しかった。

 

この館の主であり、元祖軍の大将であった自他ともに認める大妖怪の土蜘蛛が「帰れ」と言えないのには訳がある。

 

「今日は呑みましょ! 呑めば男も女もどっちも忘れて大騒ぎよぅ〜! うふふっ!」

()()()()さま〜……! うぅ〜……! えんらえんらぁ! 呑みまぁすう!」

「あーら豪快!!」

 

女郎蜘蛛。

 

土蜘蛛のまあまあ遠い親戚的なサムシングかつ、余り逆らえない、この妖怪の所為だ。

 

あれよあれよという間に、普通に女子会のメンバーにされてしまっていた。

ごついのに。

 

本当に意味がわからなかった。

 

仕方が無いので、土蜘蛛も酒を一口。

良い酒である。

 

「ねぇ、えんらえんらちゃん。月なんてね、所詮は太陽の光を反射しているだけで、本当は輝いてなんていないのよ。貴方が本当に見つけるべきなのは、貴方だけの一番星!」

「女郎蜘蛛さま〜……でも〜……」

「もしあれなら普通に毒盛りましょう。」

「じょ、女郎蜘蛛さん……!!」

 

土蜘蛛の何が気の毒って、今日から月を見たら、作品ではなく、えんらえんらの顔が浮かびそうな所である。可哀想。

 

もう既に月がえんらえんらと結びつき始めていた。

土蜘蛛は目を閉じ、無かったことにする。月はしばらく見ないでおくか……

 

いやまあ……土蜘蛛よりも気の毒であるのは、良い雰囲気の照明をする為だけに呼ばれた、きらめ鬼なのだが。

 

最初から、ず〜っと部屋の隅っこで良い感じに部屋を照らしている。

 

目が全て煌めく宝石であるのが仇となった。

本来はビームを出すのが目的なのに。

 

輝いているから表情が読めないのが、殊更哀愁を誘う。本当に可哀想。

 

「惚れ薬とか作れますか〜? 良い感じの〜」

「作れるけど……それで良いのぉ?」

「ダメですぅ〜!」

 

女郎蜘蛛のコロコロとした笑い声が響く。凶悪であった。

 

びゃあびゃあと泣く、えんらえんら。

鈴のような笑い声を出す容貌、声共に瓜二つな女郎蜘蛛……

 

土蜘蛛は切実に帰りたいと思った。

 

なぜ己のような旧く格の高いような妖怪が、こんな浮ついた恋の話……恋?……恋の話を黙って聞いていなくてはならないのか、心底意味がわからなかった。

 

「よぉっし、アタシ決めたわ!」

 

突然、大きな声を上げて女郎蜘蛛は言った。

 

「直接問い質しにいきましょう!」

「ちょ、直接ですか〜?」

「ええ! そんでもって「アタシえんらえんらしか見えませぇん」って目の色変えさせてやれば良いのよ!」

「ええ〜!?」

 

混乱したような声を出しつつも、えんらえんらの声は上向きだ。

 

そうしてやりたい。そうなってほしい。

そんな期待が滲み出ている。

 

「そーんな女たらし! 私許せないわっ! 明日大やもりと一緒に突撃してやるわよ!」

 

土蜘蛛は酒を吹き出した。

 

「きゃあ! おやかたさま〜!?」

「歳だから誤嚥したのよ」

「女郎蜘蛛ォ!!」

 

怒気を含んだ声は部屋を揺らす。

それは声量故ではなく、純粋に、大妖怪の迫力によるものだ。

 

妖力が滲み、圧迫的な空気感を作り出す。

 

えんらえんらの身がすくみ、きらめ鬼が光量をちょっと落とした。

 

女郎蜘蛛は紫色の隈取りの奥にある目を、三日月のように丸くする。

 

男をだまくらかして、取って食う悪道な妖怪であると伝えられている女郎蜘蛛の片鱗だ。

 

「貴様、先程から黙うて聞いておればいけしゃあしゃあと……そのようなことを吾輩が許すとて思うたか?」

「そのようなことって?」

「大やもりは本家の妖怪であろう! 加えて、あの大ガマの遠縁なのだ!」

 

目を釣り上げ、犬歯のような鋭い牙をちらりと見せる。

 

たったそれだけで、えんらえんらはゴクリと生唾を飲むし、きらめ鬼はちょっと涙が出てきてしまうのだ。

 

目から垂れる滴が、ポタリポタリと落ちていき、その度に幾千にも重なった光が部屋を照らす。

 

雰囲気ある夜になってきた。

 

「あらぁ、もう元祖だの本家だの言うような時代じゃないわよう」

「……いいか。女郎蜘蛛。吾輩は今の今まで、貴様の蛮行を許してきた。ありとあらゆる、だぞ。たがそのような行いを成すというならば黙ってはおられん。」

 

土蜘蛛の言葉に、女郎蜘蛛はカラコロとした笑い声を上げて、一つの端末を見せてきた。

 

近代的な物品に疎い土蜘蛛でも分かる。

 

妖怪パッドの──スモールサイズの画面を土蜘蛛に見せつけながら、女郎蜘蛛は続けた。

 

「ねえ、今撮影中の()()()()のドラマ。大炎上中なのは知ってる?」

「それがどうし──」

「この女の子、貴方も知ってるでしょ」

 

それを見て、土蜘蛛はにわかに目を見開く。

 

画面には一つの写真が写っている。

妖怪ばかりの群れの中に、人間は二人いた。

 

一人は快活そうな、ケータと同じ年頃であろう子ども。

 

そしてもう一人は、誰よりも目立つ真っ白な娘。

 

「…………」

「ねえ、出演する人間って、どっちかしらね」

 

それとも、どっちも?

 

女郎蜘蛛の血のように真っ青な目を見つめて、土蜘蛛は眉間に皺を寄せた。

 

不快だ。

単純明快な不満が浮かぶ。

 

回りくどく、土蜘蛛を口説いているわけだが……女郎蜘蛛が言いたいことはたった一つに帰結する。

 

「ねっ! 面白そうでしょう?」

 

カラコロとした、鈴のような笑い声だった。

 

──面白そう

 

たったそれだけの事なのだ。

 

現在、妖怪の間でドラマの話は持ちきりだ。

 

あんな重要なドラマに人間を出すなんて!妖怪の役なんて出来るわけない!

せっかく作者がOK出したのに無駄にするつもりなんだ。これっきりもう作れなくなったらどうするんだ!

役者が結構辞めたし、ありゃあ重く責任取らされるだろうなぁ…………

 

妖怪とて別に暇では無い。

 

日々を忙しなく生き忙ぐ人間と比べれば、そりゃあ毎日が休日みたいなものではあるかもしれない。

 

だけども人間とは違い、存在として課された役割がある。

 

リモコンかくしはリモコンやその他細々とした物を隠して悪戯するし、ムダヅカイは金銭を無闇矢鱈と使わせ偶に取り返しがつかないほど破滅させる……

 

血やら何やらでは説明がつかないような、本能を持って生きているのだ。

 

だから飽きっぽいし、刹那的なところがある。

一回読んだだけの本で性格が変わることなど、ざらにあるのだ。

 

……つまり、そんな妖怪たちが長年ずっとハマり続けている作品への熱など押して図るべきなのだと……

 

そうは思わないだろうか。

 

「随分なことであるな。」

「私もそう思うわ。ケッコー命知らずなのねぇ」

 

何処か小馬鹿にする雰囲気の言葉に、土蜘蛛は特に反論する様子もなく、淡々と、ただ瞬きをした。

 

命知らず、というのは比喩でも何でもない。

本当に命を取られる可能性があるし、かなり高い可能性だ。

 

土蜘蛛の表情が変わることで、赤い隈取りもまた変わる。

 

味方、ヒーロー、化け物退治をする側を表す赤が、真剣な姿勢を取り黄金的な瞳を際立たせた。

 

「存外、魂をとられるのはお主の方やも知れぬな。」

「あらやだ! 私これでも女郎(スゴ腕)よ!」

 

一方、めちゃくちゃ喧嘩してるっぽくなってきたSランク妖怪たちを置いて、えんらえんらときらめ鬼は二人で酒を飲もうとしていた。

 

流石は土蜘蛛の侍女である。

 

きらめ鬼にさりげなく、適切な量の酒を注ぎ、自分はラッパでいこうとしていた。死んじゃうよ。

 

「えんらえんら」

「はい〜」

「お前もついて行くと良い」

「かしこまりました〜」

 

えんらえんらは酒を飲んだ。

 

「オォ〜!」

「…………」

「……あらぁ」

 

きらめ鬼が嬉しそうに歓声をあげ、蜘蛛たちは逆にちょっと引いた。

恋って、怖いなぁ……

 

 

 

 

 

 

 

「役者の代わりやれ」

 

ヤダ〜ッ!

 

ガネラこと小鳥は絶望していた。

最も危惧していたことが、今起きたのである。

 

椿姫に誘われるがまま歩いていき、辿り着いた先は監督のあまのじゃくの元だった。以上。

 

「役者が数体逃げ出しやがったから、代わりが必要だ。お前ならやれるだろう。特別に選ばせてやるからヤレ」

「まあ。 好きな役だなんて……凄いことですよ」

「……」

 

絶望である。

冷静に考えれば油断しすぎていたのかもしれない。旅の最中、このような事は無かった。

 

……多分無かった。

現代で腑抜けてしまったようだ。

 

小鳥は困ったような笑みを浮かべて言う。

 

「私が言ったのは()()()()だけよ。あの二人ではダメなの?」

「キュウビの子どもと狛犬みたいな妖怪か? 連絡がつかん。」

 

なにやってんの? あの子たち

 

子どもたちは今、図書館で調べ物をしている所だ。

 

キュウリくんは図書館でちゃんとマナーモードにするタイプの妖怪だった。

 

「役者をしたことなど一度も無いわ。一度たりとも、ね。そんな初心者を入れても良いのかしら」

「お前なら大丈夫だろ」

 

小鳥は困惑した。

監督がめちゃくちゃ信頼を寄せてきているからだ。

 

「……」

 

もはや小鳥は黙りこくって、顎を指で支えるようにして困り果てていた。

曖昧な笑みを浮かべる。

 

「何をして欲しい?」

「敵役だ。お前も知っているだろうが、国に仇なす、敵役をお前にしてほしい。別でもいいが」

 

目を細める。

 

やりたくねえ〜……

 

めちゃくちゃやりたくなかった。

 

敵役。姫様。国。

旅の記憶が正しければ、道端で倒れてる奴を放置して罪かけられた時の騒動ではなかろうか。

 

「やりたくない。」

「……」

「そう言ったら、どうするの?」

 

ニッコリ。

可愛らしさすらある無邪気な笑みを向ける。

 

監督のあまのじゃくの表情は変わらない。

 

「なら、お前もそれまでの人間だったということだ。」

「……」

「フミカの持っている妖怪ウォッチの型を見たことがなかったからな。調べたんだが……どこにも見当たらなかった。」

 

懇々淡々と言葉を続けるので、小鳥の隣で話を聞いていた椿姫は不思議そうにしていた。

 

目を瞬かせて、小鳥を見たり監督を見たりする。

 

「唯一()()()()()()という情報は入ってきたが……」

 

──なんか脅してきてない?これ

 

ものすっごい意味深長な物言いだったので、小鳥は普通に怖かった。

 

なんだろう。

試作品だってバレるのがそんなにダメなのだろうか。確かに、ケイゾウが作ったという点で希少性は高いかもしれないが……なんせ()()()()()()()()だ。

 

「面白いものだな。編集にもツテがあり、そんな希少な物をどうやって手に入れたのか。まだ若い人間のお前が……」

 

あっ人間って六十年生きてたら、見た目かなり変わるからか。

 

だからなに……?

 

小鳥は、監督が普通に褒めているのか脅してきているのか分からなかった。

 

そんな中、椿姫が助け船のように声を発した。

 

「とはいえども、役者が足らないのは事実です。このままでは到底公演などできませんから……小鳥さんは本当、ただ立っているだけで良いのですよ」

「顔も隠していい。お前だと分からないようにするし、演技云々に関してはお前は台本を諳んじるだけでいい。」

「それは本当に良いの?」

「大丈夫だと思われます。……たぶん」

 

顔隠して良いのかぁ……

 

思いが揺れ動く。

親友には世話になったし、個人的にもドラマを台無しになんてさせたくはない。

 

「あと二役。小鳥さんにやって頂きたい悪役の仲間がいるので、その仲間が小鳥さんよりもうんと目立てば良いのですよ」

「……」

「大丈夫です。なにも心配なさることはありません。本当にただ椅子に座って、時たま喋るだけで良いのですから。」

 

ウワー傾国

 

小鳥の心がグラグラ揺れ動く。

主に親友への友愛によるものだ。

 

いつまで経っても誰にも認められず、しかし腐らず努力していた妖怪なのだ。

そんな子がこんな華やかな舞台を用意されて、そして望まれている。

 

親友としてこれほどまでに喜ばしいことは無い。

 

「小鳥さんの友人に、この作品が好きな方はいらっしゃいませんか? きっと喜んでくださいます」

 

その時、小鳥の脳裏に浮かぶ最近の記憶──

 

ウィスパーやジバニャンなどが楽しそうに読んだりしていたのを思い出した。

 

「……そういうことなら良いでしょう。むしろ楽しそうだわ」

 

頷くと、椿姫はワッと沸き立つように喜んだ。

付け加えるようにあまのじゃくが言う。

 

「ああ、言い忘れていたが、給料は弾むぞ」

「………………出来るかぎりのことはしますわ」

 

小鳥は金銭的な余裕がなかった。

妖怪なので、バイトが出来ないのである。

 

 




感想も評価もお気に入りもここすきもぜ〜んぶ感謝
主食にしてる

追記 もち、しおりも嬉感やで。書き忘れてたわ

ヤンデレや試し行動してくる子は好き?(備考程度の質問)

  • 嫌い
  • 好き
  • デレや好意が分かり易ければ好き
  • 裏でドギマギしまくってたら好き
  • 上二つがあるなら好き
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。