金田一少年と神津少女の事件簿   作:GZL

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悲しき報せは止まらない
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「ただいま……」

 

「何やってんのよ‼︎‼︎このバカ‼︎アホ‼︎トンチキ‼︎」

 

はじめが自宅に着くなり聞こえて来たのは、母親の半端ない怒声だった。何度となく怒られて来たはじめであるが、今回は今までの中でもトップクラスの怒声だった。怒りの矛先は正座しているはじめの父親、もとい金田一耕介の息子に向けられていた。

 

「…どうしたんだ?そんなになって…」

 

はじめの帰宅に気付いた2人ははじめを凝視する。

父親は顔面蒼白、母親は真っ赤で今にも泣きそうな感じだった。

あまりの眼力にはじめは戸惑ってしまう。

 

「だ、だから…何だよ?」

 

「はじめ、聞いてよ…。このクソ旦那が…………」

 

「へえ……え?は?え、おい…、本当か?」

 

母親から聞かされたことが事実なのかと父親に聞き返すと、彼は力なく頷いた。

 

「ええええええええええええぇぇっ!!??」

 

そのすぐにはじめの絶叫が近所にも響き渡り、当然隣家の綺世の耳にも聞こえるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

綺世は授業に集中できなかった。

綺世だけではなかった。クラスの全員が1人の生徒に注目していた。

授業を行なっている先生でさえ、生徒が聞いていないことに気付いていたが、叱る気にはなれなかった。

その理由は単純だった。

いつもは窓の方を向いて呆然としている金田一はじめが、今は魂が抜けたかのように虚空を見て、完全に絶望したような表情を浮かべているからだった。

流石の綺世もこんなはじめを見たのは初めてだった。

いつもは眠たそうに全てをやり過ごしていたはじめが…。

 

「ねえ…どうしたの?彼…」

 

後ろのクラスメイトにはじめのことを聞かれても、綺世は何も知らないので答えられるはずがない。「分からない」としか言えなかった。

そして授業終了の鐘の音が鳴っても、はじめの表情が変わることはなかった。

 

 

 

全ての授業が終わり、漸くはじめに何があったのか聞けると思った綺世だったが、その時にははじめの姿がなかった。

 

「ねえ!はじめちゃんどこ行ったか知らない?」

 

「ああ、なんかすんげえ走って帰って行ったけど、何かあったのか?」

 

「その何があったのか、私が聞きたいわよ!」

 

綺世は礼を言うとすぐに学校を飛び出した。

校門を出て、いつもの帰り道を走っていると…喫茶店でコーヒーを飲んでいるはじめの姿があった。その姿を見て、心配無用かと思った綺世だったが…机に広がる冊子を見て、その心配は一瞬で戻って来た。

そこにはインターンや企業の説明会、エントリーシートなど、就活をするための書類が山のようにあったのだ。綺世は窓から静かに見つめていたのだが、黙って見てもいられず、はじめに全てを聞くことにした。

入店してはじめのすぐ前に座る綺世に彼は少し動揺する。

 

「あ、綺世…!」

 

「これ、何?何があったの?」

 

「い、いや…俺も将来を考えないといけないかなあって…」

 

「…ふーん」

 

綺世は冷たい目線を向ける。

逆にはじめは綺世と目を合わせようとせず、らしくない。

 

「ま、何があったのか知らないけど、頑張ることね」

 

「……」

 

「じゃ、私はこれで…」

 

「親父が…」

 

綺世が立ち上がったと同時に、はじめはポツリと呟いた。

それが聞こえた綺世は店員にアイスコーヒーを頼むと、真摯に聞く。

 

「はじめちゃんのお父様が…どうかしたの?」

 

「…無断で株をやって、失敗した」

 

「へえ、株で失敗…って、え?」

 

「そのせいで借金がおよそ400万円、大学進学なんて夢のまた夢で、下手したら高校中退もあり得ると…」

 

「嘘でしょ!?本当!?」

 

「嘘だと今でも信じてえよ…。…まあとにかく、そのせいで今から就活活動に追われているということだよ」

 

「そ、そうなの…」

 

はじめ家の深刻な状況に綺世は言葉を上手に返せなかった。

これはつまり、下手をすれば自宅も売って、金融会社に連れて行かれて、カニ漁船に乗せられてそのまま…。

 

(いやいやいや!?何考えてるの!?私!どうにかして、この危機を脱する方法を探してあげないと)

 

前回の事件でお詫びを何もしていない綺世にとっては、またとないチャンスだった。

 

「私も手伝う。なんか割の良いバイトとか探してくる‼︎」

 

アイスコーヒーをすぐに飲み終えると、綺世は店を飛び出した。

それを見て一応嬉しいはじめであったが…。

 

「闇バイトとかはやめろよな…」

 

店を出てすぐに綺世に『とある人物』から電話がかかってきた。

掛かってきた人物に違和感を感じつつも、綺世は出る。

 

「もしもし。………え!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから2週間後、はじめは宮崎県沖にいた。

船に乗って、既に1時間経っており…後ろを向けば九州が見える。

しかし、はじめは今回のチャンスを逃すわけにはいかないのだ。

 

「それにしても…綺世のやつ、どこであんなものを見つけて来たんだ?」

 

あの日の夜、綺世は部屋に勝手に入ってくるなり1つの新聞記事をはじめに見せて来たのだ。そこには『とある島』で行う財宝探しツアーに関することが書かれていた。最初に参加希望者に試験を行って絞り、合格者には招待状を送り、連れて行ってくれる…というものだった。怪しい闇バイトよりはマシだとはじめも一瞬思ったが、見つかるかも分からない財宝に全てを賭けるのはどうかと戸惑った。しかし、見つかればその1/10…推定2億円を献上してくれると言うのだから、捨て切れない。参加費、船代、宿泊代を含めて全て補償してくれるとも書いてあり、何もしないよりは良いだろうという浅い考えで、はじめは最初の試験を受けた。すると驚いたことに、合格通知が来てしまったのだ。

ここまで来たには退けないはじめは、このツアーに賭けることにしたのだ。

そうして…今、船の上で揺れている訳だが…。

 

「にしても、本当に財宝なんてあるのか?」

 

未だに半信半疑のはじめはそう呟く。

すると後ろから柔らかな女性の声がはじめの耳に入った。

 

「ある可能性は高いと思いますよ?」

 

「え?」

 

「私たちが向かっている島は、あの戦国武将、島津義弘が金の発掘所として使っていたことが分かっているんです。それも豊臣秀吉に隠れて行っていたとか…」

 

「へえ、詳しいんですね」

 

「お客様ですもの、これくらいの知識はないと!」

 

健気に話す女性は麗しい笑顔を見せた。

恐らくはじめと同年代の女性で、はじめも少し緊張が解れる。

 

「美作碧と申します。皆さん世話役です♪」

 

「やはり碧お嬢様でしたか!」

 

更に声をかける白髪の男性。

 

「岩田さんじゃありませんか!お久しぶりです!」

 

「碧お嬢様も変わっておりませんね。でもすっかり見違えて…」

 

「もう17ですもの。岩田さんも変わっていないですね」

 

話について行けないはじめは黙っていたが、不意に誰かが「島が見えて来たぞぉ‼︎」と叫んだことで視線を前方に向ける。

特徴のない…至ってただの小島にしか見えないはじめは、興味なくその島を軽く見渡す。

 

「兄ちゃん、気をつけろよ?」

 

「…気をつける?」

 

船外に出て来た髪がチリチリな男が突然はじめに警告したのだ。

 

「あの島には色んな曰くがあるんだぜ?甘く見てると、その首を掻かれるぜ?」

 

「そりゃ警告ありがとう…。でも、俺は呪いや曰くとかいう非現実なものは信じない口なので、心配無用ですよ」

 

「そうですよ、彼がそんなものにビビるはずがありません。ねえ?」

 

「ああ、それでビビってちゃ、うちの借金も返済でき……な……い……。…!!??」

 

はじめは驚いて振り向く。

後ろに立っているのは水色のワンピースにサンダルとツバが長い白い帽子を被った女性…。だが、その声を忘れるはずがない。

はじめが驚いて固まっていると、女性は帽子を上げる。

 

「…来ちゃった」

 

「あ、綺世!?お前!どうしてここに!?」

 

普段絶対見ない服装をした綺世がそこには立っていたのだ。

綺世は少し上目遣いではじめを見て、その反応を楽しんでいたが、その直後の発言に全てが台無しとなる。

 

「お前!財宝を俺から横取りする気だな‼︎そんなに俺を破滅させたいのか!?」

 

「は?」

 

「俺の家には余裕がないんだ!お前に財宝を取られたらと考えただけで寒気がする‼︎ああ…寒い寒い…!負けれられねえ…」

 

あまりに粗末で浅ましい…短絡的な考えに綺世はワナワナ震える。

綺世自身も着るのに何度と躊躇して、頑張って着こなした服装に関して何も触れずに、財宝関連ばかり…。誘ったのが自分だと忘れて、綺世ははじめの頬に凄まじい一撃を与える。

 

「いっ…‼︎」

 

「もうッ‼︎バカッ‼︎」

 

怒って船内へと戻る綺世。

ドアを閉めて、早急に動く心臓を止めようと必死になる。

 

「少しくらい気付いたらどうよ…バカ」

 

そうやってはじめと綺世は島へと到着した。

だが、これから始まるのはただの財宝探しなどではなかった。

閉鎖された島で繰り広げられる誰も信用出来ない、殺し合いが始まるからだった。

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