某妖怪「超有名冒険譚の主人公が目の前にいるんやが」   作:ピコッピコ

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小鳥が振り返れば、抱えられたコマさんも必然的に後ろを見ることとなる。

 

「コマさん。今、私たちは通りの外にいる。そして外れには沢山の妖怪がいるわ。天蓋のように薄膜一重でね。」

「……どういうことズラ?」

「ふふ」

 

理解ができないといった表情のコマさんに、小鳥は花束のような笑みを浮かべた。

 

「巻き込みましょう」

「悪魔ズラ……」

 

失礼ね……

 

小鳥はため息を飲み込んだ。

閉じられた唇が薄く、弧を描く。

 

目線の先にはムラマサが居た。

立ち止まった小鳥をジイッと見つめ、身をかがめた。

 

──独特な構えを見せる。

 

膝を折り、まるで何かに屈するかのように見える居合の姿だ。

 

「頼んだわよ」

「ズラ!」

 

コマさんが腕の中から飛び出す。

眉のように揺らめく青い焔が、微かに膨らんだように思えた。熱気が頬を掠める。

 

「ひとだま乱舞!」

 

奇妙な動き共に辺りに炎がひしめいた。

 

人魂と呼ぶに相応しい青い炎が、()()()()()()()路に満ちていく。

頬を掠めた熱気は肌を焼いてはまつ毛を焦がす。

 

きっと、炎に気がついた妖怪は多いだろう。

大通りの外から感じる炎の匂いが気にならない者などいるはずがない。

 

「火事だー!」

「えっ火事!?」

「マジかよ!行こうぜ!」

 

小鳥が叫べば、遠くて近い奥の方から野次馬の大声が響いた。

 

大通りから駆けてくる足音が轟音となって響き渡る。

 

むらまさは感情の読めない顔と眼差しで、しかし微かに眉をひそめた。興を削がれ、気分の悪そうに。

 

「小癪なことを。」

「ウワー! なんかヤバいやついる!?」

「ご存知ないのかしら。観客が多ければ多いほど役者は輝くのです!」

「キャーッッ! 宰相!!」

「撮影だこれ!」

 

素で言っただけなのに、撮影だと思われている。

すさまじい勢いで集まってくる観客たちを、むらまさはジロリと睨め付けた。

 

重い吐息混じりに刀を抜くと、また違った構え。

切っ先を天高く掲げる。

 

小鳥は忙しなく、グルンと首を回して、集まってきた観客たちを見回した。

 

たったひとりだけ、あからさまに強い妖怪がいる。

キュウビほどではない。むらまさと同格の雰囲気がした。

 

「ああ、そこの雪のように白く、狼のような冷たい鋭さのある貴方!」

「……エッ」

 

今度こそは芝居の感覚だ。

小鳥は大袈裟に大声を出して、感激を表す観劇のような風体で駆け寄っていく。

 

目が点になるというのはこの事だ。

声をかけられた妖怪は、元より雪のように白く氷柱のように悪い顔色を更に青ざめさせていった。

 

「そう、貴方。術を打てる?」

「アッ撃てます」

「お願いしますわ」

 

妖怪は首を折れそうなくらい激しく振って答えた。

元よりまあまあの細さだ。肉体的にはひ弱な部類である。しかし、その絶対的な妖力がこの種族を強者に仕立てあげた。

 

ガリ王子である。

ふぶき姫と同類の、別に王族では無いタイプの高ランク妖怪だ。

 

実はふぶき姫が参加していた例の同人イベントに参加していた。

若干危機管理がなっていないと言われればそうだが、同時に地位を超える探究心……探究心があるとも言える。

 

可哀想なことに、彼の推しカプは姫様×宰相だった。

 

具体的には姫を振り回す宰相が姫に好意を向けられてめちゃくちゃ弱々しくなったりする王道相思相愛系の同人誌でしか見ることの出来ない展開が好きだしもっと具体的に言うなら他国に売り渡されるように嫁入りしにいく姫様を拐ってほしいけど宰相がそんな素直なこと出来るわけないからやっぱ悪者面して脅したりして無理やり嫁入りさせる的な展開によるすれ違いとかも好きだ。

彼はこれを目に見えない真実であると願っている。

 

気が触れている。

 

触れているので、ガリ王子はガリガリ大寒波を放った。

冷静さでなんていられない。

 

一面に冷気が雪崩のように蔓延し、とばっちり妖怪たちが何体か凍りついていく。

 

「ああ……ダメだ……身体が……動かん……」

 

大気の不純物と混ざって白くなった冷気。

まさに銀世界と呼ぶに相応しいだろう。

 

先程まで猛威を奮っていた筈のむらまさは、眠りについたように大人しくなっていく。

 

あっ、死ぬかも

 

そして小鳥も永眠しかけて大人しくなっていっていた。

 

小鳥はAランク妖怪の妖術を舐めていた。

想像の五億倍は寒い。死ぬ。

 

術というより技と呼んだ方が相応しい威力だ。それも必殺。

 

非常に雑魚な小鳥が耐えられるはずもなく……意識が……

 

ガリ王子の近くに居たのが幸いした。

術者の付近は比較的温暖なのである。

 

「お見事」

「あ、ありがとうございます……」

「ありがとう。貴方に頼んでよかった」

 

小鳥は歯がガチガチ鳴りそうだったが、無理やり力を込めて礼だけは言った。顎がガッタガタである。

 

何の御礼(おんれい)も無しはヤバい。人外は特に。

せめてお礼の言葉くらいはした方が良い。

旅人トピックスだ。

 

小鳥は旅の道中にやらかして、両の目の視力をぶんどられたことがある。

 

両手を擦りながら小鳥は顔を上げて叫んだ。

 

「コマさん!」

 

暖めて貰おうと思ったら力尽きている。

遠目からでも、ぐるぐると目を回しているのが見えた。

 

必殺技ぶちかました後に大寒波が襲ってきたのだ。

ボロボロである。少し触れば粉々になって飛んでいきそう。

 

「返して欲しければ戦え。おれは、こんなもの簡単に壊せる」

 

むらまさを覆う氷河の一角が、少しづつ音を立てて崩れ始めているのが見えた。

 

温まって溶けていき瓦解する奇妙な様ではなく、内側から微かな力を込めて割っていく猛烈さがある。

 

ガリ王子は()()()()()()()Sランクになる妖力の持ち主だ。

 

よって、Aランクだとしても妖力は尋常ではなく。

また妖術の腕も確かなものだとして信頼をされている種族である。

 

しかし、ムラマサは個体差あれども往々にしてAランクだ。

 

ランクの差は産まれ持っての格差によるものが殆どだ。

例外はあれど覆すことは至難であり、不可能と揶揄される。高ランクを目指すEランクを嘲る風習はその為だ。

 

体躯の異なる武術家同士の戦いで、小柄な者が圧倒的な勝利を収めることがある。

 

当然の事ながら、技術による物だ。

恵まれた体格や筋肉だけでは極れないのが武術武道であることは皆が知っているだろう。

 

──圧倒的な練度の高さ

 

この技術のいろは。

実は妖怪の強さについても当てはまる。

 

「……強すぎる」

 

小鳥は小さく呟いた。

旅をしてきた中でも指折りかもしれない。

 

戦い方や戦相手を妙なこだわる事が幸いだった。

考えは読めずとも動きは読める。こだわりが油断になっているからだ。

 

壊せる。という言葉。

これが氷と時計のどちらを示しているのか、小鳥には分からない。

 

きっと、両方なのだろう。

 

「貴方が想像するよりも、それは素晴らしい物よ」

「それは理由か」

「ええ、戦う理由にはなるわね」

「なぜ?」

 

素朴な疑問だ。

 

そして、むらまさにとっての万全な時間稼ぎにもなる。

体中に鬱陶しくへばりつく、氷を壊し切るまでの。

 

「人が作った物だから」

 

静寂とした空間に、静かな声だけが行き渡る。

 

少なくとも、ガリ王子には届いた。

そしてムラマサにも。

 

「人が好きなのか。くだらん」

「そう」

 

いや、別にそんなことは言ってないでしょ……好きだけど……

 

人(人類)と人(友人)である。

 

小鳥は、アンタ〜!!人様の物勝手に触って〜!!謝んなさい!!とかの方向性で使っていた。

 

──そんなこと今は良い

 

ため息を唾棄するよう深呼吸をする。

口内に溜まった唾液を嚥下して、小鳥は舌先を縮こませた。

 

不安さの全てを道端に捨てるように、胸の奥肺胞全てを絞るような息深さで息を吐く。

 

この騒ぎで誰かが警察のようなものを呼んでいてくれたなら、上々。

 

誰かが巻き込まれたことに怒り、むらまさと戦闘をしてくれれば御の字だ。

 

戦闘中であれば逃げるチャンスはいくらでもある。

 

小鳥はバッタバタと倒れた妖怪を見やった。

大半は凍りつき、彫像の如き様相を醸し出している。

 

が、幾らかは生き残っているようだ。

運が良いのか悪いのか、ともかく頑丈であることは確かである。そして頑丈な妖怪は往々にして気性が荒い。

 

時間さえ稼げれば、この妖怪たちも怒り狂うだろう。

 

「でも、今回は貴方の負けだわ」

 

小鳥が品良く微笑めば、気を悪くしたようにムラマサは目を鋭く尖らせた。

 

目尻がつり上がって、剣の刃が牙を剥く。

 

……その時である。

 

「よくもボクを前座にしようとしましたね!」

「助けに来たよ!」

 

上空から声が轟いた。

爽やかで女性的な怒号と子どもの大声。

 

フミカを抱えたキュウビが、そこにいる。

 

「フミカ!」

「うん!」

 

妖怪ウォッチが掲げられる。

 

桃色のそれが光を帯びた。

キュウビの金色を真似るように輝くと、特徴的な紋章を微かに帯びては、何か事を起こし始める。

 

「キュウリくんお願い!」

「ぞろぞろと、突き落とすぞ」

 

激しく透明な音が響き、ついにむらまさの拘束が破られ、氷がそこら中に弾け飛んだ。

 

切っ先が抱きかかえられるように上空へ向けられた。

膨らむ妖術を割りかねない切迫さ。

 

「紅蓮地獄!」

 

眼前が地獄のように燃え上がる。

 

キュウビの妖力により作られた炎。

小鳥は目の前が真っ赤に染まったのだと思った。

 

美しい炎だ。

花が咲くように広がっていく炎に目を奪われて、小鳥は目を見開く。

 

そして次の瞬間に爆発した。

 

「キャー!?」

「どういうこと!?」

 

キュウリ!! やりやがった!!

 

視界が完全に暗くなる。

小鳥は自分が死んじゃったのかと思った。

 

衝撃で小鳥は吹っ飛び、受け身にも見える格好で地面に激突した。

 

ぺっしゃんこになりそうになるくらいの衝撃が身体中にぶつかる。

むせるとかそういう次元じゃなく咳が出てきた。

 

水蒸気爆発である。

 

何故このようなことがおきたのか……

 

説明しよう。

 

水蒸気爆発が起きたのである。

 

気化した水蒸気が溜まりに溜まって気圧が上がり、その圧力のあまりに爆発を起こす現象である。

 

氷の温度に対して炎の温度があまりにも高すぎたのだ。

 

一瞬にして氷が溶け、蒸発し、拓けた場であるのにも関わらず一箇所で多すぎる水蒸気が発生してしまい、爆発してしまったのだ。

 

水蒸気が他の場へ動くよりも早く気化し、密閉と変わらない状態になってしまった。

 

どちらも高度かつ純濃な妖術によって作られた物。

 

自然に当てはまらない不純物が混ざるレベルの冷たさの氷河、地獄に咲く蓮の花を冠した炎。人智を超えた力。

 

世界は、トップスピードの蒸発に耐えられない。

 

あ〜このまま寝ちゃおうかなぁ〜

 

小鳥の頭が現実逃避を始めた。

この頭脳もトップスピードに耐えられていない。

 

が、地面がジワジワ熱くなり始めていたので慌てて離れた。

 

今頃、中央のむらまさはボロボロだろう。

よろめきながら立ち上がり、小鳥はぼんやりそんなことを考える。

 

もう本当に何が起きたのだろう。

さっぱりなにも分からない。

 

展開があまりにも早く、情報はあまりに多すぎた。

 

陽の光を浴びながらコーヒーでも飲みたい気持ちである。

旅人の時はたまに飲んでいたが……

 

そういえば、現代の物を飲んでいなかった。

当時のコーヒーはまあまあ希少で、精力剤や高価な気付け薬といった扱いだった。

 

しかし、今やコーヒーは嗜好品の類である。

ケータの家にあっただろうか。

 

小鳥は目を薄く開いては閉じ、覚束無い足取りで歩いていく。

 

あまりに煙ったい。

硝煙に足が取られそうなくらいだ。

 

目がしょぼしょぼする。

 

ただでさえ高いヒールだ。

赤くて細い。血筋が貴いから歩かない。だから動くことなんか欠片も考えてない。

 

小鳥はヒールを鳴らすように歩く。

 

ヒールがものすごい滑り始めた。もうダメだ。

足首どころか股関節もかち割りそうな勢いで、足が言うことを聞かない。

 

体がボロボロだから……いや違う。

 

あっ! これ氷まだ残ってるんだ!

 

地面には未だ氷が残っている。

今の小鳥は、アイススケートのリンクをヒールで歩こうとしているのと同義。

 

このままでは全ての関節が逆になること大請け合い。

 

タップダンスの音を立てて、小鳥はムラマサの前に躍り出た。

 

「貴様」

 

見えない口が呆気に開いた。

言葉を発して、むらまさが瞠目する。

 

そのおどろおどろしい瞳とかち合い、小鳥も本当にびっくりした。

 

未だに開けない視界。

めっちゃくちゃに滑る足元。

 

多すぎるハプニング。

小鳥は普通にガチで舌打ちした。

 

「いい加減なさいよ!」

 

いくら歴戦の旅人といえども本気で無理だった。ブチギレである。

 

脳内で相棒が呆れた表情で見つめてきているのを感じる──走馬灯だ

 

たぶん、これ本当に死ぬんだろうなぁ。

 

妖刀の切っ先を見つめながらそう思う。

思いながら、小鳥は体制を整えようと手を伸ばした。

 

半ば、無意識の行動だ。

嚥下や歩みや呼吸といったくらいの本能的なダンス。

 

それが奇跡を起こした。

ムラマサが片手に握っていた妖怪ウォッチを、奪い取ったのだ。

 

「貴様なにを」

 

手のひらから伝わる冷たさと硬さ。

取り返したのだという、実感の感覚。

 

やるなら、今しかない。

 

晴れ始めた煙の隙間から光が差す。

影を照らして縮こまらせて、瞳孔すらも小さくする。

 

小鳥はメダルを取り出した。

 

「出ておいで、私のお友達」

 

ガチャンと機械的な何かがハマる音が響く。

途端、子どもの玩具のような効果音が耳に届いた。

 

社交ダンスのような煌びやかさで、妖怪の、現代の技術が宙に浮かぶ。

 

「フユニャン!」

『ジャジャジャジャーン! ジャジャジャジャーン!』

 

えっフミカとなんか違くない? なんで?

 

「なんだそれは……!」

 

知らない知らない

 

困惑する小鳥を置き去りにし、白い煙も硝煙も何もかもを掻き分けるように()()召喚の陣が現れる。

 

「お前のトモダチ、出てきたぜ!」

「フユニャン、たの」

「ああ! 分かった!」

 

まだ何も言っていない。

 

あからさまに妖力を貯め始めているフユニャンが、青くて細くてフワフワの右手を掲げた。

 

「ど根性! ストレート肉球!」

 

腰の入ったドストレートが、ムラマサの頬に食い込んだ。

 

上半身が仰け反るのが、一周回ってゆっくりに見えた。

 

ウワ……

 

ムラマサが吹っ飛んでいく。

もはや霞のようだった煙も何もかもが晴れる勢いで、風が服の裾を突き抜けた。

 

「世界はトモダチ! 全部まもるぜ!」

 

ウワ……一発でいった……こわ……つよ……

 

「ガッツ!」

 

ちょっと……

関わり方を考えよう……

 

 

 




また更新した時はよろしくね〜

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