はじめたちの爆弾騒ぎはすぐに列車全体へと広まった。
列車は即座に次の駅で止まり、乗客は全員急いで降りていく。その中には当然幻想魔術団のメンバーも含まれるのだが、未だに団長の山神が見つかっていないと喚いている。そんな話を小耳に挟みつつ、はじめたちも列車から降りていく距離を取るのだが、はじめの表情は納得してないように見えた。
「おっさん、本当に爆弾なんてあるのか?」
「はあ?さっき見ただろ?あのサラダが吹き飛ぶ瞬間を!」
「でも…あれじゃ!」
「金田一くんの言っていることは正しいと思いますよ?剣持くん」
嫌味ったらしい声にはじめ、綺世、剣持はビクッとする。
ゆっくりと振り向くと、ボストンバッグを持った明智警視が立っていたのだ。
「あ、明智警視!どうして…ここに!?」
「プライベートですよ、まさか君たちも乗っているとは思いませんでしたけどね」
「でも、本当に爆弾があるかもしれないじゃない。どうして…」
「お前のところに来た脅迫状を思い出せよ。奴は
「…そうだけど…」
「まあ、こうして全員列車を出てしまった以上、その脅迫状の主の思惑通りですね。大人しく待って…」
明智が話してる時、花火が打ち上がる甲高い音が響く。
それははじめたちがいた食堂車から発射されたもので、ある程度上空まで上がるとパン‼︎と鳴ると、上空からバラが雨のように降り落ちてきた。やはり爆弾はハッタリだったのだ。
「貴女に送った脅迫状主は、どうやらバラが大好きのようですね」
「…そのようね」
それからすぐに列車は運転を再開した。客の間ではこれも幻想魔術団が仕組んだ催しなのではと言われているが、はじめと綺世はそうだとは思っていない。
4人は明智が寝泊まりしてる最高級の部屋の中に入っていた。
珍しく綺世は目を輝かせていて、部屋の雰囲気を堪能している。
そんな彼女を無視して、はじめは明智に聞く。
「明智さんはどうしてこの列車に?」
「この魔術団のマジックショーを見るためですよ。毎年必ず見に来ているんです」
「色んな趣味を持つのは良いことですよ、誰かさんとは大違い」
綺世ははじめに視線を向けながら言う。
「別に、熱中出来ることがあればいいんだよ」
「熱中出来ることって?何?」
「はいはい、どうでもいいから…それで、あれから何かあったか?おっさん」
「何にもだ。あの爆弾騒ぎ以来、何にも起きていない。…ただのイタズラかもしれねえな、こりゃ」
「だと、いいんだが…」
「明智さん、そのパンフレットは?」
「今回行うマジシャンたちの紹介が書かれているものですよ。順番に紹介してあげましょう」
綺世はウキウキでパンフレットを開き、中身を見る。
まず最初に紹介されたのはあのセクハラ野郎の由良間だった。
「彼のスタンダップ・マジック世界レベルです。まあ、気位が高いのが傷ですが…」
((あんたが言うな))
はじめと剣持が同時に思う。
次に書かれていたのが先ほどグラスの中の水を操るマジックを披露したマーメイド夕海こと山神夕海、あの団長の妻らしい。
「彼女はウォーターマジックの天才でしてね。私も目を見張るものが
明智警視の一言にはじめが少し反応する。
何か事情があるのかと思えるとも捉えられる言い方だった。
「次にカードマジックの左近時、陽気な性格で客を楽しませる点では素晴らしいですね」
「あれ…この人、カードマジックでしたっけ?」
「綺世、会ったことあるのか?」
「私が幼い時にお爺ちゃんがここに連れて来てくれたの。そこでマジックショーも見たのよ?でもその時、ここにいるメンバーって…そこまで有名じゃなかったような…」
「ええ、山神夫妻、由良間、左近時など、最初期のメンバーは『とある人物』の陰に隠れていました。それが…私が唯一史上最高のマジシャンと思っている近宮玲子です」
明智がパンフレットの1枚をめくると、40代中盤の女性の写真が載っていた。綺世はこの女性の顔を見るなり興奮する。
「そうそうこの人‼︎この近宮さんのマジックが凄くて、それしか記憶に残っていないの」
「それはそれで問題だな…。そうだとしたら彼女の独壇場じゃねえか」
「それくらい彼女は別格だったんですよ。…もう見ることは出来ませんがね」
明智の言う通り、彼女の写真の下には享年45と記されていた。
綺世は少しがっかりしたような表情を浮かべる。
「まあ、彼らはその近宮さんのお弟子さんたちなんだし、結構良いマジックとか披露するんじゃねえか?俺は寝るけどな」
「はじめちゃん!何失礼なこと言ってるのよ‼︎」
「俺はマジックになんか興味ねえんだよ」
「そういうのが良くないって言ってるのよ!」
そんな夫婦喧嘩を繰り広げていると、不意にあの携帯が再びコール音を奏でた。それにより、一気に緊張感が張り詰める。
「…例の、ですか?」
「ええ、もしもし?」
「どうでしたか?私の華麗なマジックは」
「…そうね。魔術団よりも100劣る不愉快なものだったわ」
「そう言うと思ってましたよ。お爺様と違い、冷静さがない」
「うるさい‼︎あんたがお爺ちゃんのことを言うな‼︎」
落ち着きを失う綺世。前回の悲報島でクリスにも祖父の神津恭介を侮辱され、それが気に障っていたのだ。
「そんな怒鳴っている場合ではないですよ?そろそろ私のマジックショー第二部が始める…!」
「何を…」
「キャアアアアアアアアアアアアアアアアアアァッ‼︎‼︎」
その時、列車内に甲高い悲鳴が走る。
それと同時に電話は切れる。
何があったのか、すぐ様明智の部屋を飛び出して悲鳴のあった方向へと走る。そして、尻餅をついた残間さとみが部屋の1点を見て、完全に呆然としていたのだ。
「どうしました?」
「あ、あれ…」
彼女が指差す先、それを見たはじめたちは戦慄した。
部屋の中は風船と赤いバラで満たされていた。その中央には黒いマントを羽織ったジェントル山神が横たわっていた。しかし、その頭部にはこめかみから突き抜けた1本のナイフが突き刺さっており、生気がないのは明らかだった。
「山神…さん」
さとみの悲鳴に他の団員も駆けつけ、山神の死体に動揺する。
「あ、あなた!」
「団長!どうして…!一体誰が!?」
「地獄の傀儡師め!まさか殺人をやるとは…!」
剣持は遺体に触れようと思ったのだが、バラの棘が邪魔で近付くことすらままならない。どうしようかと思っていると、山神の死体から煙が立ち込み始める。
「な、なんだ!?」
「まさか、爆弾!?」
「みんな!伏せるんだ‼︎」
剣持は急いでドアを閉めると、全員を部屋から離れさせる。
そして、はじめと綺世の上に剣持が覆い被さるように伏せる。すると、すぐに風船が弾ける音が何十発と響き、列車内に静寂が訪れる。
「終わり…?」
「さあ…」
はじめがゆっくりとドアを開ける。
するとまず鼻を突く火薬とバラの匂い、その強い刺激臭に顔を歪めるのだが、それはすぐに吹き飛んだ。何故なら、先程までそこで頭部を貫かれて、息絶えたはずの山神の死体が消えていたからだ。
「ど、どういうことだ!?死体が消えちまってるぞ!」
「確かに、あれは死体だった。作りものじゃなかった!」
「…ああ」
しかし、そんな発言を無視して左近時がタバコに火を付けてこんなことを言い出す。
「これ、山神団長の新しいマジックなんじゃないですか?それならかなり凝っていて、素晴らしいと思うけどね!」
左近時の発言に誰も何も言えない。
と思われたが、明智と剣持が「一応、列車が終着駅に停まり次第荷物検査をする」と言った。それに由良間が噛みつくが、2人が警察手帳を出すと、すぐに黙った。その時の団員の動揺ぶりに綺世は怪しく感じたが、あまり深くは入り込まず、終着駅まで休むことにした。
終着駅:死骨ヶ原に着いても、山神団長の姿は見えなかった。
はじめたちは荷物を担ぐと、ホテルの中に入る。見た目の古臭さとは裏腹に、中身は非常に豪勢で綺麗な空間だった。
「ようこそ…いらっしゃいませ。
「よろしくお願いします、神津と申します」
「神津?」
ピクッと綺世に反応する支配人の長崎。
何か言おうとするが、更に後ろからやって来る団員たちに視線を移す。しかし、その目ははじめたちに向けたものと違い、酷く冷め切ったものになった。
「長崎さん、ご無沙汰してます」
「
「…!」
「あんなこと?」
「いえ、こちらの話です。どうぞ、剣持様。お部屋までご案内します」
はじめたちの部屋に通された後に、1つの扉が開く。
部屋の前に置かれた荷物を中へ入れると、ニヤリと笑みを浮かべる。
それから数十分後、フロントへと歩みを進める仮面を被った者。
借りていた鍵を返し、長嶋の制止を無視してホテルから出て行く。
長崎が列車はもうないと再度伝えようとしたが、既にその者の姿はなかった。
それからすぐだった。
綺世の懐に入れられていた電話がコール音を奏でたのだ。
飛び起きて、綺世は電話を手に取る。
「ようこそ、死骨ヶ原へ」
「地獄の傀儡師…!あなた…山神団長をどこへやったの!?」
「あら?もう返しましたよ?」
「は?何言って…」
その時だった。
「うわああああああああああああぁっ!?」
ホテルに響く悲鳴。
綺世が外に出ると同時に、電話から聞こえた声に綺世はゾクリとした。
「始まりますよ…恐怖のマジックショーが」
それで電話は切れる。
綺世の部屋のすぐ近くのところで、桜庭が腰を抜かして震えていた。
先に出ていたはじめが桜庭が震えて、部屋の中を指差す。
「あ、あれ…」
「部屋の中に…何があるんだ?」
剣持の疑問を解決させるために、はじめはゆっくりとドアを開けた。
その瞬間、はじめたちは戦慄した。
「!!」
「うっ!?」
確かにそこに…山神団長の“身体”はあった。
だが、その身体は首も手足も全てバラバラに切断され、それぞれが天井から紐でぶら下げられ、さも繋ぎ合わされている無残な状態だった。
しかし、その光景にはじめと綺世には見覚えがあった。
警視庁に届けられたあのねじれたマリオネット…それと全く同じ構図だったのだ。そこで初めて…はじめと綺世は、あのマリオネットが殺害予告状であったことに気付くのだった。