某妖怪「超有名冒険譚の主人公が目の前にいるんやが」 作:ピコッピコ
妖魔界は結構ハデだ。
多種多様な妖怪の集まる場所なだけあって、個性が強い。色も強い。
今日は特に騒がしい日だった。
「おいお前、昨日の見たか……!?」
「やばかったよなぁ!?マジで原作通りのガネラなのにアレンジ効いてて、めちゃくちゃ可愛かったわ……!」
隣を通り過ぎてった妖怪の話し声が聞こえて、
「やっぱ語り手の"私"がカッケェのは名作」
わかる……!
「やっぱ
わかる……!!
うるせえ雰囲気。
うるせえ電飾。
うるせえ妖怪たち。
今日は、ガネラの冒険譚が最初に発売された日である。
だからこそ、妖魔界はお祭り騒ぎだった。
ガネラの冒険譚は、妖怪達にとって最初の娯楽である。
蹴鞠よりもキマった娯楽だ。
そして、今も尚、形を変えて愛されている。
形を変えすぎて原型がない物語とかは多い。神話みたいなもん。
すう。息を吸い。
財布を構えた。
ふぶき姫は、夢女である。
初めて冒険譚を読んだ日から、恋をしていた。
とはいえども創作。
そこら辺の分別をしっかりして、ガネラという、変でワガママな妖怪に恋していた。
実際にガネラがいて、会ったとしても、ふぶき姫は恋をしない自信があった。
実際にいたら恋なんて出来ないような妖怪だと思っている。
実際は余裕で本人に落ちているが。
今日はお祭り騒ぎ。
オタクのお祭り騒ぎと言えば……?
そう、コミケである。
では、ガチ恋勢が行くコミケといえば……?
そう、夢小説オンリーイベント。
「恋する旅人」である。
夢小説(キャラクターと恋愛したりする二次創作。例外あり)
人間界とは違って、妖魔界では結構広めに認識されている本ジャンルは、本日次の日明後日と、三日間に渡って開催されている。
大変長い。
この中で冒険譚に出てくるキャラクターの漫画や映像作品、小説が売られている。
スピンオフとは違い、二次創作の扱いでだ。
「こ、これバレませんよね……?」
頭巾。いつもと違う服装。分厚いサングラス。マスク。手袋。
ふぶき姫は変装をしていた。
たかだかイベントに行くだけで、大袈裟。
そう思うだろう。
これには、ちゃんとした理由がある。
妖怪はランクが上がれば上がるほど、プライドが高い。
「流石にSランクの私が普通に入っては、威厳も何もかも無くなってしまいますし……」
長生きであるというのも理由の一つ、地位が高いから威張らなくてはならないのも一つ。
二次創作、特に夢小説を読んでいると「○○様にもそういう"感情"が"ある"のね」みたいになり、威厳もへったくれも無くなるのだ。下々がいるのも大変。
そういうのはSランク〜Bランクに多いため、会場はCランク〜Eランクばかり。
「でも、やっぱり、やめられないのですよね……」
ここで思い出しただろう。
ふぶき姫はSランク妖怪である。
姫と名のつく、強大な冷気を操る妖怪。
例にも漏れず、最初こそ興味無いです勢だった。
…………
……………結果から言ってしまえば
「先生の新刊、売り切れてませんように!」
ふぶき姫は、他人の妄想は
よって、今、変装していた。
他のふぶき姫から文句を言われない為に。秩序を守るために。
あと低ランク妖怪を怖がらせない為に。
変装してからしばらく経って
ふぶき姫は、すし詰めにされながら、特徴的な建物の中に入った。
暑い。熱気だ。
妖怪達の昂る気持ちが妖気として放出され、めちゃくちゃ暑くなっていた。
目指すのは、ただ一つ。
推し作家の短編集とその他、クソ分厚い長編と漫画数冊である。
一つではなかった。
ふぶき姫は地図を見たあと、顔を上げ、辺りを見渡す。
あれ?
あそこに居るの、ガリ王子じゃありませんか?
全体的に犬っぽいけど、二足歩行の体。真っ赤な肌と大きな耳。
隠してはいるが、完全にガル王子そのヒトがそこにいた。
知人である。
……ええと……
そっと、ふぶき姫は無視をした。
例え正体が分かりやすくとも、無視をするのがココの礼儀。
黙々と進んで、やっとブースに辿り着く。
「新刊お願いします」
「はーい」
さとりちゃんである。
心を読む妖怪だ。
ふぶき姫の正体にも気がついていたが、何も言わずに新刊を包んでいた。今回は三冊出されてる。
「毎回買ってくださってますよね〜ありがとうございます。」
「はい……」
ふぶき姫は、出来るだけ小さな声で呟いた。
さとりちゃんは全然心の声が読めるので気にしなかった。聞こえるので。
ふと思い出したように、さとりちゃんが言う。
「そういえば、キラキラさんにお渡ししたい配布があって……」
「…………?」
キラキラさんは、ふぶき姫の偽名だ。
「一部の方にしか、お渡ししてないんですよ」
さとりちゃんはコソコソと、一冊本を取り出した。
比較的小さめだが分厚い本である。
「これ、一回禁書指定された冒険譚の──」
「!?!?!?!?」
ふぶき姫は無言でパニクりながら本を受け取った。
禁書!?禁書って言った!?
ガネラの冒険譚で、禁書になった物は多い。
今こそ解消されているが、その当時焚かれた事で希少性が高いのだ。
さとりちゃんは周りを見渡した。
誰にも見られていない。
「一応言っておきますが、写しではありませんよ。禁書の中に登場した物品を纏めた物です。……写したりなんてしたら、なんて言われるか分かりませんから。」
かつて禁書にされた冒険譚は、希少性がなまじあるだけに、コレクションの価値が上がり、写しが作られていない物ばかりだ。
政治的に上の立場……
具体的には王様や大将など。
他は読むことすらできない。
ふぶき姫は思った。
このさとりちゃん、何者?
思うだけで言葉には出せなかった。
読ませてくれなくなる可能性があるので。
「私の信頼を勝ち取った方にしかお渡ししていないんです。」
「あ、ありがとうございます……!!」
「私は、全部の作品を世に出してもらいたいんです。その第一歩ということで」
ウインクされて、ふぶき姫は頷いた。
ふぶき姫はでかいカバンに全ての本を仕舞うと、急いでその場を後にした。
他の同人誌を買う前に、急いで内容を確認しなくてはならない。
誰もいない。個室。つまりお手洗い
言い表せない程の興奮を感じている。
ドキドキする心を落ち着かせるように深呼吸をして、ふぶき姫は開いた。
封印の短剣
真っ赤な刃と真っ青な柄の、美しい短刀。
特徴的なのは、刺した相手を封印できるという点だ。妖力を必要としない代わりに、決まった人物にしか使用できない。
封印とついているが、これは便宜上であり、我々の知る封印とは全くの別物。
すごい……本当に載ってる
ふぶき姫は唖然と思いながら、読み進める。
沢山の伝説上の物品の数々。
「……え」
その中に、一つ、目に止まったものがあった。
雪のカンザシ
文字通り雪で作られたカンザシ。
ガネラが華の国で王から賜った品物であるが、その後紛失している。有名な職人製であるから比較的有名。
誰かに渡したような言い回しであったが、詳細は不明。
「これ、ガネピッピさんが私に見せてくれた……」
ふぶき姫は考える。
紛失した。しかも、誰かに渡して。
──まさか
「ガネピッピさんは……」
衝撃的な事実に至り、戦慄する。
口をワナつかせ、ふぶき姫は呟いた。
「ガネラの
違う。
実際は紛失していないし、ガネピッピはガネラ本人である。
ガネラこと小鳥は空を見上げていた。
晴天である。
程よく暖かく、程よく涼しい。
良い日だ。
──野宿でさえ無ければ
小鳥は野宿していた。
さみー。心が。
小鳥は現在、六十年前のケマモト村にいる。
理由は単純明快。
とある妖怪に過去に飛ばされたからだった。
そして野宿している理由も明快。
誰も家に入れてくれなかったからだ。
小鳥は白いドレスを身にまとった少女である。
そんな容貌をした人間……にみえる妖怪だ。
異質であった。
起き上がって、あたりを見渡す。
とにかく、飛ばしてきたうんがいきょうを探さなくっちゃ
そう考えて、小鳥はノッソノッソと草をかき分け進んでいく。
寝惚けているから、上品さの欠片もなかった。根は旅人なので……
道っぽい所に出ると、見知った妖怪を見つけた。
にんぎょである。
和風なまとめ髪と、ピンクの魚な下半身が特徴的な妖怪である。
「ごきげんよう、にんぎょさん」
「あ、貴方、昨日の……丁度良かったわ!ちょっと来てちょうだい!」
小鳥は思い切り手を引かれて、にんぎょに連れ去られた。
「?????」
力強すぎるって。
にんぎょに連れられ、辿り着いたのは川だった。
小鳥は眉を軽く顰める。
異様な雰囲気がしていた。
そこには妖怪が沢山いて、一体の妖怪を囲んでいる。
から傘おばけだ。
真ん中に、から傘おばけが寝転んでいる……いや、倒れているのか。
それを他の妖怪が囲い、沈んだ様子で花を供えていた。
小鳥は引いた。
「何があったの?」
「俺から説明させてくれ」
誰?
小鳥が振り向くと、そこには、あからさまなカッパがいた。
カッパである。
何も言うことなどない。
完全なカッパであった。
特筆するべき点があるなら、何故かイケメンっぽさがある所だ。
そういう振る舞いと雰囲気。なんで?
「今朝、俺たちは川沿いを歩いていた……」
あ、説明してくれるんだ。
「俺とこえんらは偶に、朝、散歩をする時がある。それがたまたま今日だった。誓っていい。
いや、別に何も疑っていませんが……
「川沿いに歩いていると、何か赤いものが落ちているのが見えた。そう、から傘おばけ、彼だ。」
「そ、それからどうなっちゃったの……!?」
「…………」
「俺たちは驚いて駆け寄り、揺さぶる。だが何の反応も示さない。」
小鳥は無視して、から傘おばけに近寄った。
要約すれば見つけた時にはこうなってたって訳だ。
にんぎょが夢中になってるから任せよう。
から傘おばけは目を回して倒れている。
………………寝てるだけだな?
「おい、何してるんだ」
「ケイゾウ!」
妖怪たちの嬉しそうな声に反応して、小鳥はそちらの方を見る。
ケイゾウがいた。
「から傘おばけが……やられちまった……!」
「なに!?」
カッパの言葉にケイゾウが駆け寄ってきたので、小鳥は退いた。
ちょっと、この場の変な雰囲気をどうにかして欲しかった。
「クソ……なんでこんなことに……ッ!」
あ、ケイゾウもそっち側なんだ。
「眠ってるだけですわ」
「……え?」
その場にいる全員が目を丸くしたのを見て、小鳥はこっち見ないで欲しいと思った。
「妖力を使いすぎて酔ったのよ。妖怪にはよくある事だけど。」
「そんなことあるの?」
「ありますわ。……今の子はならないの?」
「聞いたことがないな。」
「そうなの……」
ジェネレーションギャップだ。
かつての妖怪の妖力はタイプが違う。
だから、ガネラの「よくある」は現代のごく稀になる。
小鳥の心はダメージを受けた。
もう自分って若くないんだなって……
一方、妖怪たちは「今の子」発言を疑問に思っていた。
お前子どもじゃん。
「襲われでもしたのでしょうね」
「やっぱり襲われたんだな!?」
「ええ、傷を治そうとした跡が見えるもの。」
ケイゾウの言葉に頷いて、小鳥はから傘おばけを指さした。
指さした先には傷跡があった。
何かにざっくり切られた後、乾き治り始めて、少し小さくなったような跡。
「一体誰が……!」
みんなクッ……!って顔をしたので、小鳥は帰りたい気持ちになってきた。
やっぱり、まーた巻き込まれるなこりゃ。
こういうのって死にかけるからなぁ……
「悪い、小鳥、」
「……手当なら私がやるわ」
ケイゾウの気持ちを読み取るかのように言った小鳥に、ケイゾウは目を丸くした。
手当をしてくれるなら、ケイゾウは犯人探しに専念できる。
小鳥はニッコリと笑った。
手当する代わりに、これ以上巻き込まないでくれという意思表示だった。
妖怪と戦うことになったら
「俺は、から傘おばけを襲った犯人を探す。」
「俺も手伝うぜ」
「私もよ」
「……勝手にしろ」
ツンとしたケイゾウの態度に、ガネラは思った。
やっぱり、ケイゾウと妖怪たちの間に何かあるな。
思っただけだった。