運命に見放された少女   作:哀上

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4話 夏休み

4話 夏休み

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 夏休みに入って数日、わたしは中古ショップとフリマサイトの巡回に夢中になっていた。

 さすが進学校と言ったところか、小学生の頃とは比べ物にならないほどの宿題が出たけどそんなもの当然手を付けていない。

 宿題なんてくだらないものに使う時間などあるはずないのだ。

 

 学生の本分は勉強?

 そんなものよりも大切なものってあると思うんだ。

 

 そして、ついに手に入れた。

 これを手に入れるためだったと思えば、暑い中汗を流して何店舗も回りヘトヘトになったことも、意味不明な理不尽クレームを入れてくる落札者への対応も大した苦労ではなかったと言い切れる。

 ひまわりの笑顔を思い浮かべるだけで、そんな苦労屁でもない。

 

 値下げはしないって言ってるじゃん。

 落札してから値下げ交渉って、気でも狂ってんじゃないの?

 その値段で置いてあるんだから値段気に入らないなら買うなよ。

 

 ……正直結構早めに必要なお金自体は稼ぎ終わってたし、あとは注文した品が届くのを大人しく待ってればそんな苦労もしなくて済んだような気がするけど。

 お金があって困ることはないしね。

 ほら、この前みたいに“財布開けたらお金入って無かった!“なんて情けない姿もう見せたくないから。

 

「ひまわりー、はいプレゼント」

 

「これって……」

 

「この前欲しそうにしてたから」

 

「おねぇちゃん、ありがとう!」

 

 あぁ、ひまわりはなんでこんなに可愛いのでしょう。

 この笑顔のためならどんなことだって頑張れちゃう。

 疲れなんて一瞬で吹き飛んじゃうよ。

 

 この間はわたしからショッピングに誘ったのに、お金持ってなくて結局ジュースしか買ってあげられなかったからね。

 それがちょっと、いやかなり心残りだった。

 自分だけひまわりニウムを補充して、ひまわりには何もあげないなんてそんなの搾取と一緒だよね?

 

 無事買ってあげられてわたしは満足です!

 ただ、ちょっと心配な事があって……

 

「……それであってるよね? おねぇちゃんVtuberって言うのあんまり詳しくなくて。一応調べてはみたんだけど、」

 

「合ってるよ、本当に嬉しい。おねぇちゃん大好き」

 

「わたしも大好き」

 

 きゅん♡

 きゃ、きゃわいい〜〜。

 

 思わず抱きついちゃったけど、おねぇちゃん汗臭くないかな?

 一応さっきお風呂入ったけど、最近は汗水流してせっせと働いてたからね。

 染み付いてたらどうしよう……

 

 くんくん

 

 あぁ、ひまわりのいい匂いがする。

 わたし今とっても幸せ。

 

 ……あれ?

 

「そういえば、わたしもうそろそろ誕生日だったっけ? すっかり忘れてたよ」

 

「ひまわりはずっと受験勉強頑張ってるもんね」

 

 よしよし

 

「えへへ、でもおねぇちゃんの学校はやっぱレベルが高かったみたい。わたしにはちょっと無理っぽいかな、やっぱりおねぇちゃんは凄い」

 

「そ、そう?」

 

 わたしが受験したからか、どうやらひまわりも中学受験に興味を持ったらしい。

 ひまわりは最近部屋にこもって勉強漬け、完全に受験生モードなんだよねぇ。

 

 それもあって家にいてもひまわりに会えない時間が多くて、特に普段は学校に行っているような時間は集中タイムだ。

 だから、その時間を有効活用しようと思ってわざわざ陽の高い日中に中古屋回りなんて苦行をしていたって訳。

 ちょっと寂しいけど、勉強の邪魔しちゃダメだしね。

 

 その分夜と朝は一緒にいるけど……

 

「やっぱり、夏休みも勉強見てあげよっか?」

 

「大丈夫、志望校下げたんだしあとは自力でなんとかするよ。ただでさえ普段の勉強見てもらってるのに、これ以上はおねぇちゃんに迷惑かけてばかりもいられないしね」

 

 でも、せっかくなら一緒の学校に……

 いや、これはわがままだよね。

 ひまわりに無理させることになっちゃうし、そんなのわたしも望んでないから。

 

 ひまわりが自分で頑張るって言ってるんだから、それを応援しなくてどうするの?

 

「えらい! でも、寂しい」

 

「ふふ、わたしも中学生だよ? もう大人の仲間入りだもん!」

 

「まだまだ子供だよ、背だって胸だっておねぇちゃんの方がおっきいんだから」

 

「あー、言ってはいけないことをいったな」

 

「大人っていうのは、こういうナイスバディーのことを言うのよ」

 

「おねぇちゃんは中身が子供じゃん」

 

「なにおー!」

 

「あ、怒った」

 

 大人か……

 

 わたしもひまわりも、いつか大人になってお母さんみたいになるのかな?

 想像つかないなぁ。

 そもそも大人ってなんだろう?

 よくわからない。

 

 でも、大人になったからって距離が離れていくのはなんか嫌だな。

 ひまわりがお母さんになっても、今までと同じようにわたしをかまってくれるのかな?

 

 いつかひまわりにも彼氏ができて、結婚して、子供が産まれて……

 

 そもそも、ひまわりに彼氏とかわたしが許さないんだから!

 ひまわりが彼氏とか連れてきたら、もうけっちょんけっちょんにしてゴミ捨て場にポイよ。

 脳内のミニチュアひまわりが腕をバタバタさせて抗議してるけど、こればっかりはわたしも譲れないんだからね。

 

 まぁ、まだ先のことだから今から色々考えても仕方ないよね。

 よくわからない未来のことより、もっと楽しいことを考えよう。

 

「よし、ちょっと早いけど誕生日プレゼント買いに行こう!」

 

「え?」

 

「あれ? おねぇちゃん何かおかしいこと言った?」

 

 もうひまわりの誕生日も近いしせっかくだからって思ったんだけど、何か変だったかな?

 誕生日プレゼントだしやっぱ当日買いに行った方がいいのかな?

 それとも、こういうのって秘密で買っといてサプライズで渡すべきだった?

 

 でも、今までの誕生日もこんな感じじゃ無かったっけ。

 ひまわりも、いっつも喜んでおねだりしてくれてたような……

 何か違うことあったっけ?

 

「これは?」

 

「前欲しがってたでしょ? だからプレゼントだよ」

 

「誕生日プレゼントじゃないの?」

 

「それとは別だよ。これはただのプレゼント、せっかくの誕生日なんだからなんでも買ってあげるよ」

 

 なるほど。

 これを誕生日プレゼントと勘違いしてたからか。

 今さっき誕生日プレゼントもらったのに、今から買いに行くよって言われたらそれは混乱するわな。

 

 でも、これ3000円なんだよねぇ。

 なんでもない時に買うにしてはちょっと高いぐらいだけど、誕生日プレゼントとしてはなんと言うか安くない?

 そりゃプレゼントって値段ではないって言うけどさ、それは貰う方の心持ちじゃん。

 あげる方としてはどうしても値段に気持ちものっかちゃうからさ。

 

「なんでもって、おねぇちゃんそんなお金持ってないでしょ? この前ショッピング行った時お財布スカスカだったじゃん」

 

「じゃじゃーん」

 

 それに、せっかくお金稼いだんだし。

 普段よりも豪華に行きたいじゃん。

 

「え? 何その札束。おねぇちゃんの学校バイト禁止だって嘆いてなかった? いくら夏休みと言ってもバレたら……」

 

「そんなことしないもん」

 

「じゃあ……パパ活とか? それはもっと」

 

「そ、そんなことしないよ!! 犯罪じゃん」

 

 酷い、ひまわり!

 おねぇちゃんがそんなことするわけないでしょ。

 確かにバイトは一瞬頭よぎったけど、迷惑かかると思ってやめたもん。

 ましてやパパ活なんて、そんなの選択肢にも浮かばなかったよ。

 

「じゃあどうしたの?」

 

「えっとねぇ、フリマサイトの相場より安い商品を中古ショップで見つけて売ってたの。おねぇちゃん天才じゃない?」

 

「……転売じゃん」

 

「転売?」

 

「そう、」

 

「それっていけないことなの?」

 

 転売?

 初めて聞いた。

 

 意味はなんとなく分かるけど、眉を顰めるようなものなの?

 わたし何かまずいことやっちゃったのかな?

 どうしよう……

 

 でも、お母さんに相談した時は何も言われなかったし。

 ひまわりが個人的に嫌いってこと?

 

 ……それじゃ結局ダメじゃん!

 

「違法ではないらしい、けど……おねぇちゃんが転売ヤーか」

 

「ダメだった?」

 

「いや、別に悪質ってわけでもないしいいんじゃない?」

 

 よ、よかったー。

 よくわからないけど、お許しをいただけたみたい。

 

 悪質? ってのがわからないけど、わたしはどうやらそれには該当しなかったようだ。

 これ結構稼げるし気に入ってたんだけど、ひまわりが嫌いならやめよっかな。

 お金ってそこまでして稼ぐものでもないしね。

 後で別の方法探そう。

 

「でもそれ大変だったんじゃないの?」

 

「そうそう、全然見つからなくってね。でもジャンク? ってのが安くってそれ見つけてからはあっという間だった」

 

「……ジャンクって意味知ってる?」

 

「ゴミでしょ? ゴミじゃないのに、酷いと思わない?」

 

 まだまだ売れるのにね。

 それに、ゴミって言いながら値段張りつけてるのもよくわからない。

 まぁ、わたしはそのおかげで稼げたから助かったっちゃ助かったんだけど。

 

「それは壊れてるから」

 

「直せば使えるじゃん」

 

「……直して売ってたの?」

 

「うん、慣れるまで時間かかったけど、慣れたら流れ作業だよ」

 

「……この天才め」

 

「何か言った?」

 

「うんん」

 

 慣れてくると結構楽しいんだよね。

 数こなしてるうちに初見のでも応用利くようになってきたし。

 この前資格のためにってただ参考書を詰め込んで覚えてただけのことも、実物見てその知識が役に立ったりすると結構面白いんだよね。

 

 ……なんか、ひまわりが引いてる気がする。

 いや、本当に面白いんだって。

 こう難しいパズルを解くような感じ?

 

 そういえば、ひまわりパズルとか知恵の輪とか嫌いだった。

 ……分かり合えないのでは?

 ま、いいや。

 どうせもうやらないしね。

 

 君には十分お金を稼いでもらった。

 お役御免だ、さようなら。

 

「と言うわけで、わたしこの夏休みせっせとお金を稼いでいたのでなんでも買ってあげれちゃいます。さぁ、どんと来なさい!」

 

「いや、これでいいよ?」

 

「うぅ、せっかくひまわりのために宿題やる暇惜しんで頑張ったのに……」

 

「……」

 

「うぅ……」ちらっ

 

「せっかくの誕生日だし、何か買って貰おっかな」

 

「やったー!」

 

 ふぅ、よかった。

 

 せっかくひまわりのためにお金貯めたのに、使えないなんて悲しいもん。

 何買ってあげよっかな。

 じゃなくて、何買ってって言われるのかな。

 なんでも買ってあげちゃうよ。

 

 ゲーム機とか?

 お洋服とか?

 それとも……

 

「何その反応、普通逆じゃない?」

 

「あれ?」

 

 確かに!

 

「おねぇちゃんの誕生日も期待しててよね。お小遣い使う予定無くなったし、豪華にお祝いしてあげるから」

 

「いいよいいよ、肩たたき券とかで……むしろそれが」

 

「はいはい」

 

 あ、流された。

 冗談じゃないからね?

 本気だからね?

 

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