暗い道をゆっくりと進んでいると、貼り紙に『ここ♪』と記された部屋があった。最後に入ったはじめがその部屋のドアを閉めると、ピーと機械音が鳴って、鍵が閉まった。
何が始まるのか、はじめたちは心を不安にさせながら待っていると、案の定ゲームマスターからの指示が響いた。
『さあ、やってまいりました。最後のゲームです!この部屋に隠されている鍵を探し出してください。しかし…鍵はたった1つしかありません』
「な、何!?」
宝樹が思わず声を上げた。
『そう、このゲームは1人しか生き残れません。勝ち取った鍵を使い、この部屋の真ん中にあるシェルターに入ってください。入って10秒後に…爆弾が起爆して…残りはドカン‼︎です♪』
「そ、そんな…!?」
生馬も同じように声を上げる。
はじめたちは知らず知らずの内に全員の顔を窺っていた。
既に生き残りたいために他人を蹴落とす準備は出来ているような表情だった。
『でも闇雲に探してもダメですよ?“エチケット”に気を付けて…探しましょう。では、最終ゲームスタート!』
「エチケット?どういうことだ?」
「ズルせずに探せ…ってことかしら?」
「そんなこと言ってられるかよ!」
宝樹は構うことなく、部屋の中を探し始める。それに続いて、他の参加者も部屋の中をひっくり返す。
はじめは鍵を探すよりも、この部屋から脱出する方法がないかを探す。
そんな中、綺世は謎に設置されたトイレを見つけていた。
「なんでこんな場所に綺麗なトイレが…」
「あ、あった!」
すると後ろで生馬が大声を上げた。
びっくりした綺世はすぐに後ろを振り返るが、宝樹や真津本は「鍵があったのか!?」と鬼気迫る表情で生馬を問い詰めた。
「ち、違うよ…!トイレのことだよ!ずっと我慢してたんだから…!」
「けっ、呑気な野郎だぜ」
宝樹が言い放った後に生馬はトイレに駆け込んだ。
しかし綺世はさっきの生馬の様子が気になっていた。
(トイレがあったと言うには、喜びすぎじゃなかったかしら?何か別のものを見て、『あった』と叫んだように見えたけど…)
その頃、生馬はきちんとトイレを済ませると…汗をかきながらも薄笑いを浮かべていた。
「やっぱり…ゲームマスターが言っていたのは
全員が部屋の中を探し尽くし、トイレの中に鍵があると結論付けた参加者たちは生馬が出て来るのを待った。宝樹に至っては、仮に生馬が鍵を見つけていたとしても奪い取ってしまえばいいと考えていた。
だが、トイレの中から突然…生馬の甲高い絶叫が迸った。
「ぎゃああああああああああッ!?」
思わず肩を竦めるはじめたち、そして…ゆっくりとトイレの扉が開く。
中からは顔を真っ青にした生馬が出て来たが、すぐに倒れてしまう。
「いやあああ!?何何!?」
はじめが駆け寄って、首に手を当てるが…既に脈はなかった。
気になったのは手のひらにある大量の傷…そしてトイレの中を見ると、床に裏になった額縁が落ちていた。更にそこには大量の針が仕掛けられており、猛毒が塗られていたことが容易に想像が出来た。
「こ、これも…ゲームマスターの仕業なの…?」
「まさか…他にもこんな仕掛けがあって…俺たちを殺す気なんじゃ…」
真津本がそう言った瞬間だった。
上部の換気口からシュー…と何かが漏れ出る音が聞こえ始めたのだ。
「な、何これ…なんか…頭がガンガンする…?」
「うぅぅッ!?さ、催眠ガス!?」
先に麦ママは倒れて咽せてしまう。
だが、はじめはこれが催眠ガスではないと思った。あの知恵の輪を外すゲームでの言葉を思い出す。
『毒ガスで全員死んでもらうからね〜』
「毒ガスだ‼︎」
はじめの叫びを聞いたことで、宝樹と真津本、そしてはじめは唯一の出入り口である扉に何度も体当たりをする。しかし、電子ロックの扉は全く開きそうもない。
その間にもガスは部屋の中に充満していき…次々に倒れていく参加者たち。
「クソ…目が、霞む!」
「ダメだ…意識がぁ…こんなところで…死んじまう、のか…?」
「は、はじめ…ちゃん…」
とうとう綺世も目を閉じてしまう。
「綺世…!おい…!」
(ヤバい…俺も意識を保てねえ…)
はじめも膝を着いて、朦朧とする意識の中で…呟いた。
「ゲームマスター…人の命をおもちゃのように扱って…ゲームで生き死にを決めるなんて…俺は絶対…許さねえ…。必ず…俺が、お前を、つかま…えて…みせ…」
倒れるはじめ。
「ジッちゃん…の…名に、かけて…」
全員が意識を失った後、ゆっくりと立ち上がる者がいた。
口には酸素ボンベを付けて、ニヤリと笑っていた。
「…だいち!金田一!神津くん‼︎」
どこかで聞いたことのある濁声で先に目覚めたのは、綺世だった。
ガンガンする頭と瞼をゆっくりと動かすと、目の前には何故か剣持警部がいた。
「剣持警部…どうして、ここに…」
「通報があったんだよ。ここに意識不明の男女がいるってな」
「意識不明………は、はじめちゃんは!?」
「大丈夫だ、ほら」
隣ではじめも倒れていた。
しかし、寝息が漏れていることからただ眠らされただけだったのだ。
「良かった…はじめちゃんが無事で…!」
「お前らと男女2名ずつは無事だったが…あの男女は…。一体ここで何があったんだ?」
綺世が何が起きたのかを説明しようと思ったが、彼女らが捨て置かれた場所には1つの貼り紙があった。そこには【ゲームオーバー‼︎脱出おめでとう!】と明らかに矛盾した言葉が書いてあった。
「…ふざけたゲームよ。私たちは、殺人ゲームに無理矢理参加させられたのよ‼︎」
その後、参加者は全員病院へ移送されて数日の入院を要された。
それははじめも綺世も一緒で、目が覚めたはじめは助かっていたことに驚きを感じつつ、生を実感していた。その間に剣持が全員の事情聴取を終えており、ベッドで寝転がっているはじめと綺世に説明する。
「お前らも大変だったな。折角の楽しいデートだったのに…」
「デ、デートじゃねえよ!」
「デートじゃありません‼︎」
お互いに顔を赤くさせて、剣持の言葉を否定した。
剣持は少し笑みを浮かべたが、改めて攫われたメンバーの当時の状況を説明し始めた。
「まず宝樹だが…奴はあの遊園地の遊具に自身のゲームを取り入れるための会議で、1番遅くまで残っていたらしい」
「へー、あの人のゲーム、そんな人気なんだ」
「続いて、真津本、菊川、麦林についてだ」
「麦林?あ、麦ママと呼ばれてたオバさんか」
「奴らはスナックの店長と従業員の関係だ。話によると、途中で麦林と2人が離れてしまい、最終バスに一緒に乗っていたことにも気付けなかったようだ」
「………」
「そして…殺された霜村親子だが、確かに金持ちだ。その遺産も莫大なものだ。父親が死んで以来、女手一つで育てた息子はあの様。大学でも成金野郎で評判は悪かったようだ」
黙って聞いていた2人だが、その表情はまるで変わらない。
あまりの変わらなさに思わず剣持は問う。
「お、おい…。何か言ってくれよ」
「別に、既に犯人は分かっているからな、綺世」
「ええ。あの極限状態の中で不自然な発言をした人が
「ほ、本当か!?」
「ま、そいつが怪しいだけで証拠はないんだけどな。……オッサン、俺たちをもう一度事件現場に連れて行って「ダメ!」」
はじめの言葉を綺世が遮った。
「はじめちゃんはここで寝てて」
「はあ?何で…ッ!」
「これ」
綺世がはじめの左腕を掴むと、そこには大火傷を治療した跡があった。
「これ…知恵の輪の部屋で負ったんでしょ?」
「……」
「だからここで大人しくすること!でもついてくるだろうと思って…入って来て!」
病室の扉が開くと、入って来たのははじめが大嫌いな人間だった。
「あ、明智…警視!?」
「やれやれ…君たちはどこでも事件に巻き込まれますね」
「明智さん、はじめちゃんの頭が働かなくなるまで嫌味な話を聞かせてあげてください」
明らかに余計な言葉が多すぎる綺世だが、明智は仕方ないと言ったように椅子に腰を下ろした。
「じゃあ剣持警部、行きましょう」
「お、おう…」
後ろでははじめが既に白目を剥いているように見えたが…それは気のせいだろうと綺世は思うのだった。