金田一少年と神津少女の事件簿   作:GZL

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メリークリスマス


File7

真壁、鷹島、佐木、立花、的場、そして剣持は旧校舎の生物室の扉が見える新校舎の廊下…つまり、はじめたちが桜樹の死体が吊るされる『死の儀式』を目撃した場所に呼び出されていた。呼び主は綺世だが、その当の本人がいくら経っても来ない。

長すぎる待機に真壁はイラつきを感じ始めていた。まあ…それ以外にもイラつく要因はあるのだろうが…。

 

「いつまで待たせるんだ!?あの女…俺を誰だと思っていやがる…」

 

何様だと言いたげな真壁に続いて、的馬も剣持に聞く。

 

「私も今夜中にやらなければならない仕事があるのですが…。そもそも、何故神津くんは私たちをここに?」

 

「さあ?新校舎のここに待たせてくれ、と言われただけで…何をするかは聞いておらんのだ」

 

真壁が呆れた溜息を吐いた時、唐突に佐木が声を上げて尻餅を着いた。

 

「うわああぁっ!?」

 

「どうした!?」

 

「あ…あれ!」

 

佐木が指差す先…そこには仄かに明るい生物室があった。その中には首を吊る女子生徒と黒いマントの者も一緒だった。

それを見た立花は思わず声を張り上げた。

 

「あいつだ‼︎あの時の…!」

 

「あれ…神津先輩じゃ!?」

 

黒いマントの者は振り返ることなく、自然と扉が閉まる。

それと同時に全員生物室へと駆け出した。

だが、生物室に乗り込んでもそこには何も無かった。

 

「これは!?」

 

「何もない…あの時と同じだ!」

 

全員が周囲を見回している時、背後から仮面を被った黒いマントの者が暗闇の中から姿を現した。それを見た鷹島は甲高い悲鳴を上げ、剣持は驚きつつも、そいつに問い詰める。

 

「貴様ぁ…神津くんをどこに…!」

 

「私ならここですよ」

 

仮面の者から聞こえた声に、剣持は「へっ?」と間抜けな声を上げた。

すると、そいつは仮面を取り外した。その下の顔は…なんと綺世だった。

 

「ふう…思ったよりも息苦しいわね、これ」

 

「神津くん…!一体、どういうことだ?」

 

「はじめちゃんと立花さんが見たものを、私が再現しただけよ。そして…放課後の魔術師を名乗る犯人は、この中にいる」

 

「何!?」

 

全員に衝撃が走る。

だが、すぐに真壁がヘラヘラと綺世の考えを真っ向から否定する。

 

「何を馬鹿なことを‼︎この中にいる犯人がいる?馬鹿を通り越して、頭おかしくなったのか!?犯人が外部犯なのは、この俺が証明しただろ!」

 

「…犯人がワイヤーで窓の鍵を閉めて脱出したって、推理かしら?」

 

「そうだ!」

 

「馬鹿なのはどっちかしらね…。本当に天才推理作家なのかしら?」

 

真壁の顔が真っ赤に染まる。

それと同時に佐木が綺世に同調する。

 

「た、確かに…桜樹先輩の時はともかく、僕たちが新校舎からここに来るまでに1分半しか、かかってない‼︎そんな短時間でこの部屋を密室にするなんて、不可能だ!」

 

同じく気付いた真壁は周囲の窓を音を立てるくらいに激しく動かそうとする。しかし、どれも完璧に鍵が閉まっている。

 

「そんな…馬鹿な!」

 

「当たり前よ、あの夜も今日の私も…この生物室には一歩も入ってないんだから。死の儀式は、別の部屋で行われたのよ!」

 

それだけ言うと、綺世はマントを放り投げて生物室から出る。そして…生物室から最も近い物理室の前で足を止める。

そして、扉を開けると…そこにはつい数分前に見た光景がそのままにされていたのだ。綺世に見立てて吊らされた人形、五芒星状に置かれた蝋燭、何もかもがそこにあったのだ。

 

「けど…どうしてこの部屋が見えたんですか!?どう頑張ってもこの部屋は新校舎から見えないはず…」

 

「簡単なことよ。これを使ったの」

 

綺世が取り出したのは、キャスター付きの大きな鏡だったのだ。

そう…今まで見てきた光景は鏡が見せた虚像だったのだ。

 

「旧校舎の廊下にこの鏡を斜め45度にセットすれば…物理室で起きた出来事は生物室で起きたように見える。だけど…それだけでは虚像と見破られる可能性もある。それらを可能にしたのは旧校舎の廊下の暗さ、狭さ、そして照明として使った蝋燭よ」

 

綺世の推理に真壁はポカンとするばかりだった。

今まではじめを付きまとう変な女と認識していた真壁だったが、徐々にその考えを改めなくてはならないと同時に、自身の脅威となり得ると感じ始めていた。

 

「明るい電灯や真っ昼間じゃ、虚像と実像の判断はすぐに分かる。だけど、夜に揺らめく蝋燭の灯りじゃ、ちょっとやそっとじゃ区別は付かない。犯人は、そうやって虚像の儀式を見せつけ、はじめちゃんと立花さんが駆け出して、生物室を視界から外したと同時に鏡を片付け、私たちと合流した。その後で堂々と生物室に入り、遺体を吊るし…あの鍵のツマミに()()()傷を付けた。犯人が外部犯だと見せかけるために」

 

「見せかけるだと!?」

 

真壁の間抜けな声に綺世は淡々と返す。

 

「あんたの推理は犯人のシナリオ通りだった。だから外部犯ってことで捜査が始まり、私たちに目が向けられることはなかった。だけど…それももうお終いよ‼︎桜樹先輩と尾ノ上さんを殺し…はじめちゃんに重傷を負わせた、放課後の魔術師は…この物理室の(あるじ)…的場先生‼︎あんたよッ‼︎‼︎」

 

綺世の導き出した犯人に、全員が驚愕の声を上げた。

当の的場は顔中から汗を吹き流して、明らかに動揺する。

 

「私が…放課後の魔術師…?」

 

「何!?」

 

「的場先生が…!?馬鹿な‼︎それに神津!お前は大事なことを忘れてはいないか?」

 

綺世が目を細めて真壁を見る。

 

「この生物室の鍵のことだよ‼︎犯人がそれを使って、本当に儀式をした可能性も捨て切れないだろうが‼︎それとも物理室で儀式が行われた証拠でもあるのか?」

 

「…本当にバカね」

 

綺世がポツリと呟くと、彼女はポケットから袋に入った生物室の鍵を真壁に見せた。

 

「立花さん、これは本当に生物室の鍵ですか?」

 

今一度じっと鍵を凝視する立花は、数秒後に「間違いない」と言った。

 

「確かに的場がこの鍵を尾ノ上さんに握らせたのは、()()()()()()()()()()と思わせるためでしょうね。だけど…この鍵は()()()使えるのかしら?」

 

それを聞いた真壁は「はあっ!?」と大きな声を上げた。

立花も同じく綺世に反論する。

 

「確かにその鍵は生物室のものだ‼︎使えないわけが…!」

 

「無くなったのは8年も前でしょ?しかもずっと使われていない鍵穴が正常に動く保証があるのかしら?何なら試してみなさいよ、()()推理作家さん?」

 

真壁は綺世の口車に乗り、彼女の手から乱暴に鍵を奪い取ると、鍵穴に差し込んだ。そのまま回そうとしたが…60度程度曲がったところで鍵は動かなくなった。

 

「鍵が回らない!?どうしてだ!?」

 

「そういうことよ、その部屋ははじめちゃんたちが開けるまで、完全な密室だった。なのに、何故儀式が見えたのかしら?答えは1つよ…。鏡で物理室が見えた以外あり得ない‼︎」

 

綺世がそう断言すると、全員の視線は的場に向けられる。

的場は怯えたように頭を振り、「私じゃない‼︎」と否定する。その姿に、大事なはじめを傷付けられた綺世の中で…怒りだけが沸き起こっていく。

 

「大体…どうして教え子を殺そうとしなくちゃならないんだ!?動機がないじゃないか!?」

 

「動機ならあるわ」

 

綺世は静かに答える。

その返答に的場の表情が更に強張ったものへと変化する。

 

「言いたくないなら教えてあげるわ。貴方が30年間、隠し続けてきた…この旧校舎にまつわる七不思議の真実をね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

綺世の案内でやって来たのは、ミステリー研究部の部室だった。

 

「おい!何でここに?」

 

真壁が不満そうに聞く。

 

「ここが全ての始まりだからよ」

 

綺世はゆっくりと振り向くと…この旧校舎の過去を語り始めた。

 

「30年前…この旧校舎は高畑製薬という薬品会社が建てたものだった。当時…この旧校舎は研究所として使われ、非合法な実験が繰り返されていた。だけど、そこで事件が起きる。何かのミスで、その研究所の従業員が6人…事故死した」

 

「6人も!?」

 

「製薬会社は焦った。こんなことがバレれば、会社はもちろん自分たちも破滅を迎える。考えに考えた彼らは…悪魔の所業とも呼べることを実行した」

 

そこまで聞けば、誰しも予想が出来る。

 

「まさか…」

 

「ええ、この旧校舎のあちこちに…その6人の遺体を隠した。そして…その遺体が見つからないように、怪談話を流した。人が近付かないようにね…」

 

「この校舎に…6つの死体が隠されているのか!?」

 

綺世は静かに頷く。

思いもよらぬ真実に誰もが口を閉ざす。

だが、的場は未だに認めようとはしない。

違う、と言いたげに顔を振り続ける。

すると、佐木が何かに気づいたのか、自らの疑問を綺世にぶつけた。

 

「でも6つの死体を隠すなら…『六不思議』では?七つ目はどうして…」

 

「七つ目の不思議は()()()作られたのよ。10年前…この事実を知った生徒が現れた。青山ちひろという女子生徒よ。だけど…彼女は、すぐに失踪する。…あんたが殺したんでしょ?的場先生」

 

「…し、知らん…!私は何も知らん‼︎」

 

「…青山ちひろを殺したあんたは、この旧校舎に隠し…七つ目の怪談を流した!」

 

的場の震えは更に顕著なものへとなっていく。

 

「この目論見は成功した。恐ろしい噂のお陰で、旧校舎は錆びれ…廃れ…隠した死体が見つかることはなかった。…旧校舎を壊すなんて話が出なければね」

 

「そうか…それで脅迫状を…」

 

「旧校舎を壊すと、中の死体も見つかり…そこから的場に行き着く可能性がある。誤算はそれだけじゃなかった。旧校舎を利用する部活が増え…死体を移そうにも移せず、遂に死体を見つけてしまった生徒がまた出てしまった!」

 

「それが桜樹るい子…という訳か」

 

「桜樹先輩はそれをこの暗号で残してくれた」

 

綺世は初めて彼らに例の謎の一文を見せた。

 

 

『のち恋い身に暗み生き血の血の名と血吸い貝に砂』

 

 

「こ、この文が何だって言うんだ!?それでどこに死体があると分かるんだ!?」

 

的場は綺世を追い詰めたいのか、いつもより強い口調で言い寄る。

だが、彼女の意志はそんな弱いものではない。

 

「そんなに焦らなくても、すぐに教えるわ。この暗号はね…パソコンのキーボードと連動させないと解けないの。まず…この文を全て平仮名にする」

 

綺世はパソコンにその文章を打つ。

 

 

『のちこいみにくらみいきちのちのなとちすいかいにすな』

 

 

「そしてこの文をローマ字入力モードで打ち直すの」

 

「ローマ字入力?」

 

「例えばだけど…『の』はローマ字では【K】、『ち』は【A】になる。これを打ち込めば…『か』という言葉になる。この調子で打って行くと…」

 

 

の【K】ち【A】こ【B】い【E】み【N】に【I】

く【H】ら【O】み【N】い【E】き【G】ち【A】

の【K】ち【A】の【K】な【U】と【S】ち【A】

す【R】い【E】か【T】い【E】に【I】す【R】

な【U】

 

 

「『壁に骨が隠されている』!?」

 

全員が暗号の答えに気付くと、一斉にこの部屋の壁を見る。

しかし、色んな箇所に貼り紙があるので、一概には分からない。

だが綺世には分かっている。

改めて彼女は的場に聞く。

 

「…これでも認めないの?」

 

的場は頑として、自らの罪を認めようとはしなかった。

 

「違う‼︎私は何もしていない‼︎無実だっ‼︎」

 

その時、的場は視線を綺世から逸らした。

それを見た綺世は…今まで飄々としていた態度を一変させ、的場の胸ぐらを掴み、恐ろしい怒声を上げた。

 

「顔を背けるなッ‼︎的場ッ‼︎」

 

「ヒィ!?」

 

綺世の声は的場だけでなく、全員が一瞬身体を震わせる程の迫力だった。そのまま綺世は的場を引っ張り、真壁のポスターの前に立たせた。

 

「まだ無実だと言えるの!?【これ】を前にしてもッ‼︎‼︎」

 

綺世は真壁のポスターを破る勢いで、壁から外した。

そして見えたものに…全員が息を飲んだ。

亀裂の間から見える頭蓋骨…それを綺世によって無理矢理近くで見せられている的場はさぞ恐怖であろう。

 

「彼女の前でもう一度言ってみなさいよ‼︎『自分は無実』だと‼︎」

 

綺世の怒気と目の前にある青山ちひろの白骨死体…。

この2つに追い詰められた的場は、それでも「私は……」と続けて『無実』と言おうとした。だが…当時の青山ちひろを殺してしまった時の記憶が蘇り、的場の恐怖は臨界点を超えてしまう。

 

「殺すつもりなんてなかったんだあああああああぁっ‼︎‼︎」

 

的場の自白に漸く綺世は力を込めていた腕を離した。

すると…的場はタガが外れたのか…今までの罪を語り始めた。

 

「全て…神津くんの言う通りだ…。私は、社長の命令でこの学校に送り込まれた。しかし…2年も経つと、自分が死の番人ということを忘れて、教師として平穏な生活を送っていたのに…青山くんが…」

 

的場の言葉に反省など見受けられなかった。

綺世は静かな視線を向けているが、それ以上にすることはない。

 

「青山くんと口論しているうちに…彼女は階段から落ちて…。でも私にはもう引き返せなかった…。彼女をここに埋め込み…7つ目の怪談を流した」

 

「…それから10年後、また七不思議について調べ始めた人が現れた。それが桜樹先輩だった」

 

「青山くんの件があった私は…彼女をそれとなく監視した。そして…幾重にも重なった偶然で…あの遺体を見つけられてしまった…!私は…また手を汚すしかなかった。尾ノ上くんも金田一くんも暗号を解こうとするから…!」

 

「…たった…それだけのことで…」

 

綺世の声は、恐ろしく小さなものだった。

綺世の怒りを代弁するかの如く、剣持が怒鳴った。

 

「貴様は…自らの罪から逃げるために罪のない生徒を手にかけたのか!?自らの保身のためだけに‼︎」

 

「怖かったんだッ‼︎」

 

的場が放った言葉に、剣持は呆然とする。

 

「この10年間…死体を見つけられたらと、夜も眠れなかった‼︎大体…‼︎お前らが悪いんだ‼︎」

 

その言葉に、今度は綺世の身体が震え始める。

しかし恐れからではない、怒りからだ。

 

「お前たちが七不思議に関わらなければ…こんなことにはならなかったんだ‼︎どうして放っておいてくれなかったんだ!?社長も皆んなも先に逝って…こんなことが無ければ私も平穏な日々を送れた……ぐっ!?」

 

突然掴まれた的場が苦悶の声を上げた。

的場に掴みかかったのは綺世だった。だが、その目は血走っており…今にも殺してしまいかねなかった。

 

「そんなッ…そんな理由で…はじめちゃんを…‼︎許さない…‼︎殺してやる…‼︎」

 

「神津くん…落ち着け…‼︎」

 

剣持が的場から離そうとするが、背が低く小柄な彼女から出されるものとは思えないものだった。綺世の腕は…中々的場から離れない。

 

「あんたが…はじめちゃんをッ‼︎」

 

「止めるんだ‼︎」

 

剣持がどうにか、的場から距離を取らせたと同時だった。

入れ替わりで立花が的場に突っ込んで行く。その手にはキラリと光るハサミを持って…。

その刃は誰にも止められることなく、的場の腹部に深々と突き刺さった。

 

「ぐぅっ!」

 

「立花さん!?」

 

「何をしてる!?」

 

今度は立花を的場から引き離すが、手遅れだった。

的場の下には血の海が広がり、腹を抑えて悶え苦しむ。

 

「早く救急車を呼ぶんだ‼︎」

 

「離せぇッ‼︎こいつだけは私の手で…‼︎ちひろの仇をぉ‼︎」

 

「ちひろの仇…?もしかして立花さん…あなたは…」

 

「ああ!ちひろの父親だ‼︎あいつが蒸発するはずない‼︎この学校に何かあると思って…!ちひろを…返せぇ!」

 

立花が叫ぶ声は、もう的場にはまともに聞こえていなかった。

的場は腹を抑えながら…小さく声を上げていた。

 

「い…痛いぃぃ…!目が霞むぅ…。助けてくれぇ…」

 

その最中…1番近くにいた綺世の足に触れる。

綺世は一瞬動揺したようにその手を払い除けようと思ったが、身体は言う通りに動くことはなかった。

 

「助け……て………」

 

その言葉を最後に…的場の手が動きを止めた。

 

「いかん!」

 

剣持は暴れる立花を放り出し、的場に駆け寄る。

急いで脈を確認したが、既に無かった。

それが分かった立花は亡き娘が埋まる壁の近くで号泣する。

今まであった事態に全員が戦慄し…静寂だけが支配する。

的場の死体の近くで立ち尽くした綺世だったが…的場が死んでも、何も思うことは無かった。

いや、強いて言えばだが…多少、胸がすぅーとする幸福感が彼女の胸を通り抜けるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

葉桜になり始めた時期に差し掛かった。

あの後、警察が旧校舎の中を調査した結果…青山ちひろを含めて、7つの死体を発見した。それと旧校舎の取り壊しも同時に進められた。

解体工事中の旧校舎を遠くで見ながらも、綺世はまた病院へと足を進めようとした。

校内を出ると、そこでは真壁がインタビューを受けていた。

さも興味ないと言った感じで、彼の横を通ると…嫌味な奴は綺世に語りかける。

 

「おい!」

 

「…何?急いでるんだけど」

 

綺世の口調にマスコミも静かに見守る。

 

「お前の推理は見事だったが…偶々だってことを忘れるなよ?いつかはお前を超えて…」

 

「くだらない…。あんたの推理力なんてたかが知れてるわ。私の前に立ちたければ…もう少しそのバカな頭をまともにするのね」

 

素晴らしい程の罵倒に周囲のマスコミは完全に呆気に取られる。

真壁は悔しそうに唇を噛み締め、血が出る程に拳を握る。

綺世の方はというと、ゆっくりと再び歩み出す。はじめの元へと…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

病院のベッドで横たわるはじめは病院食が不味過ぎて、挫けそうだった。おまけに目が覚めたのはつい最近なだけあって、まともな食事を取れていない。お陰でずっとイライラしている。

病室のドアが開き、そこに綺世が入ってくる。

その表情はどこか清々しい。実は…綺世とまともに話すのも、今日は初めてなのだ。既に剣持から事件の顛末は聞いている。綺世が桜樹先輩たちの仇を取ったこと、そして…彼女が取った行動に関しても。

 

「はじめちゃん…どう?病院生活は…」

 

綺世はいつも通り…元気に話しかけたが、はじめの表情は芳しくない。

食事などで気分が良くないのは知っているが、これは別のもの…怒っている場合の表情だった。

 

「綺世…お前…的場に掴みかかったって?」

 

「…うん、あいつの言い分に、目の前が真っ赤に染まった。…殺したくなるほどに…」

 

それを聞いたはじめが途端に怒声を上げた。

 

「馬鹿野郎‼︎」

 

ビクンと肩が揺れる綺世。ここまで怒鳴られたのは、初めてだった。

 

「確かにお前が許せない理由は分かる…。俺だって…家族を殺されたら、そういう気持ちになるだろう。だけど…本当に殺そうとするのは間違ってる。どんな理由があっても…人を殺すことはだけは許さない」

 

はじめの言葉に、綺世は大人しく頷いた。

それと同時に初めて本気で怒られたことに関して、自然と涙が溢れた。

 

「それに…はじめちゃん、ごめんね。私がはじめちゃんを巻き込んだせいで…」

 

はじめは「はあ」と溜息を吐くと、彼女の頭に手を置く。

 

「そんなことねえよ。これは自ら突っ込んだことだ。ありがとな…。俺や桜樹先輩たちの仇を取ってくれて…。嬉しかったよ…」

 

「そんな…はじめちゃんがあの時、『負けないで』って言ってくれなかったら…今頃…」

 

「…そんなこと言ってたのか、俺は。…でも綺世…お前はやっぱり自慢の…」

 

「…自慢の?」

 

そこから先を言おうとした時、ガラガラと激しくドアが開いた。

 

「おーい!見舞いにシュークリームでも…!」

 

剣持が勢いよく入って来たことで、綺世とはじめは顔を互いに背けてしまう。剣持は入って即座に自分が邪魔な存在だと認識したが、時既に遅し。

綺世は顔を赤くしながらも、「自慢の…何?」と尋ねる。

するとはじめは少しだけ笑みを浮かべて、こう言うのだった。

 

「自慢の幼馴染だよ」




はい、これにて『学園七不思議の呪い』は完結です。
最後に補足をさせて貰います。
生物室の鍵が壊れているという設定にしましたが、それはおかしいのでは?と思う方もいると思います。ですが、鍵って意外とすぐに壊れるものなんです。私の経験ですが、祖父の実家の物置を7年くらい使ってなかったんですが、7年ぶりに開けようとしたら鍵穴が完全に錆びついてアウトでした。だから一概におかしくはない、とだけ補足させて頂きました。


次章予告『嘆く雪夜叉は吹雪を血に染める』
はじめと綺世は北海道にテレビのバイトに赴いていた。
そこでは人気絶頂アイドル:速水玲香と会うことが出来て、綺世は興奮していた。だが、当の玲香ははじめを気にしていて…。
そんな綺世にとって、落ち着かない中でテレビ撮影中に殺人が起きる。そこに居合わせた剣持とその上司:明智警視に事件の解決を勝負するよう挑まれる。だがはじめは勝負に固執することはなく、解決しようと模索する。
そして…はじめと玲香には、驚きの関係が…。
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