金田一少年と神津少女の事件簿   作:GZL

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File5

赤間が殺され、死体を見たくない北条や辻、玲香は先に部屋へと戻っていった。速水オーナーは遺体をどうにかしようと思ったのだが、はじめだけその場で固まって動かないままだった。

 

「金田一くん?どうしたんだい?」

 

「オーナー…赤間さんの悲鳴が聞こえた時、どこにいました?」

 

「え?」

 

「あの時、赤間さんの悲鳴を聞いて俺、玲香ちゃん、北条さん、辻さんはすぐに部屋を飛び出して廊下に出た。その廊下は食堂へと繋がる道だ。後から来るにも、諏訪さんと一緒に来るかと思ったが、あなたは1人だった。…一体どこにいたんですか?」

 

はじめの声は酷く静かだった。抑揚のない、一定の音質で冷たいものだった。速水オーナーは生唾を飲み、必死にこの場をやり切ろうとする。

 

「金田一くんの…隣の部屋ですよ!あそこは誰も使ってなくて、埃ばかりが溜まるので…」

 

「…そうですか。ではもう一つ、そのスリッパはどうしたんですか?」

 

速水オーナーは自身の足を見ると、右で白色、左で青色のスリッパを履いてしまっていたのだ。

 

「お恥ずかしい、よくやってしまうんですよ。部屋にいくつもスリッパがあるから…」

 

「……じゃあ、これは偶然の一致か?」

 

「え?」

 

はじめは浴室に置いてあるスリッパを取ると、それでペアを組み始めた。そして8つ分のペアは出来たが、1つだけ…速水オーナーと同じ青白の別の色のペアが出来ていた。

 

「こうやって見れば分かるけど、ペアが1つだけ出来ない」

 

「他の客が間違えて履いてしまった可能性も…」

 

「…そうですね、あの停電中なら」

 

(!しまった!)

 

はじめは動揺した速水オーナーを見て、思わず彼の肩を掴んだ。

 

「おい…あんたなんだろ?伊丹さんと赤間さんを殺したのは!」

 

「ち、違う…‼︎金田一くん、私は…!」

 

「いい加減認めてくれ‼︎このままじゃ…玲香ちゃんが更に悲しむだけだッ‼︎」

 

「違うッ‼︎私は……そうだ、伊丹さんの死体を運ぶことは出来ない!だから私は…違う!」

 

そう言って速水オーナーははじめの腕を振り払って、部屋へと戻ってしまった。久しく熱くなってしまったはじめだが、冷静に考えれば確かに速水オーナーに伊丹の死体を運ぶことは出来ない。それに一回埋めた死体を掘り起こして、風車山に運ぶ目的が未だに分からない。

 

「…どういうことだ?」

 

謎は深まるばかりで、はじめは再び自室へと籠った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

速水オーナーは自室で頭を抱えていた。

はじめにあそこまで問い詰められ、一瞬冷静さを失いかけた。だが、伊丹の死体移動のアリバイが彼を救うこととなり、何とかやり過ごせた。これは脅迫者のお陰と言ってもいい。

しかし…そのアリバイが崩れたら、今度こそ終わると速水オーナーは思っていた。どうすればいいのかと悩みに悩んでいると、再び内線電話が鳴った。

誰からかは、すぐに分かった。

 

「もしもし?」

 

よくやってくれましたね、オーナー

 

「それどころじゃない!金田一くんに完全にバレている!どうしてくれるんだ!?」

 

大丈夫ですよ、アリバイも目撃者もいない。シラは切り通せます。…しかし、あの金田一とかいう男は邪魔ですね

 

「な、何をするつもりなんだ?」

 

仕方ないので、私が直々に金田一はじめを殺しましょう。そしてその間、貴方は部屋に籠ってアリバイを作ってください。これで貴方の容疑は晴れます

 

「ま、待ってくれ‼︎」

 

速水オーナーは思わずその案に反対した。

いくらはじめに犯人だと見破られていても、彼を失うことだけは避けたいのだ。自分勝手なことではじめを殺し、玲香を傷付け、悲しませることだけは…。

 

オーナー、貴方は私に盾突くことの意味を理解していますか?想い人を失うのと、父親を失うのは…どっちが辛いのでしょうかね?

 

速水オーナーはグッと拳を握るが、脅迫者に負けて「分かった。…お前の言う通りにする」と答えてしまうのだった。

 

 

 

その後、はじめが部屋から出ると北条が全員を集めてタロット占いをしていた。占いをして貰っているのは滝下で、恐らく今回の殺人事件で完全にビビってしまったのだろう。その様子を見ながらも、はじめは諏訪に渡されたコーヒーを口に含む。

すると、夕食の片付けを終えた速水オーナーが辻にこんなことを言い出した。

 

「すいません、辻さん。暖炉の番をしてくれませんか?定期的に薪を焚べないと、火が消えてしまうので…」

 

「ああ、かまへんで。何時間や?」

 

「2時間でお願いします、私は仮眠を取るので…」

 

そのやり取りを聞いていたはじめは怪訝な表情をオーナーに向けるが、すぐに再びコーヒーに口を付けた。

しかし、この時点で速水オーナーと脅迫者の計画は進んでいたのだ。

まず速水オーナーははじめのコーヒーに睡眠薬を入れて自室に籠る。その間に脅迫者がはじめを殺す…という至って単純なものだった。しかし、これで少なくとも一連の事件でオーナーは容疑者から外れることが出来る、ということだ。

部屋に入るとすぐにオーナーは後悔の念にやられて、頭を抱えて机に叩きつけた。

 

「私は…何ということを…‼︎」

 

その頃はじめは睡眠薬の効果が効き始めて、ゆっくりと自室へと戻った。

ただの眠気とは違う強烈な睡魔がはじめを襲い、半分気絶に近い状態でベッドに倒れ込んだ。それから暫くして、部屋通しを繋ぐ扉からロープを持った何者かがやって来て…不適な笑みを浮かべた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お父さん?お父さん?」

 

玲香が何度ドアをノックしても、速水オーナーから返事はない。

事の発端は、辻の暖炉の番の時間が2時間を過ぎてもオーナーが現れないことから始まった。玲香と辻が声をかけるも返事がない。

そこで諏訪が速水オーナーの鍵を取ってくると、その鍵を開けた。

だが…その先に広がる光景に、玲香は一瞬絶句した。

 

「え……」

 

「オーナー…‼︎」

 

3人の前には、首を吊った速水オーナーの姿があったのだ。

玲香は頭の中で何度も嘘だ夢だ幻だと思いたかった。だが、そんな思い込みもすぐに途切れて、玲香は痰を切ったように絶叫した。

 

いやああああああああああああああぁぁッ!!!」

 

その絶叫にはじめは漸く目を覚ました。

まだ眠気で頭がガンガンする身体を必死になって動かし、隣の部屋の惨状を見た時…はじめも目を見開いた。

 

「速水…オーナー…」

 

これにははじめも絶句した。それでも悲しみをグッと飲み込み、周囲を見渡す。部屋の中は整然で、荒らされた形跡はない。そして机の上には盗まれたタロットカードの余りが置いてあり、壁には1枚のタロットカードが貼ってあった。それは【吊るされた男(ハングドマン)】。一見すると、速水オーナー自身による自殺に見えた。だが、はじめはこのカードに違和感を覚え、今までずっと謎だったピースの1つが埋まった。

 

(そうか…!このタロットの意図は…!だとしたら、犯人は…)

 

そう考えたが、まずは玲香をどうにかしようとはじめは思った。

玲香を立たせて、ゆっくりと自室へと戻った。玲香はずっと涙を流しているが、声は上げてない。人形のように表情が一切ない。

あの時と同じようにベッドに座らせて、どうすればいいのか戸惑っていると…。

 

「ねえ…お父さんが、犯人だったのかな…」

 

玲香がふと呟いた。

はじめは少し静寂を置いた後に「違う」と断言した。

それを聞いた玲香はピクッと反応する。

 

「じゃあ誰が…誰がお父さんを…‼︎

 

突然立ち上がったと思えば、今回ははじめの肩を掴むと彼を棚に叩きつけた。棚に入っていたアルバムや本がドカドカと落ちる。

鬼気迫る様子の玲香にはじめは圧倒されながらも、彼女の手を握る。

 

「約束する、玲香ちゃんのお父さんを殺した犯人は、必ず見つけ出してやる。ジッちゃんの名にかけて…!」

 

「…うん、私、金田一くんを信じる!」

 

玲香は一息吐くと、少し落ち着いたようだ。

再びベッドにぼすんと座る。はじめは落ちている本やアルバムを拾って戻そうとしたが、その中に違和感を覚えた。

 

(…どういうことだ?玲香ちゃんのアルバムなのに、2歳以降の写真が1枚もない。それにこれは…)

 

はじめは写真を見ながら、玲香が昨晩はじめのマフラーを拒絶したことを思い出した。

そして、伊丹が話していた幼児2人誘拐及び父親殺人事件…。

 

(まさか…いや、そんな訳ない!だって…玲香ちゃんのお父さんは…!)

 

はじめ自身も信じたくない真相に辿り着くあることを自覚しつつ、玲香に更なる質問をする。

 

「玲香ちゃん、俺が寝てしまった後のこと…全て教えてくれるか?事細かに」

 

「えっ、金田一くんが部屋に籠った後のこと?まず…10時半くらいに北条さんが部屋に戻っていったわ。それで…私が小城さんと仕事の話をして、戻ったのが11時くらい。その後、12時くらいかな…。小城さんから呼び出しがあって、小城さんの部屋に行って新しいプロダクションの話とかしたわ。その後…お父さんが…」

 

「悪い、ありがとう」

 

はじめは携帯で撮ったこの山荘の見取り図を見ながら、少しずつ推理を始めていくが…。

 

「あーっ‼︎クソッ!」

 

はじめには既に犯人の目星はついている。

しかし…。

 

(“奴”には鉄壁のアリバイがある。これを崩さない限り犯行を認めさせることは出来ない)

 

はじめはふと窓の外を見ると、朝日が登り始めた太陽と共に吹雪は止んでいた。

そのままはじめは窓から山荘の外へと出る。

 

「ど、どこに行くの!?金田一くん!」

 

「犯人のアリバイを崩すための調査さ!」

 

「私も…!」

 

「玲香ちゃんは休んでな、辛いだろうから俺1人で大丈夫だ」

 

「でも…」

 

「さっき言っただろ?必ず犯人は突き止めるって。それまで死にはしないよ」

 

「…うん」

 

玲香は不安そうに見詰めながらも、はじめを窓から見送った。

その後ろで…何者かがこの様子を盗み見しているとも気付かず…。

 

 

 

はじめは速水オーナーが殺された部屋の窓から入ろうと試みるが、足跡がモロに残ってしまっていることに気付き、窓から窓への侵入も無理だと分かった。

 

「んーどうやったんだ?アイツは…!」

 

頭を再び掻いて、脳をフル回転させようと思った時、背後から誰かの気配を感じた。振り向く前に頭部を殴打されたはじめは…気を失ってしまった。

 

 

 

 

 

 

それから何時間経ったのだろうか…。

はじめはゆっくりと立ち上がった。寒さで身体が凍えそうだが、外を見渡す。近くにタロット山荘はなく、ただ激しく雪が吹いているだけだった。

 

「ここは…?俺は、一体どこにいるんだ!?」

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