金田一少年と神津少女の事件簿   作:GZL

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File6

唐突に名前を言われた麦林は動揺した表情を浮かべたが、すぐに笑みを溢した。

 

「な、何言ってるの?どうして私があの人たちを…それにどうして私が犯人なのか…教えてくれないかしら?」

 

「そ、そうよ!私みたいな借金持ちや真津本くんにも優しくする麦ママが…殺人なんて‼︎」

 

「その通りだ!そんな大口言うなら、証拠はあるんだろうな!?」

 

菊川と真津本は綺世に迫るが、彼女の目はちっとも狼狽えていない。

 

「そうね…1つずつ説明していこうかしら。まず、私たちが最後の部屋で意識を失う直前、麦林さんは“催眠ガス”と言っていたのを、覚えている?」

 

「そ、そういえば言ってたな。でも実際、俺らは眠らされただけで何が…」

 

「…少し嗅いだだけで、よく催眠ガスだって分かるのかしら?」

 

それに気付いた宝樹は「あっ!」と声を上げた。

 

「そう、あの時普通…知恵の輪のゲームで言われた“毒ガス”を連想するはず。なのに、麦林さんは疑うこともなく即座に“催眠ガス”と言った。なんでかしら?」

 

「……っ」

 

麦林は黙ったままだ。

 

「まあ当然かしら。バスで私たちを昏睡させたガスと同じものなら、つい口が滑ってしまっても不思議はない」

 

しかしそれだけでは真津本は引き下がることはない。

 

「じゃ、じゃあ…あの毒入りのカップ麺に関してはどう説明する!?梢は毒入りを当てている。本当に遺産相続が目的なら、そんなことは…!」

 

「あの時、箸に毒があるかもと言ったのは、どこのどいつだ?」

 

はじめが不意に発言した。

それを思い出した真津本は流石に言葉に詰まった。

それは…麦林だったからだ。

 

「そうやって菊川さんに毒を与えないようにした。それに元々は箸じゃなくて、カップ麺の底に毒入りカプセルでお湯で数分後に溶け出すようにしてたんだ。生馬にカップ麺を渡したのは彼女、更にそのカップ麺の底には鍵がなかった。無差別に殺すなら、全てのカップ麺の底に鍵がないとおかしい。違うかい?」

 

それを言われた真津本は何も言えなくなった。

菊川は流石に疑念の目を向け始めたが、ここで麦林が口を開いた。

 

「ちょっと待ってよ…」

 

「何か?」

 

「最初の…霜村志保の爆殺についてはどうなの!?あの時…私たちは同じ問題を解いていた!それでどうやって霜村志保だけを最後まで残せるっていうの!?催眠術でも使ったと言うのかしら!?」

 

切り札を使ったと思ったはじめと綺世、すぐに綺世ははじめに合図を送った。

 

「出来るのよ、それが」

 

「え…」

 

「今からそれを実践するわ。みんな、こっちに来て」

 

綺世が全員をあの時の部屋に入れる。

黒くなった一部の外壁に菊川は一瞬震えた。

 

「ここにあの時と同型のテレビを用意した。それと…少し形状は違うけど、同じように片目を塞いだ特製のお面を付けて見てもらう。はじめちゃんもお願いね」

 

「へいへい」

 

「返事は1回!…じゃあ、映像を始めるわ」

 

綺世がリモコンで再生ボタンを押す。

 

『さて、今この映像は見えているかな。これからあの時と同じように問題を出すわ。分かった人は手を挙げて答えて。それで問題を解けなかった人が、【ゲームマスター】よ』

 

その言葉に全員がドキッとする。

菊川は一瞬麦林を見たが、すぐにまたテレビに視線を戻した。

 

『では第1問!“Eastの意味は?”』

 

途端に麦林は何かに気付いたのか、一瞬左足を下げた。

その動揺を綺世は見逃さなかった。

 

「なんだよ、“東”だろ?」

 

即座に宝樹が答えた。

 

『“日本で1番高い山は?”』

 

「富士山しかないじゃん!」

 

続いて菊川。

 

『“日本の首都は?”』

 

「東京だろ?アホらし」

 

真津本が答え…

 

『“地球を英語で?”』

 

「earthだよ」

 

はじめが最後に答えた。

残ったのは、麦林だけ。麦林はお面をしていても分かるほど、汗を流して荒く息を吐いていた。

 

「ど、どうしてだよ。物知りな麦ママが答えられない程の問題じゃねえだろ?」

 

「そのお面、実は両目とも見えていないんじゃ…!」

 

「ちげえよ。彼女にだけは、“別の映像”が見えているんだ」

 

はじめがそう言っても、全員理解が追いつかない。

そこで綺世は真津本に別のお面を渡した。

 

「これは麦林さんが付けてるお面と同じもの、それで問題を解いてみて」

 

「…別に見た目に変化はねえけどなぁ」

 

「じゃあ、ラストの問題をもう一度」

 

ラストと聞いた真津本はさっきの地球を英語に訳す問題が出ると思った。

だが…彼の左目で見えた映像は、予想を超えるものだった。

 

『地球上に微生物の数を正確に言え』

 

「は…はぁ!?ど、どうなってんだ!?問題が違うじゃねえか!」

 

「な、何言ってるの?あの地球を訳す問題だよ?」

 

それを聞いた宝樹が思い付いたように大声を上げた。

 

「そうか!これは…3Dテレビか!」

 

「流石ゲームプログラマー、その通りよ」

 

綺世はポケットから3Dメガネを取り出して説明する。

 

「3Dというのは、目の視差を利用して立体的に見せる技術。あの映画には右目用の映像と左目用の映像を連続して交互に見せることで、私たちの脳は勘違いして立体的に見ているの。つまり…」

 

綺世はお面の1つを取ると、内側に付けられた3Dメガネを見せた。

 

「このように…霜村志保以外は左目用の映像を見てた。もちろん、誰でも解けるような簡単な問題をね」

 

(お前…少し分かっていない問題あっただろ…)

 

はじめは少しツッコむが、推理の邪魔になるので心の中で言っておいた。

 

「でも霜村志保は…右目用の映像を見せられていた。恐らく…誰にも解けないような超難問を頑張って解こうとしていたのよ。その証拠にはじめちゃんは、途中で答えを教えてと迫られた」

 

「それでも彼女を引き留めるのは困難だ。だけど…最期の彼女の態度の急変で大体結末は予想出来る。最後にあんたは、霜村志保にだけ脱出方法を教えるとでも書いて…彼女を(たぶら)かしたのだろう」

 

ここまで言っても麦林美佳の表情は、罪を認めているようには見えなかった。そこではじめは…最後の切り札を出した。

 

「ここまで言っても罪を認めないのか?麦林美佳…いや、菊川早苗!」

 

その名前を聞いた途端、菊川梢の表情が一変する。

 

「嘘…母さん!?嘘よ!だって…」

 

「死んでいなかったんだよ。ただの店の店員に遺産を継がせるためにここまでのことをするはずがない。既にDNA検査はやってるよ。結果でも聞くか?」

 

そこまで言ったところで、麦林はタバコを取り出して一服した。

 

「必要ないわ。そうよ、霜村親子を殺したのは私よ!…まさか、こんな完璧なトリックが解かれるとはね」

 

(……?)

 

綺世はその一言に違和感を感じた。

 

「お前…そこまでして金が欲しかったのか!?」

 

「はあ!?当たり前じゃない‼︎何十億って遺産が娘に入る?そんなこと知ったら、誰だってそうしたくなるでしょ?」

 

金に目が眩んだ鬼女を思わせる演技をしていることに、2人とも気付いていた。だから綺世は、ゆっくりと話し出した。

 

「嘘ね。貴女は、娘さんの借金を返済させるためにこんな事件を犯した。違う?」

 

「…ふん、こんな演技じゃバレバレだったかしら?」

 

もう一服する麦林は静かに話し出した。

 

「私の旦那…もう死んだけど、霜村の夫とは仕事のすれ違いで別れてね、梢を女手1人で育てるのは本当に大変だったわ。そんな時、私が興した会社で事故が起きて借金…更にそのいざこざで人殺し…。もう何もかも嫌になって…樹海に向かったわ」

 

「じゃ、じゃあ…どうして生きてるのよ!私は…!」

 

梢の声には、今までずっと会いたかったであろう母親への想いが籠り始めていた。

 

「自殺しようと思ったら、先客がいてね。骨になってたけど、免許証やお金が置いてあった。そいつが本物の麦林美佳よ。それを利用して、私は彼女になって第2の人生を送ろうと決めた。ま、それからも色々と犯罪行為はやりまくったけどね」

 

梢は自分の母親が送ったであろう壮絶な人生に言葉を失う。

 

「そして…神の悪戯か、偶然か…あんたがうちの店に働きに来た。借金を返済出来ずに、更には男に貢いでいたって聞いた時は…自分が情けなくなったわ」

 

「………」

 

「そんな時よ、雑誌で霜村のことを知ったのは。元旦那が大金持ちと結婚して別に子供を産んでたことを。そして…閃いた。霜村の息子と梢は異父姉弟じゃないかって。それから法律の本も読み漁った‼︎殺す順番を間違わなければ…梢は遺産を受け取れるって!」

 

「き、貴様!重罪は免れんぞ!」

 

「お構いなく!どう足掻いたって梢に遺産は転がり込む」

 

全てを吐き出した麦林早苗に綺世は1つ聞く。

 

「麦林…いや、早苗さん。貴女が1人でこの事件を考えたの?」

 

その発言にはじめも反応する。

 

「確かに生馬が異父姉弟だってことはすぐに分かるだろうけど、それが雑誌に出たのはつい2週間前…それだけでここまで完璧な計画は作れない。…一体、()()この計画を立てたんですか?」

 

それを聞かれた早苗だが…。

 

「…誰かは分からないわ。でも、うちの近くの公園で人形劇をやる男が1回のみに来たの。その男が今回の計画を全て立ててくれた。名前は、【地獄の傀儡師】…って言ってたかしら?」

 

「おい、それって…‼︎」

 

「あいつ…!」

 

また別の人間を使って、犯罪を行っていたのだ。

それに今回…綺世が最後に財布を落としたのも、偶然とは考えられなくなった。早苗がはじめたちを連れて行くことも、奴の計画の1つだったのだろう。

 

その時…。

 

「全く…」

 

1人の警官が帽子を取って、呟いた。

その顔を見た途端、はじめと綺世は同時に叫んだ。

 

「「高遠ッ‼︎」」

 

「き、貴様…!」

 

「私に気付かないとは…君たちも腕が落ちましたね」

 

すぐ警官に囲まれる高遠だが、表情に変化はない。

 

「まあ、こうなるとは思っていました。使えない人形は殺そうと思ったのですが…親子の再会を断ち切るのは、どうも苦手でね」

 

「あんたの理屈で人の生死を決めるんじゃない‼︎」

 

綺世はそう叫ぶが、高遠は飄々とした様子だ。

 

「神津くん、金田一くん、今回の事件が解けたのは全くの偶然だと思うことだね」

 

「何っ!?」

 

「仮に親子だと分かったところで、彼女が否定すればそこまでだった。人間の情に訴えかけて認めさせただけに過ぎない。本当に冷酷な犯人だったら…罪を認めることはなかっただろう」

 

「うるさいッ‼︎あんたの空論には耳が飽き飽きしているのよッ‼︎」

 

「…ギャラリーも多くなって来たことですし、そろそろ私はお暇します。良い仕事でしたよ、ゲームマスター。残り少ない人生を楽しんでください」

 

そう言って指を鳴らすと、高遠のすぐ真下の地面から煙が噴き出した。

それで視界が完全に無くなる。

やっと煙が消えた頃には、高遠の姿はなかった。

 

「奴は外だ!急げ!」

 

剣持はすぐに高遠の後を追うために、警官たちに指示した。

だが、部屋の中では更に別のことも起きていたのだ。

 

「麦ママ!」

 

真津本の声に全員が早苗に視線を向けた。

早苗は吐血して、膝を着いていたのだ。

 

「母さん…!」

 

思わず母と呼んでしまった梢だが、早苗は逆に他人のような言葉をぶつける。

 

「“母さん”じゃないわよ‼︎こんな最低な女…。あと半年もすれば、私はあの世に行くわ、裁きを受ける前に…ね。…さ、行きましょう刑事さん」

 

菊川早苗は口元の血を拭うと、剣持の前に立った。

 

「うぅ…母…さん…」

 

泣きじゃくる梢を真津本が支える。

はじめと綺世は後味の悪いこの場で、ただ立ち尽くすのみだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あれから1ヶ月が経ち、はじめと綺世もいつも通りの生活を送っていた。

そんな中、剣持から喫茶店に来るように言われた。

 

「なんだよおっさん」

 

「菊川梢、覚えてるよな?」

 

「ええ…本当に莫大な遺産を受け取ったそうね」

 

「それがな…彼女はそれを子供の寄付に全額振り込んだそうだ。自分の借金は全て自分で返すと」

 

それを聞いたはじめと綺世は驚いたが、彼女らしい決断とも思えた。

 

「凄いなあ、私だったら1割くらい貰ってそう」

 

「お前は強欲だなあ…。じゃあ何か?お金さえあれば、俺は要らないってか?」

 

「そ、そんなんじゃ…!」

 

「おーおー、夫婦喧嘩が始まったな!」

 

剣持の言葉に綺世は大声で「違います‼︎」と否定する。

何度目かとなるツッコミにはじめは苦笑する。

そのままはじめたちは喫茶店を後にした。その帰り、綺世は唐突に聞く。

 

「ねえ、また…一緒に行く?」

 

「どこに?」

 

「遊園地」

 

「…事件に巻き込まれないならな、“アイツ”は俺たちを標的にしてるみたいだからな」

 

「……でも、私は負けないから」

 

「…そうだな」

 

2人は手を繋ぐ。

2人で協力すれば、絶対に負けない。そう思っていた…。

()()()が来るまでは…。




意味深な終わり方にしましたが、それは最終章で分かります。

補足ですが、普通に考えて菊川早苗がいくら裏社会と繋がっていたと仮定しても、あそこまでの仕掛けを1人で出来るとは思えず、本作では高遠が力を貸した、という設定にしました。


次章予告『狐火舞う村』
はじめの家の大掃除中にとある写真を見つけた綺世。これが何かと聞くと、はじめが中学時代に行ったカブスカウトの記念写真だと言う。懐かしさに耽るはじめに、そのカブスカウト仲間の1人が亡くなったと電報が届く。
それが、はじめをドン底に突き落とす事件への招待状だとも知らずに…。
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