金田一少年と神津少女の事件簿   作:GZL

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女性の悲鳴が聞こえたはじめたちは一斉にコーヒーカップを置いた。

誰の悲鳴かと思っていると、速水オーナーは「玲香だ!玲香は今風呂に…!」と呟いた。はじめたちは風呂だろうが何だろうが、悲鳴があった場所へと急いで急行する。

最初にはじめがドアを開けて「玲香ちゃん…だいじょ…」と『大丈夫』まで言おうとしたところで、彼の口は止まってしまった。

 

「金田一くん‼︎」

 

裸にタオル1枚で飛び出してはじめに抱きつく玲香に言葉が完全に止まってしまったのだ。更にこの光景ははじめだけでなく、後ろにいる全員で見られており…はじめは意識を失いそうな羞恥と動揺を同時に味わってしまう。

 

「れ、玲香ちゃん…流石に…離れて?」

 

「そこに誰かいるの!」

 

「へ?誰か…って…」

 

湯気で少し視界が悪い中でも、窓ガラスに張り付く者に気が付いた。

 

「お、おい!お前は……ん?」

 

しかし、微かに聞こえる声にはじめは怒鳴るのを止めた。

 

「入れてくれ〜!助けてくれ〜な?なあ!?」

 

そんな間抜けな声が女湯の中に響いているのだった。

 

 

 

 

 

女湯を覗いていた…のではなく、助けを求めていた辻という男は、速水オーナーが入れてくれた温かいコーヒーを既に3杯飲み干していた。彼が言うに、スキーをしていたら遭難して…辛うじてこの山荘を見つけて、死に物狂いで助けを求めたらしい。

 

「いやあ、本当に死ぬかと思いましたわ!」

 

「この吹雪の中スキーは大変だったでしょう。諏訪さん、皆さんにも新しいコーヒーを」

 

「はいな!」

 

「本当におおきにです!オーナー!この雪の中往生やったらどうしようかと思たけど、神様はいてくれてるんやなー!」

 

「……」

 

先程まで女湯で助けを求める(覗き見)をやっていたとは思えない程の変容ぶりである。隣で玲香がはじめに「また変な人が増えたね」と言った。

 

「もう雪男でも雪女でも来ても驚かないな…」

 

そんなことを言っていると、コーヒーを持って来た諏訪が辻に質問した。

 

「だどもお客さん、どうやってあの風車山に入っただ?この時期はリフトがないと行けないはずだが…」

 

「あーえーと、それはー…」

 

しどろもどろしている辻を見たはじめはありきたりな答えを言ってみる。

 

「もしかして、勝手に動かして来たとか?」

 

「正解!ナハハハ…ハ。すんません、本当に。でも5時半ぐらいやったかな、リフトが動かなくなってしもて、こんな羽目に…」

 

「5時半じゃ無理ですよ。この時期、リフトは5時までしか動かないんです。その時間まで電力が通っていないので」

 

「いんやあ…でもほんまに助かったわあ。あの山をスキーで降りるのは地獄やったし」

 

「あんた、ツイてる方だよ!」

 

不意に諏訪が言うと、辻は「へっ?」と呟く。

 

「あそこは毎年何人もスキー客が死んでいる場所なんでさ、地元の者では冬には近付かないよ、あの“風車山”にはね!」

 

「風車山?」

 

「山頂に風車があるからそう呼ばれてるの!ほら、あれ」

 

玲香が指す方向には夏の風車山を撮った写真があった。

それと同時にはじめはこんなことも思った。

 

(これ、あのタロットカードの1枚にそっくりだな。ま、偶然なんだろうけど)

 

そんな会話をしながら、夕食を食べ終えてコーヒーを頂いていると、不意に伊丹がはじめに話しかけて来た。

 

「なああんた、金田一はじめだろ?全国の難事件を解決してる高校生名探偵ってのは」

 

「え、ええ…(名乗った記憶ねえけどな)」

 

「俺も記者の端くれだ、顔を見れば分かる。もう1人、女子高校生名探偵がいつもいると聞いているが、今日は不在かい?」

 

それを問われたはじめはすぐには答えられなかった。

隣にいる玲香もそれには少し興味があるらしく、真剣な眼差しで見ている。はじめは数秒の沈黙の後に、こう答えた。

 

「ええ、不在です。まあ…喧嘩したんですよ、ちょっと…」

 

玲香の方をチラリと見るが、少し目を大きくさせたが反応はそれで終わる。

はじめには分かる由もないが、玲香ははじめのことが好きで、いつでも狙っている。そんな中で綺世と喧嘩したなどと聞けば、嬉しいはずだった。

…はず、だった。

玲香も奥で酒に溺れている赤間を見て、身体が少し震えた。

 

「そうかい、彼女にも取材出来たらなあ…。しかし、あの不動高校での殺人事件は凄かったよ。話題性といい、残虐性といい…俺の記憶の中でもトップ5には入る事件だったよ」

 

「じゃあ、トップ1はなんやったんや?」

 

辻が興味深そうに聞くと、伊丹はニタリと嫌な笑みを浮かべた。

まるでその質問を待ってましたみたいな表情だった。

 

「そうだなあ、俺ならこの2つに絞るな!幼児2人誘拐事件、こいつは身代金を要求して来た犯人が父親と接触するんだが、警察がヘマして逃げられた挙句に父親は絞殺しちまったんだよ!しかも、子供の前で!更には子供の1人は行方知れず…最悪な幕引きだったのを覚えてるね」

 

「…やだ」

 

玲香は静かに呟いた。

確かに酷い事件だが、何故こうも高らかと話すのかがはじめには気になった。今までの経験からはじめは分かる。何か意図があって、こんなことを話しているのだと。

 

「もう1つが警官発砲事故、当時交番勤務だった男性巡査が人混みに紛れて逃げようとする犯人に銃を撃って、流れ弾で女子高生を殺しちゃったんだよねえ。これも警察は酷く叩かれ、男性巡査の人生は終わった…。ま、このどっちかかな」

 

伊丹はそう話し終えると、コーヒーで乾いた喉を潤す。

そして、チラリと速水オーナーの方を見る。オーナーの身体は不自然なほど震えていることが、伊丹には分かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

夕食を終え、風呂にも入ったはじめは自室へ戻った。

その前に北条が伊丹オーナーと玲香を呼び止めて何か話していたが…はじめには何の興味も湧かなかった。

伊丹の行動に違和感を覚えたが、今は何もする気は起きなかった。

それよりも気になるには、玲香の『大事な話』だ。わざわざこんな山荘に呼んだ以上、何か問題があるに違いないと思っているのだが…玲香の表情はいつも通りだった。もしかしたら演技かもしれないが、はじめには確かめる術はない。

 

「あーダメだ。考えが纏まらねえ」

 

そう思っていると、携帯にメッセージが届いていた。

送り主は…綺世だ。

ギクッとしながら、そのメッセージを開くと内容はただ単に『家族旅行を楽しんで来て』という一文だけだった。それを見たはじめは安堵の息を吐くが、それと同時に思い出した。

 

「…あいつに家族旅行してくるなんて言ってたっけ?」

 

そう思っていると、ドンと何かが倒れる音が真上から聞こえた。

 

「ん?」

 

その大きな音が1回起きた後は何もなかった。

はじめは誰か倒れたのかと思ったが、今日は色々あって疲れていて確認する気力も起きなかった。そしてそのまま眠ってしまうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

はじめが眠る5分前、伊丹は速水オーナーを自室に招いていた。

速水オーナーは窓から降り落ちる雪を眺め、伊丹とは顔も合わせようとしない。だが、伊丹はそれを気にせずにタバコを吹かす。

そして…本題に入った。

 

「あんた、“あの時”のせいで足が不自由なんだろ?俺はその場にたまたまいたから知ってるんだぜ?くくくく…」

 

「…それで、私にどうしろと言うんだ?」

 

「そうですねえ、取り敢えず1億でどうでしょう?」

 

「そんな大金…私には…」

 

「何を言ってるんです、天下のアイドル:速水玲香のパパでしょう?…まあ、その速水玲香の正体も私は気付いていますがね」

 

その言葉にピクリと反応する速水オーナー。

 

「どう考えても、ありゃあ…いや、推測を言うのはやめておきます。まあ5000万に負けてもいいですよ?その代わり…玲香ちゃんと1回でいいから抱かせてよ?」

 

伊丹のゲスな表面が出てくると、速水オーナーはカーテンを激しく握る。

そして身体の震えが一気に止まらなくなる。

 

「No. 1アイドルを抱けるんだったら、それくらい5000万くらいの価値はあるぜ?玲香ちゃんもさ、お父さんの言うことなら聞いてくれる……」

「冗談じゃない…‼︎」

 

速水オーナーの切迫した声に伊丹は笑みを浮かべながらも一瞬口に止めた。しかし、それがいけなかった。同時に速水オーナーは鬼の形相で迫り、伊丹が使っていた灰皿を掴むなりそれを思いっきり振り上げた。

 

「貴様なんぞに玲香をッ‼︎‼︎」

 

「!?」

 

突然の凶行に伊丹は回避することが出来なかった。

灰皿は伊丹の側頭部を完璧に捉えて、彼を壁に叩きつけた。

そのまま荒い息を吐きつつ、立ち尽くしている速水オーナーだったが、すぐに自分が行ってしまったことに気付き、倒れたまま動かない伊丹に駆け寄った。

しかし…伊丹は白目を剥いて絶命していた。

 

「し、死んでる…こ、殺してしまった…‼︎」

 

目の前に転がる死体に慟哭する速水オーナー。

 

(こいつが悪いんだ…。()()()()をネタに私を強請り、玲香にまで…。どうする?自首するか?いやダメだ!そうなったら()()()()のことまで調べられて…!それに…玲香も破滅だ‼︎)

 

速水オーナーはすぐに伊丹の死体を隠してしまうことにした。

だが、この行動こそ…全ての元凶になることを、誰も知らない…。

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