某妖怪「超有名冒険譚の主人公が目の前にいるんやが」   作:ピコッピコ

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妖魔界で最も有名な冒険譚に、こんな話がある。

 

 

 

 

そして、目を開いた。

 

そこには世にも美しい光景が広がっていた。

宝石のように、月明かりに煌めき輝く花々。淡く輝き、ただ青いだけの草でさえ、まるで夜の宮殿のように華やかだ。

 

筆舌に尽くし難い美しい花畑に、私は言葉を失った。

 

「これが「最も醜い花の花畑」、なのですか?」

「さぁ、もしかしたら、私達は道を間違えたか……騙されてしまっていたのかもしれないね」

 

私が呆然と呟くと、ガネラはそう言った。

 

私はしゃがみこんで、花を見つめる。

この花を醜いなどと、あまつさえ世界で最も醜いなどとは思えない。

 

ここに来るまでに会った幾人もの旅人達は、私達に嘘をついていたのだろうか。

だが、何のために……?

 

「少し疲れたわ。こんな山奥そうそう来るものじゃない。それに、妖怪と戦って疲れたし、休みましょう。」

 

来る道中に襲ってきたあの妖怪。

とても言葉の通じる相手ではなかった。

 

嫌な予感がして、私は、手遊びに花を摘み取った。

 

茎がちぎれ、花を間近に見られる。

見れば見るほど、幻想的な花だ。

 

「無礼者!」

 

金切り声のような声が、花畑に響き渡り、耳をつんざいた。

 

「な、誰だ!」

 

私がそう叫ぶと、また声が響く。

 

「貴様!私を盗るとは何たる不届き者!」

「あら、貴方、花?」

「いかにも!」

 

花は威厳を込めた声で言った。

 

まさか花が喋るとは思わず、私は尻もちをつく。

 

「貴方、花を摘んだの?」

「は、はい。すみません、あまりにキレイで……」

 

口を開けば開くほど言い訳が飛び出してくる私に、ガネラは笑った。

 

笑って、手を振り、止めさせる。

 

「ごめんなさい、私の友は貴方のあまりの美しさに目が眩んだようですわ。どうか、お慈悲をいただけないかしら」

「ならぬ!ならぬ!貴様らからは、大切な物を奪わなくては気がすまぬ!」

 

ザワリと花畑を風が突っ切り、草花がなびく。

 

まるで、怒りを体現しているようだった。

 

私はその光景の気味の悪さに、思わず後ずさりをしてしまう。

 

「大切なものを奪われたくなくば、私に、最も醜い花を見せてみせよ。」

 

花はささやくようにそう言った。

 

「最も醜い花、だと?」

 

思わず私がそう声を出すと、草花はまた、私をあざ笑うように揺れた。

 

「ああ、別に、花を盗んだお前が見せなくとも良い。真っ白なお前でも良いのだぞ。私は慈悲深いのだからな。」

 

ガネラの言葉に意趣返しをするように言った花に、私は怯えた。

 

私の大切な物など、ガネラしかありえない。

そしてガネラの大切な物など、私しかありえないのだ。

 

もし、私からガネラが奪われたとしたら。

 

きっと私は生ける屍のように、何の気力もなく、幸せも感じない、ただの物に成るだろう。

 

「まあ、感謝致します。」

 

だけども、ガネラは毅然とそう言った。

 

まるで、恐るるものなど何も無いかのような、堂々たる振る舞いで、感謝すら述べて見せた。

 

「ふふ、信じていないようだな」

「いえ、まさか。貴方様のお噂は、この山を降りて、大きな川を渡り、朝と夜を三度繰り返した先の都にまで届いております。あの花は、「幸せを奪う」と。」

「ああ!ガネラ。確かにそう言っていました。花の話をする人々は皆、顔に苦痛を浮かべ、貴方を語ります。」

 

都には、この花を見た人は数人いた。

皆、幸せを奪われたという。

 

「ふむ、なら、信じない理由は無いな。ははは、愉快、愉快。」

 

花は正しくあざ笑って、揺れた。

 

「な、何が愉快だと言うのだ!みな、幸せを奪われたのだぞ!」

 

私は怒った。

 

幸福を奪われたものは皆、まるで壊れた人形のようだった。

表情は無く、時たま苦痛に歪むだけ。

 

「それで、だからなんだと。私に何の非があるのだ。そやつらは、みな、私を盗んだ者だ。私はただ罰を与えただけ。」

 

私は言葉に詰まった。

確かに、花の言うことは正しいと思ってしまう。

 

なぜなら、花はただ盗まれただけだからだ。

花から襲いかかったなら、まだしも、花はやってきた者に花を手折られたから怒っている。

 

「皆、弁解の余地もなく、奪われたというのですか?」

「ああ、そうだ。弁解など意味が無い。だが、今日の私は気分が良い。貴様らには特別に、私のお題に答えたら見逃してやろう。」

 

そう言って花は再度

 

「この世で最も醜い花を見せてみせよ」

 

と、言った。

 

そんなもの、あるわけが無い。

 

私達はここに来るまでに、最小限の荷物で来た。

なぜなら、山は険しく、危ないからだ。

 

この世で最も醜い花など、持ち合わせていない。

それどころか、花すら持っていない。

 

きっと、今から降りて探すなどと言っても、花は聞かないだろう。

 

そうして、私達は最も大切なお互いを失うのだ……永劫に。

 

「ふふふ」

 

私が絶望していると、笑い声が聞こえた。

 

ガネラの、鈴のような笑い声だ。

 

「ふふ、良いでしょう」

 

ガネラは優美に、その顏(かんばせ)に笑みを浮かべた。

 

私は驚いた。

この状況を、打開する策があるというのか。

 

そして懐から何かを取り出した。

 

「これをお覗き。ここに、この世で最も醜い花がある。」

 

ガネラはそういって、何かを花に見せた。

 

「なんだこれは。」

 

花が言う。

 

「鏡にございます。正面に移るものを映す代物です。見たことない程、美しいでしょう。」

 

それは、鏡だった。

都で目の見えない娘に礼として貰った、高価な鏡。

 

その鏡には、美しい花が映っている。

 

「これは、私か。」

「美しいでしょう」

「ふん、ご機嫌取りか!」

 

花は怒りの声を上げた。

私も、花と同じことを思った。

 

お題は「この世で最も醜い花」だ。

鏡を見せた所で、映るのは見たこともないような幻想的で美しい花だけ。

 

そう思っている私と花を見て、ガネラは笑い声を上げた。

 

「ええそう。私はお見せしました。この世で最も「性根の醜い花」をね。」

 

 

 

 

 

 

 

 

そこまで読んで、キュウビは本を閉じた。

 

表紙には美しの都、とだけ書かれている。

著者は妖魔界で最も有名な作家。

 

これは、ガネラの冒険譚だ。

 

そしてこの話は、美しの都という宝石や煌めく布などの美しい工芸品が有名な、それはそれは美しい都での出来事の一幕、「この世で最も醜い花」だ。

 

キュウビは、この話が一等好きだった。

 

何が良いって、ガネラの底意地の悪さである。

 

自分で美しいと認めている花に「性根が最も醜い」と言うのが良い。

ただ言うのではなく、意趣返し的な意味合いがあるのが最高だった。

 

この他にもキュウビは、箱入りでワガママなお姫様に圧倒的なダンスを見せつけて泣かせる話だとか、強い妖怪を相棒(作中での"私")に相手させて自分は欠伸しているだとか、そういった意地悪な話が好きだ。

 

キュウビはこういう、ガネラの性悪な感じがめちゃくちゃに好きなので、そういう話ばっかりを読んでいる。

なんてったって、キュウビは意地悪な妖怪なので。

 

だけどもキュウビは、ガネラの「性格が悪い」で終わらない所も好きだった。

 

例えば前述したお姫様だと、この後「上手くなりたいなら教えて欲しいと言えば良い」と教え、お姫様を少し素直にした所、とか

 

強い妖怪をギリギリで倒した"私"が、その経験を生かして次の強敵を倒した

……とか。

 

そういった未来を見通しているような聡さと、独特な秩序めいた善良さがあるのが良い。

 

この「この世で最も醜い花」では、この後、ガネラは「最も美しいものなら見せられる」と言う。

 

そして、花畑から動けない花を植木鉢に移してやり、都に置き、花に友達を作ってやる。

 

それで目の見えない娘と花が仲良くなって、ガネラ達がこの都を去る時に、花が小さな声で「ありがとう」と言うのだ。マジで良い。本当に良い

 

きっと、花は最も美しい物とは何かを理解したのだろうと思えて良い。

それはきっと、友情だとか、景色だとか、そこに住む人々なのだろう事も伺える。

 

あ〜〜〜〜〜〜ほんと良い

 

キュウビはしみじみ思った。

 

キュウビは、ガネラの冒険譚がめちゃくちゃ大好きだ。

どのくらい好きかと言うと、きゅん玉集め(立派なキュウビになる為の通過儀礼みたいもの)に冒険譚のセリフを引用するくらい好きだった。

 

キュウビは、ガネラのガチ恋勢だった時期がある。

 

若いどころか、だいぶ幼い頃だったが、毎晩ガネラと会ってみたいと思っていたし、そういった色合いを感じるガネラの冒険譚は軒並み読んだ経験がある。

 

キッカケは何だったか。

ガネラが作中で、キュウビ似の妖怪に「可愛い」と言った時だったか、はたまたその奇天烈さがカッコイイと思ったからか。

 

兎にも角にも、キュウビはガネラの冒険譚が好きである。

そしてガネラも好きである。

 

ふと、キュウビは今日の出来事を思い出した。

 

ケータの家で強烈な妖気を感じ訪れた際に出会った少女。

澄んだ瞳と白いドレスが特徴的だった。

 

白は、妖怪界隈では重要な色を持つ。

 

結婚や葬儀で、穢れを除くといった意味合いでの白があるのは人間にも一般的だろうが、妖怪では、もっと他の意味がある。

 

白は、高貴さと悪辣さと蠱惑を表す。

これは物語において顕著だ。

 

例えば、普遍的な貴族と平民の恋愛の物語である場合、平民の主人公を虐める貴族なんかは真っ白なドレスを身にまとっている。

 

これは虐める悪辣さと、貴族である高貴を表すためだ。

 

だが逆に、正義の味方が真っ白であることも多い。

その場合、そのキャラクターは、ちょっと意地悪だけど良い奴といった性格になる。大変誠実であったりとか。

 

もちろん白には他の意味もある。

善良さを際立たせる為であったり、純真さを表す為だったり。

 

だが、基本、妖怪界隈では、例に上げたような意味合いで用いられることが多い。

 

なぜそのような事になっているかというと、お察しの通り、ガネラの冒険譚である。

 

作中でガネラは、頻繁に白い衣服を着用するし、白を好んでいる描写が多い。

 

相棒かつ親友である"私"に白を強要するような場面もあり、読者間では「ガネラといえば白」という認識が強い。

 

だから、気になるのだ。

 

そもそも、ドレスを着ている人間など、街にそうそう居るものではない。

 

まだ幼いのであれば分かるが、ケータより歳上であろう子どもが、そんな物を着るとは思えなかった。

 

それに加えて、白。

 

何か特別な意味合いがあるようで仕方がない。

 

だけども、少女は人間だ。

 

人間は大概、この白の意味を知らない。

 

恐らく、また会うのだろう。

 

あの少女は気になる。

好意的な意味ではなく、警戒だ。

 

キュウビは、そっと置いていた本を、また開く。

 

そして読み始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

なつかし〜

 

ガネラこと小鳥は懐古していた。

 

内容は、昔していた旅についてである。

 

小鳥は、旅をしていた。

親友の妖怪と一緒に、各地を数百年巡っていた。

 

その間、どんどん変わっていく時代を見るのが楽しかった記憶がある。

 

「あら、都の話もあるのね。懐かしいわ。」

「はわわ」

「この辺りに、険しい山があるの。そこに、とても美しい花があってね。でもすごく性格が悪いのよ。」

「はわわわわ」

 

小鳥は昔話をしていた。

もちろん、旅をしている時の話だ。

 

なぜそんな懐古厨しているのかというと、理由はウィスパーの妖怪パッド(i〇adの妖魔界バージョンみたいな物)だった。

 

それを貸してもらって大興奮しながら弄っていると、ふと、一つ、目に入った。

 

ガネラの冒険譚シリーズ。

 

自身の親友が、自身と親友との旅を本にして売っていたのだ。

 

小鳥は興奮した。

マジで!?って思ったし、中々の量があって驚いた。

 

読もうかと思ったが、ちょっと気恥ずかしくて無理だった。

 

どうしよう、お姫様とダンスした時に現代的なの踊って恥かいた話とか載ってたら。

でもあれ、お姫様には好評だったんだよな。小生意気だけど可愛かったな〜

 

「……あら、失礼。私ばかり話していてつまらないでしょう」

「いえそんなこと無いニャン!!!」

「全然!全然!!全然話してもらって大丈夫でウィス!!!」

 

うるさ……

 

小鳥はちょっと引いた。

でっけえ声〜って笑い飛ばそうかと思ったけど、二人……二体?の気迫が凄くて怖かった。

 

うんがいきょう、という鏡のような妖怪なんかは端っこで震えながらこっちを見てるし、最近の妖怪って、なんか変なんだな……そう思った。

 

そんなことは無い。

ただ小鳥ことガネラが有名人過ぎるのである。

お前のせいだぞ。泣いてられるのも今のうちだからな。

 

「あらそう……そうだ、ねえ、コウモリみたいな君。貴方、これ読んだことあるの?」

「ヒッ」

「私はあります!!!」

「ウィスパーには聞いてないわ」

「おれっちも読んだことあるにゃん!!!」

「君にも聞いてないわ」

 

小鳥は若干打ち解け始めていた。

なんか警戒するだけ無駄かなって気がしてきたのだ。

 

さて、急に小鳥に話を振られたコウモリみたいな君ことヒキコウモリは、クソほどビビっていた。

 

それを見て小鳥は、あまり人付き合いが得意な方じゃないのかな……?と思った。

 

確かにそうだけど、ちょっと違う。

 

ヒキコウモリは、冒険譚のガチファンである。

 

裏設定どころか、書いてないエピソードも雑誌を漁りまくって暗記しているし、スピンオフ作品(公式二次創作のようなもの)の意味わからん物から王道の物まで全部読み漁っている。

 

正真正銘、ガチオタクである。

 

こういったガチオタクは、スピンオフ作品やニワカを毛嫌いするが、ヒキコウモリは違う。

 

大歓迎である。

 

最近だとガネラと"私"がテニスで世界一を目指す「世界一は俺じゃなくて我が友(ガネラ)なんですけど!?〜圧倒的コントロール能力で真っ白な王者を目指す〜」が面白いと思いました。歌も良かったです。

 

そんなヒキコウモリ。

 

「流石に空想の話だろ」勢が優勢になってきた昨今に逆行するように、「本当の話だよォ!」勢だった。

 

だから、もう、無理みが深いのだ。

 

「アッ、あの、えっと、ハッ」

「落ち着いて良いのよ」

 

そんなこと全く知らない小鳥から見ると、ヒキコウモリは人見知りで割と良い奴な妖怪だった。

 

抱きしめさせてくれたし……

その時のヒキコウモリは死にそうだったが。

 

そんなヒキコウモリに対して、ガネラはだいぶ心を開いていた。

 

「大丈夫?」

「ホワッ」

 

近づかないであげて

 

ヒキコウモリは、最早怯えている雰囲気で後ずさった。

 

小鳥は反省した。

そんなに人付き合いが苦手なのか……

 

小鳥は目を合わせないようにしながら、手を差し出した。

 

初対面の犬に対する対応であって、妖怪にする対応ではなかった。

 

「……なにしてんの?」

「あら、ケータ」

 

いつの間にかケータが帰ってきていた。ケータきゅん!なんて声が聞こえる。

 

ケータは異常な光景を見て眉をひそめていた。

 

「丁度良かった。私、現代社会を歩いてみたいの」

「歩く……?」

「色々見て回りたい、ってことよ。」

「ふーん……案内して欲しいってこと?」

「ふふ、話が早くて助かるわ」

 

小鳥は立ち上がって、ぐいと伸びをした。

 

そしてケータをじいと見た。

 

「え〜今から〜?」

「遊び疲れているかもしれないけれど……」

「これから漫画読もうと思ってたんだけ「バッッ!ケータくん!そこは良いって言いましょうよ!」え〜」

「そうだニャン!!「僕に案内させてください」って言うニャン!!」

「なんで……?」

「どうしてそんなに…?」

 

小鳥はどうしてそんなに…?と言った後に思い至った。

そんなにこの国が好きなんだな…と。

 

よく思い出してみれば、昔の旅でも案内したくてしたくてしょうがないと言った奴はいた。

だから、そういうことなのだろう。

 

「おねがーい」

「別に可愛くないし……」

「一緒にベーカリー並ぶわ」

「どこ行きたい?」

「ふふ、素直ね」

 

小鳥は「楽しそうな所なら何処でも良い」と言った。

 

そうして小鳥は桜ニュータウンを歩き回ることになる。

 

 

 

 

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