金田一少年と神津少女の事件簿   作:GZL

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遊び笑う道化
File1


1つのライブ会場に速水玲香の顔や名前が入った上着、帽子、うちわ、その他自作のものを持った数多の男たちがお待ちかねの人物が早く見れないかと身体をうずうずさせていた。そして、壇上に1つの光が出ると床下から玲香が勢いよく飛び出して、自身の曲を歌い始めた。

その様子をはじめは1番後ろから見て…いるわけではないが、居た。

今回特等席で玲香からチケットを貰い受けて、普通なら見に行くこともないのだが、聞くだけならいいかと思い、やって来たのだ。実際、はじめは玲香の曲を聴きながら、本を読み耽っていた。自身のジッちゃん、金田一耕介が出会ったという殺人事件や怪奇事件が書いてあるのだが…これが堪らなく好きだった。どんな殺人事件なのかと気になってページばかりが捲れる。お陰でいつの間にか玲香の歌は右から左へと流れ、まともに聴いていなかった。

当の玲香の位置からははじめの姿がきちんと見える。が、明らかに聴いていないはじめに少しショックを受ける。

 

(あれだけアピールしたのに…ショック)

 

玲香はそれでも周りのファンを喜ばせるために歌い続けるのだった。

 

 

 

 

その後、楽屋の裏には熱狂的なファンが再び玲香を見るまたはサインを貰うために集まっていた。こういうことは玲香にとって日常茶飯事ではあるが、今回は楽屋の位置が悪くてどう足掻いても逃げ切れそうもない。しかし、玲香は秘策を練っていた。電話でとある人物に合図を送る。すると、近くの扉から速水玲香()()()人物が飛び出て、廊下を駆けていく。だが、後ろ姿は衣装のままの玲香なので、ファンは『玲香』だと勘違いして走り出す。だが、1人のファンがその女子()の腕を掴んでしまう。見知らぬ男性に掴まれたことで、思わず「いやっ!」と声を上げてしまう。だが、その声で目の前の人物が玲香ではないことがバレてしまう。

 

「あ…」

 

そう、玲香に扮していたのは綺世だったのだ。

何故彼女がこんなことをしているのか、それも気になるところだが…それよりも大問題が発生する。男性たちは玲香の替え玉に敵意を向ける。自分たちの推しのアイドルを最後に見れず、そのイラつきが全て綺世に向けられてしまったのだ。

 

「いや…え…あの…」

 

その視線と数の多さに綺世は恐怖する。

だが、その時横から思わぬ人物が現れて状況が打開される。

綺世の前にはじめが現れて「おい!何しようとしてんだ!?」と怒声を上げると、剣幕に押されて男たちは消えていった。

綺世は安堵の息を吐き、はじめの方を向く。

 

「それよりもお前…どうしてここに?」

 

「はじめちゃんこそ、どうして?」

 

「俺は玲香から特等席のチケットを貰って…」

「貰った?」

 

その言葉だけで綺世の視線は一気に強くなった。

はじめは(しまった)と思った。最近の綺世は『玲香』に関することだと明らかに様子が変わってしまう。はじめの首に噛み付くような鋭い視線だったが、今回はすぐに元に戻った。

 

「まっ…私も人のこと言えないか…」

 

「は?」

 

「私はバイト…玲香ちゃんの身代わりをやることになったの!」

 

「何でだ?お前、金には困ってないだろ?」

 

「それは……ともかく!玲香ちゃんのところに合流するから!お先に…‼︎」

 

「あ、おい!」

 

綺世は足早にさっきの楽屋に戻り、玲香と同じ服を脱ぐ。

 

「玲香ちゃんに負けたくなくて、彼女の付き人みたいになってる…なんて言えるわけない…」

 

綺世は自分自身の独占欲に呆れるのだった。

 

 

 

 

その後、2人は別のスタジオの控え室に通されていた。

綺世はまだしも、何故はじめまで呼ばれたのかは未だに分からない。

当の玲香はメイク中だ。

 

「なあ、玲香。綺世にあんなバイトはやめさせろよ。いくら命があっても足りなそうだったぞ?」

 

「だって、安岡マネージャー!もう少し女の子に優しいバイトは無いんですか〜?」

 

玲香は新しく入った安岡に言う。

 

「しっかしねえ…今の玲香ちゃんだとあれ以外にバイトはないかなあ」

 

「ったく、じゃあ今度からは逃げ切れ」

 

「何よ‼︎その無責任発言!私が危なくなったら助けてくれるんじゃないの!?」

 

「お前がバイト中にいつも見ていられるか!」

 

「最悪!はじめちゃんのバカ‼︎」

 

「はじめ?もしかして、金田一はじめくん?」

 

急にはじめの名前を知ったメイク係の逆井が声を上げた。

 

「え、ええ…」

 

「なるほどねえ、玲香ちゃんが惚れそうな顔だし、いつもいつも話してくるのよ。金田一くんがー金田一くんがー、って耳がたこになるくらい」

 

玲香は逆井の口を塞ごうとしたが、メイク中で動けないため逆井に大体のことを話されてしまう。綺世はギリギリと歯を噛み締め、はじめは少し頬を赤らめて照れている様子だった。それが悔しくて綺世は拳を作ってしまう。

すると控え室にドラマ撮影の監督が入って来て、安岡に言う。

 

「ちょっと撮影遅らせてもいいかい?」

 

「まあ…大丈夫ではあるけど、明日の予定もあるからなるべく早く…」

 

「うん?そこのお2人はスタッフかい?」

 

「いえ彼らは…」

 

監督ははじめと綺世をじっくり眺めると、突然こんなことを言い出した。

 

「君ら!エキストラで出てみないかい?」

 

「「ええっ!?」」

 

「兄ちゃんは門番、姉ちゃんは女中の1人!やるぞぉ!」

 

「え、え、え、ちょっと…!」

「おい、俺はやるとは言ってな…」

 

はじめと綺世の言葉を聞くこともなく、監督は2人の手を掴んで玲香の控え室から連れ出してしまう。その様子を見ていた逆井は「大丈夫かしら、あの2人」と呟く。

だが玲香はすぐに笑った。

 

「あの2人なら余裕よ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…何やってんだ、俺」

 

撮影本番前にはじめは甲冑を着せられ、左手には槍を持ち、模型の門の前に立っていた。その後ろでは既に玲香が演技の準備を始めているらしい。はじめは振り返ることが許されていない。玲香だけでなく、大女優や綺世の美しい着物姿も見ることが出来ない。

 

「…やっぱり断っておけば良かったな」

 

そして本番が始まる。

最初に女優の三田村圭子が怒声を玲香に浴びせる。演技だと分かっているが、ただ聞くことしか出来ないはじめからすればただ怒られているのではないかと勘違いしてしまうほど、三田村と玲香の演技には大きな差があった。そこに綺世の声が割って入って来た。

 

「姫様!大変でございます!」

 

明らかに緊張した声だったが、スタッフ陣から好評だったのかガヤガヤと声が聞こえる。

はじめは振り返りたい衝動に負けそうで、顔をゆっくりと向きかけたその時…ガタンと小さな音が聞こえた。

 

「やだっ!」

 

「カットカット!」

 

監督が撮影を止める合図が聞こえ、はじめは漸く彼女らの舞台を見ることが出来た。何があったのかと思えば、玲香が机の上に置いてあった花瓶にぶつかって、着物を濡らしてしまったのだ。

因みに玲香はわざと着物を濡らし、生足をはじめに見せて誘惑させようという魂胆だった。それは綺世もすぐに分かり、(大胆というか…くだらないというか…)と呆れていた。だが…その企みが目の前の大女優の逆鱗に触れた。三田村は間髪入れずに玲香の頬を叩いた。

 

「キャッ…!」

 

その瞬間、現場は凍りついた。しかし先に動いたのは綺世だった。

 

「ちょっと…!共演者に暴力ってどういうことですか!?」

 

「プロの演者が素人に躍起になってどうするの!今溢した水だって誰が片付けるの!?あんたの我が儘を受けるのは私たちなのを少し理解しなさい!」

 

(綺世の話、全く聞いてねえ…)

 

流石の綺世もあまりの無視っぷりに呆然としてしまう。

だが玲香も黙ってばかりではない。

 

「だからって…どうして打ったりするのよ!」

 

「何ですって?だから貴女は……」

「そこまでですよ、三田村さん」

 

すると現場に見るからに金持ち臭をぷんぷん漂わせる淑女が現れた。

彼女を見るなり玲香は笑顔を綻ばせて「社長!」と叫んだ。

 

「あれが玲香ちゃんの新しい社長さん?」

 

「うん!鏑木社長よ!」

 

鏑木を見た途端、三田村の表情が少し変化する。明らかに芸能界ではあまり逆らってはいけないのだろうと、はじめはすぐに分かった。

 

「鏑木さん、速水さんに少し甘くしすぎじゃないかしら?」

 

「あら?そう言う貴女も20代の頃…どうだったかしら?」

 

含みのある言い方で牽制し合う2人。

この雰囲気に流石に監督も今日の撮影はここまでにした。

三田村は去り際に「速水さん、いつまでもそんな態度だと芸能界で生きていけなくなるわよ?」と警告を残した。後ろでは玲香が舌を出してバカにしていたが…。

 

「あれが大女優の迫力ってやつか」

 

「まあ私でもあれは怒ると思うけどね」

 

綺世の一言で玲香はカチンと来るが、何も言わない。

三田村が去った後、鏑木が玲香に何か耳打ちをする。それを聞くと玲香の顔は見る見る内に笑顔に染まっていく。鏑木も去った後、綺世は玲香に先程の耳打ちの内容を聞く。

 

「どうしたの?」

 

「社長がね、私の養女にならないかって」

 

「養女って…つまり娘!?」

 

「私、お母さんがどういうものか分からないから楽しみで…承諾しちゃった!」

 

「玲香ちゃーん!今度はサイン会だよー!」

 

「はーい!じゃ、綺世さんもお手伝いに…」

 

「玲香、悪いが綺世はここまでだ。監督さんが綺世をお呼びだからな」

 

「えー!…じゃあ、金田一くん、手伝ってくれない?」

 

「は?なんで俺が…」

 

「行くのっ‼︎ほらっ!」

 

綺世が会話に入り込む間もなく、玲香ははじめを連れてせっせとどこかへ行ってしまった。普段なら冷静さを保てる綺世でも焦りが先に来てしまい、背中に汗を流した。

 

「…はじめちゃんの馬鹿」

 

「熱い戦いだこと」

 

「逆井さん!からかわないでください」

 

「ごめんごめん。…1つ聞いてもいいかな?」

 

「何でしょう?」

 

「玲香ちゃんと鏑木社長の養女の話、正直どう思う?」

 

突然そんなことを聞かれた綺世は一瞬戸惑ってしまう。

だが、鏑木が見せた笑みは…どうも綺世は好きになれないものだった。

 

「私はまだ判断しかねますね。いくら事務所社長でも、本当に愛情があるかなんて分からないし…」

 

「私は反対よ、玲香ちゃんは絶対後悔する」

 

「え?」

 

その訳を聞こうと思った綺世だが、間に監督が入って来て無理矢理会話が止まってしまった。

綺世は一抹の不安を感じてしまうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

玲香の仕事に付き合って約4時間…はじめは漸く解放された。

疲れ切ったはじめは安岡が運転する車の中で半分放心状態だった。

 

「俺…絶対アイドルとそのマネージャーにはならねえわ。安岡さん凄いですね…」

 

「私も初めは大変でしたよ」

 

「でも金田一くんなら無理させずに私のマネージャーにさせてあげてもいいよ?」

 

「遠慮するよ、それでも…」

(綺世の野郎…怒ってるだろうなあ)

 

はじめがそう思っていると、車は高級マンションの駐車場に止まる。

玲香の指示で先に自身を自宅へ戻すと、疲れ切ったはじめも自宅へ送ってくれと安岡に言ったのだ。

 

「じゃあね!金田一くん!」

 

「ああ…お疲れ…」

 

「玲香ちゃん、金田一くんも約束通りお送りするよ」

 

「ありがとう、安岡さん!」

 

玲香が車から離れて、エレベーターへ向かっている…その最中だった。

突然玲香の横から、黒いマントを羽織った何者かが現れて彼女に何かを押し付けたのだ。玲香は悲鳴を上げる間もなく、脇腹に電流が流れて意識を失ってしまう。

 

「!おい!お前…何やってるんだ!?」

 

それに気付いたはじめは車を飛び出して、玲香を助けに行こうとする。

安岡も同じで車を飛び出す。

だが、今度は安岡の方から悲鳴が上がった。

 

「何!?」

 

振り向くと同じ黒マントの何者かが安岡の首にスタンガンを押し当てて、丁度彼を気絶させたところだった。襲撃者が2人もいることに気付けなかった時点で、はじめはどうすることも出来なかった。彼もスタンガンの一撃を受け、地面に倒れてしまう。

 

「お前ら…誰……だ」

 

はじめが意識を失ったと同時に、黒いマントを脱ぐ1人の『男』。

 

さあ、誰でしょうね?

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