某妖怪「超有名冒険譚の主人公が目の前にいるんやが」   作:ピコッピコ

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「視線がこそばゆいわね」

 

そう呟いた青年のような娘に、フミカは一瞬向けた目をソロリと逸らした。

 

声ばかりは優しく甘く、澄んでいてるというのにも関わらず、見目は思わず怖々とさせてくる。

 

娘がふわりと揺らす手先。

鋭い刃のような赤い爪先にフミカは少し驚いてしまった。

 

「ふふ」

 

笑い声に答えるように、フミカは()()()()を見上げる。

 

まるで、雨が晴れたあとの大空のようだ。

飛び出した家の真上に輝く太陽と青い空。その程度の清さがある。

 

「妖怪ウォッチ、今は預かっておいて頂戴。」

 

妖怪ウォッチ。

フミカの胸元に隠されているピンクの時計だ。

 

一件ヘンテコなだけのそれは、使う人が使えば妖怪を見る道具になる。

 

「……いいの? キュウリくんから聞いたよ。大事な物だって。」

「ふふ、キュウリくんね。」

「なに笑ってるの?」

「失礼。バカにしている訳では無いの。楽しいだけよ。」

 

何が楽しいのか。

 

まるで何もかも知り尽くしたかのような穏やかさで、己と数十センチしか変わらぬ背丈の娘は笑っていた。

 

小鳥はいつも白色の衣服を着ている。

でも今日はまるで、本性を覆い隠すような重い布と暗い色合いだ。

 

それでいて、まるで従僕のように振舞うのだから。

 

居心地が悪い。

フミカは口をもごもごと動かして黙った。

 

──巻き込んだ張本人。

 

この少女はたまにそう自称する。

 

でも、決めたのはフミカだ。

()()()を覗き込んだのも、役者になったのも自分の選択だと思っている

 

責任感が強くて頭の回りの早い、聡い子どもなのだ。

 

「貴方がその状態で妖怪ウォッチを失えば……あっという間にケーキプレート行きだわ」

 

周り妖怪しかいないのに言うの?

 

フミカはそう思ったが言わなかった、

 

聞こえていないだろうからだ。

小鳥は身をかがめて喋っている。

 

傍から見たら、内緒話をしているくらいにしか見えないだろう。

 

今は演技をしているのだ。

周りにはドン引くぐらいのオーディエンスがいる。

 

自分を怖がらせようとしているのだろう。実際、そういうことを言われてしまうと肩がこわばる。

 

だけども、これは実際的に考えると、気をつけろと心配しているのだ。

心配性なのかもしれない。

 

「心配してくれてるの?」

「もちろん」

 

自信ありげで淑やかな笑顔を見せてくる。

 

もはやそれすらも少し面白い。

 

「うん。終わったらキレイにして返すね」

「気にしなくても良いわ。でもありがとう。……ああそうだわ……そうね……」

 

爽やかな笑顔を浮かべていた小鳥が、突然何かに気がついように目線を下げる。

 

隠すように覆われた口元。

繰り返すような言葉を放って、口元から手が離れて、悪戯っぽい笑みが見えた。

 

「これら終わったら、プレゼントを差し上げるわ」

「プレゼント?」

「ええ。プレゼント。あはは」

 

曖昧だ。

悪戯っぽさも、愛嬌も、何もかもが演技かのように感じられる。

 

耳元でそばだてる為に近かった顔が離れされる。

 

途端に、小鳥はこれまた違う味わいの演技らしさを醸し出した。

 

切り替えが妙に早い。

まるで手慣れているかのようだが、聞くに彼女は未経験らしい。

 

「貴方って、なんだか変わってるね」

「似た者同士ですね」

 

はしゃいでいる観衆の声が聞こえても、フミカは特に気にならなかった。

 

「さ、ほら。行きますよ」

 

たなびく風のように軽やかに手を取られて、フミカは一歩と半歩分のたたらを踏んだ。

 

必然的に上向いた顔。

視界に楽しげな少女が入ってくる。

 

ああいや、今は男性だ。

考え直してみればそんな気もしてきた。

 

心の隙間に入り込んでくるたった一夏の思い出のような鮮烈さ。

 

──なんだか、本当にお姫様になったみたいだなぁ

 

フミカはそう思って、言う。

 

「小鳥ちゃんってカッコイイよね。それに良い人だし」

「ありがとう。よく言われるわ」

「人たらしって言われない?」

「……貴方ほどじゃないわ」

 

少し目尻を下げた小鳥に、フミカは少し首を傾げた。

 

……何か変なことを言っただろうか?

 

しかし尋ねはしない。

 

フミカは黙って裏路地を通される。

生暖かい肌に、路地の冷たさが交わっていく。

 

ふと気がつく。

小鳥の手は、存外冷たかった。

 

「あら」

 

そう思いながら進むと、突然、小鳥が気がついたように感嘆の声を上げた。

 

──小鳥の目線の先に何かがある

 

気がついて、背後から覗き込もうとすると阻まれるように手を強く握られた。

 

「……私たちに何か御用かしら」

 

さめざめとした静かな声。

先程の煌びやかさを意識した声では無い。

 

いつも通りの響きだ。

 

「手合わせ願う」

 

相対するように、フミカの見えない先から飛んできた声は鈍くどんよりと暗い。

 

しかし、同時にナイフのように鋭かった。

 

声はフミカの胸元を通り、突き刺すように芯を強ばらせる。

 

背筋が一気に粟立っていく。

 

ホラーなテレビで感じるエンタメ的な快感ではなく、気持ちの悪い集合体を見た時の生理的な嫌悪感でもない。

 

純粋で知らない恐怖がある。

 

フミカが顔を青ざめさせた時。

 

「えっ、なに!?」

 

目の前の小鳥がフミカに倒れ込んできて、釣られるようにフミカは転んだ。

 

右端を空ける形で体制を取った小鳥に驚嘆の声を浴びせた、瞬間。

 

ゾリッと音がして、()()()()()()()()()

 

フミカが立っていた場所。

足先も肩口からも一尺程度の距離だ。

 

音が先。視界は後。

それが示すのは素早さと《刀の切れ味》。

 

その斬撃の跡が数千メートル先のように思える。

 

咄嗟に後ろを振り向いた。

 

二人を通り越すように侍のような格好をしたブキミな妖怪が、消えかけの蝋燭のように揺れながら立っている。

 

喉奥からコヒュッと音を立てて、フミカは瞼をまくった。

 

体を覆う小鳥の腕にしがみついて、背骨が震える。

 

「……居合と言うのよ。アレ」

「そっそんなこと言ってる場合!?」

「ええ、そうね。」

 

淡々としているのか。

いやむしろ、焦っているのか。

 

小鳥はいつも通りの笑みのままだ。

それはもう呆れてしまえるほどに。

 

使()()()()()()()?」

 

そう聞かれて、すぐさま、ぶら下げている妖怪ウォッチを見る。

 

白が路地裏に差し込む光で淡く輝き、桃色の盤面が目の前で眩くなる感覚がした。

 

不思議と落ち着いた。

さっきまでの焦りや恐怖がスッと溶けていき、変わり凪いだ想いが胸を占めていくのだ。

 

「うん。任せて」

 

立ち上がって、手に取った。

 

手のひらにも満たなくて軽いメダルを指に挟んで、盤面との間に差し込む。

 

「出てきて私の友達!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あ、実演してくれるんだ

 

ガネラこと小鳥は一周回って冷静になっていた。現実逃避である。

 

「キュウリくん! コマさん!」

 

しかもそこ仲良くなってるんだ……

 

壁を伝って立ち上がり、フミカを見る。

 

手に握られた妖怪ウォッチが輝き、魔法陣のような文様が光という形で映し出されている。

 

え〜なんかキレイ〜

 

小鳥には仕組みは全く分からなかった。

 

だが、妖怪に纏わる代物など大概そんなもんだ。

 

なんか良い感じにやって妖怪メダルなどという塊を使い呼び出す機械……というのみの認識。

 

フミカも当然知らないだろうと思い、確認の意を込めて質問を投げかけ、フミカは普通に使いこなしていた。

 

さっきまで絶望感が凄かったが何とかなりそうな雰囲気になっている。

 

「貴方また何かしたのですか!?」

 

キュウリくん、すっごい私のこと見てるじゃん

 

「……何もしていないわ」

「そういう人こそ犯人なんですよ!」

「本当に何もしてないのよ」

「もんげ〜! 何事ズラ〜!?」

「そういう人こそ犯人なんですよ!」

「ここどこズラ〜!?」

 

小鳥は悴むような思いを少し乗せて、哀らしい笑みを浮かべた。

 

短期間でここまでの認識を持たれている。何かしてしまっただろうか。

 

誤解による犯人扱い。地雷である。

 

再三語られている通り、小鳥は何もしてないのに犯人扱いされて死にかけた経験が幾度となくあった。

 

誤解を解きたい。

そう思い小鳥は口を開こうとして、閉じる。

 

──そんな時間は無さそうだ。

 

「邪魔……邪魔だ……」

 

火花を散らすような剣士の一振に対抗して、キュウビが炎を放射する。

 

人魂のように見える朗々としたオレンジが小鳥の目の前を横切った。

 

目がくらむような鮮烈さ。

一目で強い妖力による物だとわかる。

 

しかし、練度(強さ)は剣士の方が上だ。それも圧倒的に。文字通りにレベルが違う。

振り下ろすと閃光のように風が起き、炎は全て消え去った。

 

キュウビが舌を打つのが聞こえる。

きっと、プライドが傷つけられたのだろう。

 

「なんで貴方のような妖怪(ヒト)がいるんですかねぇ。Aランク妖怪のムラマサが……」

「ムラマサってなに!?」

「人斬りの妖怪よ。厳密には呪われてる刀の名称ね。」

「小鳥ちゃん知ってるの!?」

「ちょっとだけよ」

 

Aランク妖怪のムラマサ。

 

人型の妖怪剣士のしょうブシという妖怪が、妖刀ムラマサを手にしたことで進化した妖怪だ。

 

怨恨の想いが募り、人の血潮でしか満たされなくなった正気では無い刀を手にすれば、もちろん。

 

そのようにして正気ではなくなるのだ。

 

小鳥はケータの友達妖怪のしょうブシが憧れてたから覚えている。

普通にドン引きした。

 

「フミカ、妖怪ウォッチを」

 

フミカがハッと目を見開いて、妖怪ウォッチを投げ渡す。

 

そうして、幼げな悲鳴が轟く。

 

「もんげ〜!盗られたズラ!」

 

ぶん盗ま(どら)れた。

 

「これが必要か。そうか。なら、戦え」

「手癖が悪いのね。ガッカリだわ!」

 

ムラマサのじっとりと赤黒い手に握られた妖怪ウォッチ。

 

目的の分かりやすい妖怪だ。

心底、敵と戦いたがっている。

 

「強い相手がお好き?」

「戦え」

「そう、明白ね。私は魅力的な歌の者が好きよ。歌はすべてがわかる。」

 

この場で一番強い相手など明白だ。

 

小鳥はそっと考える。

この場で一番強い者など、キュウビしかいない。

 

一体どこでフミカがキュウビの友人であるかを知ったか定かでは無い。

 

小鳥ですらも知らなかったのだ。

 

溢れ出る戦いへの渇望、強者への執念……想像だにしない方法に違いない。

 

「フミカ、貴方は私と彼のどちらがお好きかしら」

「えっ?……あっ、そっか。キュウリくん!」

「だそうよ。妖怪冥利に限るんじゃない? 守らないとね」

「おちょくってます!? 当たり前でしょう!」

 

小鳥は息をついて、言う。

 

「キュウリくん、フミカ。二手に別れましょう。」

「は? なんですって?」

 

そう言って、小鳥はコマさんを抱えて逃げ出した。

 

「は!? 逃げましたよアイツ!!」

「キュウリくん構えて!」

 

とにかく狙いはキュウリくんだ。

 

どう考えても、Sランク妖怪のキュウビである。命あっての物種だ。

 

こういう時、小鳥はとにかく逃げる。

 

小鳥は、冒険の中で五億回くらい同じことをしていた。

 

「もんげぇ〜! 追ってきてるズラ!」

「あはは。想定外だわ」

「絶対嘘ズラ!」

 

そして後ろからめちゃくちゃ追いかけられていた。

 

これにはキュウビ達ですらビックリである。

 

小鳥は内心舌打ちをして、背後を振り返った。

 

香の煙のように揺らめきながら、ムラマサは歩を進めている。

 

遅くはある。

が、彼には一瞬にして間合いを詰めた、脅威的な居合いがあるのだ。

 

とてもじゃないが、悠長になんてしていられない。

 

てか、なんでこっち来てる……!?

 

抱き抱えたコマさんが震えている。

しかし、小鳥だって今すぐ腰が抜けそうな心情なのだ。

 

突然に切りかかれて、冷静でいられる旅人がいるだろうか。いるなら直に死ぬ。

 

「コマさん巻き込まないでズラ……」

「ごめんなさいね。でも、貴方が一番私に必要だったの」

 

前提として小鳥は戦えない。

妖術を扱えるような妖怪か人間が傍に居なくてはならない。

 

そして、一番抱えやすく、妖術も使えて手元に居たコマさんは正しく適任だった。

 

そんなこと露知らず、コマさんは小鳥の言葉に目を瞬かせた。

 

「オラが……一番必要だったズラか……? オラが! あの中で一番弱かったズラ!」

 

人間のフミカより弱いんだ……

 

小鳥は己のことを棚に上げた。

残念なことにコマさんより弱い。

 

「そうよ」

 

小鳥は背後を見た。

 

ムラマサがいる。

佇んでは歩いて、誰よりも遅い歩みが、何よりも近かしい。

 

「貴方は妖術が使える。」

「でも、小鳥だって……」

「私は使えないわ。ふふ、人間ですもの」

「でも……」

「キュウビが私の事まで気にかけるとは思えなくてね。彼ら、認めていない相手にはとことん冷酷だわ!」

 

使えることは使えるが、有効有用かは別問題なのだ。

役立たずだと考えて良い。

 

コマさんは炎を扱えるから気づきにくいだろうが、攻撃力がカスい妖怪の妖術は、その通りカスである。

 

「私は弱いの。本当は、誰よりもね」

 

少し悲しくなってきた。

事実が卑下になってしまっているからだ。事実であるのに。

 

遠い目をし始めた小鳥を見て、コマさんは口を噛む。

 

「コマさんが……一番弱いから連れ出して………」

 

もっと大きい声で言って。

聞こえない。

 

「小鳥はなんでこういうことするズラ。強いなら、強いらしく振る舞えば良いズラ。もっとワガママで身勝手で……自由で……」

 

えっ、この子話聞いてなくない?

 

そう眉を困らせた時、小鳥は気がついた。

 

鮮明かつ鮮烈な気づきだ。

単純明快であり、悲しくもある。

 

自信が無いんだ。この子。

 

搾取されるのは、弱い妖怪の宿命である。

 

生きる為にも必要なそれらは着実に己の自尊心を蝕んでいくものだ。

 

小鳥は旅人であるので媚びた経験など死ぬほどある。

 

むしろ、媚びで生きてきたと言っても過言では無い。

 

「私は自由に見える?」

 

コマさんはこくりと頷いた。

そっと息を吸って、小鳥は至極静かに語り出す。

 

「身勝手な生き方を、私は既に、十分にしてきたわ。」

「……」

「自由だから、誰かと関わりたいの。」

 

元々は人だった。

いつからか、人では無い年月の方が長くなりすぎた。

 

でも現代を生きた人としての知恵も知識も、生き方だって忘れたく無い。

 

小鳥はそう思って旅に出たのだ。

 

誰も助けてはくれなかったし、そもそも、なんか、意思疎通とかが出来なかった。

 

自由だが、同時に求めている物は何一つ手に入らなかったものだ。

 

「分かるでしょう。孤独とは得てして何でもできて、何も手に入らないものよね」

 

コマさんは思い出していた。

 

狛犬の妖怪。忘れさられた社。

 

弟と一緒で何でも出来て楽しかった。

 

でも……記憶に残る楽しかったあの出来事はついぞ戻っては来なかった。人も、動物も、何もかも。

 

きっと、ずっと戻っては来ない。

 

「あとコマさん」

 

囁くような声が耳に入って、コマさんは黙った。

 

「私は弱いわよ。わかった?」

「……小鳥は……そう、そうズラね。」

 

コマさんは頷きはしなかったものの、腕を掴む力を強くさせた。

 

目で語らうよりも、首を振るよりも、力強い肯定の方法をコマさんは知っている。

 

そして、当然の如く、小鳥も知っている。

 

……なんか共感しちゃうな〜

絶対私の方が弱いのに……

 

小鳥は特に何も考えずに話していた。

 

話をちゃんと理解して欲しくて、とりあえず落ち着かせようとしただけだ。

 

小鳥は話が上手いので、どんな話でも良い感じに言うことが出来た。良くない特技だ。

 

貴族豪族大商人への戯れ力(たわむれりょく)が、今、火を吹いた。

 

「小鳥」

「ええ」

「なにすればいいズラ?」

「私を守って」

 

簡潔な言葉だった。

覚悟の滲む声を除けば。

 

 

 

ヤンデレや試し行動してくる子は好き?(備考程度の質問)

  • 嫌い
  • 好き
  • デレや好意が分かり易ければ好き
  • 裏でドギマギしまくってたら好き
  • 上二つがあるなら好き
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