はじめと剣持が綺世の部屋に向かっている最中、早乙女はソファに座って身体の震えを止められずにいた。それを見ている綺世は厳しいと思っていながらも、こう言った。
「貴女がそんなに震えるのは、自業自得よ。だけど…貴女が殺されるのを見過ごす訳にはいかない」
早乙女をそれを聞いて、顔を俯かせる。
「大丈夫よ、はじめちゃんがいるんだし。…知らないだろうけど、彼はIQ180の天才で、それに……名探偵金田一耕助の孫なんだか」
その瞬間、綺世の部屋の窓ガラスが派手に割れた。
ガッシャーンとガラスが派手に割れる音が響くと同時に、早乙女の悲鳴が轟いた。
それが聞こえたはじめは「剣持のオッサン‼︎急ごう‼︎」と叫ぶ。
「…あ、あなたは!」
窓から入って来たのは…明らかに男性だった。だが、黒のマントとシルクハット、顔を隠す仮面で誰かはまるで分からない。綺世は恐怖で震えて全く動かない早乙女を背に、
怪人は冷たい視線を綺世の奥にいる早乙女に向ける。それと同時に懐から短剣を抜いた。それを綺世に向け、『退け』と言いたげな表情を作った。
怪人は襲いかかる寸前で、扉が激しく開く。
「綺世‼︎」
「はじめちゃん…!」
遅れて剣持も登場する。
「貴様が歌月だな‼︎殺人及び殺人未遂の容疑で…逮捕だあああ‼︎」
剣持は一気に飛び掛かり、怪人を捕まえようとしたがヒラリと躱される。それと同時にはじめの方に襲いかかり、彼を壁に叩きつける。
「ぐあッ!この…ッ!」
はじめが抵抗しようとした瞬間、短剣が彼の顔の横に突き刺さった。
そして…恐ろしく仮面をはじめの顔に近付ける。
その冷めた瞳にはじめは何故か身体が固まってしまう。
それを確認した怪人は短剣を突き刺したまま廊下を駆け抜けて行く。
一瞬固まったはじめだったが、すぐに自身を取り戻して剣持と共に怪人を追う。姿はもう見えていないが、泥が付いた靴で館内に入ったせいで、廊下に足跡が付いてしまっていた。
それを必死に追うはじめが、曲がり角に差しかかった時…唐突に誰かとぶつかり、地面に身体をぶつけてしまう。
「いたた……誰だよ…」
「いてて…」
はじめとぶつかったのは有森だった。その有森が来た廊下から更に布施と神谷がやって来た。
「どうした!?何があったんだ!?」
「怪人が来たはずなんだ‼︎見てないか?」
しかし、3人とも顔を横に振った。
ということは、3人のいる方向へは逃げてない。残りの逃げ道は…。
「この窓か!」
足跡も続いており、はじめと剣持は窓から上半身を突き出して周囲を窺う。だが、そこは崖下であり…とても人が逃げられるような場所ではなかった。下には荒れに荒れ狂う大海原が続いており、横の足場を進むにも風が強すぎて、すぐに落下してしまうだろう。
すると剣持が何かを発見したのか、「おい!誰かライト持って来い‼︎」と叫んだ。そして、そのライトを崖下の大海に向けると、白く輝く『
「…歌月は、俺たちから逃げるためにこの窓から飛び出た。だが、その下は荒れ狂う海…奴は落下したと考えていいだろう。この風の中でロープとかで上階へ逃げることも不可能だ!」
それを聞いた全員は1つの結論を導き出せた。
「じゃあ…犯人は…」
「ああ、歌月は死んだ。…締まらん終わり方だ」
それを聞いた彼らは喜びを分かち合った。
しかし、その輪の中にはじめと綺世は入ってなかった。綺世は風雨が身体に当たり続けるはじめにタオルを渡し、口を開いた。
「そんな雨風に晒されると、風邪引いちゃうわよ?」
「…ああ」
(歌月がここから飛び降りて死んだ…?そんな訳ない‼︎俺に見せたあの目は…簡単に死ぬつもりのものじゃない!)
はじめは思わず、窓の手摺りに手を触れる。
「…やっぱり、奴は死んでない」
「はじめちゃん…」
「綺世、まだ…事件は終わってない」
はじめは、そう呟くのだった。
そのままはじめは劇場へと赴いた。その後を綺世は追う。
「どうしてここに来たの?」
「謎を解くためさ。犯人は死んでない」
「…私もそう思ってる」
綺世の意見にはじめは僅かながら驚きを感じた。
「犯人の目的は間違いなく月島さんを自殺に追い込んだ日高、桐生、早乙女先輩に対する復讐…。まだその目標を達成してない。絶対に何かしてくるはず…」
「俺もそう思っている。だが…この劇場での謎を解かない限り、“奴”を追い詰めることが出来ない」
その言葉に綺世は何か驚きを感じている。
何故なら、はじめの言葉からして…彼には既に犯人の目星がついているように思えたからだ。
実は綺世も犯人は『アイツ』なのではないかと、少しの目星はつけているのだが、はじめほど確証は得られてない。だが、はじめの目は明らかに確証を抱いている目だった。そんな中、綺世は血飛沫や照明器具の破片が一直線に止まってることに気付く。
「はじめちゃん、この血飛沫と破片…恐らく
「ということは…照明器具が落ちた時、緞帳は降りていたんだ」
(しかし何故…)
その時、綺世が何かを思いついたのか、はじめにとある提案をする。
「はじめちゃん、私が緞帳を降ろしに行くからそのままそこにいて」
「なんで俺が…」
「いいから」
はじめに有無を言わせずに、舞台の上から降りる。
そのまま音響室に行き緞帳を降ろすと、マイクではじめに声をかける。
「はじめちゃん、聞こえる~?」
5秒程度待つが、はじめからの返事はない。それからも何度となくマイクで大きな声を上げるが、何も返事はない。
それが分かった綺世はくすっと笑って、こんなことを言い出した。
「金田一はじめは天才だけど、クソ冷たい男でーす。他にも口調が冷たくて友達がいませーん。昔は私がいないといつも泣いてる泣き虫でした~。それに…私は金田一はじめのことが…」
「…そんなこと言ってて楽しいかあ?綺世」
背後から聞こえたはじめの声に綺世は尻を音響設備にぶつけて動揺する。
「は、はじめちゃん!どうしてここに!?」
「お前の声がちっとも聞こえないから、舞台から降りたんだよ。結局何がしたかったんだ?」
「え!?私の声、全く聞こえなかった?」
「ああ、全くな。でも、綺世が試してくれたお陰で…日高織絵の事件の謎は解けそうだ。あとは…」
そう言って、はじめは音響室の中をひっくり返し始める。
「どうしたの?」
「何かあるはず…いや、きっとあるはずだ。“あれ”が…!」
はじめがゴソゴソとしている間に、綺世は少し顔を赤くさせてはじめに聞く。
「あの…さっきの言葉…聞いてな…」
「あった!!」
綺世の言葉を遮り、はじめは見つけた。音響室の棚と棚の間に落ちていた、赤色のつけ爪を…。
それは間違いなく、殺された緒方先生がつけていたものだった。先生は、ここで殺されたのだ。
「思った通りだ。だが…それなら何故“奴”は歌月を殺した?綺世の言う通り、まだ目的の1人である早乙女を殺せてない…」
そこからはじめは黙ってしまい、無意識に音響室から出て行った。
緊張の糸が解かれた綺世は「はああ…」と深く長い溜息を吐き、『さっきの発言』を聞かれていないことに安堵する。
(少し…ふざけすぎた…)
はじめが出て少しして、綺世も部屋を出た。
その後、2人とも部屋に戻ることは出来たが…眠ることは中々出来なかった。
―翌日―
全く寝た気のしないはじめと綺世、はじめは頭を掻き、綺世は目を擦りながら食堂に着いた。
「おはようございます、お二人とも」
黒沢オーナーの挨拶に「どうも…」「おはようございます、オーナー」と正反対の受け答えをするはじめと綺世。
「お二人とも…眠そうですね?」
「考え事をしてしまって…コーヒーを頂けませんか?」
「私もお願いします…」
黒沢オーナーがコーヒーを淹れてくれると、同時に嬉しい話が沸き起こった。
「本土と連絡がつきましてね…船が来てくれるんですよ!」
「そうですか、それは助かりますね」
「10時頃には来るとのことです」
それを聞いた2人は、ほぼ同じことを考えていた。
(今日俺たちは島を出る…)
(それまでに歌月は、早乙女先輩を殺すはず…)
(タイムリミットは…)
(10時……ん?)
綺世はふと食堂に置かれていたはずの時計、そしてボーガンが無くなっていることに気付いた。
「オーナー、時計とボーガン…片付けたんですか?」
「え?時計とボーガン?」
綺世に言われたオーナーは漸くそれらが無くなっていることに気付く。
「不思議なこともありますねえ…」とオーナーが呟くと、そこではじめと綺世はハッと気が付いた。
((ボーガンと時計…歌月の死…もしかして…!))
同じタイミングで立ち上がった2人は、呟く。
「謎は…全て解けた」
「私も…解けた…!」