運命に見放された少女   作:哀上

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8話 お受験

8話 お受験

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 わたしは悩んでいた“さて、ひまわりの受験勉強を手伝うって約束したはいいけどどうやって教えたものか……”と。

 

 多分だけど、普通の勉強と受験勉強は違うよね?

 わたしがそもそも受験勉強とやらを体験していないせいで、どんなことを教えればいいかあまりピンと来ていない。

 当時わたしがやった事といえば、普段より少し長めに予習復習したぐらいでそれが違うことは流石に分かる。

 

 ……どうしたものか。

 

 いっその事、月謝払ってお受験塾とやらに入れてあげよっかな。

 わたしが塾って選択肢を取らなかったからひまわりも遠慮してお母さんにお願いできてないのかもしれないし、その道のプロがいるのだから任せてもいい気がする。

 

 でも、ひまわりにお願いされたのはわたしだし……

 せっかくの妹の頼み事を他の人に任せるって言うのもちょっと、それにそんなどこの誰とも分からん相手に大事な妹の受験の事を任せっきりにするのも不安だ。

 塾は受験のプロかもしれないが、わたしの方が塾よりひまわりのために必死になれる。

 

 誰か身近に、せめて参考になるものがあれば助かるんだけど。

 中学受験やったことある人で、出来れば合格した人……

 

 あっ、

 

 思いついた!

 と言うか、なぜ今まで気が付かなかったんだ?

 

 クラスメイト、というかこの学校の生徒全員受験の成功者じゃん。

 しかも、当然と言うべきか都合のいいことにうちの学校の合格者なのでこれ以上ないサンプルになってくれるはず。

 間違いない。

 

「すみれ先輩、ちょっと聞きたい事があるんだけど……」

 

 思い立ったが吉日とりあえず手近にいた先輩を質問攻め、それ以外にも珍しくわたしから積極的にいろんな人へと話しかけて回った。

 聞きたいことは一応先輩に一通り聞いたけど、流石にこの先輩の話だけを参考にするのは心配だしね。

 変人だし、善人ではないし……

 それに、サンプルは多ければ多いほど良いから。

 

 たまに、話しかけた人から“……天使様!?”とかよく分からない反応されるんだけど……

 誰だ? わたしにそんな恥ずかしいあだ名を付けた奴は。

 しかも結構広まってるみたいだし。

 まぁ、言った本人も“あっ”みたいな感じで口を抑えてたし、陰口の類だろうからあまり追求もしたくないけど。

 

 人間って集まるとすぐこういうことするよね。

 入った時も思ったけど、受験があるって言ってもやっぱり多少勉強が出来る人が集まるってだけで小学校の頃と劇的な変化ってやつはないんだろうね。

 

 と言うわけで、大量の戦利品を手に入れ無事帰宅。

 色々と貰いに行ったり、“家から取って来るからちょっと待ってて”って言われたりでかなり遅くなっちゃったけど。

 これは凄いぞ、

 

「ただいまー」

 

「あ、おかえりおねぇちゃん」

 

 ひまわりは自室ではなくリビングで勉強していた。

 昨日わたしが受験勉強手伝うこと決まったし、多分待っててくれたんだと思う。

 昨日に引き続き待たせてしまった……

 

 でも、今日はそれだけの価値があるものを持って帰って来たから。

 ひまわり、驚く準備は出来てるかい?

 

「じゃじゃーん」

 

「何それ?」

 

「うちの中学校の入試の過去問だよ」

 

 どうよ。

 

 なんか受験勉強って言ったらまずこれらしいよ。

 先輩も言ってたし、他の人もみんな言ってた。

 塾とかでも何周かさせられるみたいだね。

 

 わたしこんな物の存在を今日初めて知った。

 勝手に中学受験には存在しないと思って選択肢として頭から抜け落ちてたよね。

 だって、わたしが受験受けた時テスト問題普通に回収されたし……

 

 これ、いわば赤本でしょ?

 あれ使う前と使った後じゃ模試の成績雲泥の差だったからね。

 こんな物が存在するなら、使って勉強したほうが効率的に決まってる。

 

 きっとひまわりも喜んで……

 

「あ、ありがとう。でも、流石にそれぐらいわたしも持ってるよ?」

 

 あれ?

 

 ……まぁ、気を取り直して、

 

「それだけじゃないよ。ここら辺の塾のうちの中学入試の対策テスト、あとその過去問」

 

「え!? そんなのどうやって」

 

「頼んだら貰えた」

 

「……中学校でも天使やってるんだ」

 

「なんて?」

 

「な、なんでもないよ」

 

 そうそう、その反応を期待してたのよ。

 

 ふふ、どうよ。

 大手の塾から個人塾まで、これは一つ塾に通ってるだけじゃ手に入るまい。

 勝ったな。

 

 どうやら塾なんかに入れるより、わたしが教えた方がひまわりの為になることが早々に立証されてしまったらしい。

 

 塾の力を借りてるって?

 ……だまらっしゃい。

 

 兄弟が受験するって人もいたから、今年の分のコピーも手に入ったし。

 完璧だ。

 中古だから多少汚れてるけど、それはあんまり関係ないしね。

 

 どうよ、この人脈

 

「大変じゃなかった? ごめんね」

 

「そんなことないよ、ひまわりのためだと思ったら全然。それに、先輩に頼んだら一瞬だったから」

 

 まぁ、わたしの人脈じゃなくて主に先輩のだけどね。

 

「先輩?」

 

「そう、すみれ先輩って人。変な人だからひまわりは関わらない方がいいよ」

 

 受験問題の過去問とかは記念に取っておいてる人とかもいて結構簡単にコピーくれたんだけど、塾のテストはそもそももう持ってないって人も多かったし生徒数の少ないところは母数も少ないしで集めるのに苦労した。

 それに、今年の問題は弟や妹のライバルを増やすことになるからね。

 流石にちょっとって人も多かったけど、なんと先輩が集めてきてくれたのだ。

 

 あの先輩、本当に変な軍団作ってたんだね。

 ただの妄言だと思ってた……

 それに、貧乏仲間とか言っておきながら普通に塾通ってた人結構いるんだね。

 それでいいのか?

 わたしの時もそうだったけど、人集めることに夢中になって目的見失ってない?

 

 まぁ、今は先輩のことはどうでもよくて、

 

「……おねぇちゃんの口から人の名前が出るなんて珍しいね」

 

「そう?」

 

「その先輩って、」

 

 まずい、ひまわりが先輩に興味を持ってしまった。

 迂闊だった、余計な話するんじゃなかった。

 あんな変人、おねぇちゃんは許しません。

 

「はいはい、無駄話はおしまい。それじゃあ、まずはここの塾の過去問からやろっか」

 

「はーい」

 

「まずは国語から行こう。時間は50分、分からないところもあると思うけどそこは分からないなりに考えたことを書いといてくれると嬉しいな」

 

 教えるって言っても、その前にどれぐらい出来るかは把握しておかないといけないからね。

 普段から授業の復習とか宿題とか手伝ったりしてるから、ある程度は理解してるつもりだけど。

 こういう応用問題みたいな授業内容から少し発展してる問題をどれぐらい解けるかはあんまり知らないからね。

 

 あとは、本番の予行練習でもある。

 いくら問題の答えが分かってたとしても、時間内に解き終わらないと意味がないからね。

 

「国語かぁ、ちょっと苦手なんだよね」

 

「おねぇちゃんは横で試験問題作ってるけど、本番だと思ってタイマー鳴るまでは時間いっぱいまでは1人で解くように」

 

「試験問題を作る? 過去問とかからシャッフルするの?」

 

「うんん。数字変えたりシャッフルしたりもするけど、それだとバリエーションに限界あるからね」

 

「まぁ、そうだけど。じゃあどうするの?」

 

「今日入試の過去問とかを集めるついでに、今年の入試問題作りそうな先生たちの定期テストの過去問も貰ってきたの。直接役には立たないけど、これと過去問参考にすればどんな問題が出てきそうかある程度予想出来るでしょ?」

 

「……凄い」

 

 そう、うちの学校の生徒は全て受験の合格者である。

 そして、同時にうちの学校の先生たちは試験の作成者なのだ。

 なんだ、この入試対策にあまりにも有用すぎる場所は……

 

 実技教科と英語を除いた、国数理社の四教科のそれぞれの先生全員の定期テストの問題を出来る限り集めた。

 新人の先生もいるし、勤続年数長い先生でも流石に古すぎるものはない。

 せいぜいここ数年のテストぐらいしか集まらなかったが、これでも十分なはず。

 

 誰が作るのか、協力して作るのかは知らないけど。

 これだけ判断材料あって過去問もあるし、結構高い的中率のテストを自作できるはずだ。

 

「ひまわりのためなら、おねぇちゃんどこまでも頑張っちゃうもん」

 

「でも、無理はしないでよね」

 

「いいからいいから、ひまわりはテストに集中だよ」

 

「はい!」

 

 ひまわりのためだからね。

 これぐらいの苦労、どうってことないよ。

 

 真面目な表情でテスト問題に向き合うひまわり。

 いいね、かっこいい。

 かっこかわいい。

 

 さて、ひまわりの横顔をいつまでも眺めてないでわたしもペンを動かさないと。

 

 あれ? この先生数年おきに幾つかの問題使いまわして……

 いや、もしかしてこれ全部作ってあってそこからランダムに選んで……

 辞めよう。

 深入りしない方がいいこともある。

 

 流石に入試で使い回しはやらないだろうけど、こう言う事する性格ってことはもしこの先生が担当するとしたら……

 

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 今日はついに受験当日……

 

「き、緊張する……」

 

 もう朝起きた時から緊張で体が震えて、

 って言うか、昨日も緊張で全然寝れなかったし。

 やばい、どうしよう。

 

「……おねぇちゃん動きロボットみたいになってるよ。と言うか、なんでおねぇちゃんがそんなに緊張してるの?」

 

「だってぇ」

 

 ひまわりの受験本番なんだよ?

 緊張しないわけないじゃん。

 

「大丈夫、出来ることはやるだけやった。後は、って何でこれ私が言ってるの? 普通おねぇちゃんが言うセリフでしょ?」

 

「……ごめん」

 

「まぁ、ロボットおねぇちゃん見てたおかげか緊張どっか行っちゃったし。結果良かったけど」

 

 それにしても、ひまわりは結構リラックスしてるなぁ。

 受験当日なのに、いつもの調子だ。

 流石ひまわり。

 これは合格間違いなしだね。

 

「昨日やったテスト、例年の合格点には乗った。だから……」

 

「うん」

 

 初めはかなりボロボロだった。

 でも、ひまわりも必死に頑張って最近は例年の合格点付近を取れるようになって来た。

 先生に合格は難しいって言われてた頃に比べれば、格段に成長したと思う。

 

 ……つまり、運が味方してくれれば行ける。

 

 大丈夫、ひまわりはずっと頑張って来たんだから。

 お天道様だって味方してくれるはず。

 昨日のわたしが作ったテストも、ちゃんと合格点乗ってたし。

 

 ……

 

 大丈夫。

 

「ひまわり、頑張ってね」

 

「行ってきます」

 

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 うろうろ、うろうろ

 

 心配だ。

 今頃テストが終わった頃だろうか?

 

 うろうろ、うろうろ

 

「お母さん、ひまわり大丈夫かな?」

 

「きっと大丈夫よ」

 

 うろうろ、うろうろ

 

「お母さ、」

 

「ただいま」

 

「おかえり、ひまわり! どうだった?」

 

 帰ってきた。

 体調は悪くなさそうだ。

 よかった。

 

 試験で体調崩しちゃう人とかも多いらしい。

 入試独特の緊張感とか、これまで今日のために受験勉強をして来たというプレッシャーとか。

 あとは、問題が勉強したところと全然違かったりとか……

 

「とりあえず、やれる事は全部やったよ。だから、あとは結果が出るまで祈るしかないかな」

 

「そっか、」

 

 バッチリ手応えがあったって感じでもないけど、絶対無理って感じでもなさそうだ。

 

 最近ひまわりは合格点を越える越えないの辺りで苦戦してたから、多分その感覚は正しいはず。

 つまりは実力通り、その近辺の点数ってことか。

 もう入試は終わったし、後は神頼みぐらいしかやる事ないかな。

 

 ……神様か、

 

 わたしは見放されちゃったけど、ひまわりには微笑んでくれると嬉しいな。

 

「ひまわりー、受験終わったしお預けにしてたプレゼント」

 

「あっ、そうだった! ありがとう、お母さん」

 

「どういたしまして」

 

 お母さんが何やらおっきな箱を持ってきた。

 プレゼント?

 受験お疲れ様ってことかな……

 

 あっ、そういえばひまわりの誕生日プレゼント受験終わったら渡すって言ってたっけ?

 

「そういえば、何もらったの?」

 

「えっとね、パソコン」

 

「へぇ、ひまわりネット好きだもんね。でもパソコンならそこに1台あるよ?」

 

「自分専用のが欲しかったの」

 

 そっか、パソコン欲しかったんだ。

 リビングにも1台あるけど、そう言うこともあるよね。

 

 ……

 

 えっちなサイトとか見たいわけじゃないよね?

 ひまわりはいい子だからね。

 違うよね。

 

 でも、ネットってそう言うサイト多いって……

 クラスの男子が、家のパソコンをウィルスに感染させて親にこっぴどく怒られたとか言ってた気がする。

 ひまわりも年頃だし、そう言うの興味あるのかな?

 

 ま、まぁ。

 それぐらいはね。

 ほら、理解のあるおねぇちゃんってやつ?

 

「それに、じゃーん」

 

「おー、中身もでっかい」

 

「これ、めっちゃ性能いいやつなんだ。重いゲームとかもサクサク動いちゃうんだよ」

 

 あ、なんだゲームか。

 そうだよね。

 ひまわりはえっちな子じゃないもんね。

 

 おねぇちゃん、妹のそっち方向への成長にどう反応したらいいかってちょっと考えちゃったじゃん。

 

「でも、そういうのって高いんじゃないの?」

 

「そうだよ。だから、先の誕生日の分も前払いって事で買ってもらったの」

 

「そんなに欲しかったんだ。わたしが買ってあげても良かったのに、」

 

「ダメだよ。こんな高いの申し訳なさすぎるもん。誕生日の前払いってのがあるから、お母さんにも頼めたのに」

 

 なるほど。

 って言うか、誕生日プレゼントってそういうの対応してるんだ……

 でも、それだとしばらくお母さんから誕生日プレゼントもらえないじゃん。

 

「わたしのも前払いってことにすれば、」

 

「だめ、おねぇちゃんは前払いにしてもその契約は無効になったとかって言うもん。結局プレゼント渡してくれるの想像つくよ」

 

「……確かに」

 

「これからしばらく誕生日もクリスマスもくれるのおねぇちゃんだけだし、そっちを毎年の楽しみにしておくから」

 

「ひまわりー」

 

 なんて可愛いんだ、これは気合い入れなくっちゃだね!

 でも、あんまり高いと怒られちゃいそうだからなぁ。

 毎年毎年こう金額の天井を突く感じで、そうすればそのうちひまわりも感覚麻痺するでしょ?

 

 パソコンとかって、数年ぐらいしたら買い替えたくなるって言うしね。

 その度にまた先の誕生日の前払いでとかやってたら、ひまわりお母さんから誕生日プレゼントもらう回数減っちゃうし。

 ……あれ? クリスマスもだっけ?

 とにかく、子供のうちしか貰えないのにそんなのもったいないよね。

 

 そこで、わたしの出番ってわけよ。

 それまでに、ひまわりが違和感なくパソコンを受け取れるぐらいには金額の拡張をしないとね。

 ひまわりには絶対バレてはならない、極秘計画。

 

 名付けて『金銭感覚ガバガバ計画』

 アホっぽい?

 うるさい。

 

「じゃあ、わたしは部屋でpcの立ち上げするから」

 

「手伝う?」

 

「大丈夫」

 

 ……断られちゃった。

 まぁ、受験でお預け状態だったんだもんね。

 早く遊びたいし、せっかくの自分用なんだから独占したいよね。

 

 わたしは理解あるおねぇちゃんだから、余計なことはしないの。

 ほんとだよ?

 

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「〜〜〜〜〜〜〜♪」

 

「……楽しそうだなぁ」

 

 半日経ったけど、ひまわりが一向に部屋から出てこない。

 しばらくは“え!?”とか“えーっと……”とか困ってそうな声が聞こえてきてたから、助けに行くタイミングを見計らってたんだけど、

 

 ……完全にタイミングを逃した。

 

 あ、別に聞き耳立ててた訳じゃないよ。

 たまたま聞こえてきただけだから。

 ひまわりがトイレ行こうとドア開けたら、寄りかかってたせいで内側に倒れ込んで白い目で見られた事実なんてないからね?

 ドアから離れたせいで、なんとなくしか声が聞こえなくてもどかしい訳でもないから。

 

 でも、随分と楽しそうな声だ。

 しかも、ずっと喋ってるし。

 ひまわりそんなに独り言多い方じゃないのに……

 何かそんなに面白いものでも見つけたのだろうか?

 

 ……気になる。

 結構時間置いたし、別に今行っても理解ないおねぇちゃんにはならないよね?

 よし、

 

 こんこん

 

「はいるよー」

 

「あっ、おねぇちゃん! ちょっと、今は……」

 

「え? どうしたの、ひ」

 

「ストップ! 名前言っちゃダメー!!」

 

「え??」

 

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【初配信】はじめまして、日向葵です♪【新人Vtuber】

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