金田一少年と神津少女の事件簿   作:GZL

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File6

タロット山荘でははじめの捜索が始まっていた。

まるで最初に居なくなった伊丹と同じような展開で、全員が至る所を探したが見つからなかった。玲香は犯人にやられたのではないかと顔を青くしながらも無事を祈ったが、ふと滝下が声を上げた。

 

「あれ!」

 

滝下が指差す先には、タロットカードが貼られていた。

死神(デス)」が貼られていたことに玲香は本格的の焦り始める。

更に辻が「なんやこれ?」とベッドの下辺りから何かを拾う。

 

「それは…!1階同士の部屋と部屋を繋ぐドアの鍵だわ‼︎」

 

「なんでそんなものがここに…」

 

はじめに死の意味を暗示させるカードに部屋同士を繋ぐ鍵…。

推理がほとんど出来ない玲香でも、犯人がはじめをどうしたのか想像が付いた。

 

「金田一くん…!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

はじめは震える身体を両手で抑えつけながら、深い雪の中を歩いていた。

まだ歩き始めて1分程度しか経っていないが、はじめにとっては何時間も歩いたような気分だった。激しく吹き荒れる雪のせいで視界は最悪、2m先も見えないため、ゆっくりと歩くしかない。

 

「チクショウ…なんて寒さだ…!一体どこなんだここは!?」

 

すると前方に巨大な影が見えた。

それは伊丹が磔にされていた風車だった。

 

「ということは…ここは風車山か?」

 

兎にも角にも、はじめはリフトを動かす施設の中へと逃げ込んだ。寒さは全く変わらないが、雪が肌に当たらないだけ充分マシだった。その施設の温度計は−20℃を指していた。

 

「あのまま寝てたら凍死だったな…。ともかく…リフトを動かさないと…。このままここに居ても…凍死だ」

 

リフトを作動するスイッチを構わずに押すはじめだったが、リフトはうんともすんとも言わない。何度押しても音沙汰なしだ。

 

『5時半じゃ無理ですよ。あそこのリフトは5時までしか動いて無いんです』

 

速水オーナーの言っていた言葉を思い出し、時計を見ると既に5時を回っていた。それを知ったはじめは一気に生きる意志を失った。

 

「ここのリフトが動くのは朝8時から…。それまで待っていたら確実に凍死…。この山を降りようにもスキーも防寒具もない状態じゃ、滑落してあの世行き…。…はは、犯人に、やられたみたいだな…」

 

はじめは壁に背中を預けて、ズルズルと落ちていった。

 

「でも…犯人が俺を殺すってことは、それだけ真相に近付いていたってことになるな…。このまま、死んでたまるか…死んで……たまる………」

 

はじめは目を閉じて、一気に口数も減っていく。

そのまま眠ってしまうところで、建物の屋根から雪が一気に落ちて大きな音が響き、はじめは我に返ったように目を覚ました。

 

「ダメだ…‼︎寝ちゃダメだ…!寝たら…凍死だ…!」

 

(だが…眠い…。寒すぎると眠くなるって…本当だったんだな…。前日の夜みたいな眠気だ…)

 

ふと心の中で言った言葉にはじめは何かを閃く。

 

「待てよ?あの時の眠気は異常だった。あれは犯人によって何かを盛られたからじゃないか?だけど、そんなことをして一体…」

 

そこではじめは完全に“奴”のトリックを見破った。

それならはじめに薬を盛ったことも、わざわざ辻に暖炉の番をさせたのも納得出来たのだ。だが、それが分かったところで、はじめに何か手を打つことはない。

 

「謎は全て…解けた…けど、今更解けても…手遅れなんだよ…なあ」

 

はじめはとうとう座り込みの状態から、半分気絶のような感じでバタンと頭を地面に付けた。

 

(これが死…か)

 

今のはじめなら、あの時の綺世の気持ちを理解することが出来た。

実際、はじめは怖く…後悔することばかりだと思い始める。

 

(親孝行もしてねえし…長生きしたかったなあ…)

 

とうとう目を瞑って、恐怖を感じながらもこんな苦しい思いをせずに楽になってしまおうと考え始めてしまう。だが頭の中で、玲香の顔が思い浮かんで…その考えが吹き飛ぶ。

 

「…馬鹿野郎…ここで…こんな…ところで、死んでたまるか…!【玲香】と約束したんだよ…!必ず犯人を捕まえるってな…!」

 

はじめは既に体力がない身体を必死に叩き起こし、寒さで思考が鈍り始めてる中でこの風車山から脱出する方法を考える。

 

(あるはずだ…!何事も不可能はないって…ジッちゃんは言ってただろ!?)

 

そして、窓の外に見えたその風車に、はじめは1つの活路を見出した。

 

「そうだ…風車だ!風車は基本発電用…この時期5時まで電力が届かないってことはつまり…普段はあの風車が動くことでリフトを動かしているってことじゃないか?あの風車さえ動かせれば…!」

 

はじめは外に出て、風車の現状を見るが…まともな手段では動きそうもなかった。完全に凍りついており、特に回転軸はガチガチに固定されている。

 

「しかし…これだけの風だ。あの氷が無くなれば動き出すはずだ。何か燃やすものがあれば…」

 

はじめはポケットを弄り、イヤホンを取り出す。

そして、さっきの施設にAEDがあったことを思い出す。

 

「行ける…かもしれないな」

 

はじめは迷っていられず、すぐに行動に移る。

まずはイヤホンのカバーを削って、銅線部分を剥き出しにする。次にAEDの入っている電池を取り出し、それを電池と繋げる。すると銅線部分が赤く輝き出す。回転軸に巻きつけた自身の服に当てて燃やした。服を1枚脱ぐことのは死を早めると同義なのだが、はじめにはこれしか燃やせるものを持っていなかった。

そして、風車の回転軸は激しく燃え出す。

その間にもはじめは風車を押して、動かす手助けをする。

火はほんの10秒程度ついただけで、すぐに消えてしまう。

だが、ガコッと氷が砕ける音がして、風車が一気に回り出したのだ。それと同時に停止していたリフトも稼働を開始する。

 

「やった…やったぞ‼︎」

 

歓喜の声を上げるはじめだったが、すぐに悪夢が襲いかかる。

回り出した風車だったが、すぐにまた動きを止めてしまったのだ。

 

「え……」

 

回転軸の氷は解けた。だが、その解けて水になったものが瞬時に凍りついて、風車を再び固めてしまったのだ。

はじめはフラフラした足取りで風車の前に立つと、その支柱をガンと叩いた。それから再び叩く。何度も…何度も叩き、はじめは声を上げる。

 

「動けよ…‼︎動いてくれよッ‼︎おいッ!?」

 

万策尽きた中でもはじめは腹の底から声を上げた。

だが、その力も長くは持たない。

今度こそ…はじめは糸が切れたマリオネットのようにガクリと膝を着いた。

 

「玲香……ごめん……」

 

何度もそう呟きながら、寒さに身体を支配され…意識も完全に途切れて来た頃、何かが聞こえて来た。吹雪の音を掻き分け、明らかに風車山へと向かってくる音に…はじめは思わず身体を起こし、耳を澄ました。

 

「あれは…ヘリの音?」

 

一瞬、そんな上手い話があるわけないとはじめは思った。

だが、それは思い過ごしでも幻聴でもなかった。

徐々にだが、ヘリのプロペラ音が大きくなってくる。そして、遂にヘリがはじめの視界に入ったのだ。

嬉しさの反面、はじめは身体を全く動かせないが…辛うじてスマホにライトをつけてゆっくりと振る。それが見えたのか、ヘリは風車のすぐ横に着陸すると、1人…誰かが降りて来た。

 

「はじめちゃん…‼︎」

 

その声が聞こえた時、はじめは思わず見上げた。

そこには何故か綺世が白い息を吐いて向かって来ていたのだ。

 

「綺世、お前……どう、して…」

 

「説明はあと!早く私の腕を取って!」

 

「身体が…動かねえんだよ…」

 

綺世は「ああもう!」と文句を溢しながらも、はじめの左腕を自分の肩に乗せて、急いでヘリへと向かう。だが、ヘリの運転手が叫んだ。

 

「お前ら2人を乗せて下山は無理だ‼︎一旦タロット山荘まで運ぶ!それで良いか!?」

 

「お願いします!」

 

それを聞いたはじめは口角を上げた。

 

「待ってろよ…」

 

「どうしたの?はじめちゃ…っ!?」

 

その時、綺世が見たもの…それは、今までにない程、怒りと決意に満ちたはじめだった。

 

「“アイツ”だけは、絶対に罪を償わせてやる…」

 

 

 

 

ヘリはタロット山荘から少し離れた場所に着陸すると、すぐにどこかへ飛んで行ってしまった。はじめは今も綺世の支えがないと立てないほど疲弊していた。だが綺世はそれよりもはじめの手が心配で仕方なかった。

真っ赤に腫れ、凍傷寸前だったのだ。あと数分でも遅かったらどうなっていたかと考えると、綺世はこの寒さ以上の寒気を感じた。

2人は最初、静かにタロット山荘へと歩みを進めたが、はじめがこんなことを言い出した。

 

「綺世、ありがとう…。お前も、怒ってるんだろ?」

 

「…うん。どうして、私を置いて1人で?」

 

「大事な話だってあったから…。それにお前を連れて行くと、彼女とゆっくり、話せないしな…」

 

「そんなに玲香ちゃんが大事なの?」

 

「…“玲香”は、父親を失った」

 

今まで『ちゃん』付けだった玲香のことを、名前単体読みしていることに綺世は驚きと焦り、不安を感じたが…はじめの言葉には悲哀が詰まっていた。

綺世は完全に玲香に先を越されたと勝手に思った。

しかし…。

 

「彼女の悩みも聞いた。…本当に許せないことばかりだった。そんな彼女を支えようとも思った。けど、その矢先に玲香の父親は殺され、俺もこのザマ…。何を浮かれていたんだか…これから告げる真実も残酷でしかねえのに…」

 

綺世自身、はじめが自分自身を責めるところはいくらか見て来た。

それでもここまで酷いことは初めてだった。

綺世は何も言うことが出来ず…ただただ前へと進んだ。

やっと山荘の灯りが見えて来たところで、はじめがふと言った。

 

「でも…俺は後戻りなんてする気はねえ…。どんなに残酷な結末でも、それを全て解き明かすのが…探偵なんだ」

 

「はじめちゃん…」

 

そして、綺世はタロット山荘の扉を開ける。

玄関からドアが開く音がした玲香は急いで向かった。

 

「金田一く…」

 

だが、玄関には綺世がはじめを支えている光景があった。

玲香は「なんで…綺世さんが…」と呟くが、それよりもはじめの容態が深刻だったため、急いで毛布と温かい飲み物、そして救急箱を持って来た。

 

「金田一くん、私…」

 

「玲香、帰って来たぜ…」

 

はじめの『玲香』呼びに綺世は複雑な心境になる。

 

「犯人は突き止めた。あとは、奴を追い詰めるだけだ」

 

「!」

 

「安心しろ、約束は守るさ。ジッちゃんの、名にかけてな」




次回、今章最終話
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