金田一少年と神津少女の事件簿   作:GZL

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File4

はじめは薄暗い森の中を、綺世の手をしっかりと握りながら走り続けていた。すぐに綺世の脱走は知れ渡り、軽井沢一帯では包囲網が張られた。それだけでなく、道路の至る所でパトカーが派手にサイレンを鳴らしながら巡回していた。

はじめは自分が着ている上着を綺世に着せて、一旦大きな木の裏に隠れる。前方と後方と…忙しくなくやって来るパトカーにはじめと綺世は息を何度も殺した。パトカー2台は合流すると、はじめたちを見つけたのかという会話が耳に入った。そして…無線からは怒りに溢れた長嶋警部の声が轟いた。

 

「いいか!?日が昇るまでに奴らを見つけるんだ!!」

 

(奴ら…もう俺が逃走の手助けをしていることはバレているわけか…)

 

パトカーが通り過ぎるのを待っていると、何故か綺世が自分1人だけ出て行こうとした。それに気付いたはじめは綺世の腕を引っ張り、自身の胸の中に収める。気付かれていないか、ゆっくりとパトカーを窺うと、すぐにまたどこかへと過ぎ去って行った。

ホッと吐くと、はじめに向かって綺世が口を開いた。

 

「やっぱり…私、自首する」

 

「何言ってるんだ!?お前は何もやっていないだろ?」

 

「でも…!このままじゃ、いずれ捕まる!それなら私だけでも捕まって、はじめちゃんを無罪にしたい!はじめちゃんを…同じ犯罪者にしたくない…!」

 

綺世は後悔していたのだ。

自分の不始末ではじめを巻き込んでしまったことに…。

だが、はじめは全く気にしていないといった感じで、余裕な表情だった。

 

「そんなこと…関係ない」

 

はじめはそれだけ言うと、再び綺世の手を取る。

暗く広がる森の中を進むことに多少の恐怖を感じる綺世だったが、はじめの握る温かい手だけが…心の支えとなっていた。

 

 

 

 

 

 

綺世の逃走したという情報はすぐにいつきたちの耳に入った。

警察が気付いていないが、その手助けを行ったのははじめだと確信した。あの時の「あとは頼む」の意味が…漸く分かったのだ。

部屋にはいつきと佐木たちが残っており、佐木は思わず口を開いた。

 

「どうして綺世先輩…逃走なんて…これじゃ益々疑われてしまいますよ!」

 

「…神津単独の逃走じゃねえ」

 

「え?」

 

「金田一の野郎が手助けしたんだ。そうに違いねえ」

 

「どうしてそんなことを!?」

 

「さあ…俺は知ったことじゃねえが…」

 

いつきは振り返ると、唐突にこんなことを言い出した。

 

「おいお前ら、俺に1つや2つ貸しがあるだろ?頼む、金田一と神津を助けてほしい!」

 

このお願いには全員が面食らった。

当然反対意見ばかりだった。

 

「殺人犯の手助けをしろと?」

 

だが、その言葉を佐木が反論した。

 

「先輩たちは人殺しなんてしません‼︎それは僕が保証します!」

 

「俺も…奴らとは一度しか面識がねえが、あいつらが殺しをするような奴らじゃないとは認識してる」

 

「し、しかし…そういったことは警察に任せれば…」

 

鴨下の弱気な言いようにいつきは怒鳴りつけた。

 

「その警察がポンコツだからこうやって頼んでるんだ‼︎そもそも俺が誘わなければ、こんなことには巻き込まれなかったんだ‼︎」

 

更にいつきは全員の前で土下座する。

流石のこの行動に、更に言葉を失う一同。

佐木も、いつきとは初めての面識だが、ここまでやってくれる人だとは思わなかった。

 

「頼む!この通りだ!金田一たちの…力になってくれ…!」

 

いつきのここまでの頼みに、断れるはずがなかった。

 

「…ああ、分かったよ!」

 

まず針生が承諾した。

 

「長い付き合いだが、あんたがそこまでするとはな…」

 

「本当…いつきさんがそこまでしちゃあねえ」

 

「協力しない訳には…いかないか」

 

「そうだな…」

 

「すまねえ!みんな‼︎」

 

「しかしいつきさん、まずはどうしたら…?」

 

「情報だ‼︎金田一たちが有利になる情報を掻き集めるんだ!俺たちにはバッチこいの仕事だ…ん?」

 

不意にいつきが手渡された携帯が鳴る。

まさかと思い、いつきはすぐに通話を開始した。

 

「金田一か!?」

 

『…ああ。俺だよ』

 

金田一と綺世は人気のない公園にあった公衆電話で連絡を取っていた。

ただ、パトカーのサイレンが遠くで聞こえるため、長く会話することは難しそうだ。

 

「お前ら…無事なのか!?」

 

『どうにかな…。それよりも、大村さん、いるか?』

 

「大村?あいつなら事情聴取を終えて、さっさと東京に帰ったぞ?」

 

『…東京…面倒な場所に行きやがって』

 

「おい、なんで大村のことを?」

 

『時間がないから手短に言うが、恐らく…橘の原稿の在り方を知っているのは大村さんだ』

 

「何ぃ!?」

 

『俺の推測でしかねえが、犯人の狙いは原稿だろう。それを聞こうとして、橘と揉み合って…殺してしまったんだろう』

 

「…暗号の答えが、大村を?」

 

『ああ…だから早く…大村さんの住所と電話番号を…!』

 

いつきから大村の連絡先を聞いたはじめはすぐに綺世の手を握る。

彼女は正直、かなり疲労していた。

ひたすら走り続けている上に、警察に追われているストレスが疲労を蓄積していた。だから休みながら、どうにか東京へと行く方法を模索しなければならないのだが、長野の山奥でそんなことが出来るはずがない…と思っていたのだが…。

 

「…どうやら、天は俺たちに味方しているようだぜ?」

 

公園に停まっている東京行きの荷物運搬車を見つけて、その荷台へと潜り込んだ。綺世は漸く横になれる場所を見つけたからか、すぐに眠ってしまった。

 

「ったく、心配ばかりかけやがって…」

 

はじめも綺世の隣で横になり、今日起きたことを整理する。

 

「橘の原稿の在り方を記した暗号…それを聞こうとして、犯人は橘を衝動的に殺してしまった。そこに綺世がやって来てしまい、気絶させた。その後、何らかのトリックで綺世に罪を被せた…と言ったところだろう。だが、犯人は逆に困っているはずだ。原稿の場所を唯一知る橘を殺してしまい、躍起になって暗号を解いているはず…。俺たちが先に大村さんから原稿に関することを聞ければ…綺世の無実も…」

 

そこではじめも目が閉じ始める。

その前にはじめは綺世の身体に自身のコートを被せる。

代わりにはじめが寒くなってしまうが、それはお構いなしだった。

とにかくはじめたちは、大村に会うことが最優先だった。

 

 

 

 

 

 

その後、東京に到着したはじめはまず公衆電話に駆け込んだ。

いつきに教えてもらった電話番号で掛けようとしたが…素の声で話したら1発で警察に通報されてしまう。今更ながら気付いたはじめは仕方なく、苦肉の策に出る。

何をしようとしているのか、綺世がふとはじめを見た途端…こんな大変な状況であるのにも関わらず、笑いが溢れてしまった。

はじめは鼻を手で塞ぎ、無理矢理声を変えて話し始めたのだ。

 

「え〜私は警視庁の剣持と言うものだが…」

 

『刑事さん?(わて)に何か…?』

 

「ええ、死亡した橘氏の暗号を解読した結果…あなたが原稿の所在を知っている可能性に行き着きましてね…」

 

正直、はじめはこの話し方がキツかった。

肉体的にもそうだが、後ろでずっと笑いを堪えようとして溢している綺世の姿が入ってしまうのだ。

 

『はあ!?我が先生の原稿を!?どうして?』

 

「いいですか?【裏川辺奇々なる藻を】をローマ字に直してください」

 

『ローマ字?はいはい…』

 

大村は懐から手帳を取り出して、はじめの言う通りに例の暗号文をローマ字に変換する。

 

「そのローマ字文を逆から読んでみてください」

 

『逆から……ああ!?』

 

受話器から大村の驚愕した声が轟く。

 

【裏川辺奇々なる藻を】

     ↓

URAKAWABEKIKINARUMOO

     ↓

OOMURANIKIKEBAWAKARU

     ↓

大村に聞けば分かる

 

『ホンマや!我の名前が…!』

 

「どうでしょうか?何か原稿に関して聞いていませんかね?」

 

大村は暫く考え込んで黙っていたが、ふと思い出したかのように声を上げた。

 

『そういえば‼︎先生がパーティーの前に我を読んでこう言ったんです!

誰かに暗号に関して聞かれたら、【時任】に聞けと!』

 

「時任に聞け!?」

 

思わずはじめは地声を発してしまう。

それと同時だった。受話器の向こうから大村の悲鳴が響いたのだ。

 

『ぎゃっ!?な、なにすんねん‼︎ぎゃああああああ!』

 

「大村さん!?」

 

悲鳴の後、静寂だけが支配した。

はじめは「まさか…」と呟くと、受話器を戻して駆け出した。

突然の事態に綺世が戸惑いの声を上げる。

 

「ど、どうしたの!?」

 

「大村さんが襲われてる!急いで向かうんだ!」

 

万が一のために大村の自宅の近くに張り込んでいた甲斐があった。

はじめは構わず玄関の扉を開ける。

すると目の前には…頭を割られて息絶えた大村の死体が転がっていた。

 

「大村さん…!」

 

「どうしてだ…何故大村さんが…」

 

警察にも通報出来ない2人は、すぐにその場を離れるのだった。

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