金田一少年と神津少女の事件簿   作:GZL

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File7

はじめが取り出した紙には今回の事件の時系列が事細かに書いてあった。

 

「まず、5月18日の夜…俺と玲香、そして共犯の安岡は玲香のアパート下の駐車場で捕まってしまう。そして目が覚したのは、恐らく5月19日の朝。そこで一旦脱出を試みるが、俺は撃たれて動けなくなり、玲香は再び拉致されてしまった。俺はそこから先のことが分からないから、玲香…辛いかもしれないが話してくれ」

 

「う、うん…。確か…道化人形に捕まってあのロッジでまた目が覚めたのが…5月19日の昼過ぎだと思う。道化人形に取り引き失敗を知らされて…それから、安岡さんが殺されて…私も…」

 

そこで玲香の震えが尋常ではなくなって来たので、はじめは「ありがとう」と言ってやめさせた。

 

「確かに…今の話だけを聞けば全員のアリバイは完璧だ。ここからあの橋とロッジまでは車で往復3時間はかかる。そんな長い時間いなかった人物はいない。だが、この時系列が()()()()()()としたら…どうだ?」

 

その問いに綺世は「まさか…!」と慄いた。

 

「そのまさかだ!安岡が殺されて、玲香が気絶させられたのは…5月19日じゃない!俺たちが玲香たちの死を聞いた5月20日だったんだ‼︎」

 

はじめは紙に書いた時系列を途中で破り、新たな時系列を付けた。

 

「これによって、犯人は鉄壁のアリバイを手に入れた。何たって、証言するのは玲香なんだからな。信用性も高い」

 

「じゃあ速水くんが道路脇で倒れていたのは…!」

 

「犯人の工作さ。まだあの時、玲香は気絶して半日も経っていなかったはずだ。犯人は玲香の身体の泥や傷を付けることで、まるで森の中を彷徨ったように見せかけたんだ。その証拠にこの靴だ」

 

はじめが今度取り出したのは玲香が事件当時履いていた靴だ。

新品とまでは行かないが、ほとんど傷がついていない。

 

「これは看護師が洗って持って来てくれたものだ。この靴の状態から、もしかして玲香はあの森を彷徨っていないと仮定したら…このトリックが思い浮かんだんだ」

 

(凄い…!あの時、そんなことまで思い浮かんでいたの?)

 

「でも、いくら靴が傷付いていないからって…ちょっとこじつけに等しいような」

 

「確かに…これだけじゃまだトリックが実行されたことを証明する事はできない。だけど、()()()に、(れっき)とした証拠がある。おっさん!」

 

剣持が投げたのは、なんと電気カミソリだった。

誰しも何を言っているんだ?と怪訝な表情を浮かべる。

 

「正直…俺は不思議だった。いくら道化人形が潔癖症だったとしても、わざわざこんなカミソリを用意するか?」

 

「まあ…言われてみればそうだな」

 

「ところでおっさん!毎日髭は剃るのかい?」

 

「そりゃあな!嫁さんにも煩く言われるし」

 

「じゃあ、今日はなんで剃ってないんだ?」

 

「殺人事件で忙しいからだ!剃りたくなくて剃ってるわけじゃ……ま、待てよ?まさか‼︎」

 

「そうだよ。安岡は19日、ずっとあのロッジに閉じ籠って玲香が目覚めるのを待っていた。果たして…その日もきちんと髭を剃ったのかな?」

 

はじめはそう言って、電気カミソリの上部を外して、それを思いっきり机に叩きつけた。それと同時に中から出てくる剃られた髭、だが…その中には短い髭と長い髭、明らかに違う種類のものが混在していた。

 

「そう、安岡は1日髭を剃るのをサボった。それによって長い髭、短い髭が入り混じり…犯人のアリバイトリックの証明になってしまったんだ‼︎」

 

「でも、それだけで私たちの誰かなんて分かるの!?」

 

「そうね、私たちの中にいるという証拠は今のところ一切ない」

 

「ああ、そうだ。これだけでは犯人の名前は浮かんで来ない。だけど、切り札があるんだよ。このカセットの中に、犯人を特定する重要なものが録音されていたんだ」

 

はじめがスイッチを押すと、真奈美が綺世に掴み掛かった時の会話が流れ始めた。

 

 

 

『せめて…身代金が届いていれば、2人は…』

 

『おい!綺世が全て悪いと言ってるのか!?こいつは…身体をボロボロにしながら頑張ったんだぞ!?』

 

『そ、そういう意味じゃ…』

 

『そうよ…あんたが…あんたがきちんとお金を渡せなかったから‼︎』

 

『やめろ!綺世は何も失敗していない‼︎』

 

『失敗したじゃない!?橋板を踏み外したなんて、言い訳になんてならないわ‼︎助けられなかったことは事実なんだから‼︎』

 

『やめて真奈美さん!』

 

 

 

全員がそれを聞いたが、この中に犯人を特定出来るものがあるようには思えなかった。しかし、はじめはすぐに()()()()に問いを投げた。

 

「なあ、何であんたはあの時、『橋板を踏み外した』なんて言ったんだ?真奈美さん」

 

突然の質問に真奈美は冷や汗を流しつつ、答える。

 

「警察の人からそう聞いたのよ。神津さんが橋板を踏み外して落ちてしまったって…」

 

はじめも綺世も思わず笑みを溢した。

 

「へえ〜警察が、ねえ…」

 

「な、何よ…。何がおかしいのよ!」

 

「そんなことを警察が言うはずがねえんだよ」

 

「え?」

 

綺世は踏み板の1枚を真奈美に向けて投げた。

そこには明らかに人為的に切り込みが入っており、そこを踏めば確実に落ちるような仕掛けが出来ていたのだ。

 

「私が橋から落ちた理由を教えてあげる。あの橋はね、私の体重と現金を入れたケースの重さに、()()()()()()()()()()()落ちたのよッ‼︎」

 

「!!」

 

真奈美は驚愕の表情を浮かべる。

 

「では、何故真奈美さんが【橋板を踏み外した】なんてことを言ったのか…。答えは簡単よ。貴女が犯人で、橋に仕掛けを施した張本人だからよ‼︎」

 

はっきりと言われた真奈美は、顔を俯かせて身体を震わせた。

 

(全く…なんとバカな人だ。私の計画をこうも無惨にするとは…)

 

「……ぷ…ふふふ…アハハハハハハ‼︎」

 

突然壊れた人形のように笑い出す真奈美。

その姿に全員が後退る。

 

「全く…髭といい橋の踏み板いい、最後まであの男に足を引っ張られるとはね!」

 

「…やっぱり、動機はあれね」

 

綺世はスマホを取り出し、真奈美の経歴を語った。

 

「この鏑木プロダクションで人気No. 1アイドルだったけど、強姦に襲われ、アイドル業を引退。その後すぐに安岡と結婚。でも、その感じだと強姦は…」

 

「そうよ!あの男が差し向けた奴らだったのよ!私はあの男によってボロ雑巾にされ、身も心もボロボロになったところで自分のものにして…その快感に酔いしれていたのよ‼︎それを知った後、私はずっと奴を殺すことだけを考えていた。そして、とうとう目的を果たしたのよ!アハハハハハ…」

 

自分の目的を達成したはずの真奈美だが、その目には涙が浮かんでいた。恐らく自分の人生は一体何だったのかと同時に思い耽っているのだろう。だが、その背後で暗い殺意も同時に沸いていた。

 

(醜い…あまりに醜い。私の芸術を汚したばかりか、最後も醜い…。この女には、【死】こそが救済だ)

 

「終わったわね…」

 

真奈美はテーブルのコーヒーにミルクを入れて、一気に飲み干す。

だが、彼女に異変が起きる。コップを落とし、喉を手で掻きむしって悶え始めたのだ。

 

「真奈美さん!?」

 

「自殺を図ったな!?」

 

(違う…私は……毒、なんて…誰が…)

 

掠れゆく視界の中で、自分に手を掛けた者が薄笑いを浮かべた。

 

(まさか…貴方が…!)

 

「真奈美さん!しっかり…!」

 

真奈美は事切れる寸前、誰を指差しながら何かを言った。

それは言葉とならず、はじめにも綺世にも届くことはなかった。

そして、震えていた手も、糸が切れたマリオネットのように崩れ落ちて…安岡真奈美はその生を終えた。

 

 

 

 

それから1週間後、鏑木プロダクションは倒産していた。

速水玲香の誘拐事件が世間に広まり、更には鏑木が身代金を惜しんだことがどこかから漏れて、一気に信用を失ったのだ。他にも真奈美が殺人犯だった要因も重なったのが痛かったのだろう。そして鏑木自身も末期がんだったらしく、だから真奈美は殺人を犯したのだ。安岡が死に、鏑木も死ねば遺産は全て真奈美に行くからだ。

 

「全く…どこまでも酷い女ね」

 

綺世は玲香の控え室でスマホ記事を読みつつ、そう呟いていた。

幸いなことがあると言えば、玲香のトラウマが増えなかったことくらいだろうか。実際、今さっき時代劇の撮影が終わり、綺世は疲れた身体をここで休めていた。

すると、コンコンとドアが叩かれた。

 

「はい」

 

「あら、神津さんでしたか。玲香ちゃんは?」

 

入って来たのは三田村だった。

 

「今、別の関係者に挨拶を…」

 

「そう、なら良いわ」

 

すぐに去ろうとする三田村を綺世は引き止めた。

 

「待ってください!1つだけ、良いですか?」

 

「何かしら?」

 

「貴女が身代金を用意したり、彼女にご飯を用意したことに私は疑問を持っていました。いくら共演者だからとか、自分の名前を売るにしても、()()()()()()。それに聞きました。貴女は玲香ちゃんを養女にしようとしてた噂があるって」

 

それはいつきからの情報だが、はっきりとしたものではなかった。

だから、この場で聞きたかったのだ。

 

「三田村さん、演技をしている内に本当は」

「もし!そうだったら…私は笑いものね」

 

三田村は綺世の方を振り向かずに言う。

 

「それに私がそんな女だったら、玲香ちゃんにも迷惑がかかる。だからこれ以上は確証もない推論で聞かないでくれるかな?」

 

「い、いえ…すみません」

 

三田村はそのまま去っていった。

綺世はその後ろ姿をずっと見続けた。

 

 

 

 

撮影が終わり、やっと帰ることが出来たのは夕方だった。

列車を待っていると、そこにはじめもやって来た。

 

「何だ?お前、すぐに帰ったんじゃないのか?」

 

「玲香ちゃんと話し込んでたら長くなったのよ。はじめちゃんこそ、何してたのよ」

 

「安岡真奈美について考えていたんだよ」

 

「どういうこと?」

 

「彼女…死ぬ前にコーヒーにミルクを入れてたよな?死ぬ前の人間がミルクを入れるなんて考え辛い。それに最期、何かを指差して呟いていた。聞こえなかったが、口の形状から『地獄』と言ってたんだ」

 

「『私は地獄に落ちる』と言いたかったんじゃないの?」

 

「……」

 

はじめが考え込んでいると、不意に携帯の着信音が背後から響いた。

振り向くと、そこには『神津綺世様へ』と書かれた箱が置かれていた。

綺世はすぐにその箱を開けると、携帯を抱えたピエロの人形が入っていた。着信音が鳴り続ける携帯を取って、「もしもし」と開口した。

 

『やあ、神津くんに金田一くん。久しぶりですね』

 

「誰…?」

 

『元鏑木プロダクション秘書の小渕沢です』

 

「小渕沢…ああ、あの…」

 

『まあそれは仮の名前の1つでね…。真名は…【地獄の傀儡師】』

 

それを聞いた途端、綺世の中に悪寒が突き抜けた。

殺されかけた恐怖が身体を走り、一瞬息に詰まる。

だが、同時に全ての線が繋がった。最初に道化人形が言っていた目印である『血のように赤いバラ』、そしてはじめが言っていた真奈美が言っていたであろう『地獄』という言葉…。

 

「…貴方だったのね…。真奈美さんに殺人計画を持ちかけた黒幕はッ‼︎」

 

「おい、誰と話してるんだ?綺世…」

「黙っててっ‼︎」

 

綺世は大声を上げる。

 

『道化人形は、全く役に立たない操り人形でしたよ。けど勘違いしないで貰いたい』

 

「何を?」

 

『君は…彼らがボロを出したお陰でトリックを暴いた…いや、君じゃなくて金田一くんがね。私の計画は完璧だった。それで勝ったなんて思わないことだ』

 

「ふざけないで‼︎そんなことで勝負なんてする気はないッ‼︎どこかで見てるんでしょ!?出て来なさいよ!」

 

『…今、君たちの目の前にいるじゃないか』

 

それを聞いた綺世は思わず目を大きくした。

はじめも綺世の視線ですぐに気付いた。

向かいのホームに電話を耳に当てて、黒いスーツを身に纏った男が立っていることを…。

 

「地獄の傀儡師…」

「…高遠遙一!」

 

『前にも言ったが…私は人を欺くことに快感を覚え、君たちは謎を解き明かすことに使命感を持っている…いわば平行線。決して交わることはない」

 

すると、汽笛を鳴らして、列車がはじめと綺世、高遠の間を通過する。高遠が見えなかったのは3秒ほどだったが、列車が通過した後に彼の姿は影も形もなかった。

 

『また会いましょう…名探偵たち』

 

そこで通話は切れる。

綺世は暫し黙っていたが、すぐに握っていた携帯を地面に叩きつけた。

 

「クソッ‼︎あの野郎…!」

 

「…やはり、アイツが糸を引いてたか」

 

「絶対…絶対許さない‼︎私やはじめちゃんだけじゃなくて、玲香ちゃんや他の人まで地獄に叩き落として…!」

 

「それがアイツなりの復讐なんだろうな。お前に対する…」

 

「必ず捕まえてやる…。おじいちゃんの…名にかけて…」

 

綺世は陽が暮れゆく空に向かって、静かに言うのだった。




これにて本章は終わりです。
今年も1年ありがとうございました。
来年もよろしくお願いします。



次章予告『デスゲームへの招待』
はじめと綺世は数人の友達を連れて、山奥の遊園地へと行った。
日頃に起きる事件を忘れようと、2人は遊び尽くし…最終バスに乗ろうとするが、間に合わなかった。途方に暮れて歩いて帰ろうとするが、雨風に晒されてしまう。そんな中、通り過ぎるバスにどうにか乗せてもらうが、それは…凄惨な殺人ゲームへ向かうものだった。
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