運命に見放された少女   作:哀上

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12話 リア凸

12話 リア凸

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「あ、また増えてる」

 

 この前ひまわりと一緒に配信をして数日。

 その動画の再生数のチェックと『日向葵』の名前でエゴサするのが最近のわたしの日課だ。

 

 ひまわり曰くあの配信は大成功だったみたい。

 アーカイブの再生数も登録者の伸びもすごいって喜んでくれてたし。

 最後なんか変な誤解されたりして大変だったけど、そうやって喜んでもらえるとおねぇちゃんも頑張ったかいがあったというものだ。

 

 顔真っ赤にして「私以外にあんなことしちゃダメだよ」って……

 かわいい、可愛すぎる。

 可愛くてかっこいいとか、最強だよね。

 独占欲ってやつ? おねぇちゃんを独り占めしたいお年頃なのかもしれない。

 

 言われなくても、もちろんひまわり以外にするつもりなんてないんだけどね。

 あれは特別、夢を応援したかったから。

 本当はずっとわたしの中にしまっておくつもりだったんだからね。

 

 まぁ、ひまわりの為なら惜しむ気はないけど。

 

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日向葵のセンシティブボイスまとめ.mp3

5万 回視聴 1 日前

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 それにこんなのも見つけちゃったしね。

 この動画、エゴサして見つけたお気に入りだ。

 見てるのバレたら何か言われそうだから秘密だけど。

 

 やましい気持ちじゃないからね?

 タイトルでそう見えるだけで、わたしはただ純粋に……

 そう、次歌を教える時のための資料として見てるだけだから。

 どれぐらい変わってるかとか、今度はどこをどうするかとかイメージしてるだけだから。

 

 ただ、この動画作った人は天才だと思う。

 感謝だ。

 

 でも、わたしにも独占欲ってものがあって……

 ひまわりがみんなに褒められてるの見るのは楽しいんだけど、わたしだけのひまわりだったのにってちょっとジェラシーが。

 

 そういえば、ひまわりに歌教えた時ちょっと恥ずかしがってたような。

 大勢の人に努力してる姿をみられるのって、確かにちょっと気恥ずかしいのかも?

 でも「私以外にしちゃダメ」ってことは、わたしにはして欲しいって……

 それって、「今度は2人っきりでね」ってこと?

 

 想像するだけで今から体が……

 

 この動画以外にも、切り抜きってやつがたくさんアップロードされてる。

 日向葵を専門にしてる切り抜きチャンネルも出来てるし、みんなひまわりの魅力に釘付けだ。

 こんなに活発に動いてるとさ、そりゃ気になって毎日調べちゃうよね。

 別に私が依存症な訳ではないよ、うん。

 

 ……みんながファン活動に熱心で、本当にアイドルみたいだなって。

 

 なんかわたしも一緒に褒められてることもあってちょっとむずむずしちゃう。

 まぁ、ちょっと写ったりした家族が人気になっちゃうのってスターならではだよね。

 ひまわりの魅力を引き立てられてるなら、それでも別にいいのかな?

 

 ただ、わたしを上げてひまわり下げしてる投稿。

 これはいただけない。

 有名人にアンチは付き物だけど、ひまわりを悪く言うのは許せない。

 よりにもよってわたしをダシにすると言うのも。

 

 ひまわりは「そう言うのは見なきゃいいの」って言うけど、やっぱりしっかり対応するのって大事だと思うんだ。

 こう言うのは一度痛い目見ないと治らないって相場が決まってる。

 だから今日は一緒に作戦会議しようと思って授業の合間に色々調べて来た。

 今の時代ネットの誹謗中傷なんかに特化した弁護士もいるみたいで、少し前ほどハードルは高くないみたいだからね。

 

 あれ、ひまわりが玄関で誰かと話してる?

 ……珍しい、何してるんだろう。

 

「ひまわりー、ただいま」

 

「あ、おねぇちゃん。ちょっと……」

 

 都合悪そう?

 

 と言うか、この人誰?

 マスクにサングラスって、明らかに怪しいんだけど。

 

 まさか、これリア凸ってやつ?

 気をつけてたつもりだったけど、配信中特定されるようなこと言っちゃってた?

 

 ヤバっ、

 

「その人、誰? 不審者ならおねぇちゃんが、」

 

 とりあえずひまわりを守らないと、あとは110番して、

 

「……ゆりちゃん、久しぶり」

 

 わたしに気がついた不審者が、マスクとサングラスを外した。

 

「……え?」

 

「覚えてる? さくらだよ」

 

「……」

 

「元気になったんだよね? 配信してたから、驚いて来ちゃった」

 

 申し訳なさそうなひまわり。

 どこか様子を伺うように、でも嬉しそうなさくらちゃん。

 

 ……

 

 どうすれば、

 心臓がバクバク言ってる。

 

 わたしは……

 

「まって」

 

 その場から逃げようとして、手をつかまれた。

 

「私はただ……ごめん」

 

「……」

 

 ダメだ。

 ここで逃げちゃダメなんだ。

 それは分かってる。

 

 ……でも、

 

 さくらちゃんと目を合わせることができなかった。

 言葉を返すことすらできなかった。

 

 心臓の鼓動が余計激しくなって、

 頭が真っ白になって、 

 さくらちゃんの手を振り払って、わたしはその場から逃げ出した。

 

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 用事もないのに、どこ行く気なんだろう。

 逃げて何になるって言うんだ。

 ずっと逃げて、小学校の時からずっと……

 わたしが悪いのに。

 

 さくらちゃんから見たわたしってどんなやつなんだろうか。

 まだわたしのこと覚えててくれたってことは、それなりに気にしてくれてたんだよね。

「覚えてる?」って、わたしがあの頃を忘れられるわけがない。

 

 あの頃は楽しかった。

 自分の夢を真っ直ぐ見れていて、その夢を応援してくれる人がいて、

 でも、それはもう戻ってくることはないんだ。

 もう2度と……

 

 わたしは、どうすればよかったんだろう。

 

ーーーーー

ひまわり:

 あのね、さくらちゃんこの前の配信の動画見たみたいなの。

 おねぇちゃんが元気そうにしてたから、今なら大丈夫かもって思ってきちゃったんだって。

「ごめんなさい」って謝っといてって。

 妹のわたしからどうこう言う気はないけど、さくらちゃんずっとおねぇちゃんのこと気にかけてたみたいで……

 私もたまに話して、いまはまだタイミングがって言ってたんだけど。

 さくらちゃん次の仕事入ってたみたいでマネージャーさんに連れていかれたから、今はうちにはいないよ。

 ……遅くなってもいいから、ちゃんと帰ってきてよね?

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 心配かけちゃってたんだよね。

 迷惑もかけて……

 

 ちゃんと話したほうがいい、

 ちゃんと話さなきゃダメだ、

 でも、まだ勇気が出ない。

 

 ひまわりにもこんな気を使わせて。

 ちゃんと帰ってきて、か。

 そうだよね、わたし……

 

 ……本当に情けない。

 

「ゆーりちゃん!」

 

「え? ……なんだ、すみれ先輩か」

 

 当てもなく歩いていると、後ろから急に声をかけられた。

 すみれ先輩はいつも突然なのだ。

 びっくりするからやめてほしい。

 

 まぁ、この先輩のことだから言っても聞かないとは思うけど。

 

「なんだとはなんだ」

 

「急に後ろに立たないでよ」

 

「わたしの背後に立つな、的な?」

 

「なぜドヤ顔?」

 

「ネタが通じなくて寂しいよぉ」

 

「はいはい」

 

 本当に適当な人、でもこういう気安い感じは嫌いじゃない。

 何言ってもいい気がするし、実際何言っても気にも止めないから。

 本当は、先輩相手にあんまり良くないんだけどね。

 

 でも、なんというかすみれ先輩相手だとついね。

 

 懐かしい匂いを感じてというか、

 どこか安心してしまうというか、

 なにかそういう雰囲気を感じるのだ。

 

 つまり先輩が悪い、わたしは悪くない。

 

「なにか悩んでるんでしょ? 相談のるよ」

 

「え、なんで……?」

 

「そんな顔してたら誰だってわかるよ」

 

「……じゃあ、」

 

「うん」

 

「……」

 

「ゆり?」

 

 え?

 わたし、この人に相談するの?

 それはちょっと……

 

 いや、嫌いじゃないけどそう言う相手じゃないっていうか。

 まともな答え返ってくるわけないし。

 

 だって、自分が負けてるのにボーナス欲しさにFXとか勧めてきた人だからね。

 後で調べて知ったんだけど、FXでお金溶かして地獄みたいなことになってる人ってめっちゃ多いらしい。

 わたしは儲けられてるから別にいいんだけど、それどころかむしろ感謝してるぐらいだけど、

 

 でも、相談相手としては不適格もいいところだと思う。

 

「何か失礼なこと考えてない?」

 

「そ、そんなことないよ」

 

「一応言っとくけど、わたし先輩だからね。頼れる先輩にどんと来なさい、受け止めてあげるから」

 

「今更何を、それに先輩って言っても10日ぐらい早く産まれただけじゃん」

 

「それをいっちゃダメだよ」

 

「自分で遠慮は無用とか言い出したんでしょ。理由は最近まで知らなかったけど」

 

「あちゃー、」

 

 あちゃーじゃないよ。

 

 やっぱ頼りになりそうにないね。

 それに、こんなこと誰にも相談出来るわけない。

 わたしが悪いのなんてわたしが一番わかってて、それ以前にこの話をすること自体が無理だ。

 誰かに話せるのなら、きっとこんな問題発生すらしなかったんだから。

 

 でも、先輩と話したおかげで結構気は楽になった。

 一応、感謝はしておく。

 

「そもそも、すみれ先輩はこんなところで何してるの?」

 

「ゆりを待ってたんだよ」

 

「? ここで?」

 

「そう」

 

 わたしを?

 

 別に普段からここに来てるわけじゃないよ?

 今日はたまたまで、確かにわたしの家から離れてるわけじゃないから通りかかることはあるかもしれないけど。

 

「そんな頻繁にくるわけじゃないよ」

 

「でも、今ここに来てるでしょ?」

 

「……」

 

「ここで待ってたらゆりに会えるってわたしの勘が言ってたから。見事的中だね」

 

 勘ね、

 

 わたしのクラスに突然来た時もそんなこと言ってた気がする。

 この人勘に頼るの好きだよね。

 本能で生きてるのかもしれない。

 

「……的中おめでとう」

 

「わたし勘いいからね」

 

「……FX負け続けてるのに?」

 

「あれは勘じゃなくて実力で勝負してるからね」

 

「それで負けてるなら世話ないね」

 

 まぁ、そう言い張るなら別にいいけどさ。

 っていうか結局ここで待ってる意味とは?

 

「普通に教室くればいいんじゃないの?」

 

「外でたまたま会うのと学校で会いに行くのは違うでしょ」

 

「そう言うもの?」

 

「そう言うもの」

 

 今日も何度か教室に来ていたけどそれとは違うと、

 ……?

 意味不明すぎる。

 

「……本当は?」

 

「いや、ちょっとゆりの担任の提出物ためちゃってて」

 

「なるほど」

 

 納得だ。

 実に先輩らしい理由。

 というか、だからいつも昼休みとかではなく授業間の十分休みに来てたのか。

 なんで余裕のない時間にやってくるのかとちょっと疑問には思ってた。

 

 ほら、すみれ先輩いつもチャイムなるまでわたしのクラスに居座ってるから毎回授業遅刻してるんじゃないかなって思ってたんだよね。

 すみれ先輩進級とか大丈夫なのだろうか、来年には同級生とか……

 まぁ、先輩相手に今更か。

 

 こんなんでもうちの学校に入れるぐらいには勉強できるの不思議。

 ただでさえ不真面目で、しかも早生まれでめっちゃ不利のはずなのに。

 たしか中学受験とかって合格者の7割ぐらいが九月生まれより前なんだっけ?

 

 わたしが自分を天才だと思えた理由も考えればそこもあったのかもしれないし。

 子供の頃の数ヶ月ってかなり大きいからね。

 

 先輩はその差を跳ね返す努力を……

 努力……?

 

 やっぱり気のせいかもしれない。

 

「お友達かい」

 

「あ、おばあちゃんこんにちわ」

 

「ほら、いつものあめちゃんだよ」

 

「ありがとう」

 

 ……?

 

「……いつもの?」

 

「あ、いやこれは」

 

「すみれ先輩、いつ頃からここにいるの?」

 

「……」

 

「目を逸らさないで、」

 

「そんなのどうだっていいじゃん。ゆりは来たんだし、結果が全てだよ」

 

 なんて無駄なことを……

 普段から教室来てるんだからそこでよかったのでは?

 近所のおばあちゃんと仲良くなるぐらいって、相当だよね?

 

「……役立たたずな勘、それじゃ勝てる訳ないね」

 

「悪口言うなー。勘だけに頼ればFXだって当たるし、今回も結果当たってたからいいんですー」

 

「じゃあ、なんでそうしないの?」

 

「いや、私の勘はちょっと働く時と働かない時があって」

 

「……それたまたま当たった時だけ勘が働いたってことにしてるわけじゃないよね?」

 

「そんなことないよ」

 

 ……怪しい。

 怪しいていうか、100嘘だ。

 まぁ、いいけど。

 

「で、なんでわたし待ってたの?」

 

「あれ? 相談は?」

 

「本当に自分のこと相談を受ける側の人間だと思ってるの?」

 

「? 当然」

 

「はぁ」

 

「私よく相談されるんだよ」

 

 先輩の自己評価を疑いたいところなんだけど、実際そうなんだよね。

 この先輩、なぜか人望だけはかなりある。

 本当になぜか。

 理由は不明、わたしの中で学校の七不思議の一つに数えてる。

 

 妹の受験用の教材集めてくれるのも手伝ってもらったからね。

 まぁ、それはあの件で帳消しだけど。

 ほんとわかりやすいぐらいのクズなのに、なんで人望あるんだろう?

 

「それで、ここにいた理由だよね。じゃじゃーん、ギター」

 

「……もしかして、アニメ見た?」

 

「? なんのことかわからないなぁ、うちテレビないから」

 

「白々しい」

 

 この先輩の会話のネタがアニメやら漫画やらから来てることぐらいは知ってる。

 よく意味わからないネタをぶっ込んできて頭に?を浮かべる羽目になる時は大体それ関連のネタだ。

 なぜこう言うバレバレでくだらない嘘つくんだろうか。

 

 というか、今この先輩家にテレビないとか言った?

 確かになくてもおかしくないけど、だとしたらアニメなんてどこで見てるんだろう?

 まさか……

 

 いや、サブスクぐらい入ってるよね?

 うん、そう信じよう。

 いくら家が借金してて金欠だって言っても、月数百円ぐらいは払えるでしょ。

 

 ……怖いから確認しないけど。

 

「ゆりこそ、アニメ見るんだ。意外」

 

「普段は見ないけど、これは妹が勧めてきたからね」

 

「そっか、妹ちゃんとは話が合いそうだ」

 

「……会わせないからね」

 

「わたしだって妹ちゃんのために頑張ったでしょ。噂の妹ちゃんに会いたいよぉ」

 

「噂って何よ」

 

「ゆりってことあるごとに妹ちゃんの話するじゃん」

 

 ……

 

 まぁ、ひまわりも感謝してるっぽかったしちょっと会わせるぐらいはいいのかな。

 この学校入るなら先輩まだ三年生(もしかしたら2年生かもしれないけど)で残ってるからね。

 どうせ勝手に嗅ぎつけてちょっかいかけに行っちゃうだろうし、わたしの見てる前で安全を確保して会わせるのはアリなのかもしれない。

 

「今度機会があればね」

 

「やった!」

 

「そもそも、よくそんなの買うお金あったね」

 

「……まぁ、ね」

 

「?」

 

 なぜ言い淀んだし。

 

「これさ、わたしの夢に必要だから」

 

「夢?」

 

「そう、夢」

 

「……どんな?」

 

「秘密、恥ずかしいし」

 

「恥ずかしいとか言う感情あったんだ」

 

「失礼な、私も年頃の乙女で思春期だからね」

 

 夢、か。

 

 みんな持ってるのかな?

 いや、みんなってことはないよね。

 誰もが未来に希望を抱いて生きている、そんなのは都合のいい幻想でしかない。

 

 ……

 

 違うか。

 夢はみんな持っていて、でもいつか言えなくなってしまうんだ。

 それが自分の夢だって。

 

 きっと……

 

 だから、こうやって夢があるって言えてしまう人はすごいと思う。

 わたしみたいなのにはちょっと眩しすぎるぐらいの世界だ。

 

 わたしは恵まれている方だと思う。

 わたしのこれまでの人生は幸せなものだったと思う。

 でも、わたしは夢があるなんて言えなくなってしまった。

 

 この先輩、

 ちょっとおかしいし、

 軽薄だけど、

 

 やっぱり……

 

「あれ? なんか周りに人集まって来てるね」

 

「最近、ここで路上ライブやってるんだよね」

 

「?」

 

「弾き語り的な? ほら、ゆりを待つついでに」

 

「実はわたしのこと待ってなかったでしょ」

 

「そんなことないよ! ゆりが本命、これはついで」

 

 どうだか。

 怪しいものだ。

 

 ……すみれ先輩も夢に向かってしっかりと歩みを進めているのか。

 この前ひまわりと一緒に配信したせいかな?

 そういうのちょっと応援したくなっちゃうんだよね。

 

 まぁ、この前はひまわり相手だから手伝っただけ。

 相手がすみれ先輩だから特に手伝ったりはしないけど、それでもちょっと心にくるものはある。

 

「というか、こう言うの勝手にやっていいの?」

 

「え?」

 

「許可とったの?」

 

「……グレーだから」

 

 はいはい、お得意のグレーね。

 ほんとブレないなぁ。

 これがすみれ先輩らしさ、なのかな?

 

 いっそのこと一回ぐらい捕まってみて欲しいまである。

 

「ゆりも一曲聴いてってよ」

 

「……はぁ、わたしのこと待ってたんじゃないの?」

 

「でも、ほら。わたしのこと待ってる人もいるから」

 

「はいはい」

 

 都合のいい人だ。

 

 でも、わたしのこと待ってる人もいる……

 ちょっとかっこいいかな?

 この人だかり、結構上手いのかも。

 ちょっと興味ある。

 

 まぁ、すみれ先輩見た目は整ってるから。

 女子中学生でちょっとギター弾ければ結構人集まるって説もあるけど。

 下手なら下手でいじり甲斐あるし、今ちょっと帰りにくいしね。

 

ーーーーー

〜〜♪

ーーーーー

 

「どうよ?」

 

「想像より上手い」

 

「でしょ?」

 

 ……ドヤ顔腹立つな。

 

 でも、いつからやってるのかは知らないけど上手いと思う。

 歌も、ギターも、

 まぁギターは詳しくないから完全に素人意見だけどね。

 

 それに、先輩みたいなのでも真剣だとこうも決まるのか。

 というか、そもそもこんな真剣な表情出来るのか……

 普段ずっとヘラヘラしてるから、ちょっとギャップが。

 

 それに歌も、どこか懐かしい気がする。

 きっと昔の、夢に向かってた頃のわたしはこんなふうに……

 

「ん」

 

「え?」

 

「ゆりもやってみ」

 

「いや」

 

「興味深そうに見てたじゃん」

 

 ギター見てたんじゃなくて、すみれ先輩見てたんだけど。

 でも、そう言うのもちょっと……

 

「歌うのとか恥ずかしいし、」

 

「何初心者がいっぺんにやろうとしてるの。片方ずつだよ」

 

 そう言うものか。

 ぽろんぽろん鳴らして終わり、

 

「……それなら、まぁ」

 

 本当に全部から逃げてたらダメだよね。

 今さっきさくらちゃんから逃げてきたばかりだけど、

 だからこそ……

 

 ダンスとか歌はまだ無理だ。

 でも、こんなの関係ないでしょ?

 適当に音出してみるだけ、これぐらい出来ずにどうするの。

 

「おぁ、さすがはゆり構えだけは様になってるね」

 

「うっさい」

 

 ……でも、人に笑われるのはちょっと癪かも。

 特にすみれ先輩に笑われるのはもっと嫌、わたしのプライドが許さない。

 

 ギターはやったことないけど、今見てたからね。

 どうすればどんな音が出るのかは分かってる。

 そしてこのギター君がポテンシャルを出しきれていないことも。

 

「ちょっといじってもいい?」

 

「初めてなんじゃないの? それに器具なんて持ってきてないよ」

 

「大丈夫。ギターは初めてだけど、調律自体はやったことある」

 

 ここ回すんだよね。

 結構硬い、でもこれぐらいなら平気かな。

 

 多分これ高いギターじゃない。

 作りそのものが荒い。

 でも、きちんと調整してやれば……

 

 この子はきっともっといい声で歌える。

 

「調律って、何か楽器やってたの?」

 

「ついこの間、妹を」

 

「妹ちゃん楽器やってるんだ」

 

「違うよ? 妹を、だよ」

 

「……え?」

 

 まぁ、ひまわりよりやりやすいかな。

 人間と違って調整されることを前提に作られているからね。

 神様にとっての人間、人間にとっての楽器ってとこかな?

 

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