はじめは治療を受けるとすぐに寝ていた容疑者全員を叩き起こし、ロビーに来て貰っていた。そして、1人1人に手製のタロットカードを渡した。
「金田一くん、このカードで何をするの?」
「まずはちょっとしたゲームだ。このタロットで犯人の正体を占う」
「占う!?こ、これで本当に犯人が分かるの!?」
「ああ、だけど…普通のタロットカード占いではない。俺の指示通りに動いてくれ。まず、目の前にある3枚のカード、【運命の輪】、【ザ・タワー】、
【
正位置とは、タロットカードが正しく見える位置のことであり、そのカードのそのままの意味が使用される。要するはタロットカードの正しい向きに置け、がはじめの命令だった。
全員それに従い、3枚のカードを裏返しに置いた。
「じゃあもうカードに触れないでくれ。これからここで起こった事件の真相とタロットカードの意味を語って行こうと思う」
はじめはまず辻の横を通ると、1枚カードに手を触れた。だが…包帯だらけの手ではカードを上手く捲れない。
「手伝う?はじめちゃん」
「いや俺がやる…。この事件だけは、俺が解かなくちゃならないんだ」
はじめは痛む手で、やっと1枚…カードを捲った。
「まず伊丹殺害であったのがこの【運命の輪】だった。先に言っておく。伊丹と赤間を殺したのがオーナーだ」
その言葉に玲香はピクッと反応する。
はじめは玲香の反応に気付いたが、構わず続けた。
「犯人は何らかの事情でオーナーの伊丹殺害に気付き、逆にそれを利用した。オーナーに朝のアリバイが完璧な朝食支度時に死体を風車山の風車に貼り付けることで、オーナーの嫌疑を晴らした。それと同時に自分の傀儡にして、赤間殺害を命じた。そして、このタロットカードを使うことで…」
そう言いながら、2枚目のカード、【ザ・タワー】を捲った。
「この事件の犯人は単独犯だと思わせた。この目論見は成功し、実際…伊丹と赤間殺害のアリバイがない者は俺だけで、最後に俺を犯人に見立てて殺そうとした」
見立てに使われたタロットカードにそこまでの意図があるとは、誰しも考えられなかった。そして、はじめは時間をかけてカードを捲りながら、本質へと入って行く。
「元々犯人は、速水オーナーに深い殺意を抱いていた。それは伊丹があの時話していた2つの事件のうち1つに由来しているが、それはまたあとで話す」
「ねえ!犯人は誰!?こんなカード捲りで何が分かるって言うの!?」
北条は我慢ならず、はじめに怒鳴る。それでもはじめは構うことなく、最後の諏訪の2枚目のカードを捲った。ここまで全員正位置でカードは置かれていた。
「…確かに赤間殺害までは犯人の計画は完璧だった。だが、奴は最後に大きなミスを犯した。それが完全犯罪を突き崩すキッカケになった」
「ミス?」
「玲香、俺がここに来てすぐに北条さんと何か話してたよな?あれはどういう内容だったんだ?」
「えぇ…?ただ、カードの入れ方が間違ってるってだけで…」
「それが重要なんだ。北条さん、あの時入れ方が間違っていたカードはなんだ?」
「【
「そう…確かにこのカードは吊るされた男って意味だが、実際は…逆さ吊りなんだ!」
はじめは事件現場にあったカードを見せつつ話す。
それを見ている綺世は漸くはじめが何故こんな茶番劇を始めたのか、納得した。
「でも犯行現場では逆位置で置かれていた。それは何故か…。単純な話だ。このカードの正位置を知らなかった者が、犯人ってことだ」
それを聞いた全員に一気に緊張感が走る。
はじめはまず玲香の横に立つ。
「まず玲香はカードの内容を知ってるから当然だ」
「北条さんも同様だ」
はじめは更に立て続けに滝下のカードにも手を触れる。
「滝下さん!あんたは北条さんに占ってもらっていた。だからカードの位置は知ってる。その原理で辻さん、諏訪さんも当然知っている。…残りは」
残った“1人”に全員の視線が向けられる。はじめはゆっくりと“彼”の横に立つと、裏返されたカードに触れる。
「伊丹さんを風車山に運び、赤間を殺すように命令し、挙句に玲香の父親まで奪ったのは…あんただろ?小城!」
カードを捲ると、【吊るされた男】のカードは逆位置で置かれていた。
それを見た全員が驚愕する。
小城も身体を僅かに震えさせて、はじめの断言にすぐには反抗出来なかった。だが、数秒すると「フッ」と勝ち切ったような笑みを浮かべて、置かれたカードを弾いた。
「こんなカードの上下逆が間違っただけで犯人とは、いくら何でも横暴すぎないか?名探偵!?」
「………」
はじめはただ静かに小城を見下ろしていた。
その視線は冷たく、小城の背中に冷や汗が流れる程だった。
「それに僕には鉄壁のアリバイがあることを忘れたか?速水オーナーが殺されたのは自室だ。その間に辻さんはここで暖炉の番をしていた。そんな辻さんに見られずにどうやってオーナーを殺したって言うんだ?」
「…そこまで言わせるか。ならお前のくだらない悪足掻きに付き合ってやるよ」
その言葉に綺世は再び背筋を震わせた。
今までの推理の中で、冷徹な口調なだった。これから何が起きるのか、綺世には想像も出来ない。
「まず、あんたはオーナーに頼んで辻さんに暖炉の番をさせた。更に俺のコーヒーに睡眠薬を入れて、眠らせた」
「まさか、それでどうにかなるとでも?仮に僕が部屋同士を繋ぐ鍵を持っていたとしても、玲香ちゃんと君の部屋を往復しないといけない。君を眠らせたところで…」
「当たり前だろ。むしろあんたは俺だけを眠らせて玲香をアリバイ証人にさせたんだからな」
「!」
玲香は一瞬驚いた表情になるが、それは徐々に父親を殺された恨みの表情へと変わっていく。
「玲香まで眠らせたら、あんたのアリバイは不確実になる。だから玲香を利用しつつ、俺を行動不能にさせて、アリバイを作ってオーナーを殺害した」
「んなアホな‼︎一体どうやって!」
「再現してやるよ。まず小城は部屋同士を繋ぐ鍵をあらかじめ持っていた。そして部屋に戻る前に…
「え…それは…私の方がここの構造分かるし、お客様かつマネージャーの小城さんにそんな手間をかけるのは…」
「それだよ!小城は玲香のマネージャーという立場を利用して、先に部屋に戻ることが出来た!その時玲香はまだカップを片付けているからすぐには戻って来ない」
「でも待って!私がカップの片付けにかかった時間は1分もない。それでお父さんを殺せるはずが…」
「いやいいんだ。小城の目的は、玲香と俺の部屋を通り抜けることだけ。そうやってまんまと速水オーナーの部屋に入った小城は、オーナーを殺害した!」
今まで黙っていた小城だったが、ここで反論に出る。
「仮にそうやってオーナーの部屋に行けたとしても…その後、僕はどうやって部屋に戻ったんだい?その時点で玲香ちゃんは部屋に戻ってる!君が寝ていたとしても、僕は部屋には戻れない‼︎」
焦りからか、小城の声は徐々に大きくなっている。
端から見れば、怪しさだけは際立っている。だが、はじめはそんな小城に対しても冷静に追い詰めていく。
「だからお前は、玲香に電話を掛けたんだろ?」
「‼︎」
その発言に小城は激しく動揺した。
他の者は何の話か分からずに右往左往しているが…。
「お前は俺の部屋を抜けて一旦空き部屋にまで戻り、内線で玲香に電話した!そして玲香が部屋を出たと同時に中に入り込んで、自室に戻ったんだ‼︎この山荘の構造上、玲香の部屋と小城の部屋は隣だが、ドアまで行くには階段部分を大回りしなくてはならない。その時間がこのトリックを可能にしたんだ。まだ何か言うことがあるか?」
ここで小城はバン‼︎と激しく机を叩いて喚き始めた。
「違うっ‼︎僕じゃない‼︎騙されるな!こいつは僕を貶めようとしてるんだ‼︎」
見苦しい姿にはじめは脳内で血管が切れて、小城に向かいそうになった時…玲香の腕が先に小城の胸ぐらを掴んでいた。
「れ、玲香…ちゃん?」
「返して…」
玲香の小さな声を皮切りに、彼女の怒声が食堂を襲った。
「返してよッ‼︎人殺し‼︎私のお父さんを…返してよッ‼︎」
「れ、玲香、ち、違う…」
小城の表情にも変化が訪れる。
罪を逃れるためではなく、玲香に真実を言おうとしている表情に変わったのだ。その瞬間、はじめは思わず駆け出していた。はじめ自身も言いたくない真実を、小城は口走ろうとしていた。
「お父さんを返してッ‼︎」
「違う‼︎あの男はお前の…」
「言うなッ‼︎小城ッ‼︎‼︎」
はじめが小城の胸ぐらを掴んで玲香から離した時には、もう手遅れだった。
「父親じゃない‼︎」
その言葉に玲香の表情が一変する。
小城の伝えた真実に玲香はついていけてない様子だった。
「ど、どういうこと?」
「………」
玲香ははじめを見ながら言うが、はじめは彼女と目を合わせることが出来ない。どうやらはじめも薄々は勘付いていたらしい。
そして小城は、はじめの掴む手を離させると…憑き物が落ちたように語り始めた。
「ああ、そうさ…。全てはこいつの言う通り…僕が全て仕組んだことだ。
次回、今章最終話。