運命に見放された少女   作:哀上

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11話 姉妹コラボ

11話 姉妹コラボ

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「それじゃあ、始めるよ」

 

「う、うん」

 

 このボタンクリックしたら配信始まるんだよね。

 一応心の準備はできてるけど、ちょっと緊張する。

 

 でも、ひまわりのためだからね。

 おねぇちゃん頑張っちゃうぞー。

 

「……おねぇちゃん、分かってるとは思うけど」

 

「大丈夫だよ、ひまわりちょっと心配性だよね」

 

「だって、」

 

「本名は言わない、リアルが特定されそうな話題は避ける、でしょ?」

 

「うん」

 

「それぐらい余裕だよ、余計な心配なんてしないでおねぇちゃんに任せなさい」

 

 さっきから何度も確認されてるけど、それぐらい言われなくても分かってるって。

 なんでもVtuberにとってこの手の事故はガチで不味いらしい。

 一瞬で炎上? してとんでもないことになるとか。

 もちろん単純にネット上で不特定多数の人に個人情報がバレるのが危ないってのもあるから、どっちにしろ気をつけなきゃなんだけどね。

 

 わたしも配信に出るってなってVtuberについてちょっとは勉強してきたんだからね。

 さすがにひまわりにはまだ敵わないけど、でもそんなに甘く見ないでよね。

 

「それに、今わたしが配信に出ることに意味があるんでしょ?」

 

「……うん。切り抜きとかが結構盛り上がってくれてて、タイミングとしては今が一番いいのかなって」

 

「でしょ? わたし、ひまわりのこと応援したいからさ」

 

 この前のこと、知らなかったとはいえ迷惑は掛けちゃったからね。

 結果としてはあれでよかったってひまわりは言ってくれたけど、でもせっかくの初配信を邪魔しちゃったのは申し訳ないから……

 わたしが力になれる事があるなら、せめて迷惑をかけちゃった分ぐらいは取り返したい。

 

「……ありがとう。よし、配信始めるよ」

 

「はーい」

 

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【姉妹コラボ】初配信で事故ったVtuberがいるらしい【新人Vtuber】

391人が視聴中 1分前に開始

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Aoi ch/日向葵 チャンネル登録

チャンネル登録者数 904人

 

 

「みんなー、アオイチャンネルへようこそ♪」

「前回は突然配信終わっちゃってごめんね。今日はこの前の分もみんなとたっぷり一緒にお話しようと思ってるから、ゆっくり楽しんで行ってね♪」

 

 この画面の真ん中にいるのがひまわり、もといアオイちゃんだよね?

 本当にひまわりと連動して顔が動くんだね。

 アバターと人が連動して、これがVtuberってやつか。

 

 こうやって横から見ると、

 普段と違うひまわりの雰囲気、声色とは裏腹に真面目な横顔……かっこいい。

 

 この顔、私だけが知ってるんだよね。

 画面の向こうの視聴者はアオイってアバターを通した姿しか知らなくて、リアルの知り合いは普段のひまわりしか知らなくて。

 これ、ちょっと優越感かも?

 

ーチャット

:キター!

:始まった

:猫被り直してて草

:アオイちゃん乙

:これが初配信でバズり散らかした Vtuberか

:切り抜きからきました

:待ってました

:今日はちゃんと宣伝ツイート出来てて偉い

 

 で、この画面の横に流れてるのがチャットって言うらしい。

 視聴者がリアルタイムで感想を打ち込んでいるんだって。

 凄い勢いで流れてる……これみんな配信始まる前からずっとひまわりのこと待ってたんだよね。

 みんなひまわりに夢中だ。

 

 これ、わたしいらなかったんじゃない?

 このまま特等席で配信してるひまわりのことずっと見てるのダメかな?

 いや別に見てる人数が多くて怖気付いてるとかではないよ。

 

 ただ、ほら……ね?

 

「そして、今日はなんと特別ゲストが来てくれています。どうぞ」

 

「ど、どうも。おねぇちゃんの……リリーだよ?」

 

「と言うわけで、ぼくのおねぇちゃんが来てくれました」パチパチパチ

「タイトルにも書いてあるけど、今日は姉妹コラボだからぼくへの質問だけじゃなくてリリーおねぇちゃんへの質問も随時募集中だよ♪」

 

 せ、セーフ?

 

 とりあえず噛まなかったから良し。

 緊張してたのもあるんだけど、偽名名乗るのってなんかちょっと抵抗あるんだよね。

 なんでだろう?

 せっかくひまわりに新しく付けてもらった名前で、めっちゃ嬉しかったんだけど……

 

 お母さんに付けてもらった名前だから?

 でも、まさか名前変えるわけでもないしね。

 

 やっぱ慣れなのかな?

 ひまわりはめっちゃ自然だし……

 配信自体は始めたばっかりのはずなんだけど、好きでVtuberずっと見てたみたいだしシミュレーションとかしてたりしたのかな?

 

ーチャット

:疑問系w

:出たなおねぇちゃん

:名前めっちゃ詰まってて草

:この前の主犯

:バズった原因

:リリーちゃんも声可愛い

:狂った姉妹が揃い踏みやなw

 

 う、バレてる。

 やっぱり詰まっちゃってたかな?

 

 早く慣れないとだよね。

 今のわたしはアオイのおねぇちゃんのリリーなんだから。

 Vtuberってそういう世界観、結構大切なんでしょ?

 

 でもまぁ、チャット見るにみんな笑ってくれてるし。

 それなら……

 

 ん?

 狂った!?

 

「狂った姉妹ってどういう事? わたしはともかく……えと、アオイを馬鹿にするな!」

 

「……おねぇちゃん、いきなりコメントに突っかからないの」

 

「だって、」

 

「だってじゃありません。こういうの反応してたらキリが無いし、突然で隣で声上げられるとぼくもびっくりしちゃうから」

 

「……ごめんなさい」

 

 怒られた……

 

 チャットが悪いのに。

 だって、ひまわりのこと狂ったって言ったんだよ?

 こういうの誹謗中傷って言ってネットで問題になってるんでしょ?

 

 ひまわりに抗議の視線を送るも、素気無く無視されてしまった。

 仕方ない、後で個人的に復讐しておこう。

 お前のせいでひまわりに怒られる羽目になったんだからね、ただで済むと思わないでよね。

 

ーチャット

:草

:ワロタ

:悲報、おねぇちゃん煽り耐性ゼロ

:この姉妹の関係はこれがデフォなのねww

:リリーちゃんイライラで草

:姉妹で並ぶとアオイちゃんが常識人に見えるという謎

 

「おねぇちゃん耳かして」

 

「なに?」

 

(今、私の名前いいそうになったでしょ?)

 

「う、なぜ」

 

(あからさまだったじゃん、気をつけてよね)

 

「はい」

 

 あ、バレてた。

 

 いや、分かってるんだけどね。

 でもとっさだとほら、つい癖でね。

 

 ……ごめんなさい、気を付けます。

 

ーチャット

:しゅんとしてて草

:ワロタ

:なんかちゃんと怒られたっぽくて草

:可哀想はかわいい

:よわよわリリーちゃんw

:妹に敵わない系概念

 

 今のは怒られてないからね?

 ちょっと注意されただけだから。

 

 まずい、このままでは姉としての威厳が……

 

 そんなのない?

 ひまわりに対して無いのはそりゃ承知だけど、せめて対外的にぐらい見栄を張ってもいいでしょ?

 友達の家に行ったら、大人っぽいおねぇちゃんがいてドキドキみたいな?

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「次の質問、“歌ってみた配信などする予定はありますか? アオイちゃんもリリーちゃんもすっごく可愛い声してるのでお歌を聞いてみたいです”だって。名無しさん質問ありがとう」

 

「歌……」

 

「ぼくは結構すぐやる予定だよ、楽しみにしておいてよね♪おねぇちゃんはまだ恥ずかしいみたいだから、何度かコラボしてみてからかな」

 

「うん、」

 

 ……ただ気楽に歌うだけでいい、そう分かってるんだけどね。

 

ーチャット

:リリーちゃん歌上手いの?

:そりゃ緊張するよね

:またコラボするんやね

:定期的にコラボしてほしい

:歌下手族?

:楽しみ

:つまりいつか日向姉妹のデュエットが聞けるってことでおk?

:聞いてみたい!

 

「歌下手族って、そんなんじゃないよ。おねぇちゃんめっちゃ上手いんだから。視聴者のみんなも一度聞いたら神様だって言って崇めだすんじゃない?」

 

「大袈裟だよ……、そんな人を魅了するような歌い方なんて出来る訳ないでしょ。まぁ、姉としては? 上手い方だと思うけど」

 

「姉としてはって、何その基準?」

 

「世の中のおねぇちゃんの中では平均より上かなぁって」

 

「説明されてもやっぱり謎だよ、おねぇちゃん時々変なこと言い出すよね」

 

 せっかくひまわりが応援してくれて克服するきっかけをくれてるんだから、いつまでも逃げてばかりじゃダメだっていうのは理解してる。

 視聴者も別にわたしの歌なんて興味なくて、アオイというVtuberの姉が歌うというコンテンツを面白がってるだけだから。

 だからわたしが歌ったところで何も起こりはしない。

 それは分かってるんだけどね。

 

 人を魅了するような歌……か。

 

 わたしは歌には多少は自信がある。

 仮にもアイドルを目指していて、神様に直接指導も受けたのだから。

 ただ、特別には届かないという自覚もある。

 そう言う歌はきっと特別な人だけが歌えるのだと思う。

 

ーチャット

:草

:本当に謎の基準でワロタ

:その基準は1人しかいない定期

:ハードル上げすぎで草

:それは自信あるってことでいいのか?

:アオイちゃんの歌枠楽しみ

:シスコンだからね、色眼鏡も掛かっちゃうよ(笑)

 

 こうやって配信してる姿を横から見て、それに反応する視聴者のチャットを見て、

 Vtuberってわたしの想像以上にアイドルなんだなって思った。

 理想の自分になるために、自分の理想を見るために、そのための偶像がアバターでそれを通してお互いの理想を叶えようとしてる。

 

 それはきっとアイドルっていう概念を被ってステージに立つのと似ているのだと思う。

 本人と理想の間により大きな歪みを生んでるとは思うけど、でもあくまでその延長線上にある。

 そんな気がする。

 

 ……そう、同じなんだ。

 

 だからかな?

 わたしはひまわりに、アオイに、自分のことを勝手に重ねて見てしまっているような気もして。

 もう終わった事を……

 

「あ、歌ってみたで思い出したんだけど……じゃじゃーん、見てオリジナルソング」

 

「え? アオイが作ったの?」

 

「まさか、お願いして作ってもらったの。初配信で歌おうと思ってたんだけど歌えなかったから、今日歌おうかなって」

 

「……それは、そのごめんなさい」

 

「別に怒ってないからね?」

 

ーチャット

:なんでやろなぁ

:ぶつ切りしたから定期

:結局ぶつ切りも出来てなかったけどな

:おねぇちゃんしゅんとしてるw

:曲まであるのか、だいぶ気合入ってんな

 

 そうだよね、本当はプランとかも色々あったはずだよね。

 Vtuberが大好きで、なりたくてずっと妄想してて……

 いざ本当に出来るってなったら、そりゃもうね。

 

 本当わたし何考えてるんだろう。

 進まない理由なんてどこにでもあるんだから、せめて機会をもらったことに感謝して前に進む理由を見つけないとだよね?

 

 わたしってさ、こうやって視聴者からチヤホヤされるの嫌いじゃないんだよね。

 アイドルみたいだって思うとちょっと……ってなるけど、多分アイドルみたいだからこそなんだよね。

 夢なんて諦めたって言って、わたしには夢よりももっと大切なものがあるって言って、新しい夢ではなくて夢を捨てるって方に進もうとしてるんだから。

 

 結局の所、わたしは幼い頃に頭に浮かんだそれをいまだにずっと夢に見続けている。

 

「時間もそろそろいい感じだし、せっかくだから最後にこの曲歌って終わりにしよっか」

 

「え!? もうそんなに時間たっちゃったの?」

 

「あっという間だったよね。おねぇちゃんは今日どうだった?」

 

「初めてで緊張したけど、アオイと一緒に配信出来て楽しかったよ」

 

 そう、楽しかった。

 だから罪悪感で思考がどんどんずれていっちゃったんだ。

 

 チヤホヤされていい気になって、

 人に勝手に自分を重ねて、

 アイドルじゃないけどアイドルっぽいことして、

 

 これでいいのかなって……

 

「おねぇちゃんは初めて聞く歌だし手拍子でもしてくれると嬉しいな。今度は一緒に歌おうね」

 

「……うん」

 

 でも、ひまわりはそれでもいいって言ってくれるのかな?

 もしわたしの夢を勝手に託したら、ひまわりはどう思うんだろう。

 

 ひまわりに自分を重ねて、

 ひまわりの人生を自分のことのように感じて、

 

 ……

 

「それじゃ、いっくよー♪」

 

ーーーーー

~~♪

ーーーーー

 

ーチャット

:めっちゃ上手い

:かわいい

:いい曲やな

:癒されるわぁ

:うっま

:歌ってるとまるで別人

:とても例の切り抜きと同一人物に見えない

:おまえらww

 

「おねぇちゃん、どうだった?」

 

「……」

 

「おねぇちゃん?」

 

 綺麗な歌……

 

 これが自分の歌を歌うってことなんだ。

 この前カラオケで歌ってた時とは感じ方が全く違う。

 夢に向かって真っ直ぐで、キラキラしてて、昔はわたしも……

 

 わたしは結局あの夢から抜け出せないみたい。

 でも、素直に追うことも出来なくて……

 だから言い訳ができてしまうとどうしても傾いてしまうんだ。

 

「めっちゃ上手だった。おねぇちゃん感動しちゃったよ」

 

「ほんと? よかった」

 

「ほら、見てるみんなも盛り上がってくれてるよ」

 

 そう、言い訳。

 別に何か悪いことをするわけじゃないんだ。

 ひまわりはVtuberになって、そこで上に行こうと頑張っている。

 そうである以上、応援になるのだから。

 

 ……たとえそこにちょっと別の気持ちが混ざっていたとして、問題なんてあるはずない。

 そうでしょ?

 

「ねぇ、ちょっと昔の話なんだけどさ……」

 

「?」

 

「昔、歌い方教えてほしいって言ってたよね」

 

「うん、そうだけど」

 

「今でもそう思ってる?」

 

「……え? もしかして、教えてくれるの?」

 

 わたしに才能なんてものはない。

 多少人より秀でてはいるが、それは才能と呼べるほどのものではなかった。

 天才と張り合えるような気になっていたのは、ただ神様がいたおかげで……

 

 ひまわりにもあるのかは分からない。

 でも、それでいいんだ。

 上を目指す向上心は持ってるみたいだけど、多分トップを目指してるわけではないと思うから。

 

 わたしには才能がなかった、でも得難い経験がある。

 神様との記憶、まるで自分に特別な能力があるかと錯覚するほどの技量。

 わたしという体は偽物でも、あの時中にいた神様はホンモノだった。

 

 夢を追う姿を見ていたいなら、

 その夢を応援するのなら、

 

 ……

 

 これは、わたしが神様から直接もらったプレゼント。

 わたしと神様との繋がり。

 誰にも話したことはないし、ましてやその経験から得たものを共有しようなんて……

 

 わたしは勝手にひまわりに自分を重ねてる。

 だから、この夢を勝手に応援するんだ。

 頼まれてもいないのに、自分の一番大切なものを晒してまでも。

 

 これが前なのか後ろなのかは分からない。

 でも、わたしは確かに一歩を踏みだすんだ。

 結局全部ひまわりのおかげだけど、だからこそ……

 

「今の曲もう一回歌ってみて」

 

「う、うん」

 

~~♪

 

 神様は確か……

 

 歌っているひまわりの後ろから手を回す。

 柔らかくて、ぷにぷにしてて、

 

「ひゃっ」

 

「歌うのに集中して」

 

「だって、いま変なとこ触って……」

 

「いいから」

 

「……はい」

 

 神様のように内側に入って体を操って感覚を教えるなんてことは当然不可能。

 だから歌ってる姿を見て、触って、直接修正していく。

 全身を隈無くチェックして、調律がずれている部分を一つづつ丁寧に。

 

ーチャット

:えっっ

:変な声出てて草

:これはアオイちゃん持たないよ

:罪なおねぇちゃんやな

:入ってるだろww

:アオイちゃん昇天不可避でワロタ

 

「んっ……」

 

「変な声出さないの」

 

「わ、分かってるけど……」

 

 本当は裸の方がいいんだけど……それは後でかな?

 今は配信中だしね。

 

ーチャット

:すげぇ

:リアルタイムで修正してるのか?

:楽器屋ね

:おねぇちゃんの手で鳴かされてる

:えっろ

:加工したんかってぐらい歌声違うぞ

 

「はぁ、はぁ」

 

「だ、大丈夫?」

 

 凄い息切れしてる。

 最近受験勉強ばっかりで引きこもってるからかな?

 体力つけないとダメだよ。

 

 こんな感じかな?

 やっぱりわたしだと一曲での修正はこれが限界か。

 神様は歌と踊りの概念を一瞬で変えてくれたのに。

 

 でも、視聴者の反応もかなりいいみたいだし……

 効果は出てるかな?

 

 これでいいんだよね?

 ひまわりの為になってるよね?

 わたしの為になってるよね?

 

 win-winだよね……

 

「さっきから私の耳元で、それに体弄られて」

 

「耳がダメなの? ぱく」

 

「んっ、やめっ、」

 

「ビクってなった。面白い」

 

「耳元で喋らないで。頭おかしくなる」

 

 かわいい……

 こんな純粋な妹に思いを押し付けるみたいな、わたし悪いおねぇちゃんだよね。

 でも、夢を応援してるのは本当だから。

 

ーチャット

:えっ……

:私って、また皮剥がれてますよw

:ASR配信と聞いて

:百合かな?

:綺麗な歌声とエロい声が交互に……頭おかしなるで

:プロレベルでは?

:歌で感動したのに、息子も反応した件

 

「凄い、視聴者増えてるね。アオイの歌のおかげだよ」

 

「え? あ……」

 

「どうしたの?」

 

「みんな、また次の配信でバイバイ」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「あれ?」

 

 配信切っちゃったの?

 ちょっと急じゃない?

 せっかくいま視聴者増えてたとこなのに……

 

「……」

 

「アオ……、ひまわりどうしたの? 顔真っ赤だよ」

 

「な、なんでもない!」

 

 急にプリプリ怒り出しちゃった。

 なぜ?

 

「……はぁ、おねぇちゃんに悪気とかないのは分かってるけど、急にあんな事されたら」

 

「?」

 

何か不味かったかな?

 

「ねぇ、おねぇちゃん。私の歌どうだった?」

 

「上手だったよ」

 

「お世辞じゃなくて」

 

 本当に上手かったと思う。

 なんというか、気持ちが乗っていた。

 初めから心が揺さぶられる、そんな歌だった。

 

 わたしはそれを調整しただけ。

 言うなれば、文の校正をしたようなものだ。

 神様直伝で多少装飾があって、もしかしたらコミカライズぐらい変わったかもしれないが。

 神様はアニメ化までやる、元がダメだとあれだけど。

 

「おねぇちゃんみたいになれるかな?」

 

「私みたいに……私は才能なんてない、だから」

 

「そんなこと」

 

「一回聞いて。私には才能なんてない、だから余裕で越えれる。そう言ってあげたいけど、そうじゃない」

 

「……」

 

「わたしには才能はない、でも私はとある尊敬する人から歌を教わったから。だからそう簡単に越えれるとは言えない」

 

 わたしはわたしに自信がない。

 でも、わたしは神様に歌を教わったんだ。

 わたしに自信はなくても、神様を貶すようなことする気はない。

 結局トップに届くような才能は私には無かったけど、それでも歌が上手いって自負ぐらいはある。

 

 神様から教わったことをひまわりに教える。

 でも、神様が直接じゃない。

 だから、保証は出来ない。

 

「そっか。うんん、はじめからそんなの無理だって知ってたしね」

 

「……でも、本当にひまわりのことは応援してるから」

 

 暗い顔させちゃったかな。

 でも、これはわたしの譲れない部分だから。

 

「ありがとう。……っていうか、おねぇちゃんこれ尊敬できる人って誰?」

 

「え?」

 

「言い方的にさくらちゃんじゃないよね? おねぇちゃん、歌の教室とかにも通ってないでしょ?」

 

「えーっと……」

 

 誰、か……

 神様って言うのが良くないことはこれまでの経験で理解している。

 そうでなくても想像はつく。

 

 宗教に入ってるならともかく、うちは形だけ入ってるタイプの仏教。

 結婚はキリスト教だろうし、葬式は仏教式、元旦には初詣へ行き、クリスマスもハロウィンも節分もやる。

 無宗教という名の仏教徒だ。

 そういう人に神様の話はタブーらしい。

 

「……もしかして、男の人?」

 

「ど、どうだろう?」

 

 神様男なのかな?

 そもそも性別があるのか。

 

「おねぇちゃん、いつのまにか男の人とこんなこと」

 

「こんなことって?」

 

「身体中まさぐられて、変な触り方して」

 

「いや、本当は服脱いで欲しかったけど、配信中だからって我慢したんだからね」

 

 そんな言い方される謂れはない。

 

「裸で?」

 

「いや、わたしは裸っていうか中に入ってもらったっていうか」

 

「……」

 

「でも、私にそれは出来ないからせめて裸になってもらってと思って」

 

 出来るだけのことをやろうと思って、本当だよ?

 

「……それ、本当に誰?」

 

「それは……ひみつかな?」

 

「……」

 

「ひまわり?」

 

 どうしたんだろう?

 そんな顔して、

 

「お母さん! おねぇちゃんがメスの顔してる!!」

 

 ちょ、ひまわり?

 なんて事いうの!!

 

「待って、誤解が……」

 

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