金田一少年と神津少女の事件簿   作:GZL

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今回の速水玲香の設定…超ご都合設定です。ご注意を。


嘆く雪夜叉は吹雪を血に染める
File1


秋の試験が終わり、はじめは自宅のこたつで温温(ぬくぬく)としていた。頭部の傷も癒えて、学校での怠い生活も一旦は終わりを迎えたはずなのだが…そこに邪魔者が現れた。インターホンも押すことなく、ズカズカと入り込んでくる人影にはじめは何百回目の溜息を吐いた。

 

「いくら家が隣でも、無断で入るのはどうかと思うぞ?綺世」

 

「良いじゃない、おばさんにも了承は取ってるんだし」

 

綺世は本当に礼儀というものを、()()()()()()()には無い。

折角の寛ぎを潰されて自然と溜息が出る。それを見つつ、同じくこたつに潜り込む綺世。「ふぅ〜寒い寒い…」と手を擦るが、綺世の自宅からはじめの自宅まで歩いて10秒…寒いはずがない。

 

「で…今日は何の用だ?もう両親への謝罪は済んだだろう?」

 

はじめが入院中に、綺世は何度もはじめの自宅を訪れては彼の両親に謝っていたのだ。はじめは春に学校で事件に巻き込まれ、頭に重傷を負った。はじめを傷付けてしまったのは自分の責任だと思った綺世は、ずっとその事を気にかけていたのだ。綺世が涙で頬を濡らして、土下座までしていた事を、当の本人は知らないが…。

 

「そんなんじゃないわよ。…ねえ、はじめちゃん。北海道行かない?」

 

唐突な話題にはじめは一瞬驚くが、すぐにその提案を却下した。

 

「パス」

 

「どうしてよ!」

 

「何でクソ寒い時期に寒いところに行かねえとならないんだよ。出来ればもっと鹿児島とかアッチにしろよ」

 

「北海道なのは理由があるの!」

 

綺世はテレビのスイッチを入れると、そこに出たのは今話題沸騰中のアイドル:速水玲香だった。テレビの特番で【アイドルの初恋】という話題が話されていた。はじめは知っているだけで、全く興味はないが…。

 

「彼女が出演する番組で北海道でドッキリロケをやるから、バイトに応募がかかっていて、私が応募したら…見事当たっちゃったの!」

 

「ふーん…」

 

「で…もう1人誘えないかと言われて…はじめちゃんを…」

 

「尚更パス、俺はこの部屋でずっと温泉に浸かった猿の気持ちでいるんだ…。冬休みはどこも行かずに…」

 

やはりダメか、と思っていた綺世だったが…ここで思わぬ刺客が現れる。

 

「はじめ‼︎」

 

大きな声がはじめの耳の至近距離で響き、思わず耳を塞ぐ。

振り返ると、はじめの母が仁王立ちしていた。

 

「何だよ‼︎いきなり…」

 

「そのバイト…行きなさい!」

 

「はあ!?だから何で…」

 

はじめの母はぐいっとはじめの顔に近付け、言い放った。

 

「良いから行きなさい‼︎私は玲香ちゃんのファンだから、彼女の写真が欲しいの‼︎分かった?」

 

ここまで詰め寄られたはじめには、もう逃げる道はない。本日3回目の溜息を吐き、「分かったよ…」と心が折れた。はじめは仕方なく、こたつから出て行く準備に取り掛かる。彼らが部屋に戻って行くと、はじめの母は小さく呟いた。

 

「はじめったら…覚えてないのかしら?玲香ちゃんのこと…」

 

はじめの母親に続き、テレビ内の玲香がこんなことを言っていた。

 

『玲香ちゃんの初恋は〜?』

 

『私の初恋は、5歳の時にいじめっ子から助けてくれた無口でイケメンで…運動神経も良かったKくんです‼︎』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後…はじめたちはバイト兼撮影場所である北海道の中でも北に位置する『背氷村』へとやって来た。まさか1日に1便しかないバスに乗ったはじめたちを襲ったのはまず猛烈な寒さだった。

はじめはすぐに手袋の中にカイロを複数入れ、腹には湯たんぽ、首にマフラー、耳にはヘッドホンを付けた。あまりの防寒対策に綺世は溜息を吐いた。

 

「ちょっとオーバー過ぎるんじゃないの?」

 

「うるさい…俺は寒さが大の苦手なんだ…。とにかく…俺は寝る」

 

「また寝る…。少しはシャキッとしなさ…」

 

綺世が説教しようと思った時には既に寝息を立てていたはじめ。

再び溜息が出た綺世だったが、これからバスに4時間は揺られるので、自分も寝ることにした。

 

 

 

バスはその後、予定通り4時間経ってから到着した。一面銀世界の背氷村…あまりに簡素で活気はほぼない村だった。はじめが目を覚めた時、目の前にはバスの運転手がいた。

 

「お客さん、着きましたよ」

 

「あ…ああ…すいません…」

 

はじめが横を向くと、同じく綺世がはじめの肩に頭を預けて静かに寝ていた。思わぬ状況にすぐにはじめの身体は熱くなり、ここの寒さなど吹っ飛んだ。だがこれ以上ここで寝てもらっても困るため、はじめは綺世の肩を揺らした。

 

「おい…起きろ。着いたぞ?」

 

「う…うーん…やっとかぁ…」

 

涎を拭き、周囲の状況を確認する綺世。

そして…自身がはじめの肩に頭を預けて寝ていたことに気付き、羞恥で顔が真っ赤になった。その様は正に茹で蛸。

 

「ッ‼︎」

 

恥ずかしさでどうでも良くなった綺世は勢いのままにバスから飛び出た。

 

「お客さん‼︎お金‼︎」

 

「ああ…俺が…ったく。あいつ…」

 

はじめはお金を払い、荷物も忘れて飛び出した綺世の分も持ってバスから降りる。外は既に猛吹雪で、視界は最悪だった。降りてすぐのところに綺世が立っていたが…身体を震わせていた。

 

「さ…寒い…。ここまでとは…」

 

「あ、ああ…。早くスタッフとかやらを見つけないと、俺らが凍死しそうだ…」

 

はじめたちは視界が全く利かない中で探すのかと思ったが、その心配は無用だった。すぐにパッパーと車のクラクションが鳴り、はじめたちに合図を送った。

この寒さから逃れたくて、2人は車に飛び込んだ。

 

「ありがとうございます…!」

 

「いえいえ、大事なバイトくんが凍死したら大変だし」

 

(とんでもねえこと言うな、この人…)

 

「綾辻です。早速で悪いけど、撮影場所である氷室画伯の山荘に向かうわよ。そこで皆さんにご挨拶してもらうわ」

 

氷室画伯…。

はじめはその名前に聞き覚えがあったが、天才画家と呼ばれる以外に知ることはない。

車に揺られること10分…明らかに廃れた村には似つかない豪勢な山荘が建っていた。

 

「流石…資産数十億円と言われる画家の家ね…」

 

山荘に入ると、その玄関では機材をセッティングしようとしているテレビスタッフが数名いた。綾辻とバイト2名を確認した比留田ディレクターは「荷物を置いたら、そこのイケメンは機材運び、そっちの美人さんはコーヒーを淹れてくれ」と無鉄砲に言った。

はじめは返事をせずに、対照的に綺世は「はい!」と答えてバイトに励んだ。人生初めてのバイトに…はじめは溜息を何度も吐きたくなった。機材は重たいし、比留田やアシスタントの明石、音響係の響などの叱咤激励が嫌というほど耳に突き刺さった。

そして、時刻が19時40分…スタッフやバイトを含めて出演者全員が集合した。そこには綺世が目的である速水玲香もいた。他にはアクション俳優である大門優作、オカマ俳優の棟方ケン、妖艶な色気を出す加納りえがいた。全員、誰もが知る有名人だ。そんな彼らを見ることが出来た綺世は、比留田に挨拶しろと言われ、勢いのままに自己紹介した。

 

「神津綺世です‼︎皆さんと出会えてとても光栄です!」

 

(…綺世って、こういうところでは興奮するんだな…)

 

綺世の思わぬ発見をしたはじめも続いて、自己紹介する。

 

「金田一です、よろしく」

 

「え?」

 

はじめの名前を聞いた玲香が何かに鞭打たれたような声を上げた。

 

「…何か?」

 

「いえ、何でもない!ごめんね」

 

玲香は口に手を当てて「まさか…ね」と誰にも聞こえない声で呟く。

はじめは綺世と顔を合わせて首を傾げた。

その後すぐに撮影が始まった。内容はよくある愛憎劇だ。

加納の演技が終わるまで、はじめと綺世は待機…と思われたのだが、明石がはじめに袋を渡す。

 

「…これは?」

 

「血糊だよ、撮影を一旦止めたらコーヒーを渡すんだ。その流れでお前も飲んで倒れるんだ」

 

「…なるほど、これがドッキリってやつか」

 

選ばれてしまったことに何とも言えない屈辱感がはじめを襲うが、今更退くことも出来ない。しょうがなく、はじめは血糊が入った袋を(てのひら)に隠し、綺世と共にコーヒーを持って行く。

2人は彼らに1つずつコーヒーを渡し、自分らも流れでコーヒーを口付けた。それと同時にはじめが演技を始めた。

 

「うぐっ!?」

 

コーヒーカップを落とし、悶え苦しむはじめ。

 

「はじめちゃん!?」

 

「はじめ……って、え!?」

 

玲香は口から血を溢れ出すはじめが倒れていく様を目の前で見た。

それと同時に迸ったのは玲香の甲高い悲鳴。

 

「いやああああああああ‼︎金田一くん!」

 

その悲鳴にディレクターの比留田も「おぉ…」と唸る程だった。

そして玲香は金田一の身体に抱きつき、涙を溢れ出させる。その姿はとても異様で、ただのアルバイトであるはじめに取る行動としてはとてもオーバーなものだった。

その惨状に綺世も流石にオドオドしていると、扉が勢いよく開いた。

入って来たのは銀髪の若い男性と…綺世も知っている剣持警部だった。

思わず剣持の名前を呼んでしまうところだったが、そこに重ねて銀髪の男性が大きな声で叫んでくれたことが功を奏した。

 

「警視庁の明智です、皆さん彼から離れてください!」

 

「刑事さん…どうしてここに!?」

 

比留田が驚きの声を漏らすと、パン、パン…!と高い拍手が鳴り響いた。それと同時に加納が笑い出した。

 

「名演技、名演技‼︎そこらの馬鹿どもと比べたらよっぽど上手だわ」

 

加納の発言に玲香だけが「え?」と呆気を取られた表情を浮かべる。

その後、加納ははじめが出した血が血糊であること、カメラやマイクの位置…そして、この撮影自体がドッキリであることを見抜いた。

最後に加納は「ふざけんじゃないわよっ‼︎」と台本を叩きつけて、部屋を後にした。

一方のはじめも立ち上がり、全員の戦慄した表情を見ると同時に…驚愕の表情を浮かべた剣持を見ることとなった。

 

「お、オッサン‼︎」

 

「金田一…神津くん…どうしてここにぃ?」

 

知られたくなかったとでも言いたいのか、剣持は顔を赤面させる。

 

「どうしてここに?」

 

「…上司命令、このお隣のお方の命令で来たんだよ!」

 

「お隣って…え?こんなに若いのに…剣持警部の上司?」

 

綺世も驚きを隠せない。明らかに隣の男性は剣持とは20の年が離れている。それでいて剣持よりも階級が高いとは、恐らくとても優秀なんだろうとはじめは思った。

 

「金田一くんの三流演技も、中々見応えがありましたね」

 

(…嫌味な奴)

 

「明智健吾です。以後、お見知り置きを。…剣持くん、まさかまだ下らない番組と思っているんですか?ロスでは普通に戦車や戦闘機を持ってくるんですよ?私たちがしていることなんて、たかが知れてますよ」

 

「…はい」

 

「では金田一くんに、神津くん…。また後で…」

 

明智は静かにこの場を後にする。

剣持は明智が居なくなると即座に大きな溜息を吐いた。

 

「なんか…あの真壁と同じ感じですね」

 

「綺世…早速明智警部のことを嫌っているな…」

 

「当たり前じゃない!何あの上から目線な態度!気に食わない」

 

「まあ…あいつは警部じゃなくて警視だけどな。アメリカなどに渡って帰って来たエリートだから…ああいう性格なのさ。おまけにこんなところに駆り出されて…やってらんねえぜ」

 

(明智警視…か)

 

確かに彼の瞳は何かを見透かすように、冷たいものだった。

明らかに只者ではないように思えたはじめ。

後ろで比留田たちは、番組がお釈迦になったことで焦っているかと思われたが…既に次の手を考えていたのだ。その間もバイトの仕事に付き合わされる…と思った時。

 

「金田一くん!」

 

突然、玲香に名前を呼ばれたかと思うと…ふわりと柔らかい感触がはじめの身体を包み込んだ。

 

「え…」

 

「は…?」

 

はじめを抱き締める玲香、その光景は加納にドッキリを見破られた以上に衝撃的なものだった。横で目を丸くして震える綺世は、もっと強烈だが…。

そして…見上げる形ではじめの顔を見る玲香。

その口から出た発言に、はじめと綺世は耳を疑った。

 

「久しぶり、金田一くん♪」

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