金田一少年と神津少女の事件簿   作:GZL

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File6

陽が昇りきったと同時に、はじめと綺世たちは焼け焦げた八十島たちのロッジを眺めていた。消火器も水も持って来れない場所だったため、木製のロッジは完全に黒焦げで原型などなかった。更に飛び火して柿本のロッジまで燃え尽きてしまっていた。

 

「…火元は?」

 

「八十島さんのロッジよ。私が来た時、柿本さんのロッジは少ししか燃えていなかった」

 

「八十島は…」

 

「瓦礫の中をよく見てみろ…」

 

はじめが指差すと、そこには切断された腕があった。恐らく瓦礫の下には他の箇所も転がっているのだろう。

 

「でも何故…バラバラにした挙句にロッジを燃やしたんだ?」

 

「ふん、これも山童伝説だよ…。山童は宝を探しに来た奴らを家ごと焼き払ったと言われているからな!」

 

(たったそれだけのためにするだろうか…何か別の目的があるんじゃ…)

 

はじめが考えている内に、綺世は焼け焦げた腕時計を拾う。

時計の表面のガラスには大きなヒビが入っており、時刻は20時25分で止まっている。

 

「犯人と争った拍子に壊れたようね。時刻は20時25分…」

 

「その時間だと、私と美作碧さんと岩田さんはメインロッジにいましたわ」

 

茅がそう言うと、矢荻も同調して言い出す。

 

「俺も…そこの嬢ちゃんと一緒だったぜ?」

 

「僕のアリバイも証言してくれますよね、神津さん?」

 

不適な笑みを浮かべるクリスにイラつきが生まれるが、綺世は何も言わない。そして、全員の視線ははじめと火村に向けられる。

 

「わ、私は1人でロッジに…」

 

「俺もメインロッジで寝てた」

 

「お前ら2人のうちどっちか…か…」

 

矢荻が憎たらしく2人の顔を舐め回す。

はじめは至って冷静だが、火村は汗をかなり流しており、怪しいとしか思えなかった。だが、ここで綺世が割って中に入り込む。

 

「確かにこの2人には八十島さん殺害のアリバイはないけど…柿本さんの時はどう説明するんですか?2人とも、不可能であることは証明済みよ!」

 

これで押し切られてはもう無理だと判断している綺世。

矢荻は暫く黙っていたが、「ふっ…」と少し笑みを浮かべて踵を返した。

 

「どうやらお嬢ちゃんは大層その兄ちゃんを気に入ってるようだな。じゃあ、俺からもこの事件のヒントになり得るものを渡そうじゃねえか?」

 

矢荻が勝手なことを言うと、懐から何かを投げた。

それを受け取った綺世の手の中には、焼け焦げたテープレコーダーがあった。

 

「これは?」

 

「俺がこの焼け跡で拾ったもんだ。聞いてみな」

 

促されて、綺世はレコーダーのスイッチを入れる。

焼けた事が原因なのか分からないが、途切れ途切れに八十島の声が録音されていた。

 

『私は……歌の…み……違い………ガガガッ……詳しくは…朱のと…』

 

聞こえたのはこれだけだ。

はじめは独り言のように呟いた。

 

「宝の在処を知ったから殺された…ということか」

 

「そうだ。つまり…犯人は、宝の在処を知っていることになる。犯人をとっ捕まえれば、殺人も止められるし宝も手に入る。一石二鳥だと思わねえか?」

 

矢荻の顔には冷や汗が浮かんでいた。

彼は恐れてもおり、興奮もしているのだ。昔の仲間が3人も殺され、次は間違いなく自分が狙われていると…。だが、そんな中でも宝に対する欲望は止められない。

 

(人間の欲望って…なんて恐ろしいんだろう…)

 

矢荻の表情を見て、綺世は心底震え上がる。

だがはじめは…そんな矢荻に言い捨てる。

 

「確かに一石二鳥だと思う…。だがな、この世で1番大切なものは宝じゃねえ、命だ。あんたも…少しは自分の命を守る努力をすることだ」

 

はじめの言葉に矢荻は苦笑いしながら「わーったよ、兄ちゃん」と返した。

ところが…その横でこの会話を聞いていたクリスが…本性を現した。

 

「フン、くだらない」

 

「何?」

 

クリスは10歳とは思えない邪悪な言葉を吐き出す。

 

「宝よりも命の方が大事?バカバカしい、人間なんて所詮欲望には勝てないんだよ。あんたら全員、宝目当てで来たんじゃないか」

 

はじめが怒りでクリスに掴みかかろうとした時、その前に矢荻が掴み掛かった。それは怒りによるものだと思っていたが、次の言葉でそれは消える。

 

「お前…!佐伯の息子だろ‼︎10年前の復讐をしに来たんだな!」

 

その発言に静まり返るが、クリスは飄々と言い返す。

 

「復讐ぅ?何意味分からねえこと言ってんだ?その佐伯って奴に恨まれることでもあんのか?」

 

シラを通していると思っている矢荻は歯をギリギリと擦り合わせたが、最後はその手を離した。その流れでクリスは自分のロッジへと帰っていく。

その様子を見ていたはじめと綺世は小さく話す。

 

「ねえ…『復讐』って…」

 

「ああ、佐伯教授は…もしかしたら…。それとあのクリス…確かに、佐伯教授の息子に似てはいる。…まさかな」

 

 

 

 

 

 

 

 

お互いのロッジに戻った矢荻は、クリスの態度にイラついて戻るなり椅子を蹴り上げた。壁に激突した椅子はすぐバラバラに砕ける。

 

「あのガキ…絶対に佐伯の息子だ…!奴が犯人に決まっている…!必ず尻尾を掴んでやるぞ…」

 

その時、コンコンとドアのノック音が耳に入った。

普段だったら慎重にドアを開けるだろうが、今の矢荻にはそういう冷静さはない。矢荻はイラついたまま、激しくドアを開ける。

だが、ドアの前には誰も立っていない。

何事かと思う前に、ドアの近くに落ちている『ある物』に目が行く。

それは黒い石にしか見えず、拾い上げてよく見た途端に矢荻の顔が一気に弛緩していく。

その口元に不適な笑みを浮かべて…。

 

 

 

 

 

どうにかはじめを無実にする事が出来た綺世は1人、海岸に膝を着いていた。クリスのことと言い、矢荻の態度と言い…何もかもが財宝のせいだと思えてしまいそうだった。

 

「私が…嘘をついてまではじめちゃんをこんなことに誘わなければ…」

 

そうやって呟いていると、不意に足音がして振り向く。

そこにははじめがおり、同じように腰を着く。

 

「いるなら最初から言って。…はじめちゃん以外は信用できない状況なんだから」

 

「いいだろ、なら。それよりもさ…さっきは、庇ってくれてありがとな」

 

「当たり前のことをしただけよ。それにはじめちゃんが犯人なわけないじゃない」

 

「あの時、俺だけアリバイが無かったとしてもか?」

 

「前の事件で私が犯人じゃないと信じてくれたはじめちゃんの期待を裏切るようなことをすると思う?」

 

「…そうだな」

 

そこで一旦の静寂が訪れる。

波は2人の足に触れるか触れないかのところまで来る。

 

「で…はじめちゃんは犯人の目星はついたの?」

 

「全く…お前は?」

 

「私もさっぱり…」

 

もう一度訪れる静寂。波の音だけが綺世の耳に響く。

 

(言うなら…今しかない)

 

綺世は今までずっと隠してきた『ある事実』を言おうと、口を開いた。

 

「はじめちゃん、実は……」

 

その瞬間、先程まで足元にしか来てなかった波が2人の頭から被る。

一瞬にビチャビチャになった綺世はまた言える事が出来ず、「最悪…」と呟き、立ち上がる。

だが、はじめは違った。

波を被っても動かず、目を大きく見開いたまま何かが分かったかのように止まったままだ。

 

「はじめちゃん?」

 

「もしかして…財宝は…いや、だとしても、場所は…」

 

ブツブツと呟くはじめだったが、すぐに考えるのを諦めたのか同じく立ち上がりロッジへと戻っていく。

綺世は少し呆然としながらも、同じように彼の後を追うのだった。

 

 

 

それからすぐに温泉に入り、濡れて寒くなった身体を温めると洗面台へと向かう。はじめには入って来ないように強く言っておいたおかげか、彼はメインロッジにすら入って来ることは無かった。

髪を乾かし、トイレに行く。

入れ替わりで碧が出てきて、「どうぞ」と優しく言ってくれた。

綺世は小さく会釈して、個室へと入る。

トイレの座面に座る前にメインロッジの裏の黒い鳥居が目に入る。

そして、トイレの中蓋を落とし、座った瞬間だった。

 

「…え?」

 

綺世の中で疑問が湧き起こり、ほぼ同時にその答えも分かる。

 

(もし…そうだとしても、『あの人』には…)

 

綺世はそう思いながらも、トイレから出る。

今度ははじめが温泉から出てきたのだが、開口1番、はじめは綺世の髪飾りを指差す。

 

「なんで髪飾り黒いんだ?」

 

「え?」

 

言われた通りに、髪飾りを見ると、銀色だったはずの髪飾りは黒に変色していた。それを見たはじめは何か分かったようで、すぐに広間へと戻る。そして、あの山童像の一部を砕く。それを今度は温泉へと投げ入れ、様子を見る。

 

「何してるの?」

 

「よく見ろよ、綺世」

 

はじめが見詰める先では、赤かった山童像の破片がみるみる内に黒く変色していった。綺世の髪飾りと全く同じことが起きたのだ。

 

「え!?これ…どういうこと?」

 

「まだ分からないのかよ綺世。…謎は、全て解けた」




多分次回、この章終わりです。
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