運命に見放された少女   作:哀上

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9話 放送事故

9話 放送事故

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 こんこん

 

「はいるよー」

 

「あっ、おねぇちゃん! ちょっと、今は……」

 

「え? どうしたの、ひ」

 

「ストップ! 名前言っちゃダメー!!」

 

「え??」

 

 なになに?

 どう言うこと?

 

 ……わたし、なにか不味いことやっちゃいました?

 

「お、おねぇちゃん急にどうしたの?」

 

 ひまわりがキーボードをカタカタ弄りながら、顔だけこちらに向けて聞いてきた。

 いつも人に話しかけられたら手を止めてから話すのに、珍しい。

 これはだいぶ焦ってるな。

 

 ちょっと入るタイミングミスっちゃったかもしれない。

 別に迷惑かけたかった訳じゃないんだけど……

 

「いや、随分と楽しそうだったから混ぜて貰おうかなぁって思ったんだけど」

 

「……もしかして、まだ盗み聞きしてたの?」

 

「ちが、そもそもあれはたまたまで、別に盗み聞きしてた訳では無くて……」

 

「たまたまねぇ。ドア開けたら内側に倒れ込んでくるぐらい、ピッタリくっついて耳当ててたみたいだったけど?」

 

「……ごめんなさい」

 

 本当に、盗み聞きするつもりなんてなかったんだよ?

 ただ、あまりにも楽しそうだったからつい気になっちゃって。

 

 ……まさか、あんな間抜けなバレかたするとは。

 あ、ほんとに盗み聞きはしてないからね。

 

「まぁ、聞いてなかったならいいけど」

 

 ……聞かれるとそんなに困るの?

 

「ねぇ、もしかしてえっちな動画でも見てたの?」

 

「え?」

 

「そんなに焦って、聞かれて困ることしてたんでしょ」

 

「そ、そんなの見る訳ないじゃん。おねぇちゃん何言ってんの!?」

 

 いや、確かに返事待たずに部屋に入ったわたしも悪いけどさ、いくらなんでも焦りすぎだよね。

“名前呼ばないで!”とか変なこと言ってたし。

 普段は全く気にしないのに、今日は盗み聞きされてないか気にしてたのもそれが理由?

 

 くんくん

 

 いつものひまわりの香りしかしない。

 やっぱり気のせい?

 

「どれどれ」

 

「ちょっと、今はpc触らな……」

 

「やっぱり、えっちなサイト見てるじゃん」

 

「……え?」

 

 ちらっとしか見えなかったけど、モニターには裸の女の子の画像が……

 やっぱりえっちなサイト見てたんじゃん。

 そうだよね、ひまわりもそういうお年頃だもねそういうサイトぐらい見るか。

 

 ……いつの間にこんな大人に。

 おねぇちゃん嬉しいような寂しいような、ちょっと複雑です。

 

 でも、そっか。

 動画じゃなくて漫画派だったんだね。

 ひまわりアニメとか好きだしね。

 

「いや、これは違くって。画面切り替えたら……」

 

「?」

 

「いや、切り替えじゃなくって。えっと、そうたまたまクリックしちゃって」

 

「なになに、きんし……」

 

「ストーップ!! おねぇちゃん、読み上げなくて良いから」

 

 たまたまクリックしちゃったなんてありがちな言い訳して、あわあわして取り繕ってるひまわりもこれはこれでいいかも?

 普段あんまり誤魔化したりとかしないしね。

 

 内容を詳しく見ようとしたら、ひまわりに邪魔されてしまった。

 恥ずかしがらなくてもいいのに。

 家族なんだから、何も隠すことなんてないでしょ?

 

「なんでよ。妹の趣味ぐらいおねぇちゃんなら把握しておくのが普通でしょ?」

 

「おねぇちゃんに性癖把握されて嬉しい妹なんていると思う?」

 

「……え?」

 

「なんで驚くの!?」

 

 おねぇちゃんならそれぐらい普通じゃないの?

 違うの?

 

 ま、まぁ。

 人によって価値観は違うって言うしね。

 そう言う人もいるのかもしれない。

 

 今は少数派な人の価値観も尊重しないといけない時代だからね。

 おねぇちゃんも少しは譲歩してもいいよ。

 でも、そう言う時って世のおねぇちゃん達はどうしてるんだろう?

 ほら人によって価値観が違うのと同じように、そういう趣味も人によって違うじゃん。

 だからさ、

 

「だって趣味わからないと買う時困るでしょ?」

 

「は?」

 

「プレゼントするとき困るでしょ?」

 

「……変なこと言ってないで、とりあえずおねぇちゃんは一旦部屋から出て」

 

 え、変なことなんて言ってないよね?

 ただ単に、そう言うものをプレゼントするにしても相手の趣味がわからないとどういうの渡していいかわからないから困るっていう単純な話をしているだけなんだけど。

 そんな顔をされるような話ではなくない?

 

「ちょっと、そんなに押さないでって。ごめんて、すぐ出るから」

 

「pc興味あるなら後で触らせてあげるから、今はちょっとだけ待ってて」

 

「……分かった」

 

「はぁ」

 

 怒らせちゃったかな?

 

 ……ひまわりもそう言うものに興味出てきたみたいだし、お詫びに何か買ってあげよっかな?

 さっきモニターに写ってたやつ買えばいいのか?

 でも、ちゃんと読めなくてタイトル覚えてないんだよね。

 なんとなく絵は覚えてるけど、それで探すのはちょっと無謀が過ぎる気がする。

 

 いっそのこと自作して、おねぇちゃんの手作りをプレゼントって手も?

 でも、自作して好みと違ったら悲しいし。

 それにしっかり性癖を把握してピンポイントで刺すならともかく、大雑把にとなると売り物にしているプロのクオリティーには敵わないだろうしなぁ……

 

 プロ、か。

 

「そういえば、これちゃんとお金払ってるの?」

 

「え?」

 

「インターネットって違法アップロードされた漫画とかが無料で読めるサイト多いんでしょ? このサイトは違うよね? なんか、作者が印税が入らなくて困ってるってニュースでやってたよ」

 

「これは初めから無料で公開されてるやつだから、悪意を持って転載されてるもの以外は大丈夫」

 

「へぇ、そんなサイトもあるんだ。詳しいんだね」

 

「……別に、普段から見てる訳じゃないからね」

 

「はいはい」

 

「おねぇちゃん、本当にわかってる?」

 

 本当にすごい被害が出ているらしいからね。

 何千億、何兆ってレベル。

 桁が多すぎて正直あまり想像付かないよね。

 

 無料で公開……、そう言うサイトもあるんだね。

 きちんと合法なサイト見てるなら安心、そういう違法サイトってウィルスとかも危ないって言うしね。

 いや、ひまわりなら当然か。

 先輩とは違うのだよ。

 いや、違法サイト見てるのかは知らないけど。

 でも、見てそうじゃない?

 

 無料で見れるのはいいけどお金入らないと創作活動なかなか続けられないだろうし、ひまわりの好きな作者ならわたしがお金落とすからなるべく長い間活動して貰いたいな……

 

「欲しいのあったらおねぇちゃんに言ってね、買ってあげるから」

 

「……どこの世界にえっちな漫画をおねぇちゃんにおねだりする妹がいるの?」

 

「居ないの?」

 

「……」

 

「まぁ、そんな顔しないで。さっきのも欲しいんだよね? 探しておくからさ」

 

「探さなくていいから、おねぇちゃんは一旦出てって!」

 

「はーい」

 

 結局部屋から追い出されてしまった。

 仕方ない、今日は大人しくチャートでも眺めておくか。

 確か夜に雇用変化の統計が……

 

「ギリギリセーフ? いや、これはアウトでしょ。初日からなんで、こんな……あ、配信切れてない!?」

 

 なんか騒いでる……

 でも、流石にこれ以上はダメだよね。

 ガチで怒られちゃっても嫌だし。

 

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「切り抜き、伸びちゃってるなぁ……」

 

 家に帰ると、ひまわりがリビングのソファーに寝っ転がってスマホを眺めていた。

 久しぶりに見る光景だ。

 最近はずっと受験勉強でそんな暇なかったからね。

 

 リラックスしてる体勢の割に険しい顔してるけど、どうしたんだろう?

 

「何見てるの?」

 

「え? おねぇちゃんいつの間に」

 

「それ何?」

 

「いや、」

 

 声を掛けたらスマホをさっと隠されてしまった。

 どうして……?

 

「隠さなくてもいいじゃん」

 

「いや、えっと……」

 

「それってVtuberってやつでしょ?」

 

「知ってるんだ」

 

「当然」

 

「そっか……」

 

 そりゃ、誕生日にVtuberのグッズプレゼントしたからね。

 ひまわりが好きなのは知ってるから、チェックはしたんだけど……

 でも、あんまり詳しくないんだよねぇ。

 

 Vtuberって数も多いし動画も長くて、とても把握しきれる量じゃなかったから。

 それに、最近はわたしもひまわりの受験勉強の手伝いで忙しかったし。

 あ、一応アニメは見てみたんだけどわたしはあまりハマらなかった。

 

「本当にちょっと見たことあるぐらいでしかないけどね」

 

「……良かった」

 

「え? なんでよ」

 

「いや、なんでもないの」

 

「うぅー」

 

 なんでそれで"良かった"って反応になるの?

 

 ……最近ひまわりは隠し事が多い気がする。

 大人になるってそう言うことなのかもしれないけど、おねぇちゃんとしては寂しい。

 もっとなんでも話してほしいんだけどなぁ。

 

「っていうかさ、ひまわりってVtuberかなり好きだよね。普段からよく見てるでしょ?」

 

「うん」

 

「やってみたい?」

 

「え?」

 

「いや、Vtuberやってみたいのかなって。ほら、せっかくいいパソコン買ってもらったみたいだし」

 

 せっかくパソコン買ってもらったんだしね。

 どうせなら、やりたいことはなんでもやってみたほうがいいよ。

 ひまわりのやりたいことなら、わたしなんでも応援しちゃうよ。

 

「いや、えっと……運と才能の世界だからね。もし始めたしたしても上手く行くかも分からないし」

 

「なら、ひまわりは大丈夫だね」

 

「え?」

 

「才能ももちろんだけど、ひまわりには天が味方してるでしょ?」

 

「そんなことないと思うけど、なんの話?」

 

「あるの。おねぇちゃんはそう信じることにしてるから」

 

「結局おねぇちゃんが勝手に言ってるだけじゃん」

 

「それじゃ足りない?」

 

「……おねぇちゃんがそう信じてくれるなら100人力かな」

 

「そっか、じゃあ」

 

 決まりだね。

 これも金銭感覚ガバガバ計画の一環、どれぐらいするのかわからないけどひまわりが欲しがってるのならちょうどいいしね。

 

 でも、Vtuberってどうやって始めるんだろ?

 とりあえず動かす体は絶対必要でしょ。

 後は、多分そう言う専用のソフトがいると思うんだけどどこで売ってるんだろう?

 

「"じゃあ"じゃないよ? おねぇちゃんはそんな軽く言うけどね、結構お金かかるんだからね」

 

「どれぐらい?」

 

「数十万円ぐらい? 私が今まで貯めてたお年玉全部使い切っても足りないぐらいだよ」

 

「そんなに? て言うか、やっぱり詳しいんだね」

 

「えっ、……ファンなら当然だよ」

 

 数十万円か、結構するんだね。

 

 でも、そこまで把握してるってことはやろうと思ったことあるんだよね。

 ご丁寧にお年玉じゃ足りないって、一回考えてみた結果かな。

 お金が問題なら、わたしのこと頼ってくれれば良かったのに。

 

「そっか、でもいいよ出してあげる」

 

「え?」

 

「それぐらいのお金なら出してあげるよ」

 

「おねぇちゃん、そんな大規模に転売やってるの? それは流石に……」

 

 心外、転売はもうやめたよ。

 

 いや、今やってるのも広義の意味では転売なのかな?

 でも、安く買って高く売るのは商売の基本だからね。

 どれも言ってしまえばそうなるのかも?

 

「違うよ、それはもう辞めたの」

 

「じゃあ、そんなお金どこに?」

 

「じゃじゃーん」

 

「なにそれ」

 

「私の通帳」

 

「いち、じゅう、ひゃく、せん、まんじゅうまん、ひゃくまん……なに、この大金!?」

 

 どうよ、ひまわりのために頑張って稼ぎましたとも。

 

「お金の転売的な?」

 

「……おねぇちゃん、FXなんてやってるの?」

 

「ひまわり、よくそんな言葉知ってるね。わたしも最近知ったのに」

 

「あれ? でも、おねぇちゃんの歳じゃまだ口座作れないよね」

 

「……」

 

「目を逸らさないで」

 

「か、海外のサイトだからセーフっぽい? お母さんには一応許可貰ったから大丈夫」

 

 調べた感じ、違法ではなさそうだったし。

 お母さんにもちゃんと話して許可貰ったから多分大丈夫。

 多分……。

 

 ダメだったら先輩を恨もう。

 

「まぁ、おねぇちゃん頭いいし向いてるのかな? でも、熱中のしすぎは絶対ダメだよ、一瞬でお金無くなるって言うしそのまま借金地獄に……」

 

「それは気を付けてるから大丈夫、それに海外は追証ないから」

 

 借金にならない、これがいいよね。

 正直、入れたお金しか無くならないならあんまり怖くもない。

 入れたお金以上にマイナスになって突然借金とか、怖くてできないでしょ?

 お母さんに迷惑かかっちゃうかもしれないし。

 

「……でも、流石にそんな大金わたしのために使ってもらうのは勿体無いよ」

 

「ひまわりー」

 

「抱きつかないの」

 

 やっぱりひまわりはやさしいなぁ。

 でも、あんまり遠慮しなくてもいいのに……

 

「お金必要になったら遠慮なく言ってね。ひまわりのために稼いでると言っても過言じゃないんだから」

 

「そんなこと言って」

 

「ほんとだよ?」

 

「はいはい」

 

 流石にいきなり数十万はちょっと難易度高かったかもしれない。

 最終目標にしてるパソコンより高いぐらいだしね。

 これは計画の最終段階、パソコンの次に追加だね。

 

 夢っていうのは、挑戦できるうちに挑戦したほうがいいと思うんだ。

 それは金銭的な意味ではなくて、心的な意味で。

 それが成功するにしろ失敗するにしろ、納得するまで挑戦しないと前を向いて進めないから。

 

 わたしは、挑戦して失敗してでもまだ納得できなかった。

 納得できないうちに、もう挑戦できるような状態ではなくなってしまったから。

“私、トップアイドルになりたい!!”

 夢はずっと変わることはないけど、もうわたしは諦めて目を背けてしまった……

 

 ひまわりにはそうなってほしくないから、

 

「……運か、おねぇちゃんちょっと待って」

 

「ん?」

 

「久しぶりにカラオケ行かない?」

 

「カラオケ?」

 

「最近全然行ってなかったじゃん。受験終わって時間出来たし、それに少し話したいこともあるんだ」

 

「行く行く!」

 

 話したいことってなんだろう?

 密室、しかも2人っきりで?

 

 ……♡♡

 

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