金田一少年と神津少女の事件簿   作:GZL

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それから程なくしてパトカーが何台も橘の別荘の前に集結した。

会場に来ていた編集者たちも何事かと思っていたが、橘が殺されたと知り、原稿などどうとでもよくなったのか、カメラと紙とペンを持って警官たちに質問攻めをした。橘の原稿も世間を賑わすスキャンダルになるのだが、殺された橘を特集した方がもっと強いインパクトになると踏んだのだろう。

だが、その輪の中に入ろうとしないライターがいた。

いつき陽介だ。彼も最初は橘の無念を晴らすために、警官たちを殴り付けても犯人が誰かと聞こうとした。しかし…現時点での容疑者があの神津綺世だと分かると、彼の中で衝撃が走った。

まだ会って2回目でしかないが、いつきは彼女が殺人を犯すようなことはないと断言出来ていた。

 

「正義感が人一倍強い彼女が?そんなバカな!」

 

いつきはぶつぶつと独り言を呟く。

そうでもしていないと落ち着けないからだ。いつきのすぐ後ろの扉では…はじめと綺世、そして佐木たちが警察の事情聴取を受けているからだった。

 

 

 

 

 

部屋の中で綺世はいつも以上に覇気がなかった。

長野県警に長嶋警部に何を聞かれても、抑揚のない…まるで魂が抜け切ったような返事に、はじめは思わずイライラしてしまう。

最後まで質問を終えた長嶋警部は一拍置いて、告げた。

 

「今の話と使用人たちの聞き込みで分かったよ、犯人は君しかいないよな‼︎」

 

それを言われて綺世の中でドクンと心臓が強く脈打つ。

はじめは荒唐無稽な長嶋警部に怒りを覚えながらも抑えつけ、その理由を聞く。

 

「…何故ですか?」

 

逆に綺世はここまで冷静なはじめに対して不安を感じた。

いつもなら怒鳴るなり…感情を剥き出しにするはじめが、異様に静かで、落ち着いているからだった。

 

「説明してやろう。まず…神津綺世、橘五柳氏の部屋に行ったのは何時だ?」

 

「9時半頃です…。いくらノックしても返事がないので、部屋の中に入ったら…橘さんが血塗れで倒れていて…その後私も殴られて…」

 

「それで気が付いたら、凶器を片手に立ち尽くしていたと?」

 

「はい…」

 

「…嘘だな!」

 

長嶋警部は綺世の証言を真っ向から否定した。

 

「君が9時半頃に橘の死体を見たと言っているが…。使用人の花村葵さん!昨夜、橘さんから電話があったと言いましたね?」

 

唐突に話を振られた花村葵は慌てながらも答えた。

 

「はい、私ではなく…ここにずっと住み込みの菊さんが対応したそうですが…」

 

「呼んで来てもらえませんか?」

 

それから程なくして、齢80を超えているであろう老婆が入って来た。

この女性が菊さんだ。花村葵は菊さんの耳に口を近付けて、まるでコソコソ話すように先程の長嶋警部の問いを伝える。

すると菊さんは「あ〜はいはい…」と呟き、あの晩のことを話した。

 

「先生から電話があったのは確かです。寝室のエアコンが故障しているから…風通しをよくしてくれ、と仰られて…」

 

「それは何時頃でしたか?」

 

「…10時前だったかのお…」

 

「「!」」

 

はじめと綺世に衝撃が走る。

今の証言が本当だとすると、綺世は嘘をついていることになる。

はじめは静かな視線を綺世に向けるが、綺世は逆に自信を失ったのか…俯くばかりだった。

だが、止めを刺すために長嶋警部は綺世に追い討ちをかける。

 

「まだ認めないか?なら、決定的な証拠を見せてやる‼︎」

 

長嶋警部は卓上に大きな写真を叩きつけた。

これは橘の部屋の前の写真だった。泥濘んだ地面には1組の足跡しかない。

 

「仮に君の言う通りに、中に他の人物がいて君を気絶させたとしたら…一体どこに消えたと言うんだ?あの部屋の出入り口は1つしかない!しかも!その前の泥濘には君の足跡1つだけ!…言いたいことは分かるだろう?」

 

長嶋警部に追い詰められた綺世は小さな声で「ちがう…」と呟く。

だが長嶋警部にも…はじめにもその声が届くことはない。

 

「お前はあの晩、橘先生に謝罪に行ったが許されず…何なら更にセクハラにせよ、何でもされそうになり…カッと勢い余って殴り殺した‼︎違うか!?」

 

流石に言いようにはじめも我慢出来ずに立ち上がろうとした時、綺世の口から否定の言葉がやっと出た。

 

「違う…‼︎私は…やってない‼︎」

 

「今更ジタバタしても手遅れだ!神津綺世…!橘五柳殺害の容疑者として…貴様を逮捕する‼︎」

 

ガチャリという金属音と同時に、手首に冷たい感触が走る。

ゆっくりと自分の手に掛かった手錠に、綺世は目を見開く。

 

「はじめ…ちゃん…」

 

助けを求めるように、視線を向ける綺世だったが、はじめは…もう既にそこには居なかった。

 

 

 

 

 

 

部屋から出て来たはじめを視認したいつきが事情を聞こうとした時、はじめはいつきの胸ぐらを掴んで誰も居ない通路に誘い出す。

そのまま鬼気迫った表情でいつきに告げる。

 

「いつきさん…あんただから頼める話だ。これを…預かっておいてくれ」

 

はじめはメモ用紙と自分自身の携帯を渡した。

何のためにかと聞こうとした時、同じ部屋から手錠を掛けられた綺世が数人の警官に囲われて、この別荘から出ようとしていた。

 

「おい!どうなってんだ!?」

 

「いつきさん…あとは任せたぞ」

 

はじめはそれだけ言うと、綺世の後を追う。

そして…長嶋警部に叫んだ。

 

「長嶋警部!」

 

「ん?なんだ?」

 

「最後に…こいつと話をさせてくれ。殺人罪なら…もう話す機会はあまりないんだろ?」

 

「…良いだろう。最後に伝えたいことでも伝えてやれ」

 

はじめは綺世の手を取る。

 

「綺世、大丈夫だ。お前は必ず救ってやる。()()にな…」

 

「…はじめちゃん?」

 

「もう良いだろ?行くぞ!」

 

長嶋警部に言われて、はじめと綺世は引き裂かれる。

容疑者である綺世が別荘を出ると、マスコミや雑誌の編集者たちがカメラを片手に待っていた。そして、綺世たちが目に入ると…我先にとシャッターを切る。

綺世は女性警官に布を被されて、前が見えない状況で歩く。

 

(犯罪者って…いつもこんな感じなんだ…)

 

綺世は思わずこんなことを思ってしまう。

いや…こう思っていないと、胸が押し潰されそうだからだ。

自分が殺人犯だと家族や友人に知られたら…どう思われるのだろうと、そんなことを思ってしまう。

そのまま流れるようにパトカーに乗せられると、すぐに出発する。

両隣には警官が座っており、逃げるなんて以ての外だった。

自然と顔は下を向き…手錠を掛けられた両手と合ってしまう。

すると…手のひらに何か小さな紙が貼られていた。ゆっくりと…2人の警官に悟られないように、その紙を見ると、こう書かれていた。

 

 

『トイレに行きたいと言え』

 

 

はじめの指示だ。

 

(でも…どうする気なの?)

 

綺世はこのメモの意図を読み取れなかったが、はじめの指示通りに行動することにした。お腹を抑え…苦しそうに呻く演技を始めた。

 

「ん?どうした?」

 

「お…お腹が痛いんです…」

 

「ったく、しょうがねえな」

 

パトカーはすぐに止まり、公園の公衆トイレに連れて行かれる。

手錠は外してもらったが、腰には紐が結ばれており、逃げることは出来ない。そのまま個別の女子トイレに入ると…そこには…。

 

「!?」

 

思わず衝撃で声が漏れそうになったが、寸でのところで止める。

なんと…そこにははじめがいたのだ。

はじめは何も話すことなく、腰に結ばれた紐をハサミで切り落とし、流しのレバーに結びつけた。そして、窓から2人で脱出する。

だが…これが何を意味するか…綺世は分かっていた。

パトカーから距離を離し、そろそろ話しても良いだろうと思ったところで…綺世は口を開いた。

 

「どこにいたの!?」

 

「パトカーの中だよ!トランクの中だけどな!」

 

「どうして!?こんなことしたら…はじめちゃんも…!」

 

「お前が捕まっていることに耐えられるはずがねえだろ‼︎いいから行くぞ!」

 

「行くって…どこに!?」

 

「…さあな」

 

はじめたちは夜の森の中をひたすらに走る。

そう…ここから、はじめたちの過酷な逃走生活の幕開けとなるのだった。

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