金田一少年と神津少女の事件簿   作:GZL

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特殊タグを入れています。
以前の話や最新話にも入れられる箇所があれば、入れて行こうと思います。




File7

変色していく石を眺めつつ、はじめはふと腕時計を見る。

既に長針短針共に12を指しており、はじめは大いに焦る。

 

「綺世!今すぐ全員を黒い鳥居の前に集めてくれ!」

 

「わ、分かった…!」

 

はじめは先にロッジ裏手の崖を降りて、黒い鳥居へと駆ける。

そこには、昼間にはなかったはずの洞窟が現れていたのだ。

 

「これが『魔の目』か…!クソッ!」

 

中にまだ殺人犯がいるかもしれないと思いながらも、はじめは洞窟へと突っ込んでいく。そして少し進んだところで…海水に頭を突っ込んで生気の失った矢荻が倒れていた。すぐに抱き起こして、その顔を見るが…もう事切れていた。

しかし、矢荻は最後の最後にはじめに残った謎を解き明かす手がかりを残してくれていた。はじめはそれを受け取り、矢荻の目を閉じさせて再び地面に置いた。

すぐに綺世が呼んだ招待客たちが洞窟へと入って来た。岩田が護身用に猟銃を持っていたが、今はそんなこと気にしていられなかった。

 

「矢荻様…!?」

 

「…一足遅かったよ」

 

矢荻の骸を前にした岩田の表情は徐々に鬼気迫るものへと変化していき、クリスにその銃口を向けた。突然の行動にクリスはもちろん、全員が驚く。

 

「な、何を!?」

 

「クリス様!犯人は貴方ですね!」

 

「何を言ってるんだ!?馬鹿馬鹿しい!」

 

シラを切るクリスに岩田は、ポケットから1枚の紙を取り出した。

それははじめたちをこのツアーの参加を認める招待状だった。余裕そうだったクリスの表情が、招待状を出された途端に動揺する。

 

「茅様…招待状、見せて頂けませんか?」

 

「ええ」

 

茅が見せた招待状とクリスの招待状…この2つには明確な違いがあったのだ。岩田が示した漢字…茅のものには『完璧』とあったが、クリスのものは『完壁』になっていたのだ。

 

「あっ!」

 

「そう、つまりこれは偽物です!…貴方が旦那様を含めた4人を殺した殺人鬼です!それと前々から思ってましたが、貴方は佐伯教授の息子…航一郎様ですね!」

 

「違う!俺は航一郎なんかじゃない‼︎その招待状も何かの間違いで…!」

 

「ああ、間違いだ」

 

ここではじめが割り込み、向けていた銃口を下に向けさせる。

 

「金田一様!?でもこの招待状が…」

 

「よく考えてみてくれ。PCでどうやって『完壁』なんて打てるんだ?一回『完璧』と打って、『璧』を消さないとそうはならない。つまり、クリスは罪を被されようとしたってことだ」

 

「…不愉快だけど、そうね」

 

綺世も同意する。

 

「だけど、そんなまやかしも終わりだ。美作オーナー、柿本、八十島、そして矢荻を殺した犯人は、この中にいる」

 

そう告げるはじめだったが、早速反論が雨のようにやって来た。

 

「でも!柿本さんの時、ここにいる全員にアリバイが…」

 

「ああ、そうだな。柿本が『あのロッジで』殺されていたならな」

 

その言葉を聞いた綺世は漸く分かった。

 

「まさか、柿本さんだけでなく、八十島さんも…ここで!?」

 

「ああ、この魔の目の中で殺されて放置されたんだ。バラバラにしたのも、ここに運びやすくするために山童伝説を利用しただけだ」

 

「でも金田一さん、そうだとしたら柿本さんのロッジの中の血はどう説明するんですか?アレは血糊でもなかった」

 

「ああ、確かに血だった。まあ、人間じゃなくて鶏か豚のだけどな」

 

その発言に全員が戦慄する。

 

「この島で自給自足で飼われている鶏を何鳥も殺し、その血を撒き散らしたんだ!これで柿本殺害時のアリバイが完成する。だけど、1つ問題が発生する。島に警察が来て、あのロッジの中を調べられれば、人間の血でないことくらいすぐに分かる」

 

「そこで…八十島さんを殺すついでにロッジに火を付けた…。証拠隠滅を図るために」

 

「ああ、お陰で血も何もかもが灰になった。証拠は消えた」

 

「では…あの火事も本当は山童の仕業などではなく…」

 

「当たり前だ。そんな怪物がいてたまるか」

 

はじめの推理を聞いた全員は押し黙って、お互いに顔を眺め合うが、誰かまでは分からない。それを悟ったはじめは、小さく呟いた。

 

「なあ、クリス。柿本のロッジが燃えたのは、何故だ?」

 

「はあ?八十島の火が燃え移ったからだろ?それで何が…」

 

「そうだ!つまり、柿本のロッジが燃えるには隣に八十島か矢荻のロッジがなくては、このトリックは成立しないんだ」

 

それを聞いたクリスがハッとなり、ゆっくりと視線を後方へと向ける。同じように岩田、茅、火村も1人の女性に目が行く。

『彼女』は、やっと自分のことを言われているのだと気付く。

 

「まさか…私が犯人だと言いたいんですか!?」

 

「ああ、そうだ。招かれざる客…4人も殺した冷酷な殺人鬼は、あんただろ?美作碧‼︎」

 

はじめに言い切られた碧は一瞬言葉に詰まる。

 

「それに…あんたは朝に豪勢なチキン料理を出してくれたな?アレが柿本のロッジにばら撒いた鶏の本体だろ?」

 

その発言に碧の目が大きく見開かれる。

追い詰められている…そう見て取れるはじめだったが、碧は瞳に涙を溜めて否定する。

 

「私はお父様を殺されているんですよ!?それに…私は女性ですよ!?柿本さんたちみたいな大柄な男性をいくらバラバラにしても…持って行けると思いますか!?」

 

その反論に、綺世が静かに答えた。

 

「…女性…ね」

 

綺世がゆっくりと向き直り、彼女の前に立つ。

そして彼女の服を掴むと、無理矢理下へと引き千切った。

突然の行動にはじめは「おい、何やって……!」とまで声を上げたが、彼女の素肌が露わになった瞬間…息を飲んだ。

女性にあるはずの乳房がなく、代わりにポトリと胸状のものが落ちたのだ。

 

 

そう…今目の前にいる美作碧は女ではない、男だったのだ。

 

 

予想外すぎる展開にはじめも困惑していると、綺世が口を開いた。

 

「犯人は貴方よね、美作碧…ではなく、佐伯航一郎!」

 

綺世が告げた名前に航一郎は目を見開く。

 

「こいつが男…?そんなバカな!」

 

火村も動揺しすぎて、声を大きく上げる。

はじめも驚きのあまり固まっている。

 

「15歳の男の子が17歳の男に化けるには無理があるけど、17歳の女性に化けるなら体格的にも可能だわ。貴方はそうやって、碧さんになりすまして、復讐していった」

 

「……何故…何故俺が男だと分かった!?俺はあんたらには一切の隙も見せなかったはず」

 

碧の可憐な声はどこかへと消えて、耳に入って来たのはまだ若さが残る男性の声だった。

 

「ええ、完璧だったわよ。トイレの中以外ではね!」

 

「トイレ?」

 

「ここに来る前、私と貴方はトイレの前で会ったわよね?そして、私は入れ替わりでトイレに入った。そこで気付いたのよ、貴方が男だと!」

 

「何を言ってやがる…」

 

「トイレの便座よ。私がトイレをする時、便座が上がっていた。つまり…私の入る前にいたのは男だったってわけよ!」

 

それを指摘された航一郎は思わず目を開いた。まさかそんなことでバレるとは思ってもみなかったのだ。

 

「どう?まだ何か言いたいことある?」

 

「…ねえよ。俺の復讐は()()完了したんだ。もう逃げも隠れもしねえさ」

 

『大方』というところが気にはなったが、綺世は静かに航一郎の話を聴くことにした。

 

「何で?復讐なんか…」

 

「何でだと?俺みたいにクソみたいな人生を歩まなきゃ分からねえよ!まあ教えてやるよ、俺の父さんは…あの4人に殺されたんだ‼︎宝の在処を知った父さんは、俺だけをここに案内してくれた。父さんは宝を国に寄付するつもりだった。だが、欲深いあいつらは父さんを追い詰めた挙句…崖から突き落としたんだ‼︎当時3歳だった俺は、無力だった。だから…いつか父さんの仇を討つために生きてきた!そして…この手で」

 

「…聞いてみれば、子供の癇癪ね」

 

綺世の冷たい言葉が航一郎の耳に入る。

 

「お父さんの復讐?じゃあ、何のために私たちや火村さんに茅さんにクリスを呼んだの?クリスは罪を被せる役、私たちはお互いに疑心暗鬼になって…いつ殺し合いになってもおかしくなかった!結局貴方も、私たちを苦しめたのよ!」

 

「違う!」

 

「何が違うよ‼︎美作碧のフリをしたのも、美作家の財産を狙ったんじゃないの?」

 

「違うっ‼︎」

 

「それに本物の美作碧も、貴方が殺し…」

 

違うッッッ‼︎‼︎

 

航一郎の怒気が籠った声に綺世は思わず口を止める。

航一郎は何故か震えていた。聞かれたくない子供が怯えて、逃げ出す寸前のような感じだった。

 

「お前たちに…お前たちなんかに…『俺たち』の苦しみが分かってたまるか…!碧は……碧はッ‼︎」

 

その瞬間、銃声が洞窟内に轟く。

弾は航一郎の腕を貫き、その反動で彼は倒れる。

 

「うあッ!?」

 

「な!?岩田さん!なんてことを…!」

 

綺世が詰め寄ろうとした時、今度は綺世の真横を銃弾が横切る。

 

「!?」

 

「動くなよ、名探偵ども。…私も宝を狙っていた1人でね…、この時をずっと待っていたんだよ…」

 

岩田の醜悪な笑みが溢れる。

猟銃を持っている岩田に対抗出来るはずもなく、はじめたちは奴に従うしかない。

 

「さあ、行こうか…宝守りし玉の元へ…」

 

 

 

 

 

 

岩田に脅されながら、洞窟の奥へと進み、重厚な扉を開けると、目の前に山のように積まれた金塊と巨大な山童像が目に飛び込んだ。

岩田は我先へと飛び出して、下卑た笑いを浮かべ続ける。

はじめたちはそんな岩田に軽蔑の眼差しを向けていたのだが、岩田はピタリと笑いを止めるとはじめたちに銃口を向けた。

 

「謎を解いてくれて助かったよ、金田一はじめに神津綺世…。では、ここでおさらばだ」

 

最初ははじめに向けられる。

どうすることも出来ないはじめは、ただ引き金を引かれるのを待つしかなかった。諦めて目を閉じたと、同時だった。

はじめのすぐ後ろから銃声が響き、岩田の右肩を貫いたのだ。

 

「ぐっ!?な、何!?」

 

視線を向けると、茅が例の箱から拳銃を取り出していたのだ。

彼女を宝を独り占めにする気なのかと思われたが、すぐにポケットから警察手帳を取り出す。これにははじめも唖然とした。

 

(あの時…手を出さなくて正解だった…)

 

「騙してごめんなさいね、私は岩田を追ってこのツアーに紛れ込んだの」

 

つまり、彼女も『招かれざる客』というわけだ。

 

「岩田…殺人未遂に加えて、保険金詐欺の容疑で逮捕する!もう逃げられないわよ」

 

形勢逆転を食らう岩田を打たれた肩を抑えながらもジリジリと後ろに下がる。

 

「くっそ〜…こんなところで捕まってたまるか…!ここまで来て…」

 

岩田が後ろに下がったことで、彼の身体が金塊と当たる。

すると、山童像がグラグラと揺れ出し、前のめりになって倒れる。

 

「!」

 

「なっ!?ぎゃああああああッ!?」

 

岩田は逃げ遅れて、その像の下敷きになる。

何とも呆気ない最期に全員が黙っていると、不意に洞窟内部に割れ目が至る所に出来る。

 

「な、何だ!?」

 

「まさか…宝を守りし山童って…今の像のこと!?」

 

「そうか!財宝を動かそうとすると山童像が倒れて、洞窟全体が崩れる仕掛けか!今すぐに戻るんだ!」

 

全員が急いで洞窟の入り口へと駆け出す。

途中途中落石が発生して、誰かしらぶつかりそうになるが、逃げ出しが早かったお陰で全員洞窟から抜け出すことが出来た。

クリスと火村は緊張が一気に解けたのか、ぺたりと尻餅を着く程だった。

だが、綺世は1人…足りないことに気付く。

 

「ねえ!佐伯航一郎は!?」

 

「あいつ…銃で撃たれて動けなかったのか!?」

 

思わず助け出そうと思ったはじめだったが、洞窟は崩壊寸前で今戻れば助かることはないだろう。

だが、綺世は航一郎が最後に見せたあの態度が気になった。

死の恐怖に負けそうになりながらも、綺世は1人駆け込んで行った。

 

「おい!綺世‼︎」

 

はじめの静止も聞かず、綺世は止まらない。

最後に綺世の耳に残ったのは、崩れ落ちる岩石の落下音とはじめの叫ぶ声だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

暗闇の中で、航一郎は目を覚ます。周りは岩だらけで、抜け出す道はない。しかし、撃たれた左腕には止血のためか…破かれた布が巻かれていたのだ。

 

(誰が…)

 

不思議に思いながら、ふとそのまま左側を見ると、なんと神津綺世が隣で座っていたのだ。航一郎が目を覚ましたことに気付いた綺世は「…どうやら、まだ死んでないようね」と暢気なことを言う。

 

「…はっ!笑えるぜ、助けてくれたってのか?どうせ生き埋め同然だ。一緒に三途の川を渡るつもりか?」

 

「まっ…そうなるわね。でも、あの世に行く前に聞きたいことがあるのよ」

 

「その勇ましさに免じて、答えてやるよ。で、何だ?」

 

「美作碧はどうしたの?」

 

それを聞かれた航一郎の顔が一気に固まる。

 

「今回の計画は、まず美作碧がツアーに来ることが分かっていないと実行出来ない。つまり、あんたはどこかで会っている。……やっぱり、殺したの?」

 

暫くの静寂の後、航一郎は静かに語り出した。

 

「偶然だった…『碧』と会ったのは。俺は両親を失い、アメリカにいる養父に渡され、地獄みたいな生活を送っていた。そんな養父から逃げ出し、ドブみたいな生活を送っている時に、碧とたまたま会った」

 

「………」

 

「確かに最初は利用しようと思った。こいつを殺して、復讐の足掛かりにしようとな…。でも、碧と触れ合っていく内に、彼女の苦悩も知った。…俺が気絶したふりをした時に、碧の境遇を語ったよな?あれは事実だ。気付けば俺と碧は、恋仲になっていた」

 

「まさか…この計画は碧さんも絡んで…」

 

「んなわけねえだろ。碧を巻き込めるかってんだ」

 

「じゃあ、生きてるのね?」

 

一拍置いて、航一郎は淡々と言った。

 

「自殺したよ」

 

「!」

 

「碧は美作から10年ぶりに来た手紙を見てすぐに、自殺した。遺書にはその内容も書いてあったよ。内容は…『財宝ツアー』の手伝いだ。だが、その文面には…碧についての記載は何一つなかった!全てツアーの日程、役割…まるで奴隷のような書き方だった!」

 

航一郎の言葉に怒りがヒートアップしていく。

綺世は、今回の殺人の本当の理由(わけ)を聞いているのだ。

 

「挙句には…仮に財宝が見つかっても、ツアー参加者を全員ぶち殺して財宝を独り占めにするとまで書いていたんだ!猟銃による…同士討ちってことでな…。だから財宝探しの手伝いをするために、お前も戻って来い!お前は俺の娘だ‼︎…というところで、手紙は終わっていた。その手紙の内容に絶望した碧は、自殺した。遺書にはなかったが、恐らく俺の親父を殺したことも書いてあったに違いない」

 

「…自殺することで、彼女なりの罪滅ぼしをするつもりだったのよ」

 

「ふざけるな‼︎誰が死んでくれって頼んだんだ!俺は…俺は碧とずっと一緒が良かったんだ‼︎…俺と…一緒に…」

 

航一郎は流した涙を拭う。

 

「全てが憎かった。親父を殺した奴らはもちろん、財宝そのものにも‼︎そして…財宝に群がるお前らもだ!だから、貴様らが同士討ちで死のうが生きようが、俺にはどうでも良かった‼︎俺は…この島の財宝そのものに1番復讐したかったんだ‼︎」

 

「…そう」

 

「俺も碧もこの財宝に狂わされた…。でも、俺は親父の復讐を終え、財宝も瓦礫に埋もれさせた…。全て終わったんだよ…。あとは、ドブネズミが奈落の底でくたばるのを待つだけだ」

 

綺世は何も言わずに立ち上がる。

 

「大人しくしてろよ、名探偵。このまま窒息死で仲良く逝った方が楽だぜ?」

 

「うるさいのよ、ガキのくせに」

 

突然、綺世の口調が厳しくなる。

 

「何だと!?」

 

「自分の不幸を他人のせいにするのは、ガキだって言いたいのよ‼︎」

 

その言葉に激怒した航一郎は右腕で綺世の胸ぐらを掴むと、至近距離で怒鳴る。

 

「ふざけんじゃねえ‼︎テメエに…テメエに俺たちの何が分かるんだ!?」

 

「何も分からないわよ‼︎親を失ったこともないし、泥水を啜ったこともないし、恋人を失ったこともない‼︎」

 

『失いかけた』と言いたかったが、そこは抑える綺世。

 

「でもね、どんな暗闇の中でも…逃げ出さずに足掻いて見せれば…輝く運命を見つけることが出来るのよ‼︎

 

「‼︎」

 

今度は綺世が航一郎の胸ぐらを掴み、叫ぶ。

 

「あんたは何をしたの!?暗闇の中で、復讐のことだけを考え続け…光のある方向へと行こうともしなかった。そんな奴が…ベラベラと語ってんじゃないわよ‼︎」

 

そのまま突き飛ばすと、綺世は1つの岩を掴んで自分の方向へと動かそうとする。しかし、身体に力が入らない。その理由は航一郎が見つける。

綺世の右足はおかしな角度で曲がっていたのだ。

 

「お前…」

 

「あんたは男でしょ?自分の未来くらい……己の手で切り開いて見せなさいよ……っ」

 

綺世は力を込めて、岩を動かそうとするが、ピクリともしない。

1人では無理…と思った時、後ろから航一郎が残った右腕だけで綺世のすぐ横で同じように岩に手を置く。

 

「…そうよ!闇の中では足掻いている姿が見えなくても…諦めなければ…必ず……‼︎」

 

その瞬間、岩が崩れ落ちる。

そして、2人の頭上から一筋の光が漏れる。

それを見た2人は暫し呆然としているが、航一郎は涙を流しながら笑い始めた。恐らく、今まで…こういったことが一切起きずに絶望していた彼の心が、綺世の思いを受け入れたことによるものだろう。

 

「…さあ、行きましょうか」

 

綺世は航一郎に肩を借りつつ、この洞窟から脱出するのであった。

 

 

 

 

それからすぐに茅が呼んだ警察によって、航一郎は連行された。

2人は一切目を背けず、航一郎が見えなくなるまで…黙っていた。

連行する船が見えなくなったところで、茅が呟く。

 

「これでこの島が届ける悲しい報せも終わりね」

 

「ええ…」

 

「にしても、15歳のガキが4人も殺すとは…俺には信じられねえぜ」

 

応援で来た剣持が頭を掻きながら呟く。

 

「恐ろしく頭のいい奴だったよ…。謎が解けたのは、本当に運が良かっただけだ」

 

「ふん、何が運が良かっただ」

 

ふと、隣にいるクリスが食いかかってくる。

 

「金田一はじめも神津綺世も…どちらかの推理が欠けていたら、あいつを犯人と決めつけられなかったじゃないか?何が名探偵の孫だ」

 

はじめも綺世もやはり1発ぶっ飛ばさないと気が済まないと思ったのだが、茅が2人を止めてクリスの横で何か耳打ちする。

すると…クリスの表情が見る見る内に赤くなっていき、逃げ出すように4人の前から姿を消した。

 

「あのお…何を言ったんですか?」

 

「別に、そもそも宝の在処すら見つけられなかった貴方は2人よりも格下のクソ王子なんじゃない?と言っただけよ?」

 

「………」

(えげつねえ…)

 

それで茅は先にはじめたちと別れる。

はじめは青く澄み渡る空を眺めつつ、ふと呟いた。

 

「はあ…財宝も土の下で取り出すことなんて出来ねえし…これからどうしたものかなあ」

 

「あ…はじめちゃん…実は……その…」

 

綺世が何か言おうとしてるのだが、恥ずかしいのか、ただ単に滑舌が悪いのか…はじめの耳には何も聞こえない。

 

「何だ?はっきり言えよ」

 

はじめにそう言われて、綺世は漸くまともな言葉を話す。

 

「実は…はじめちゃんの家が借金した話は…う、嘘なの」

 

「………は?」

 

間抜けなはじめの返事が返ってきて、綺世は一瞬笑いそうになるが堪える。

 

「あの喫茶店で別れた後…はじめちゃんのお母様から電話があって…借金の件は全て嘘だって…。はじめちゃんのお母様は、どこか旅行へ行くために資金が欲しくて、今回の件を仕組んだらしくて…」

 

「………」

 

「私がついてきたのも…はじめちゃんが見つけられるか分からないから、サポートしてくれって…」

 

「嘘だ」

 

はじめは信じられないかのように首を振る。

その姿は剣持が見ても儚く、可哀想なものだった。

 

「あんなに涙を流して、何度も謝っていた親父とお袋がそんな馬鹿げた嘘を言うはずがない…!」

 

「いや…その……」

 

「本当か?」

 

綺世の足の怪我があるのも忘れて、綺世の肩を掴んで何度も揺らす。

 

「本当…だよ?」

 

綺世の瞳の中をじっくりと見る。

何を言われるのか、恐怖で固まっている綺世だったが…それは杞憂に終わる。

 

やったああああああああああああああ‼︎

 

剣持と綺世は唖然とする。

はじめの歓喜の声が沸き起こる。

 

「これでもう…将来のことを考えなくていい!のんびりと楽園生活を送れる‼︎寝れる…!サボれる…!ああ、なんて最高なんだ!」

 

あまりに間抜けなことを言い連ねるはじめに綺世は呆れよりも先に怒りが沸々と込み上げて来る。何をあそこまで悩んでいたのだろうか…と。

それにより、綺世は思いっきり彼を海へ向かって突き飛ばした。

 

「お、おいっ!?」

 

「このバカ‼︎海に浸って頭でも冷やせ‼︎」

 

バッシャーンと大きな飛沫を上げ、はじめは盛大に海へと落ちる。

その様子を見る剣持は、「やれやれ…これがこの島で起きた最後の悲しい報せ…かな」と呟くのだった。




『悲しき報せは止まらない』、これにて完結です。
いつも通り最終話だけ長くなりました。
補足として1つだけ説明させて頂きます。
火村生存に関してですが、正直殺す意味がないと思い、生存させました。



次章予告『ねじれた傀儡(くぐつ)(いざな)い』
とある日、神津綺世の元に謎の招待状が届く。中にはねじれたマリオネットが共に入っており、怪しさを感じながらもその招待を受けることにした。
綺世とはじめたちは、マジックショーをやるという死骨ヶ原へと続く列車に乗り込む。そこで綺世は、彼の祖父:神津恭介が関わった事件を知る。そして、悪夢の殺人劇が始まり、魔の手は綺世にまで及ぶ。

さよなら…若き名探偵…

い…いや…!誰か…はじめちゃ……!
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