某妖怪「超有名冒険譚の主人公が目の前にいるんやが」   作:ピコッピコ

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忘れていったよ
バナナの歯磨き粉

書き忘れてたセリフあったので追加しました。
「煮て焼いて食べられちゃうずら〜」ってセリフです。


4

 

 

 

最近ケータの家に不審者が来たらしい。

 

それを聞いて、コマさんは激怒した。

必ず、その疑義の不審者を除かねばならぬと決意した。

 

コマさんには不審者の特徴が分からぬ。

コマさんは、田舎の狛犬だった上京した妖怪である。弟と遊び、都会にビビって暮らしてきた。

 

けれども友達の危機に対しては、人一倍敏感であった。

 

ということでコマさんは駆け出した。

 

行先は無い。

強いて言うならケータを探す。

 

だが、コマさんは都会の土地勘が無かった。

ケータの家も分からない。

 

よって迷った。

 

「ここはどこずら〜……」

 

コマさんは寂しげに呟いて項垂れる。

高いビル群、往来する人々、美味しそうなバーガーショップ。

 

商業地区で、コマさんは行く宛も無く彷徨っていた。

 

「ケータ…ケータ……」

 

熱波を感じる。

輝く太陽の下で歩き回るのは辛い。

 

そんなコマさんの影を踏む者がいた。

 

「おいおい、ケータだとぉ?」

「だ、誰ずら…?」

 

知らない妖怪だ。

顔つきが悪く、オーラもなんか怖い気がする。

 

コマさんは思った。

もしかして、ケータの友達妖怪?

 

「ケータのこと知ってるずらか!?」

「おう知ってるよ……お前、トモダチ妖怪か?」

「そうずら!ケータとは友達ずら!」

 

コマさんの言葉に、妖怪は頷く。

 

「そうかそうか……なら死にやがれこのくそボンクラ!てめえをシバいてケータを呼び寄せてやるぜぇ〜!!」

「ズ、ずら!?」

 

威圧的な貌を更に凶悪に歪め、妖怪は襲いかかってきた。

 

手を大きく振り上げ、コマさんを殴ろうとする。それを右によけた。

頬に、切った風圧があたる。

 

それを間一髪で躱すと、コマさんはなりふり構わず逃げ出した。

 

「待ちやがれ!」

「もんげ〜!」

 

コマさんは平和主義な妖怪である。

 

Dランクという比較的弱めな妖怪であるからというのも理由の一つだが、一番は、コマさんが神社の狛犬であったからだ。

 

元来の気質から穏やかなのである。

 

コマさんは涙を流しながら、懸命に逃げた。

追いつかれるのも時間の問題だろう。

 

「もっ」

 

奇妙な声をあげて、コマさんはころんだ。

路地裏の汚い地面をぐるりと回って、床を転がり、どこかに体当たりする。

 

「あら、大丈夫?」

 

頭上から声がして顔を上げれば、そこには人間の少女がいた。

 

路地裏の上から差し込む太陽で、髪が艶やかに輝く。

逆光で暗い表情の中で、澄んだ瞳がきらきらしていた。

 

コマさんは言葉を失って、ただただ少女と目を合わす。

 

「妖怪さん、ごめんなさいね。ボーっとしてしまっていたの。」

 

少女の声掛けに、ボウとしていたコマさんは正気に戻る。

 

「こっちこそ、ごめんなさいずら!」

「許してくださるの?ありがとう」

 

手をさし伸ばされて、コマさんは手を取り立ち上がる。

 

そして慌てた。

 

「そ、そんな場合じゃないずら!今、怒らせちゃったから逃げてるずら!」

「あら、怒らせちゃったの。」

「煮て焼いて持ってるもの全部売られて食べられれちゃうずら〜!」

「あらあら」

 

少女がそう微笑んだ時、後ろでノッシノッシと歩く音が聞こえて、コマさんは振り返った。

 

「逃げんじゃねえ……!」

「もんげー!」

 

さっきの妖怪がすぐ近くにいたのだ。

 

コマさんは震え上がった。

腰が抜けて、立ち上がることすら出来ない。

 

コマさんは諦めかけた。

このままボッコボコにされるんだぁ……

 

「君、彼と喧嘩してしまったのね」

「ズ、ずら?」

「仲直りしたら……そうね、私、美味しいものが食べたいわ」

 

少女はそう言うと、コマさんを横切って、妖怪に近づき始めた。

 

コマさんはビビった。

 

だって、少女は人間だ。

 

さっきは気にすることも出来なかったが、素で妖怪の見える人間だ。

 

妖怪が見えるからと言って、人間が妖怪に対抗出来る訳では無い。

 

ケータはトモダチ妖怪がいるから、面倒事に首突っ込んでも平気なのだ。

 

咄嗟に止めようとしたコマさんは、文字通り固まった。

 

振り向いて見せた少女が、笑みを浮かべていたのだ。

 

その瞬間、コマさんはえもいえぬ感覚に包まれた。

足がすくんで、何かが背骨を通り抜けるような、そんな感覚。

 

有り体に言ってしまえば、ゾッとしたのだ。

 

コマさんは、ただの少女に怯えたのだ。

 

「ねえ、貴方」

「あ"あ"?邪魔だよ早くどけ」

「聞きたいことがあるの。どうか、このか弱い私に、答えて下さらないかしら」

「……いいぜ。言ってみせろよ」

 

少女は慇懃に礼をしてみせた。

 

それは所謂カーテシーと呼ばれるものだ。

 

それを見て、何故か、コマさんはある冒険譚を思い出す。

 

その主人公は、()()()()()()にだって、礼儀正しく、礼をする。

 

「貴方は何故そんなに怒っているの?」

「あ゛?どーでも良いだろ!そんなこと!」

「教えて欲しいな」

「チッ……ソイツが俺のムカつくヤローの友達だから、ぶっ飛ばして呼び出してやろうって思ってんだよ」

「まぁ、そんな理由で?」

 

少女は至極不可思議そうに言った。

 

妖怪は、笑った。

 

「なんか悪いかよ」

「私には何も言えないわ。貴方じゃないもの」

 

妖怪には、少女の姿があまりに滑稽に見えた。

 

人間が、生身で妖怪に歯向かう。

 

喉奥から込み上げる笑いを抑えきれず、妖怪は大きな声を出して笑った。

 

「いいぜ。気分わりぃから、テメエもぶっ飛ばしてやる!」

「……」

 

そんな少女と妖怪のやり取りに、コマさんはいよいよ、悲鳴をあげた。

 

少女が何をしたいのか、この場にいる()()分からない。

 

だけども、少女が余裕綽々といった様子なのは分かった。

 

「何をするおつもりだったの?」

 

少女が語りかけるように言う。

 

「さっきのソイツが言ってた通りのことだよ!」

「何をする、おつもりだったの?」

 

少女がゆったりとした足取りで歩き出した。

 

その様が、何故か不気味に見えて、妖怪は少し目をピクつかせた。

 

「だから」

 

そう答えようとした瞬間

 

──少女が消えた。

 

いや、消えたとは少し違う。

 

現に、少女は居た。

 

──己の上に

 

妖怪は倒れていた。

気付かぬうちに倒れていた。理解したのは、少女の目を見てから。

 

喉奥から、今度は絞り出すような呼吸音だけが漏れる。

まるで、悲鳴のようだ。

 

少女は妖怪を押し倒し、首に手をかけたのだ。

 

「何をするおつもりだったの?」

「ガッ…グァ…!」

 

手が圧をかける。

ギュウと締められて、少しづつ気道が無くなっていく。

 

抵抗すれば良い。

だけど、出来ない。

 

少女の瞳から目を離せないでいた。

 

まるで、妖気を纏っているような。

瞳の奥に朗々と輝く何かが見える。

 

この女、何者だ

 

そう思った瞬間、パッと、楽になった。

 

少女が首から手を離していた。

 

でも、そんなことにも気づけず、妖怪は暫しボウとしていた。

 

なんだろう。あれは。

その事しか考えられない。

 

「ふふ、失礼したわね。でも、悪気は無いのよ。」

 

立ち上がった少女が背を向ける。

 

待ってくれ、と言いたかった。

 

「もう、来ないでくださいな」

 

そんな光景を見て、コマさんは……

 

めちゃくちゃ震えていた。

 

変な絡みをしてきたあの妖怪よりも、うんとこの人間の少女の方が恐ろしい。なんだあの早業は。

 

そして、妖怪が少女を見て惚けているのも怖かった。

 

そしてコマさんは逃げようとして、思い至った。

 

──そうね、私、美味しいものが食べたいわ

 

や、やばい

 

──煮て焼いて持ってるもの全部売られて食べられれちゃうずら〜!

 

現実になる!

 

コマさんはまた腰が抜けた。

 

そんなコマさんに、少女は近づいてくる。

 

食べられる現実が、今そこまで近づいてきている。

 

「だいじょ」

「もんげ〜〜!!!」

 

手を差し伸べてきた少女を見て、コマさんは気絶した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ハア……ハア……!!

 

ガネラこと小鳥は、息を荒らげていた。

 

マジで今、死ぬところだった〜!

 

死への恐怖と、それを乗り越えられた安堵で心臓(ないけど)がバクバク言っていた。

 

小鳥は、弱い。

何が弱いって、肝心なところで凡ミスする。

 

今回もそうだった。

 

なんかぶつかってきた妖怪に美味しい食べ物を教えて欲しい下心から、喧嘩の仲裁しようとしたら、ヤンキーに絡まれてる感じだった。

 

全然、怖い妖怪に追いかけられていた。

 

なんでだよ……怒らせちゃったずら!レベルじゃなかったじゃん……!!

 

小鳥は、あの怖い妖怪と可愛い妖怪は、痴話喧嘩をしているのだと思っていた。

 

なんかお友達を怒らせちゃった!とかなのかな〜と。

 

全然違った。

 

全然命狙われてたし、自分も狙われた。

 

あの瞬間、()()()()()()()()()()()()()

 

小鳥の頭は真っ白になった。

終わりだと思ったのだ。

 

なんかもう、終わりすぎて笑えてきたし、悪気ないアピールしか出来なかった。

 

まぁ……生きながらえているのだが。

 

「ううーん……」

 

隣から声が聞こえて、小鳥は緩慢にそちらを見た。

 

先程の助けた妖怪──コマさんが、寝転がっていた。

 

小鳥は気絶したコマさんをベンチに寝かせていた。

 

怖がりの小鳥が妖怪を介抱しているのだ。

 

理由は簡単、あのまま放置したら勝手に死んで罪に問われそうだったからである。

 

小鳥は、道端で倒れてる人を放置してたら自分の罪にされた事があった。

その所為で国家転覆を防がなくてはならなくなったりしたのだ。嫌な思い出である。

 

「ううーん」

「あら、起きた?」

 

唸り声を上げたコマさんに、小鳥は声をかける。

 

コマさんは声にならない悲鳴を上げて、後ずさった。なんで……

 

「あらあら」

「な、なんで居るずら!?」

「なんでって……」

 

小鳥はコマさんが寝ていた所を指さした。

ハンカチがソッと横たわっている。

 

コマさんが気絶していた間、敷いていたハンカチだ。

 

「介抱していたのよ。貴方、すぐに気絶してしまったから」

「も、もんげ〜……そうだったずらか……」

 

納得したようで、引き気味なコマさんに、小鳥は困惑した。

なんでそんなに警戒されてるの……?

 

「にしても、災難だったわね。」

「ずら?」

「絡まれていたんでしょう?」

 

小鳥の労わるような口ぶりに、コマさんは目をパチクリ瞬かせた。

 

コマさんは思っていた。

 

さっき、とても恐ろしいと思っていた少女は……実は案外良い子なのかもしれない、と。

 

小鳥は、ニコリと笑った。

上品な、麗しい令嬢のような笑みだった。

 

「怪我は無い?」

「無いずら……」

「そう。良かったわ」

 

(通報される要因が無くて)良かった。である。

 

そんなこと知らないコマさんは、やっぱり良い人なのかもしれないと思い直した。

 

よく考えてみたら、あれは怖い妖怪に絡まれている弱い妖怪を助けてあげようとして、行ったのだろう。

 

ゾッとする笑みや、行動は刺激的だが、その実本人は穏やかなのかもしれない。と考えた。

 

なんだか、あの冒険譚の主人公─ガネラみたいな、チグハグさだ。

 

コマさんはそこまで考えると、ふと、思い出した。

 

「あー!そうずら!オラ、行かなきゃならないかったずら!」

 

コマさんは思い出した。

 

そうだ。自分はケータの元に現れたという不審者を見つけて、成敗(出来るかどうかは別として)しなくてはならない。

 

コマさんはベンチの上で立ち上がって、ペコリと頭を下げた。

 

「助けてくれて、ありがとうずら!」

「どういたしまして」

「お礼は必ずするずら!」

「あらあら、期待していますわ」

 

ベンチから飛び降りて、コマさんは真っ直ぐ向かった。

 

行き先はない。

ただ、ケータ目指して一直線()である。

 

「バイバイずら〜!」

 

そう言って走って、コマさんが振り返ると、少女は手を振っていた。

 

こうして、コマさんの記憶には、怖くて穏やかな少女が刻まれることとなった……

 

 

 

 

さて、ネタばらしをしよう。

 

あの妖怪。

コマさんという妖怪や、絡んできたヤンキーじみたあの妖怪が、ガネラこと小鳥に怯えたり、目を離せないでいたのには訳がある。

 

ガネラの、漏れ出た妖気である。

 

別に、大変特殊という訳では無い。

見たものを畏怖させるような気持ち悪さやおぞましさを感じさせる、恐ろしい妖気というだけだ。

 

なら何故かと言うと、古代と現代の違いであった。

 

言ってしまえば、古代ではガネラの妖気は普通だ。

 

だが現代では違う。

人間の姿や言語が変わっていったように、妖怪にも変化がある。

 

古代の妖怪は大概消えた。

残っている僅かな妖怪も、月日によって、今の妖気に対応していった。

 

というか、対応しなくてはならなかったのだ。人間が変化したから。

 

そんな中、ガネラは例外だ。

だって、ずっと寝てた。

 

ずっと寝てた事で、今存在している妖怪が対応しなくてはならなかった事柄に対応せず、そのまんま冷凍保存された。

 

まあ、つまり、そういうことである。

 

 





その時ボクの心に
音楽が鳴ったよ
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