綺世と剣持は高く聳え立つ廃病院の前に到着していた。
陽がある内に来て分かるが、ここはあのバスの通る道から少しだけ外れた場所にあるので、仮に眠っていなくても簡単には気付かないと綺世は思えた。
「いや、あの時私たちはバスの中で眠らされた。つまり、バスの運転手がゲームマスター…」
「ということは、金田一と神津くんが参加したのは本当に奴の狂気的な考え…だったのか?」
「…それはあり得ない。間違いなく犯人は霜村親子
「な、何だって!?どうしてそんな大事なことを俺には教えず神津くんにぃ!」
(そっちに驚いて怒っているのね…)
内心ツッコミを入れながらも、綺世は廃病院に足を踏み入れる。
その後を剣持も追う。
「だけど、分からない。どうやってあの親子だけを確実に殺したのか…。まずは霜村生馬の殺害現場に行きましょう」
生馬が倒れたトイレの中には、毒針がびっしりと貼られた額がまだ残っていた。
「生馬は何故この額を真っ先に触ったんだろう?」
綺世はゆっくりと裏返しのままの額を表にする。
そこに飾られていたのは…何かのラベルのようなものだった。
「これ何?」
「それか?ワインのラベルだよ」
「ワイン?そういえば…生馬はワインの勉強を趣味でしているって自慢してたわね。高価なワインのラベルでもあったのかしら?」
そんな話をしてると、剣持は不意にこんなことを言い始めた。
「そういえば神津くん、知ってるか?このワインのラベルは・・・・って言うんだぞ?」
それを聞いた綺世は血相を変えて、剣持の肩を掴んで揺さぶった。
「今の話、本当ですか!?」
「あ、ああ…。知っている人なら知っていることだ」
「やっぱり…生馬は狙って殺された。あとは霜村志保殺害のみよ!」
今度は爆破された部屋に入るが、中は黒焦げで置いてあったテレビも形は留めているものの、外からの風圧で歪んでいた。
「ここで私たちは監禁され、命を賭けたクイズをした。みんな、同じマスクを着けて、同じ問題を解いていた」
「その中から1人だけを的確に狙い、おまけに部屋に留めさせるなんて…無理に決まっとる!」
「……」
(何かあるはず、被害者だけに分かり…部外者である私たちには気付かない…何かが…!)
そうやって頭を唸らせていると…。
「お悩みのようだな、綺世…」
覇気のないはじめの声が聞こえた。
振り向くと、青い顔をしたはじめが明智と共にやって来たのだ。
「…なんでここにいるのよ」
「明智の野郎に…連れて来て貰ったんだよ。こいつも自慢話は飽きたんだと」
「私も事件には興味がありましてね…」
(全く…)
綺世が内心呆れていると、はじめは壊れたテレビを見て何かに気付く。
「おい、このテレビ…あの遊園地にあったロゴと一緒じゃないか?」
はじめが指差すところには、はじめと見に行ったホラーアトラクションの入り口に書いてあったロゴと同じものだった。恐らくあのアトラクション機器はこの会社が作っていたのだろう。
すると綺世は、何かに気付いた。
「待って…あのホラーアトラクション…確か…映像が飛び出す3Dを採用してたわよね?」
「そうだな、まあ怖くなかったが……うん、待てよ?ということは…」
「「あぁー‼︎‼︎」」
はじめと綺世は同時に大声を上げた。
そして、お互いにふっ…と笑みを浮かべた。
「ど、どうしたんだ?2人とも」
「分かったぜ、おっさん。どうやって霜村志保だけを狙い撃ちしたかのように、この部屋に留めることが出来たのか」
「何ぃ!?それじゃあ」
「ああ…謎は」
「全て解けた」
はじめに続いて綺世がそう言うが、彼は不満だったようで声を荒げる。
「何で俺の決め台詞を途中で奪うんだ!?」
「別にどうでも良いじゃない!ほら!剣持さん、関係者を全員この部屋に集めて!」
はじめは憤慨した表情を浮かべたが、綺世は不敵の微笑を浮かべる。
今回は綺世の方が謎を多く解いているので、いつもより優越感に浸れるからだった。
それからはじめと綺世は全員が来る前に少しばかり警察に
「何だよ、2人とも。こんなところにまた集めやがって…」
「そうよ、私たちは被害者なんだから…ここに来て何をするの?」
「全く…退院出来たと思ったらここかよ…。…嫌な光景を思い出しちまうぜ」
「私は店をずっと閉めてるんだから、早く開店したいのよ。急ぎじゃないなら、帰っちゃうわよ」
4人は各々文句を言うが、それらを全て受け止めた綺世はやっと…本題に切り出た。
「ここに集まったのは、この場で…犯人【ゲームマスター】を捕まえるためよ」
「何言ってんだ?俺たちは…」
「いや、この中に…ゲームマスターがいるのよ!」
それを聞いた一同は一瞬茫然としたが、すぐに反論が飛び出した。
「バカな!俺も含めたあのメンバーは、バスで寝てしまったらここにいたんだ!しかも赤の他人同士…どうしてこのメンバーを集めたんだ!?」
「それは後で言うけど、まず何で私たちが今回のゲームの参加者に選ばれたか話すわ。私たちは雷雨の中を歩いていたけど、耐えかねて通りがかったバスに手を振った。その時…雷光が私たちを照らした」
「それがどうしたんだ?」
「顔よ、あの時の光で運転手は私たちに顔を見られたと
「なっ!?あの時のバスの運転手が…ゲームマスターだったのか!」
「そうじゃなきゃ、私たちまで巻き込まれる理由が見つからない。でもそれ以外にもこのメンバーが集まった共通点があった。それがこれ」
綺世が見せたのは袋に入った小さな紙切れだった。
何か細かな文字が入った紙だが、全員一瞬それが何か分からない。はじめも凝視する程だった。
「…それが何だ?」
「これは生馬が手を掛けた額に飾られていたもの、ワインのラベルよ」
「だから何?それが…何なの?」
「剣持さん、これ…何て言うんでしたっけ?」
「あ?ああ、そいつはな、
「!」
それを聞いた全員に衝撃が走った。
あの最終ゲームでゲームマスターが言っていた言葉、【でも闇雲に探してもダメですよ?“エチケット”に気を付けて…探しましょう】の意味が今はっきりと分かったから。
「でも待てよ、神津くん!確かにワインを勉強していた霜村生馬なら確かにエチケットの意味は知っていても不思議はない!だが…このメンバーでもし他に知っている人がいたら…」
「…そうね。じゃあ今いるメンバーを確認しましょうか?まず私とはじめちゃんは未成年、知ってるはずがない。次に宝樹さん、貴方は下戸でお酒が苦手、知ってる可能性は限りなく低い。残りは3人、菊川さんと真津本さん、お酒に関しては?」
「私は…基本接客だから詳しくないわ。真津本くんも麦ママも扱うのはウィスキーとかだから…」
「そう、知ってるのは生馬だけ。そうやって生馬は狙われて、殺された」
「ちょっと待てよ、そもそも何故あの親子が殺されなくちゃいけないんだ?」
宝樹が我慢しかねたのか、綺世にそう聞く。
「簡単な話よ。霜村家の遺産よ」
「遺産!?でも、この中にそんな遺産を受け取れる人物なんて…」
真津本がそう呟くと、綺世はゆっくりと足を前に進めた。
そして…菊川梢の前に立った。
「え?な、何?」
「菊川さん、貴女の父親が誰か…知ってる?」
「は、母は普通の男性だったって…」
「貴女の父親はね、霜村志保の夫でもあったの。つまり、貴女と生馬は異母姉弟なの」
綺世が見せた戸籍謄本にはその事が書かれていた。
途端に菊川に全員の視線が向けられ、疑惑がかかる。もちろん、菊川は必死に否定する。
「待って…!そんなの知らない!あの人が義弟だったなんて…‼︎」
「言い逃れする気か!?この中で霜村親子を殺す動機があるのはお前だけ…「そうね、知らなかったはずよ」
剣持の言葉を遮って、綺世は言った。
「へ?しかし、彼女は…!」
「確かに借金があって、何十億もの遺産を受け取れる…これ以上ない動機を持っているわ。だけど、父親の顔も覚えておらず、母親も自殺した彼女にそんな事を知る事が出来るかしら?」
「…普通に考えれば、無理だな」
はじめも相槌を打つ。
「この中でそれを知っていたのは、ただ1人…。狂気の無差別殺人を装って、霜村親子を殺害したのは…あなたよ、麦林美佳」
綺世が指差したのは…彼女の後ろに静かに立っていた麦林美佳だった。