某妖怪「超有名冒険譚の主人公が目の前にいるんやが」   作:ピコッピコ

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手伝うなどとはなってしまったが、とは言えども、やることはそんなに多くは無い。

 

ドラマのスタッフは少数精鋭だし、役者はまあ、足りている。

 

未経験の素人が、精鋭揃いの撮影陣の中で出来ることなんてそう多くは無いのだ。

 

そう考えて、大やもりは大きく溜息を吐いた。

 

化粧にも服飾にも強い女郎蜘蛛はすぐに仕事を見つけた。加えて明るくてコミュニケーション能力も高い。現場にすぐに馴染んだ。

 

対して、大やもりと言えば。

細々とした雑用を片付けるばかりであった。

 

特技が無いわけではないのだが、これに限っては活かせそうもない。人と関わるのが好きでないヒキコウモリ的な性質が、現状と上手く噛み合わないでいた。

 

「それも助かりますもの。ありがとうございます。」

 

優雅に座る女優のような娘がそう言った。

 

真っ赤な衣装に身を包んだ女が、顔を隠すベールを上げて笑うのを、大やもりは真っ直ぐとは見れなかった。

 

見つめる程度、別に何ともない。

だがどうにも。コイツの姿は見たくなかった。

 

少し前に遭遇したあの様の異様さを思い出して、気色の悪さに鳥肌が立つのも一つ。あれを隠し通した技前が少し怖かった。

 

それでも目で追ってしまうのは、なぜ、人の振りをしているのかが気になるからだ。

 

「何か、私に聞きたいことでもおありですか?」

「え、ああ。いや別にいい。そこまでじゅうようなことでもないし……」

「ふふ、でも視線で穴が空いてしまいそう。何でも答えますよ」

 

そう言い、娘は柔らかな笑みを作る。

人間臭い仕草だった。

 

きっと、あの瞬間を目の当たりにしなければ、ただの人間だと思っていたのだろう。そんな確信を持ってしまう程度には、人間としての振る舞いが板に着いていた。

 

「……」

 

威嚇してきた癖して親しげな娘の姿を見て、大やもりは軽く周囲を見渡して、隠れた気配すらも無いことを確認した。

 

例え己らが話をしたとして、誰もその内容を聞くことはないだろう。

 

大やもりの舌が丸まっては伸びる。

そうしてモゴモゴとのた打って、ようやく大やもりは口を開いた。

 

「なんで人間のフリなんかしているんだ……?」

 

あっ言い方ミスったな。

大やもりはそう思ったが、小鳥は気にした様子も無く、うーんと首を傾げて考え始めた。

 

聞いている内容自体は失礼な事でもないはずなのに、どことない居心地の悪さを感じる。それは、大やもりが、人間に化けている妖怪などワケありに違いないと思っているからだった。

 

人間に恋をしている。

だまくらかして楽しんでいる。

恨みがある。

とある妖から逃げている。

 

こういった多種多様な理由を持って、大概の化け妖怪共は人間のフリをして生活する。

もちろんこれに限った事では無い。ただ、ほとんどそうなだけだ。

 

代表的なのは、大やもりの古くからの知人である女郎蜘蛛。あの妖は教科書に載るぐらいには典型的なワケありの化け妖怪だった。

 

小鳥はしばらく考えていた。

待つ時間が長く感じる。怖いもの見たさで石の裏を覗くような不気味さが胸を占めていた。

 

「そうですね」

 

恨みか、ただの好奇か。

 

「人のフリをしているなんて心外ですわ。だって私、人に近いですもの」

 

その言葉に大やもりは絶句した。

何よりも予想だにしていなかった答えだったからだ。

 

別に理由など無いと言っているようなものだった。

 

あの一目で肌を粟立たせるような妖気と、不審な出で立ちと、後暗さを感じさせる経緯を持ってして、人間に似ていると。だから化けていると。

 

「ふふ、あらお顔が……」

 

小鳥は笑顔で大やもりの無礼とも言える表情を見守った。

 

「本当に人に近いの。だからこのようにするのが、落ち着くということです。」

「落ち着く?そんなに化けていて……?」

 

人に化けるというのは案外簡単である。

小さな妖怪であっても習得しているような技だ。個体差はあれど、大抵の場合、妖怪は簡単に人に化ける事が出来る。

 

だが、日数が経れば経るほど難易度は急激に上昇していく。数時間なら簡単だ。一日、二日、一週間。その日数の分だけ妖怪は化けていることに耐えられなくなる。

 

人間と妖怪の大きな違いは妖力だ。

それを隠すのである。力が強ければ強いほど、それを漏らさないことを徹底しなければならない。

 

箱を想像してほしい。

 

その箱の中に隠さなければならない物が多ければ多いほど、キレイに箱の中へ仕舞う事は難しくなる。

 

が、隠す物が少なければ簡単に箱の中へ、キレイに仕舞うことができる。

 

圧迫し続けて爆発しないわけが無い。強ければ強いほど、積み重なる心労と気疲れが大きなストレスと負担になる。

 

一般論で言えば妖力の量が化ける負担に繋がる。

現に、大やもりも化ける制度においては上位にあるが、三日も続けたら発狂する自信があった。

 

「それが全然!」

 

快活に告げられる。

 

「私ね。化けるのが一番得意で不得手で、他に出来ることなんて何一つも無いのよ。」

「……」

「何年も何年も付きっきりで付き合ってくれるのがいたからかしら。」

 

付き合ってくれるのとは一体誰のことなのか。

尋ねる気は無く、大やもりを皮切りに始まった会話は、小鳥の言葉を最後に終いになった。

 

台詞の飛び交う中を走り回るスタッフの足音。

その流れを眺めていると、ふいに小鳥が大やもりに言った。

 

「私の話を聞いてくださいますか?」

 

喧騒の中で伝わった言葉に少し考えて、大やもりは頷いた。機嫌良く、小鳥は話をし始めた。

 

「随分と昔のことです」

 

懐かしんでいる声だ。

昔のこと、と言うから思い出話であることは想像つく。

 

「一度、とある集落を訪れた際に、夜中に妙な音がして眠れないと泣きつかれました。集落は森の洞窟の中。その中で、ずっと変な音がすると。」

 

大やもりは「森の集落を訪れて泣きつかれるってホラゲの導入かよ。」とか思ったが黙って聞いた。

 

「だから、音の原因を突き止めてあげました。原因は洞窟に新たに空いた穴でした。」

「…………あ、終わりか?」

「ええ。これで終わりです」

 

てっきり妙な音の正体に迫ることが本題だと思っていたが、どうやら、違うらしい。

 

大やもりは言う事がなくて、ただまごついた相槌だけを打った。気もそぞろそうな声だったが、小鳥は気にした様子も無い。また沈黙が流れる。

 

「ああでも、それで……」

 

繋ぐ言葉を吐いて、小鳥がティーカップを傾けた。

口を湿らせる程度に飲んだ紅茶は、大やもりですら少しは動揺してしまうような高級品だ。

 

言うつもりがなかったろうに、話の続きを作り出したように思えた。ただ突然思い出した懐かしい昔話をただだべっているようにも見える。

 

いろいろと考えているようにも、何も考えていないようにも感じられる。

 

遠い視線が演者に注がれて、離れていった。

 

「困ったのはここからでしてね。ちょっと、一人付きまとうモノがいました。千里も付きまとう。二千里でも絡んできたから、ああ、気が触れそうだった」

 

娘は大きく溜息を吐いた。

頬杖をついて目線を周囲に向ける。

 

右左と向けた後、最後に大やもりへ。

辺りを気にかける動き。それが周囲に聞かれたくない話なのだと気が付き、大やもりは渋々、娘に近寄った。

 

こんな得体の知れない人外に近寄りたくはなかったが、何の話をしようとしているのか興味があった。

 

娘はパッと華やぐ笑顔を浮かべて、軽い調子でまた話し始める。洞窟のことなんかよりもずっと明るく語り出す。

 

「でもね、結構。本当に楽しかったのよ。私は諦めてあの子を仲間に誘った。嫌そうな顔をしたから面白かった。」

「ソイツは……その、なんで付きまとってたんだ」

「私のことが大好きだったからよ。私のためなら、ふふ、なんでもしてくれたわ」

 

なんか悪女っぽいことを言い出した。

 

大やもりの脳裏に女郎蜘蛛が可愛がっている妹分のえんらえんらの姿が浮かんだ。

 

こいつ、女郎蜘蛛にあんなに脅されといて、何から何まで反省していない。きっとあの時も面白がっていたに違いなかった。

 

大やもりは辟易とした気持ちを感じていた。

なんで、こんなヤツの無駄話に付き合ってやっているのだろう。だけど一度近づいた距離を引き離すのは難しい。

 

小鳥は、上げた笑い声のあと少し黙った。

 

ゆらりと影が揺れたと思い大やもりが足元を除けば、それは女のドレスの裾がひらめく様だった。

娘は足を組み直して、再び、真っ黒なベールを降ろす。

 

「ふふ、暇ですね。何かご予定はおありなの?」

「……俺は別に。なにも」

「嬉しい。そう仰るのなら、私、まだ話し足りない事があるの。だから……」

 

大やもりは一つ気がついたことがある。

 

「──これは洞窟の村の話です。」

 

それはこの人外は、人の発言を良いように受け取る悪癖があることだった。

 

 

 

 

ヤンデレや試し行動してくる子は好き?(備考程度の質問)

  • 嫌い
  • 好き
  • デレや好意が分かり易ければ好き
  • 裏でドギマギしまくってたら好き
  • 上二つがあるなら好き
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