某妖怪「超有名冒険譚の主人公が目の前にいるんやが」   作:ピコッピコ

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読み返したらちゃんと書き直す前のやつを投稿してたので新しく投稿し直しました。ここすきやってくれてた人としおりしてくれてた読んでくれた人に申し訳ない。ほんまごめん

内容自体は変わってないです


30 改善版

 

 

 

 

 

あるところに森があった。

 

当然、森であるから池があった。川があった。

 

奥まった新緑の向こう側にはラピスラズリにすら似た静かな湖があり、真上から水面を覗けば、ゆらりと揺れる大魚の影が伺える。

 

蜃気楼にすら似通った儚さと光の透けた美しさに感銘を受け、森のものどもは、魚を湖の宝石と呼んだ。

 

その影に、きらめく鱗が見えたからだった。

 

葉の隙間を避けてかすかに差し込む光を存分に浴びて輝く鱗は、水面のゆらめきすらも貫通して光り輝く。

 

信仰とすらなり得る幻想的な姿は、やがて森のものどもに夢を見せた。

 

陸にあげたらどうなるのだろう。

美しい宝石のように煌めいて、我々を照らしてくれるのだろう。

 

祈ればよほどの御礼が頂けるだろう。

だって非現実的なその姿は、魔法かなにかで彩られた素晴らしい物なのだから。

 

あれだけ美しいのだから特別に違いない。どれほど特別なのだろう。どれだけの力があるのだろう

 

食べればきっと力が手に入る。

守ればきっと豊かな自然を与える。

 

魚はやがて夢を見せた。

捌いて食べれば壮大な力を与え、守れば森を豊かにする。

 

宝石色の魚への高鳴りは、時を経るごとに無視出来ぬほど大事になり、もはや懸想の域へと達していた。

 

懸想、つまりは叶わぬような思い。

 

そう言うのも、その魚を捕らえることがあまりにも困難極まったからだった。

 

その美しい水面は何人足りとも受け入れない。

 

足先を漬ければ激痛が、勢いよく飛び込めば弾かれたように水面に浮かび上がり、潜れば、全てを失った。

 

森のものどもは湖をこう歌う。

 

近づくな近づくな。

それはお前を食おうとしている。

体などいらぬ魂を食う。中身を食う。

美しさに心を奪われれば最後。

魅入られたら最後。

お前は魂を失うぞ。

 

何故、湖の周辺が枯れるのか。

不毛のままであるのかを。

考えてみればいい。

 

──だから頼む。

 

どうか、その湖の魚を消し去るか、捕らえるか。

なんだっていいから、私たちの目の前から消し去ってくれ。

 

そうでなくては、私達はきっと湖に沈んでいく。

 

あの遠い彼方のような水底へと。

 

 

 

 

 

 

 

「正体は?」

 

なんとも性急なことだ。

大やもりにこう問われて、小鳥ことガネラは笑って答えた。

 

「単なる幻覚よ。」

 

答えれば途端に溜め息が帰ってくる。

 

ぶすくれた顔は、小鳥がよく見る大ガマの表情そのものだった。

 

だが滲み出る陰気さが、小鳥を目の前の妖怪が全くの他人であるように思わせる。

 

実際のところ他人である。

 

小鳥は目の前の妖のことを大ガマのプライベートな姿だと思っているが──これは大やもりといい、種族すら異なる他人の妖だった。

 

小鳥は大やもりに自身の話をしていた。

 

冒険の話だ。

 

少しぼかして誇張して、楽しい日々の一幕を語った。

 

まず初めに森との出会い。そして森の美しさ、そしてそして森の住人との軽快な会話。さらにさらに彼らとの交流の愉快さ。

 

大やもりが冗長な小鳥のただの思い出話に飽きてきた頃に、先程のような話をした。

 

──森にある湖の話。

 

宝石大魚の影と、それを巡る人間模様。最後に全てを押し付けられた小鳥。殴り合いの末に倒木が発生し怒り狂った森の主を宥めすかす。

 

そして、湖の大魚に狂う住民の救済を望む村のものたちの恐怖心。

 

惰性で聞いていた話が大きくなっていくにつれて、大やもりの姿勢も前のめりになっていく。

 

そうして、あまりに単調すぎる答えに、一気に関心を失ったらしかった。

 

「あれは幻覚でした。間違いなく。きっと、良くない植物でも生えていたのでしょうね。」

「そんな結論の為に、俺は長い話を聞いてたのかよ……」

「あはは!」

 

不満を隠そうともしないから、小鳥は大きな笑い声を上げた。

 

働く妖たちがチラホラと楽しげな様に気づいて視線を向けたが、監督の怒号で我に返って持ち場へ走る。

 

雄大な森の中で突如現れる奇怪極まる湖の、宝石がごとき大魚を捕らえると話していたのに幻覚だと終わらせるのだから。

 

小鳥は己で話して答えておきながら、大やもりが文句を言うのも頷けた。

 

「ふふ、でもね。私は、これで終わりだなんて言っていませんわ。」

 

その文句と飽きを待っていたかのように、娘は笑い声に続けてそう言った。

 

「私は事実を教えろなどとは言われていません。解決を願われたのですから、この正解は彼らにとっての答えではないのです」

 

自慢げとも取れるような表情だ。

だが、不思議でムカつきも白けも浮かばない。

 

純粋に、興味が湧いた。

 

まるで物語を堪能させる語り手のように、小鳥は冒険譚を豊かな声色で伝える。

 

「解決?……ってなにを?だって幻覚だったんだろう。」

「幻覚だと言って、素直に聞いてくださるようなヒト達じゃなかったということです。」

 

小鳥は事実を信じようとしない人たちだったと暗に言う。それはわがままで、神経質で、加えて愚かだと告げるのと同義だ。

 

「もし、解決することができなかったら。」

 

小鳥は黙って手を宙に浮かばせた。

人差し指。その第一関節に右手の指先が爪を立てる。

 

「こう」

 

そうして指先は関節を撫できって、関節を曲げた。

 

まるで、そこから先が無くなったかのようである。

 

大やもりは微かに昔見た光景を思い出した。江戸時代かなんかで見た、刀の濡れた艶めきもそっくりそのままに、薄らと視界に蘇る。

 

「……物騒だな」

 

本来おぞましいはずの娘は、まるで子どものようにケラケラと笑った。

 

「どうやって解決したと思います」

「…………何を?」

「この問題を──捕らえたい者たちと守っていきたい者たち。相反する二つの派閥の諍いを止める為に。大やもり。私は何をしたと思いますか。」

 

事実は教えられない。

なぜなら信じそうにもないほどに、皆が魚に熱狂していた。

 

ならばどうやって諍いを止め、魚への恐怖を払拭したのか。

 

どうやって魚を目の前から消したのか。

入れば全てを失うとすら言われる湖の中から、存在しない魚を追い出すなんて。

 

湖はそこまで大きくない。

 

ただ枯れ果てた植物ばかりが周囲で群生し、湖を一周して群生して白い塩が積もっている。

 

触れれば激痛。

浸かれば全てを失うという。

 

大やもりは考え込んだ。

普段なら無視するが、今回ばかりは興味が湧いた。

 

「塩が積もっていると言ったよな。本当に塩だったのか?」

「ええ。随分と塩っぱかったですよ」

「舐めたのか……」

「あはは」

 

大やもりは考え続けた。

 

「塩湖ってやつか。だから植物も枯れてた。」

「恐らくそうでしたわ。」

「たしか……海水が煮詰まった池のような物だよな。元は海だった場所が閉じ込められて干上がり、岩塩ができるって聞いた」

「あら、お詳しい。」

 

関心と楽しさを浮かばせた笑顔のまま、小鳥の目線は他所へ移った。

 

その眼差しはドラマの進行を気にかけている。いつ頃呼び出されるかが分からないのだ。

 

監督は気紛れに役者を呼び出す。

台本通りの時もあれば、ただのインスピレーションのまま名前が呼ばれることもある。

 

だから常に、役者はいつ自分が呼ばれるのかを気にかける必要があった。

 

それは小鳥も例外では無い。

大やもりは、少し冷気に触れたような興ざめを覚えつつ、それでも好奇心は全く潰えなかった。

 

「湖の中に潜るとかで証明することは不可能。中をさらって……底引き網のように……それで中に魚はいないと証明したとか。」

 

大やもりは確かめるように小鳥の顔を見た。ずっと、表情で正解を案じているように思えるほど、豊かな姿だったからだ。

 

黙って小鳥は首を横に振る。

 

「素晴らしい発想ですわ。私には思いつかなかったでしょうね。」

 

面白い発想だが、正解では無い。

 

「あー、湖を凍らせて割って、中を見えるようにしたとか?」

 

小鳥は薄らとした笑顔のまま、少し頭を傾かせた。

 

「私の力では、それほどの行いはできなかったでしょう。」

 

それをするのは難しいから、正解では無い。

 

「あーじゃあ。じゃあ……」

 

大やもりの声は気づいた時には大きくなっていた。大声というわけではない。一般的なお喋りの範疇内で、大やもりにしては随分とハキハキとしている。

 

「じゃあ!」

 

やけくそになって言った。

 

「湖の水を、全部抜いた!」

 

それが出来たら大事になっていないのである。

 

だってそれが出来るのなら、森の住民たちはとっくにそうやっているだろう。湖は広くは無い。だが狭くもない。

 

水を抜くなどしたら一週間はかかるだろう。塩湖の水だとしたら尚の事労力がかかる。

 

大やもりはそう考えながら、自分の発言を少し悔いた。

 

その言葉に小鳥は目を見開いた。

見開いて。こう呟いた。

 

「あら、まあ」

 

見開かれた目は驚きに満ちている。

 

当てられるとは欠片も思っていなかった。

 

そういう顔だった。

 

「あっはは!そうです。湖の水を、全て抜きました。」

 

つまり正解。

これには大やもりですら面食らって、その次に、やったと大声で言いたくなった。

 

やってやったぞと瞳を輝かせる大やもりを静止するように、小鳥が言う。

「なら、どうやって?」

「どっ……どうやって……」

 

それはもう、あくどい笑みだった。

 

露悪的というには少々可愛げがありすぎる。が、小鳥の言葉に狼狽する大やもりの姿を楽しんでいるのは明らかだった。

 

小鳥はヒントが三つと伝えた。

 

一つ

指がひとつ立てられる。

 

「積もった植物は枯れてました。土に還ってもいないし、腐ってもいない。貴方が言うように、干上がった海なら相応に枯れた土地をしているでしょう。」

 

二つ。

指がふたつに立てられる。

 

「何も住民を双方納得させる必要はなかった。争いを止めさせることだけが目的でしたもの」

 

最後、三つ。

指がみっつに立てられる。

 

「魚は幻覚。そして、湖は思っているよりも浅くて底がある。所詮は水の溜まっている窪みだわ」

 

大やもりが少しばかり考え込んで、このように言った。

 

「まだ海に繋がるのか」

 

小鳥はそれに軽く頷いた。

飲み干したカップが乾いた音を立て、ソーサーに降ろされる。

 

「上から衝撃を与えて穴を掘りました。」

「…………は?」

 

大やもりは無意識に情けないくらい冷たくて、そして素っ頓狂な声を出した。

 

小鳥はあははと笑って、心底楽しそうに話を続ける。

 

「そうしたら地面が割れて、塩水は海に流れていった。貴方の言う通り、湖は非常に海に近かったようで。」

「……は?え、いや何言ってんの?」

 

思っていたのと違う。

 

先程の口ぶりや小鳥の人となりから、大やもりは知恵による解決だと踏んでいた。

 

だが実際には力による解決だ。

大やもりの全身の力が抜ける。

 

もはや何も聞きたくないのに、小鳥は勝手に話を続けていた。

 

「大木を何本か倒しましてね。人工的に起こした地震が、地面を割りました。」

「お前、そんなこと出来たのかよ……」

「力の強い者に頼みました」

 

当然といわんばかりのすっとぼけた声に、一周回って苛立ちすら感じる。

 

「水の抜けた湖底はただの塩。魚の一匹すらいないから逃げ出したと思って争いは終わり。」

 

──つまり、問題は解決よね

 

おしまいと言って、小鳥の話は終わりを迎えた。

 

くだらないような、勇敢であったような。どっちとも取れない話に大やもりは溜息すら吐き出した。

 

薄ぼんやりと感じる不快感を溜息と共に吐き出すべく、大やもりは尋ねた。

 

「……恨まれたんじゃないか?だって、そいつらはお前のせいだと思うだろう」

 

言ってしまえば輪郭を帯びる。

自分ですら実感していなかった不快感の正体は、理不尽さだった。

 

「ええ。しつこいくらいには。きっと今も恨んでいますわ。」

 

争いを止めるために、まるで全ての罪を引っ被っている。

 

しかもこいつは危害を加えられそうになったから何とかしたにすぎないのに。

 

心配と取ることも、単なる嫌悪の表明とも取れる言葉。小鳥は大やもりに笑いかけた。

 

「いいえ」

 

小鳥は快活に答えた。

 

「何も、悪いことばかりではありませんのよ」

 

責任も恨みも一身に受けたが、別に悪いことばかりではない。

 

「言いましたでしょう。地震が起きて穴が空いて、洞窟の住人の困り事を解決して差しあげたと。」

「……」

「そうしたら()()()、いたく感動して信頼して、勝手についてきたのがいたとね。」

 

大やもりも思い返してみる。

たしかに最初、特に中身もなくだべっていた内容はそうだった。

 

洞窟の住人が怪音に悩まされていたので、穴を塞いで解決してやったと。

 

穴。先程の森の住民との問題を解決へと導いた策こそ、地震を起こし、湖底に穴を開けることだった。

 

──そうして私は生涯の()()を手に入れた。なんでも言うことを聞いてくれるようなね。

 

物語の終わりを諳んじるような口振りで小鳥はそう言った。

 

浮かべた笑みに大やもりは声を引き攣らせて言う。

 

「そんなの自作自演じゃないか……」

 

断ずるには早すぎる気がしたが、目の前の娘の形をした人外が高らかに笑い声をあげたのを見て、大やもりは非難がましい目を向けた。

 

やりかねないと思った。

最初からそうするつもりで、湖はその良い口実になった。そう思っていても大やもりにとっては違和感がない。

 

「勝手に着いてきたんだったな」

「ええ。拒否しても頑なでした。」

「嫌だと思ってたとも言ってたな」

「ええ!だって、ずっと付きまとって来ますもの。」

 

態度は杜撰。

だが、その瞳はこの上なく優しい。

 

大やもりは小鳥を監視していたときの事を思い出す。

 

あまり感情的ではなく、常に穏やかで優雅。そして品よく振る舞う姿は人目を引く。

 

浮かべた笑みのみが印象になるほど、ずっと楽しそうに生きている。表情なんて笑顔ばかりで、時たま驚いたように見開くくらい。

 

こんな顔を見たのは初めてだった。

 

もしかすれば、本来はこういう風に懐かしむような者なのかもしれない。

 

大やもりの視界に写っていた引いてしまうような愉快犯が全てではなく、根は、お供を慈しむような妖怪なのかもしれない。

 

「そいつは嫌にならなかったのか。そこまで邪険にされれば嫌いになるだろう」

 

大やもりがそう言うと、小鳥はやっぱり笑顔を浮かべた。

 

「いいえ。あの子は嫌にならなかった。」

 

しなやかに指先が頬を掠める。

盃に映る三日月のように上がった口角。小鳥はなんて事ないように、優しい瞳で言った。

 

「だって、あの子は私のことが大好きだもの。なんでもしてくれたわ。だから、私もなんでもしてあげるのよ」

 

当たり前のことなのだろう。

小鳥にとっては当然の事を、なんでか大やもりに優しく教えてくれた。

 

「それではお先に」

「──待ってくれ」

 

小鳥は立ち止まった。

 

「お前はなんで、人のフリなんかしているんだ」

 

 

 

 

 

 

 

妖怪に絡まれたくないからだよ。弱いから

 

小鳥はクソザコなのである。

本当に、クソザコなのである。

 

でも妖怪相手に言いづらいことこの上ない話だ。

加えて、相手は喧嘩を売った関係性の大ガマである。言いづらさがすごい。

 

これが聞いてきたのが人間の、例えばケータやケイゾウなんかだったらまた違っただろうが。寄りによってSランクの大妖怪だった。

 

誤魔化したくて小鳥はヘヘッみたいな笑い方をした。

 

まあでも、わざわざ変化を続けている小鳥に疑問を抱くのも真っ当な話だ。

 

でも妖力無いからするのも本当に楽だし〜ポケットティッシュ貰えるし〜みたいな話を長々するのも、本音の絡まれたくないに繋がりそうでしたくない。

 

結局、小鳥は誤魔化すことにした。

 

「……言ったじゃない。フリじゃなくて近いのよ」

 

もう聞かないで欲しいな。

小鳥は眉を下げて、困ったように笑って伝えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あら、大やもり。何サボってるのよ」

 

「……女郎蜘蛛」

「んもう。じょろちゃんって呼んでって言ってるじゃない!」

「あいつ、本命いるっぽいぞ」

「…………へぇ。どういうこと?」

「いや、それがさ。まぁ座って聞いてくれよ」

 

あいつ、そんな悪いやつじゃないんじゃないかな

ヤンデレや試し行動してくる子は好き?(備考程度の質問)

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