金田一少年と神津少女の事件簿   作:GZL

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狐火舞う村
File1


気温も徐々に上がり、くつろぐには最適な季節になって来た。

だが、それを阻む者が今、はじめの部屋の中でずっと動いている。ゆっくりと寝たいのに、はじめはその者の動きに苛つき、とうとう声を上げた。

 

「あーっ‼︎もう!何でお前が俺の部屋の掃除をしているんだよ‼︎綺世!」

 

目の前にはエプロンにスカーフを頭に巻いた綺世が立っていた。

片手には埃を取る布巾を持って。

 

「だって、はじめちゃんのお母さんが言ってたんだもん。『どうせはじめは部屋の掃除なんて絶対しないから、綺世ちゃんがやってくれると有難いなあ』って。私は綺麗好きだし、汚いはじめちゃんの部屋なんて2度と行きたくないし」

 

「じゃあ来なきゃいいだろうが…」

 

「そういう問題じゃない‼︎もう…何でもっと重要なことに気付かないかな」

 

「別に俺の部屋なんだから、どうしたって…っておい!」

 

綺世ははじめの言葉を無視して、棚や机など問答無用に移動させて掃除を進める。はじめは止めるために綺世の肩を掴む。

 

「やめろよ!どこに何があるのか把握出来なくなるだろうが!」

 

「じゃあ手伝って?」

 

綺世は埃取り用の布巾を差し出す。

これ以上部屋を荒らされても困るはじめは溜息を吐きつつ、「分かったよ…」と渋々了承した。

はじめに久しぶりに勝ったと確信した綺世の表情は、憎たらしい程勝ち誇ったものだった。

 

 

 

その掃除の最中、とある箱を綺世は誤って落としてしまう。

落とした衝撃で蓋は開き、中から写真が溢れた。

 

「何これ?」

 

「ん?あーこれは…カブスカウトに行った時の写真だな。…今でも覚えてるぜ、無理矢理行かされた挙句に遭難しかけたこと…」

 

「カブスカウト?…え?はじめちゃん…そんなの行ってたかしら?」

 

「小学生4か5年の時な。急に母さんから行けと言われたんだよ」

 

「それは当然じゃない?」

 

綺世がそう言う。

思わずはじめは「何でだよ?」と言った。

 

「あの頃のはじめちゃん、酷く浮いてたじゃん。それに他人には今以上に興味なくて、友達なんて…私くらいしかいなかったじゃん」

 

それを言われてはじめは反論出来なかった。

確かにその頃のはじめはかなりの“変わり者”で、綺世以外で話せる人が全くいなかった。自分の興味のあること以外には本当に消極的であり、担当を割り振られても、サボることがほとんどだった。綺世が口うるさく言うことでやることもあったが…。

だが、所謂問題児で、教師もはじめに強く言っていたが…はじめは全くもって無視。それに耐えかねたはじめの母親がカブスカウトに無理矢理連れて行った…と、後々にはじめは聞いた。

 

「でも実際楽しかったんでしょ?だって、この写真…最初は確かに素っ気ない感じだけど、後半からは笑顔が見えたり、積極的に動いているものもあるわよ?」

 

それに関してもはじめは反論出来なかった。

今思い出しても、色々とあって楽しかった記憶しか残っていない。

 

「…まあな」

 

「この人たちとは、連絡を取ってないの?」

 

「まあ…年賀状だけの付き合いだな。今、どこで何をしているのか…知らねえな」

 

「ふーん…」

(なんか…会ってみたいなあ。私には見せなかったはじめちゃんの当時の姿が分かるかも)

 

そんなことを考えていると、自宅の呼び鈴が鳴った。

はじめはすぐに玄関に赴き、配達員から封筒を受け取った。

何かと思えば…電報だった。

 

「何それ?」

 

「電報だ、今時珍しいな」

 

はじめはその場で封筒を開けて、中身を確認する。

それを見てはじめの表情が一変する。

 

「…?はじめちゃ」

「悪い、明日から暫く学校休むわ」

 

はじめはすぐ様、部屋に駆け戻ると荷物をまとめ始める。

綺世は何が起きているのか分からず、はじめに再度聞く。

 

「ねえ!どうしたのよ!?」

 

「お前には関係ない、掃除してくれて有り難かったが…今日は帰ってくれ」

 

「……分かった。でも私も行くから」

 

「は?お前は関係ない。ここにいろ」

 

「その電報に何が書いてあったか知らないけど…はじめちゃん1人で行って待つ方が私は嫌だから」

 

綺世の目を見たはじめ。

その意志は堅そうだ。はじめは諦めたような表情を一瞬見せたが、すぐに突き放すような言葉も吐いた。

 

「勝手にしろ、だけど制服で行けよ」

 

「制服?どうして…」

 

はじめは一呼吸置いてから、こう告げた。

 

「……さっき言ってたカブスカウト仲間の1人が…急死したからだよ」

 

 

 

新幹線から電車に乗り継ぎ、はじめと綺世は制服姿でバスに乗り込んでいた。はじめも綺世も一言も口を開かない。はじめは例の全員集合の写真を見て…あの時の思い出に耽る。

 

(あの月江茉莉香が…死んだとはな。1番活気があって…元気な子だったのに)

 

その時のことを思い出すはじめ。

あの時、遭難しかけたはじめたちは足を怪我して動けなくなった鐘本あかりを今すぐ病院に連れて行かないとならない状況になった時、真っ先にはじめに協力してくれたのを覚えている。

そんなことを思い出しながらも、はじめたちは年賀状から月江茉莉香が住んでいたと思われる白狐村にやって来た。

そしてバスを降りて、その住所に向かおうとした時。

 

「お前…金田一か?」

 

不意に声をかけられて振り向く2人。

そこにははじめと同じくらいの身長で少し肉付いた男性が立っていた。

最初は誰かと思ったはじめだったが、顔を数秒見て思い出せた。

 

「心平か?」

 

「やっぱり金田一か!お前…すっかり背もデカくなって…更にイケメンになったな!」

 

「…別にそういう意志はなかったけどな。お前も背がデカいじゃねえか。まだバスケでも続けてるのか?」

 

「ご明察!あの頃と頭の回転は変わってないな。…ところで、隣の女の子は誰だ?まさか彼女…な訳ないか」

 

「こいつは幼馴染みの綺世だ。なんかお前らに会いたいから、ついて来たんだよ」

 

「ん?お前に幼馴染みとかいたのか?確か…あの頃、お前は自分以外に興味ある人は1人もいなかったとか…」

 

それを聞いた綺世はこめかみがピキッと鳴った気がした。

はじめは一瞬寒気に襲われたが、それは気のせいだと思い込んだ。

 

「ま、いいや。俺は桃瀬心平。金田一とはカブスカウト仲間だ」

 

「神津綺世です。お会い出来て光栄です」

 

「光栄って…なんか照れるな」

 

「浮かれているんじゃねえぞ、心平。早く行こうぜ」

 

「おう!」

 

そうやってはじめと心平が並んで歩き始める。

綺世は後ろで1人ポツンと2人の後をついて行く。そして2人はあの時の思い出を少しずつ語っていた。その様子を見た綺世は初めて感じた。

 

 

はじめのことを全て知っているようで、実は知らなかったことがあったと。

 

 

何故か綺世は1番親しいはずのはじめが、酷く遠い存在に感じられた。

その心情をはじめは気付かない。

 

「そういえばさ、心平…茉莉香と凛の住所…一緒なんだよ。これってどういうことだと思う?」

 

「間違い…な訳ないか。どういうことなんだろう…」

 

「まあ、着いてから訳を聞こう」

 

はじめたちは書かれた住所に到着して、まずは標識を見る。

霧谷と書かれている。間違いないと思い、はじめは呼び鈴を鳴らした。

するとすぐにガラガラと扉が開いて、1人の女性が出て来た。

ショートカットの黒髪、かなり背や身体つきは変わっていたが、間違いなく霧谷凛だ。

 

「嘘…金田一くんに桃瀬くん!?…これで揃ったみたいだね」

 

「お前…凛か?だいぶ変わったなあ」

 

「本当!えらく綺麗になったな」

 

「ここで話すのもあれだし、入って入って。…ところでその女性は?」

 

やはり後ろにいる綺世は初対面であるため、その事を聞かれる。

毎度説明するのも面倒だと思ったはじめだが、今度は綺世から自己紹介した。

 

「神津綺世です、はじめちゃんの幼馴染みで…今回は、その…ついて来たというか…」

 

「金田一くんの?…へえ、いいよ上がって。金田一くんの知り合いなら大丈夫だよ」

 

凛は綺世も家に招き入れた。

そしてすぐに凛はなぜ月江茉莉香と同じ住所なのかを語り始めた。

 

「2年前、私のお父さんと茉莉香のお母さんが結婚したの。だから…戸籍上は私と茉莉香は姉妹…だったわ。それと…実は、茉莉香が亡くなったのは3ヶ月前なの」

 

「え?で、でも電報じゃ…」

 

「そうなの。金田一くんたちだけじゃなくて、みんなも来てるよ」

 

「みんなって?」

 

「遭難組のことよ」

 

そして凛は3人を一室に通した。

そこには同じように制服を着た、あの時から成長したみんながいた。

 

「お、やっぱり金田一と桃瀬じゃねえか‼︎どっちも格好良くなりやがって!」

 

「これで全員揃ったようね、遭難組が!」

 

「やめろよ、光太郎。あかりに悪いだろうが」

 

「陸の言う通りよ!あの時、足が折れて動けなくて…本当に大変だったんだから!」

 

「ま、結果無事だったから、あの骨折も良い経験だったんじゃないか?」

 

「ちょっと蝉沢くん!…もう!」

 

はじめから見て右側から、梨村亮は背がそれほど伸びていないが端正な顔付きは磨きがかかっている。次に元々美しいという言葉が似合っていた緋森美咲は更に美しくなっており、はじめにはお嬢様にしか見えなかった。

次に金髪に染めてピアスをした乾光太郎を見て、はじめは思った。

 

(綺世が苦手そうな感じだな…)と。

 

隣の鐘本あかりは綺麗というより、可愛いと言った方が正しいくらいに成長していた。続いて神小路陸はあの時よりも更に雰囲気が暗くなっており、札付きの不良にしか見えない。最後に蝉沢忍、彼の違っていたことはただ1つ、お腹が更に立派になったことだけだ。

そうやってはじめは全員の成長した姿を見ていると…。

 

「それにしても…誰が呼んだんだ?電報で全員集めるなんて、イタズラにも程があるだろ?」

 

心平がこう言った。

 

「本当は凛が内緒で送ったんじゃないの?茉莉香も亡くなって、みんなにも挨拶をして欲しいって」

 

「それなら葬式の時に送るだろ、3ヶ月も経って送る意味はない」

 

はじめがそう言うと、凛は相槌を打った。

 

「そうよ!でも、本当はそんな余裕がなかったんだ…。だって…茉莉香は…()()()()から…」

 

その一言に場が静まり返った。

 

「殺された…?茉莉香が…?」

 

思わずはじめは呟いた。

 

「それに…ただ殺されただけじゃないの。裸に白い布を羽織わせて…狐の嫁入りのお面を被せられていたの…」

 

茉莉香の殺害、この時…はじめは気付くべきだった。

既に渦巻く復讐心が、この場を包み込んでいたことに…。

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