金田一少年と神津少女の事件簿   作:GZL

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File4

「桜樹先輩が生物室で首を吊ったって?」

 

「七不思議と同じじゃん!」

 

「もしかして…呪いとか?」

 

「嫌だ、怖い!」

 

「七不思議に…首を突っ込むからだ」

 

そんなことが聞こえた綺世は思わず、人混みに向かって叫んだ。

 

「まだそうと決まったわけじゃないでしょ‼」

 

叫ぶ綺世にはじめは「やめろ」とだけ小さく釘を刺した。

桜樹の遺体が運ばれたと入れ替わって、生物室内に聞き慣れた男の声が響いた。

 

「まさかお前の学校でこんなことになるとはな…」

 

振り返ると、警察手帳を片手に見せつける剣持の姿があった。

 

「…よう」

 

「なんだ?そこの神津くんと違って、偉く塩らしいじゃねえか」

 

剣持にも分かるくらい、はじめは気分を落としていた。

そんなはじめを久しぶりに見た綺世は複雑な心境だった。

剣持はそんなことには興味なく、この古びた旧校舎をまじまじと窺う。

 

「それにしてもボロい校舎だ。廊下も狭いし、今にも朽ちそうだ」

 

「学校が出来て以来、ずっとあるものですからね…」

 

するとそこに警備員の立花がやって来て、目を丸くした。

 

「あれは!?やはり…昨日見たものは…!」

 

「あいつは誰だ?」

 

「警備員の立花さんだ。…昨夜、俺と一緒に桜樹先輩の首吊り死体を目撃した人だよ」

 

「……何ィ!?お前も見たって言うのか!?」

 

剣持も事前に死体の目撃情報があるのは聞いていたが、その目撃者がはじめだとは夢にも思わなかった。

 

「ああ…この生物室で黒いマントを羽織った仮面の奴が、蝋燭を片手に桜樹先輩の死体を見ていたんだ。だけど…扉が閉まり、生物室の扉を蹴破るまでの数分間で、死体、蝋燭、五芒星の魔法陣が全て消えていた」

 

「だから…私たちはあの時、帰るしかなかったんです…」

 

「なるほど…それで翌日来たら、この有様だったというわけか…」

 

そんな話をしていると、真壁が「ちょっと良いですか?“警視”さん?」と割って入って来た。

『警視』という言葉に剣持はピキッと頭にヒビが入る音が響いたが、怒りは抑えて、この生意気な目をした真壁に言った。

 

「まだ警部だ」

 

「失礼、年齢的にそうかと…」

 

(相変わらず、嫌な奴…)

(綺世…完全に真壁のこと見下しているな…)

 

「警部さんは、どうお考えですか?内部犯か、外部犯か…」

 

「双方で捜査中だ!ガキは引っ込んでろ!」

 

「あら?金田一くんと神津くんは堂々と入っているのに?」

 

余計に突っかかって来る真壁に業を煮やした綺世は真壁の前に立つ。

そして…絶対零度のような視線が真壁に突き刺さる。

 

「別に好き勝手にやったらいいけど…あなた程度の頭じゃ、解決出来るとは思えないけどね」

 

それだけ言って、綺世は背を向ける。

その強気な口調に剣持たちは黙ってしまう。当の真壁はワナワナと怒りと屈辱に震え、綺世を睨んでいる。だが、深呼吸して落ち着くと…剣持に自分の推理を話し始めた。

 

「警部、私の推理で…犯人が外部か内部か当ててみましょう」

 

「お!アレ…真壁誠じゃないか!?」

 

「そうだ!天才少年推理作家の…!」

 

それを知ると、マスコミは真壁に一斉に視線を向けた。

はじめは何も言わずに静かに真壁の推理を聞くことにした。

 

「金田一くんと立花さんが生物室の死体を見て、扉を開けるまでに3分しか掛かっていません。その間に僕を含め、あの夜のメンバーは全員集合しています」

 

「何故3分と分かる?」

 

「佐木くんのビデオですよ、昨夜のことは全て記録されているんです。仮に僕たちの中に犯人がいるとして、3分以内に死体などを片付けて合流など不可能だ。おまけに…このツマミを見てください」

 

真壁が指差す鍵のツマミには何かで擦れたような跡がくっきりと残っていた。

 

「これはワイヤーが擦れた跡です。つまり…犯人はこのツマミにワイヤーを付け、煙突穴を通して、部屋の外に引く。それを引っ張れば、鍵は閉まるというわけです」

 

それを聞いていたマスコミは「おおぉ!」と感嘆の声を上げた。

真壁は格好つけながら、はじめ綺世の横に立つと小さく呟いた。

 

「こんな初歩的なトリックも見抜けないとは…金田一耕助の孫が聞いて呆れる。確かにあの名探偵の血は通っているんだろうが…その才能は遺伝しなかったようだね。それと…神津くん、選ぶ相手を間違えないようにしておくことを…忠告しておくよ?」

 

そのままマスコミにシャッターを切られながら、真壁は旧校舎から去っていった。綺世は先程の言葉を言われた瞬間、思わず真壁を殴り飛ばそうとしたが、はじめが綺世の腕を掴んでいたお陰で…どうにか大事にならずに済んだ。

だが、剣持も「やれやれ」と呟く。

 

「あんなクソ生意気なガキが天才少年推理作家とはねえ…」

 

「はじめちゃん…悔しくないの!?」

 

綺世ははじめの腕を振り払い、叫ぶ。

 

「別に…。あんな鍵のツマミのトリックだって…すぐに見抜いていたさ。だけどな…」

 

はじめは鍵のツマミの傷を見つつ、持論を展開した。

 

「あんな大胆な殺害シーンを見せた犯人が、こんなちっぽけなトリックを使うのか?それにこの傷に関してだって、わざわざワイヤーという傷が()()()()()物を使う必要がない。まるで…始めから見つけて欲しかったみたいだ」

 

「ああ、それくらいのことは即座に分かる」

 

「それだけじゃない。もし仮に犯人が七不思議に見立てたいなら…わざわざ俺たちを集めてあんな大芝居を見せる必要がない。…何か裏があるんだ。この事件には…俺たちには知らない何かが…」

 

はじめはそれだけ言うと、さっさと生物室から出て行くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

はじめはあの後…ずっとミステリー研究部の部室にいた。

既に外が夕暮れで、外からは運動部の掛け声が聞こえる。

机の上に腰かけて、昨日の儀式の光景をずっと頭の中で繰り返していた。何かおかしいところかはないか…何故、あんなものを見せられたのか…。そればかりをずっと考えていたが、何もかもまとまらない。

 

(こんな時…綺世がいれば…)

 

ふとそんなことを考えてしまうはじめであったが、そこに1人の影が目に入った。それは的場先生であった。

 

「金田一くん…まだ居たのかね…」

 

彼の額には汗が浮かんでおり、明らかに何かに怯えていた。

その様子を見れば、誰でも何かあったのかと思ってしまう。

はじめは思わず…古くからこの学校で教職を勤めている的場先生に、詳しいことを聞くことにした。

 

「的場先生、前回の部会で『行方不明の女生徒』がいると言っていましたよね?…何か知っているのではないですか?」

 

それを聞かれた的場は数秒の間黙るが、はじめの問いに大人しく答えた。

 

「…今から70年以上も前の話だ。ここは…日本軍が使用していた負傷者専用の病棟だった。もちろん…ほとんどの兵士は腕や足が吹き飛び、とてもじゃないが、兵士を無事に戦地に送れるような状態ではなかった」

 

「……」

 

「そんな時だ。Mという男が『全ての兵士を戦地に送れるようにする』と言い出したんだ」

 

「…都合の良い話ですね」

 

「だが当時の日本軍にそんなことを考慮する余裕はない。だから軍はこの旧校舎を貸し…負傷した兵士は続々とここに入っていった。だが…いくら経っても兵士は旧校舎から出て来ない。不審に思った軍が旧校舎に遣いを送ると…そこでは、戦場よりも悍ましいものを見ることになった」

 

「……」

 

黙って聞くはじめであったが、徐々に怖気が背筋を襲って来ていることに無意識に感じていた。

 

「この旧校舎の中で…兵士が手も足も頭も…何から何まで身体をバラバラにされていた。Mは負傷していない身体の一部を繋ぎ合わせ、魔術で不死身の人間を作ろうとしていたんだ!」

 

「…っ」

 

「もちろん…軍は即座にMを捕縛に向かったが…既に旧校舎の中にいるはずのMは姿を消していた。バラバラにされたはずの死体もなく…壁には血でこのように書かれていたんだ。『我ハ、永久ニコノ場ニ留マリ続ケル』…とね」

 

(まさか…この旧校舎にそんな曰く付きが…)

 

「そして…10年前に同じく七不思議を調べていた青山ちひろくんが、突然行方不明になった。…だから私はよせと言ったんだ‼︎七不思議には関わるなと…!」

 

的場は再び頭を抱えて、再び震え始めた。

その様子を見たはじめはもう何も言うことが出来ず、先に部室から出て行った。その廊下では綺世が1人…背中に壁を預けて待っていた。

 

「綺世…」

 

「偉く考え込んでたね…。それに、あんな曰くがあるとはね…」

 

「…ああ。だが、俺はこの校舎にそんな亡霊やら魔術師がいるなんて思っちゃいない」

 

「私もよ。そんな奴がいるわけがない」

 

「…まあ、今は情報が少ない。今日はさっさと帰るぞ」

 

はじめの言葉に綺世は頷き、旧校舎を出る。

ふと旧校舎の方を振り返ったはじめ、その視界に窓から仮面を付けた者がはじめたちを傍観しているように見え、一瞬足を止めた。

 

「!」

 

「はじめちゃん…?」

 

しかし、何度も瞬きをして再びその影が見えた窓を見ても…そこには誰も居なかった。

 

(気のせい…か?)

 

疲れていると思ったはじめは、それから綺世と一切何も話すことなく…帰路に就くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

はじめたちが部室を出たのと入れ替わりだった。

重い身体を揺らして、尾ノ上が部室にやって来ていた。

彼の手には桜樹先輩が作成した七不思議のレポートが入ったUSBメモリが握られていた。それを部専用のPCに差し込み、中身を確認する。

彼がこのUSBメモリを入手したのはほんの偶然だった。

謎の人物によるメッセージで昨夜、部室に入った尾ノ上は床に落ちていたUSBメモリを蹴った。それを拾ったと同時にはじめたちが入って来たので、中を見るに見られなかったのだ。

そして…このUSBを警察に提出しなかったのは、理由があった。

 

「この中身にもし…桜樹先輩の死の真相があったら…。…そうすれば、あの真壁のクソ野郎よりもスターになれるはずだ」

 

尾ノ上は、真壁と同じくミステリー小説を出展したが、1次予選で落とされたのだ。その事を毎度の如く、バカにされ、尾ノ上のストレスや恨みは相当なものに膨れ上がっていたのだ。

そんな短絡的な理由で、尾ノ上は重要とも呼べる桜樹の遺留品を隠していたのだ。

尾ノ上はスターになれる可能性を秘めてるUSBの中身を嬉々として見る。

だが、そのほとんどは7つの不思議の内、6つまでが事細かに書かれているだけで、ハズレかと思われた時…。

 

「…これだ‼︎」

 

1番最後のページに、数行の文章がまとめられていた。

 

「『遂に青山ちひろが私に教えてくれた。七不思議の7番目…そして、その真相を。』」

 

「それは?」

 

 

『のち恋い身に暗み生き血の血の名と血吸い貝に砂』

 

 

最後の文章は全くデタラメなものだった。

尾ノ上は意味が分からず、唸り続けるばかりだった。

そうこうしていると、下校時間のチャイムが鳴り響く。

このまま考えても思い付かないと思った尾ノ上は印刷ボタンを押し、取り敢えず自宅に帰ろうとした。椅子から立ち上がり、これで真壁やはじめたちの先を越せると優越感に浸っていたところで…自身の背後に立っていた人影に瞳孔を見開いた。

 

「え?」

 

そこには黒いマントに不気味な仮面を付けた謎の者が尾ノ上を見ていたのだ。あまりの登場に尾ノ上が固まっている間に…その者の右腕が上がり、ハンマーが振り下ろされた。

それは尾ノ上の左側頭部に直撃し、痛みと衝撃で尾ノ上は倒れる。

 

「ひ…ヒイィ!?誰か…誰か助け…‼︎」

 

尾ノ上は地面を這って逃げようとするが、仮面の者は尾ノ上の上に跨ると、何度もハンマーを振り下ろした。血が飛び散り、骨が砕ける音が何度も部室内に響く。

廊下…窓から周囲の状況を確認をして…奴は誰もいない事を確認する。

そして…事切れた尾ノ上を、どこかへ運んで行くのだった。

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