金田一少年と神津少女の事件簿   作:GZL

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File5

メインロッジの一室で、はじめは綺世に背中を見せていた。

それを恥じながらも、綺世は何も言うことなく背中に薬を塗る。

 

(…流石に、恥ずかしいな…)

 

綺世を間欠泉から守るためにはじめは背中を犠牲にしたのだ。

岩場と磯だらけの場所で派手に背中をぶつけた彼の背中は見事に腫れ上がり、出血してる箇所もあった。それを見た綺世はすぐに責任を感じて、はじめのために治療すると言い出したのだ。

後から碧に聞かされたのだが、あの場所は定期的に120℃の間欠泉が噴くらしく、立ち入り禁止看板があると言われた。

だが、実際にその看板は取り払われていた。

はじめと綺世はすぐにクリスを疑った。

 

「なあ、綺世…クリスはどこ行った?」

 

はじめは綺世に話を振る。

ちょっと会話をするだけでも羞恥が紛れるからだ。

 

「あれから見てないわ。…はじめちゃんも怪しいと思ってるの?」

 

「当たり前だろ、意図的に誘導したのは間違いない。…多分殺す気だったんだろうな、俺たちを」

 

綺世の手が止まる。

どうやら治療がやっと終わったらしい。

はじめは服を着て、少しだけ背中を摩る。

 

「あんまり触らない方がいいよ?かなり強く打ったんだから」

 

「ああ…ちょっとヒリヒリする…」

 

「全く…私を引っ張るだけで良かったのに。後ろから倒れたら、頭を打ってたかもしれなかったんだよ?気をつけて」

 

「そりゃ…お前は傷ついたら…大変だからな。それだけのことをしただけ……ん?」

 

はじめは言葉の途中で口を止めて、棚に飾られている1つの写真が目に入った。少し古い写真だったが、そこに写っているメンバーにはじめの目が丸くなった。

 

「これ…殺された柿本と美作オーナーじゃないか!?」

 

「え?」

 

綺世もその写真に目を向ける。

確かに今より若いが、柿本で間違いなかった。それだけじゃない、若き矢荻や八十島までいる。つまり…彼らは接点があり、再びこの島に戻って来たということだ。

 

「これは重要だ。聞きに行かなくちゃ…」

 

「待って!」

 

綺世ははじめの手から写真を奪い取る。

 

「はじめちゃんはここにいて」

 

「何でだよ、俺も一緒に…」

 

「少しは休むってことをしなよ。私が聞いて来るから」

 

「だが…」

 

「大丈夫よ!」

 

綺世はそう言うと、メインロッジを飛び出した。

綺世が見えなくなったのを確認すると、はじめは再びベッドに倒れる。

実は背中の痛み、想像以上に響いているのだ。

眠気が急激に襲って来て、気絶に近い形ではじめは目を閉じた。

 

(やっぱり…普通に抱き寄せれば良かった…)

 

 

 

 

 

 

 

 

綺世はコンコンとロッジのドアを叩く。

出て来たのは矢荻、手にはナイフが握られている。

綺世は少し驚いたが、こんな疑心暗鬼の状況では攻めることも出来ない。深呼吸を挟み、綺世は本題を聞く。

 

「少し、話を聞いてもいいですか?」

 

「…なんだ」

 

「この写真に関して」

 

綺世が見せた写真に矢荻の顔色が明らかに変わる。

すぐに扉を閉めようとする矢荻だったが、綺世は間に足を挟んで止める。

 

「…何で逃げるんですか?」

 

「知らねえ!帰ってくれ!」

 

「どうして教えてくれないんですか!?この写真に写っているメンバーに関して!もう既に2人殺されているんですよ!?…何か、やましいことでもあるんですか?」

 

そこまで言うと、矢荻も諦めたのかドアを開けて「入れ」と小さく言った。そして手に持っていたナイフは机にしまい、タバコを1本吸う。

 

「そいつは10年前の写真だ。当時大学教授だった佐伯と俺、柿本、八十島、美作の5人でこの島に宝探しに来たんだ。…懐かしいぜ」

 

「この真ん中の佐伯教授は?このツアーに来ていないようだけど…」

 

「奴は死んだ。発掘調査中に崖から転落して…。頭を割って即死だったよ。それ以来、美作に島の管理は任せて、俺らは別れた。この島に近付くことも、関わることもなかった。あの招待状が届くまではな」

 

「招待状?」

 

「なんだ?気付いてなかったのか、お嬢ちゃん。俺たちは試験なんか受けてねえ、昔の(よしみ)で美作から招待されたんだ」

 

「嘘!?」

 

綺世は衝撃の事実に驚くばかりだ。

美作からの招待は間違いなく嘘っぱちだ。恐らく、今回の招待客全ては犯人によって選ばれたことがこれで明白になった。

 

「これで質問は終わりかい?」

 

「最後にもう一つだけ、この少年は?」

 

「ん?ああ、佐伯教授の息子で、名前は航一郎だ。アメリカ人の女性との間に生まれた…いわゆるハーフって奴だ。今はどこでどうしてるか知らんがな」

 

「ハーフ…」

 

それを聞いた時、クリスの顔が思い浮かんだ。

綺世の表情を見て読み取ったのか、矢荻が更に話を引き延ばす。

 

「そういやあ、お前らクリスのガキに殺されかけたじゃねえか?」

 

「…見てたんですか」

 

「まあな、アイツ…ただのガキに見せかけているが…実際はそうじゃねえ」

 

「何か知ってるんですか?」

 

「アイツは10歳でコロンビア大学の博士号を取得した天才少年だ、IQ180のな…」

 

それを聞いた綺世は絶句する。

IQ180ははじめと同じ数値だ。そんな人間が2人もこのツアーにいるとは思いもしなかった。

 

「まあ…お互いに気を付けることだな

 

綺世は矢荻ロッジを後にする。時計は既に20時半を過ぎている。

少し話し込み過ぎたと思い、綺世は急いで自分のロッジに戻ろうとする。するとクリスが草陰から現れ、笑顔を見せながら綺世に挨拶する。

 

「…クリス!」

 

「矢荻さんと何を話し込んでたんですか?」

 

「貴方には関係ないでしょ」

 

「やけに冷たいじゃないですか?どうしたんです?」

 

いつまでもお惚けをするクリスに嫌気が刺し、綺世はいつもの態度を10歳の子供相手にすることにした。

 

「そうね…貴方が私たちを殺そうとしなければ…友達のように話せたかもね」

 

綺世の口調にクリスの笑顔が無くなる。

流石に彼女の態度が鼻を突いたのだろう。

 

「それにIQ180の天才か…はじめちゃんと同じ頭なのに、考えることは果てしなく逆ね。ガキだから何をしてもいいってわけじゃないのよ?」

 

「……フン、金田一に取り憑いてるフンみたいなあんたには何も言われたくないね」

 

クリスの口調が急激に変化した。

 

「それがあんたの本性…」

 

「どいつもこいつも邪魔なんだよ。僕は絶対に宝を見つけてみせる。そのためなら何だってする、何だって…ね」

 

その時クリスが見せた目は、まるで野獣のように凶暴で底知れない恐怖を感じた。

だが、その後のクリスの発言に…綺世は驚愕する。

 

「それに、あんたと金田一…あんたの方が頭悪いなと思うよ。あんたの爺さんの神津恭介…1つだけ事件を解決し損ねる雑魚だしな…」

 

その時、綺世の腕はクリスの胸ぐらを掴んでいた。

自分は何を言われてもいい、だが…。

 

「お爺ちゃんの悪口だけは……言うなぁ!」

 

それでも拳やビンタが飛ぶことはない。

今、ここで殴ってしまえば綺世はクリス以下の人間になってしまう。

それははじめに教わった、最も大事なことだ。

綺世は怒りに支配されそうになるのを抑え込み、クリスを離した。

 

「次にお爺ちゃんを侮辱したら…許さない!」

 

「…フン。覚えておくといいよ、僕のような純真無垢な悪魔もいるってことを…」

 

クリスはそのまま暗闇の中に溶け込んでいった。

綺世は乱れる息を整えるのがやっとだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

自分のロッジに戻り、ベッドに横になると綺世はクリスの言っていた言葉を思い出した。

 

『1つだけ解決し損ねる雑魚』

 

もちろん許せない発言なのだが、綺世は不思議に思っていた。

 

「お爺ちゃんは…解決しなかった事件なんて1つもなかったと言っていたのに…」

 

誰だって嘘をつくから、気にすること自体がおかしいのだが…綺世はどうしてもその事が頭から離れない。かといって、あのクリスに詳しい事情を聞こうとも思えない。

気にしてもしょうがないと割り切り、寝返りを打って窓の方を見る。

森の奥がオレンジ色に染まり、考え事をしている内に朝になってしまったと思った綺世は時計を見る。

 

「なんだ…まだ2時か…」

 

そう言って眠ろうとしたが、その眠気はすぐに吹き飛んだ。

 

「!」

 

深夜2時でここまで明るいはずがない。

綺世は寝間着のままロッジを飛び出して、明るい方面へと走る。

そして見えたのは、激しく燃え盛る八十島と柿本のコテージであった。

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