金田一少年と神津少女の事件簿   作:GZL

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それからすぐに鏑木プロダクションの周囲にマスコミが取り巻き始めた。

恐らく速水玲香が何かの事件に巻き込まれていると、どこかで情報漏洩が起きたのだろう。その対応のために、鏑木たちは席を外している。

残された綺世たちは未だに現実を受け止められずにいた。

そんな時、ふと逆井が呟いた一言によって修羅場になる。

 

「せめて…身代金が届いていれば、2人は…」

 

「おい!綺世が全て悪いと言ってるのか!?こいつは…身体をボロボロにしながら頑張ったんだぞ!?」

 

「そ、そういう意味じゃ…」

 

逆井はすぐに失言だったと認めたが、泣き続ける真奈美には逆効果だった。

 

「そうよ…あんたが…あんたがきちんとお金を渡せなかったから‼︎」

 

鬼相を貼り付けた真奈美は床に崩れ落ちる綺世の胸ぐらを掴んで立ち上がらせると、彼女の頬を殴った。綺世は抵抗する様子も見せず、真奈美に何をされても全て受け身だった。その様子を見たはじめは右腕だけで真奈美を抑えようとするが、止まらない。

 

「やめろ!綺世は何も失敗していない‼︎」

 

「失敗したじゃない!?橋板を踏み外したなんて、言い訳になんてならないわ‼︎助けられなかったことは事実なんだから‼︎」

 

「やめて真奈美さん!」

 

三田村が間に入って、2人を引き剥がす。

暴れる真奈美をまず三田村が部屋から出して別の場所へと連れて行った。

この部屋に残ったのははじめと綺世、剣持のみ。

静かに黙っていた綺世が唐突に口を開いた。

 

「全部…私のせいだ…」

 

「綺世…」

 

「私がバカみたいに正直に身代金の引き渡しをしたから…。犯人の要求に失敗したから…あそこで、勇んでボロボロな橋を渡ろうとしなければ…私はっ…」

 

完全に打ちのめされている綺世に対して、はじめは…。

 

「…負けているんじゃねえよ」

 

「え?」

 

はじめは右腕で綺世を優しく抱き締めた。

そのまま彼女を見下ろす形で優しく話しかけた。

 

「また挫けやがって…。前にも言ったよな?負けるな…って。本当に玲香が死んだと思っているのか?」

 

「でも…あいつは…」

 

「素直に信じるんじゃねえ、綺世。最後まで諦めるな。俺は玲香たちの死体を自分の目で見るまで…絶対諦めない。俺も…彼女を救えなかった責任があるからな…」

 

「はじめちゃん…」

 

綺世は改めてはじめの精神力の強さに感銘した。

いつの間にか砕けていた心をもう一度取り戻し、綺世は涙を拭った。

 

「…分かった」

 

「金田一…お前、なんて奴なんだ…」

 

はじめたちの後ろで剣持は目に涙を溜めて感動していた。

そして、はじめはすぐに剣持に頼みを入れた。

 

「オッサン!さっきの電話の録音、聞かせてくれ」

 

はじめはすぐにヘッドホンを付けると、さっきの会話を聞く。

綺世にもヘッドホンを投げ渡し、「お前も考えろ」と言った。

だが、綺世が聞く前にはじめは先程の道化人形の場所を推察していた。

 

「なあ、奴が言っていた『暗く淀んだ水の底』って…川じゃなくて、湖のことじゃないか?」

 

「湖?」

 

「ああ、川に捨てたのならこんな表現はしない。そこに身代金受け渡し場所になっていた例の橋の近くに検索をかけると…この湖しかない!」

 

「よし!すぐにそこに向かうぞ!」

 

横で聞いていた綺世はポカンとしていた。

自身が茫然としている間にもはじめはここまで考えを巡らせていたのだ。綺世も同じように立ち上がって、はじめの後を追う。

パトカーに乗ると、すぐさまその湖へと発進させる。

後部座席に乗った2人だったが、かなり対照的だった。

綺世は手を合わせて無事であるように祈っている。逆にはじめは静かに前を向いていた。だが、その手は微かに震えていた。自分の推理が合っていようと、間違っていようと…死んでいたら…と嫌なことばかりが脳裏を過ぎるからだった。

綺世はずっと落ち着かず、窓から景色を見ていた。

その時、彼女の目に入った倒れた人影に綺世は慟哭した。

 

「止まってッ‼︎」

 

鬼気迫る表情で叫んだ綺世はパトカーが止まり切る前に外に飛び出して、先程の人影のところまで駆ける。

そこには頭部から血を流して、身体中傷だらけの速水玲香だった。

綺世は彼女を抱えると、必死になって叫んだ。

 

「玲香ちゃん!玲香ちゃんッ‼︎」

 

はじめも倒れて完全に生気のない玲香の手をすぐに取る。

頼むと思いながら脈を確認した。

 

「…脈がある!オッサン!救急車だ‼︎」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それからは大変だった。

湖に向かう前に玲香をパトカーに乗せて、病院へ担ぎ込んだ。救急車を待っている暇などなかった。はじめと綺世は手術室の前で忙しなく、行ったり来たりを繰り返している。

お互いに「落ち着け‼︎」と言える余裕がないほどだった。

そして、手術の赤い蛍光灯が消えた途端にはじめは出て来た医師に聞く。

 

「先生!玲香は…」

 

「大丈夫です、命に別状ありません。後遺症や障害も残らないですよ。今はゆっくり休ませることが大事です」

 

「あ、ありがとうございますッ‼︎」

 

綺世は大声で感謝の言葉を漏らした。

そして、医師たちが消えた後、綺世の緊張の糸がプツリと切れたのか、綺世ははじめの服を掴んでそこに顔を埋めると号泣し始めた。

はじめも嬉しさで涙を溢していたが、それは内緒にして綺世をゆっくりと再び抱き締めた。

そのまま玲香の部屋の中で彼女が目を覚ますのを待つことにした綺世たちだったが、そこに思わぬ人がやって来た。

 

「三田村さん、どうしてここに?」

 

「あら?共演相手にお花やお食事を持って来ては悪いかしら?」

 

「い、いえ…。ありがとうございます」

 

「玲香ちゃんはまだ起きてないようね。じゃ、それは私からのお土産だって伝えておいてね」

 

それだけ言うと、三田村は去って行った。

 

(いくら共演者のためと言って、食事を自分で用意するものなのか?)

 

最初に見た時の三田村と印象がかなり異なっており、はじめは多少不自然に感じた。その時、剣持も入れ違いで玲香の部屋の前にやって来た。

 

「金田一!安岡の遺体が見つかった。やはりあの湖の底に沈んでいた」

 

「やっぱり…綺世!玲香のことは任せた」

 

「ええ、任せて」

 

そのままはじめは再びあの湖へ向かうことになった。

今度は無事に着くことが出来たが、既に大量のパトカーと真奈美、鏑木が着いていた。遺体袋の中を見せた途端、真奈美は「あなた〜〜‼︎」と絶叫して泣き始める。

その後ろではじめは剣持から遺体の状態を聞く。

 

「安岡の遺体には5発の銃弾が撃ち込まれており、ほぼ即死だった。全く…5発も撃った挙句に湖に捨てるとは…可哀想に」

 

更にその後ろで鏑木たちは自分たちには関係ないかのように、そそくさと現場を離れた。それを静かに見ていたはじめに同じく現場に来ていた逆井が声をかけた。

 

「さっきはごめんなさい、私のせいでお友達が…」

 

「ああ…もう、過ぎたことですから」

 

「鏑木社長のこと、気になるでしょ?」

 

「ええ、唯一の肉親の甥が死んだのに表情1つ変えずに…人の血は通ってるのか、あの女は」

 

「あれが鏑木社長の“素顔”よ」

 

「素顔?」

 

「貴方は知らないだろうけど、鏑木社長は最初身代金を出す気はなかった。つまり玲香ちゃんと安岡、そして貴方を見殺しにする気だったのよ」

 

それを聞いたはじめは大いに驚いた。

確かに裏表がありそうな女性に見えたが、そこまで腐り切っているとは思わなかった。

 

「甥の安岡をかなり煙たがっていたし、消えて済々していることよ」

 

「じゃあ、玲香の養子話は…」

 

「まあ御破産でしょうね。でも正解よ。あの女に奴隷のように扱われて、ゴミのように捨てられるよりね」

 

そう言って逆井は消えた。

今度ははじめの携帯が鳴る。

 

「なんだ?綺世」

 

『はじめちゃん!玲香ちゃんが目を覚ました!』

 

「本当か!?オッサン!」

 

「おい!俺はタクシーの運ちゃんじゃねえぞ!」

 

剣持にそう突っ込まれたが、当の本人は嬉しそうな表情だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

綺世が玲香の手を取って、ずっと目覚めるのを待っていると、不意に玲香の手に力が籠った。

 

「玲香ちゃん!?」

 

その声に反応したのか、玲香はゆっくりと目を覚ますが…同時にあの時のことを思い出したのか、悲鳴を上げてベッドの上で暴れた。それによって医師と看護師がやって来たが、彼らが止める前に綺世が「玲香ちゃんッ!」と喝を入れたことで、彼女の暴走は止まった。

 

「か、神津さん…ここは?」

 

「病院よ、道路脇で倒れていた貴女を保護したの」

 

「ほ…ご?じゃあ私…助かった…の?」

 

震える口で聞いてくる玲香に綺世はきちんと頷いた。

その途端だった玲香は綺世の身体に抱き付くと、号泣し始めた。さっきの綺世と同じ…ではないが、シクシクと小さくも綺世よりも震えて泣いた。

 

(…自分も、さっきはこうだったんだよね…)

 

綺世は母性が働いたのか、玲香の頭を撫でる。

この瞬間だけは、2人の間にギスギスとしたものはなかった。

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