船が到着すると、岩田は1人1人の招待状を確認していく。
そこではじめは思った。綺世は試験を受けずに、ただ単について来ただけ…。それなら追い返されると、思ったのだが…。
「!」
綺世はポケットから招待状を取り出して見せた。
綺世が通過し、金髪の外国人少年、中年の男性3人組、スーツを来た男性、そして謎の箱を大事そうに抱えている女性が船から出て来た。
はじめは綺世の隣にソロソロと近付き、招待状とその服装について聞く。
「お前…その招待状と服装…どうしたんだ?」
遅すぎる気付きに綺世は溜息を吐きつつ説明する。
「本当は行く気がなかったんだけど、はじめちゃんのお母様が『あの子、ぶっきらぼうで礼儀のなっていないバカ息子だから、他所の人に失礼しないように見張っておいて』と頼まれたの」
「あのクソババア…」
(そんなに俺に信用がねえのか!?)
「それと『財宝を見つけられるかも分からないから、手助け…または代わりに取って来て』とも言われたわよ?」
「ッ〜〜‼︎」
(帰ったら1発ぶん殴る…)
「でも、それはないよわよね」
綺世は優しく言う。
「はじめちゃんの凄さは、私が1番よく分かっているから」
「綺世…」
「それとこの服装は…慣れないけど、頑張ってみた…って感じ?」
「あらまあ、馬子にも衣装って感じね。ウフフ…」
箱をカラカラと音を鳴らして、例の女性は呟く。
それを聞いた綺世の顔が一気に赤くなる。
「では皆さま、最初にご主人様のところへ…」
「いいねん!いいねん!そんなのどうだって!俺は、先に行かせてもらうで‼︎」
迷彩服一式に身を包んだ男はそれだけ言うと、生い茂った森の中へとシャベルと荷物を持って突っ込んで行った。
「勝手ですね」
「仕方ありません、彼らはトレジャーハンターなので、宝が最優先なのでしょう」
岩田は静かに返答するが、他にも何か知っているような口ぶりだった。
はじめが彼らが向かっていく森を眺めていると、不意にドン!と荷物がはじめの前に置かれた。
「…なんだ?」
「なんだって…荷物運びよ。男の仕事でしょ?」
「ったく…」
「じゃあ、私のもお願い出来るかしら?」
この流れに乗って箱を持った女性も綺世よりかは小さいが、荷物をはじめの腕に置いた。
「ええ!やりますよ!」
はじめたちは岩田の案内で、今回のツアーを企画した美作碧の父親、美作大介オーナーのロッジへと向かう。多少重い荷物にはじめは苦労することなく、1番後ろで綺世たちの後を追う。
すると、右手に立派な白い鳥居が見えた。
「こんなところに鳥居?」
「あれは大理石で出来てますね」
綺世の横にいた10歳前後の外国人の男の子がそう呟いた。
日本語が上手いことにも驚いたが、それよりも見ただけで材質が分かったことに綺世は更に驚かされた。そうやって島の中を散策していると、ポツポツと雨が降ってきた。
「おや?降ってきましたね。ロッジまでもう少しなので、急ぎましょう」
話している間にも雨足は強くなる一方だ。
後ろにいるはじめに綺世は叫んだ。
「急いではじめちゃん!その荷物を濡らしたり汚したりしたら許さないからね!?」
「要求が多いんだよ‼︎それならお前が荷物を持て‼︎」
本降りになって10秒後にはじめたちがどうにか到着し、遅れて先に森の中へ駆け込んで行った男たちが戻って来た。
(こいつら…どうしてここにロッジがあるって…)
はじめは少し不思議に思いながらも、綺世と女性に荷物を渡す。
碧はロッジの中で「お父様〜!」と叫ぶが、企画主は姿も現さなければ、声も聞こえて来ない。
「どこに行ったのかしら?」
碧が探そうとして、カーテンを開けた瞬間…全員の目の前に筆で達筆に書かれた金色の屏風が姿を見せた。それを見たはじめと綺世、参加者一行は感嘆の声を上げた。
「綺麗…」
「これだけでも相当なものだな…」
「そうですねえ…この金も本物の砂金を使ってます。多少痛んでいますが、高額に売れるでしょう」
またもや博識を見せびらかす少年…ここまでよく知っていると不気味なくらいだった。
だが気になるのは屏風本体よりも、そこに書かれている内容だった。
なんて書かれているのか、読み解こうとしたのだが、今度は箱を持った女性が詠み上げた。
「【百石の…船漕ぐ浦の朱の鳥…鳴くや悲しき鵺鳥の…呻吟い居けり逝く水の、われこそ益さめ魔の目…開きにけらしも月虹に染めまし道をたどりゆかむ……山童守りし、玉の元へ…】」
「なんか古文の授業ね」
「この暗号を解いたら…財宝の在処が分かるんだな!」
だが、この時はじめは既に暗号から目を切っていた。
それよりもこのメインロッジに置いてある半獣の置物と8つの日本人形の方が気になって仕方がなかった。半獣の像は赤黒い鉱石を使っているせいか、禍々しさが凄かった。逆にその下に置いてある日本人形は浮いて見えた。
「はじめちゃん?何を見て……趣味の悪い置き物ですね」
「旦那様が置かれたものです、これは…ん?」
岩田は何かに気付いたのか、その半獣像の口の中に手を突っ込む。
「日本人形?しかもバラバラにされた…」
更に異変は続く。
不意に綺世が不快な表情を浮かべたのだ。
「どうした?」
「何か…臭い…」
「臭い…?…確かに…何かが腐ったような臭いだな…それも、ゴホッ…強烈…」
それは徐々にはじめたちだけでなく、参加者全員の鼻も突き始める。
更に置き振り子時計がギーギーと異様な音まで奏で始める。
強烈な臭いに異様な音、嫌なことばかり続く。
岩田はこれ以上お客であるはじめたちを不快させないためにも、急いで振り子時計の扉を開ける。だが、開けた途端に吐き気を催す程酷い腐臭と大量のハエ、そして…人間のバラバラ死体が転がって来たのだ。
「きゃああああああああああっ!?」
その腐臭は途端にロッジ内に充満する。すぐに鼻を塞ぎ、吐き気をどうにか耐える。
だが、綺世は耐え切れずにロッジの外へと飛び出してしまう。
「な、なんだこれは!?」
声を上げ、岩田がゆっくりとその骸を見ると…その主が分かる。
「ご、ご主人様…!」
「!じゃあ、彼がこの企画した…美作オーナー!?」
それが判明した碧はショックで気を失ってしまう。
はじめが支えたことで地面に頭をぶつけることはなかった。
はじめは碧を背負って、別のコテージへと移動させる。
暫くは意識を取り戻さないと思われるため、彼女の世話は綺世に任せることにした。
その間にあの死体を調べようと思ったが…それは不必要だった。
メインロッジから口にハンカチを当てて、少し咳き込むスーツの男、彼はなんと医師だったのだ。
「まさか貴方がお医者様だとは、思いませんでしたわ」
箱の女性は至って冷静に呟く。
まるでこういった現場に慣れているようにも見えた。
「ええ、火村…と申します。本職は整形ですが、以前嘱託医をやったことがありまして…」
「それで…美作オーナーはいつ…」
「詳しい解剖をしないと分かりませんが、致命傷は喉の頸動脈を斬られたことに出血ショック死。あの腐敗度合いから見ても…死後2週間は降らないかと…」
「つまり美作オーナーは、俺たち参加者を決めた後にすぐ殺されたってことか…」
「誰が、ご主人様を…」
「そんなことよりも早く警察を…」
「そいつはぁ無理だ、坊や」
迷彩服を着た男がすぐに言った。
両隣のチリチリ髪の男と少し小太りで禿げた男も同じことを言いたそうな表情だった。
「どうしてですか?えーと…」
「柿本や。右が矢荻で、左が八十島や。ここは携帯電話も圏外、しかも沖に出るボートもない」
「でも緊急の無線機とか…」
「いえ金田一様、それもございません」
「は?」
「ご主人様は『とある一件』で極端な人間嫌いになってしまい、この島の宝探しにのめり込んでおりました。なので、今日皆様をお連れした連絡船が来ない限り警察は…」
「じゃあ!来週まで!?この島に閉じ込められたってことか!?」
はじめは思わず声を荒げる。
らしくないと思ったが、こうでも声を大きくしないとやっていられなかった。宝探しは実質オジャンで、事件を解決しようにも警察も呼べない。
(ああ〜…全て狂った…)
はじめは深く溜息を吐くのだった。
意識を失った碧を見て、綺世は安堵の息を吐いた。
「良かった、目を覚まして…」
「いいえ…お客様の前で失態を…」
「失態って…まさか、宝探しツアーを続ける気なんですか!?」
それを問われた碧は無言で頷いた。
綺世にはとても信じられず、声を荒げた。
「どうして宝探しなんて継続しなくてはならないんですか!?人が……それも、貴女のお父さんが…」
「…別に、私は…お父様が死んでも何も思っていません。あの時倒れたのは、死体を見たからです」
嘘だ、と言いそうになる綺世だったが、彼女の黒く濁った瞳を見て、言えなくなった。碧はベッドから起き上がると、不意にカーテンを広げる。
「見てください、これを」
窓の外には豚や鶏、牛が飼育されていたのだ。
これが何か問う前に、碧は冷たい言葉を続けた。
「これは『この島で生きるために』拵えた、生活の跡です」
「どういう…意味ですか?」
「私の父…美作大介は14歳の時に私をアメリカへ留学させ、自分は宝探しを続けていたんです。もうずっと…。母が死んだ時もあの人は葬式にも来ませんでした。私も…捨てられたも同然でした。だから今回のツアー企画で、私を呼んでくれたことに、大いに喜びました。だけど…」
碧はそこで言葉を詰まらせる。
そこから先は言われなくても、心情は察せた。
「…こう寝てばかりいられません。皆さんにコテージの鍵など、説明しないと…」
「説明って…まさか宝探しツアーを続行する気ですか!?」
綺世からすれば考えられない話だった。
人が、まして碧の父親が惨殺されたと言うのに、宝探しを続けると言うのだ。常人なら考えられないことだった。
「人が殺されているんですよ!?それなのに宝探しって…おかしいですよ!」
「いいえ、おかしくありません。私は、この島の宝を見てみたいのです。全てを狂わせた…禍々しい宝を…」
碧はそれだけ言うと、コテージから出て行く。
綺世は溜息を吐きながらも、碧の後を追うのであった。