太陽も完全に隠れて、はじめたちは凛が言っていた狐火流しのお祭りの会場に向かうことにした。この時、凛は狐のお面を付けた花嫁衣装で
「じゃあ、先に凛の花嫁衣装見ようよ!こんな機会もうないよ〜?」
美咲の意見に反対する者はいなかった。
凛の家に残っていたのは、はじめ、綺世、美咲、陸、心平、蝉沢の6人だった。
「他の奴らは?」
「先に行ってるんじゃない?」
「ま、行こうぜ。早くしないと狐火流しが終わっちまうぜ」
心平の言葉に従って、6人は出発した。
外はもう真っ暗で、祭りのための行灯がないと本当に先が見えなかった。更に冷たい風が吹き抜けて来て、自然と綺世は身体を震わせた。
「どうしたの?もしかして怖いんですか?」
ニヤニヤしながら聞いてくる美咲に綺世は「いえ、寒いだけです…」と反論した。
そして、仄かに輝く社に到着すると…そこでは正座した花嫁衣装で狐のお面を付けた女性が立っていた。凛なのだろうが…正直分からない。
「すげえな…なんか…圧巻というか…」
「凛、綺麗…」
そして、花嫁衣装の凛はゆっくりと左手をひらひらと振った。
「お、やっぱり凛みたいだな!」
「確か…話しかけてもダメみたいなんですよね?」
「そういや、おばさんがそんなこと言ってたな」
「でも、写真はOKだよね〜」
美咲は構うことなく、手を振る凛とその社をパシャパシャと写真を数枚撮った。はじめは(おいおい…)とその様子に呆れる。
そして一行は凛に「また後でね」と伝えると、本会場へと向かう。
凛は全員が背を向けても、手を振り続けていた。
その様子を一瞥するはじめ。その手の振り方が…あまりに不気味で悲しげで…気になった。
会場に着いた一向は祭りに参加している人の数に驚いた。
簡素な村だと勝手に思い込んでいたが、実際はかなりの人がいる。その人たちはそれぞれ川に流す灯籠を持っており、そこに名前を書いている。
「おいおい!みんな行くの早いよ!」
「そうだよ!置いていくなんて!」
そして遅れて蝉沢、あかり、亮も到着する。
だが、最後まで乾の姿だけが見えなかった。
(あいつどこに…)
周囲を見回していると、不意に声をかけられる。
「金田一くんじゃないか?大きくなったねえ」
振り向くと、灯籠を持った凛の父親がいた。
「凛のお父さん!あの時はどうも」
「茉莉香を弔ってくれるのか…みんなありがとう」
はじめは灯籠を頂くと、そこに茉莉香の名前を書いて、手を合わせた。
そして…川に流す。その光景は幻想的で、本当の狐火に見えた程だった。
「綺麗…!」
「これで茉莉香も安心したかな…」
「もしかしたらあの電報は、茉莉香がみんなに会いたくて送ったのかもな」
「……」
(それはあり得ない。あれは…俺たちの中の誰かが送ったんだ。でも一体何のために?…ふっ、まさかな。考え過ぎだ)
はじめはくだらない考えを払拭して、ふと綺世を見ると彼女も灯籠に名前を書いていた。
「お前は誰に向けてだ?」
「お爺様に。私がこんなことしなくても、十分成仏してるだろうけど」
「その心意気だけでも喜ぶと思うぞ?」
「珍しいね、はじめちゃんが否定から入らずに素直に言うなんて」
「そういう時もある」
「…ありがと」
その様子を後ろから見てる心平たちはヒソヒソと声を低くして話す。
「あの綺世って女子、金田一とかなり良い関係だな」
「えぇ…見ていない間に我らがクールな金田一くんも男の子になってたわけね」
「まあお似合いじゃね?正に美男美女って感じで」
そんな会話がはじめたちの知らないところでされているのも、2人はつゆ知らず…流される灯籠も少なくなって来た頃…水面に2個並んだ灯籠が見えた。
「なんだあれ?」
「いくら緩やかな流れと言っても…灯籠があんな仲良く並ぶかしら?」
世の中には不思議なこともあると思っていたら、心平が声を上げた。
「ちょっと待て…あれ…灯籠の後ろに何かないか?」
心平に指摘されて、目を細めると確かに灯籠の背後に何かがあった。それが灯籠を押しているような形になっていたのだ。そして流されてくる灯籠2つと何か…徐々にはじめたちに近付いて来て、その正体が分かる。
「あれは…ゴムボート?」
ゴムボートが灯籠を押していたのだが、その事実よりも懸念することがあった。そのボートには“誰か”が乗っており、ぐったりと力無く横たわっていた。流石にこの異様な状況に村の人たちがゴムボートを対岸へ引き寄せて、乗っている人物の安否を確認しようとする。
だが…即座に悲鳴が轟いた。
「うわあぁッ!?救急車…警察呼べ!」
「ちょっと…良いですか!?」
はじめは堪らず人混みを掻き分けて、ゴムボートの中を見る。
それを見て…はじめは戦慄した。
乗っていたのは金髪の男性で、制服を着ていた。だが顔は狐のお面で隠されており、腹には刺された痕か…血が大量に滲んで制服を赤黒く染めていた。
(はは…まさか、だよな?)
はじめは自分の目が間違いだと信じながら…お面に手を伸ばす。
そして露わになった顔を見て、思わず数歩後ろによろめいた。
「こ、光太郎…‼︎」
「嘘!?嘘でしょ!?」
「光太郎…!何で‼︎」
「いやあああああああああああああぁっ‼︎」
反応は千差万別だが、全員顔を青ざめて仲間の死にショックを受けた。
はじめは暫し茫然としていたが、すぐに仮面を投げ捨て、ゴムボートの横に連なっていた灯籠を見始めた。
「き、金田一?」
周囲の声も耳に入らない程の真剣さに綺世も思わず息を飲む。
「凛のお父さん、ここから40分前の川の位置はどこですか?」
「え?そ、そうだな…。ちょっと待ってくれ」
凛の父は地図を取り出し、その場所を推移する。
そして彼が指差した場所はS字になった川の丁度最初のカーブの箇所だった。そしてはじめはそこへ一目散に向かおうとする。
それを綺世は止めた。
「ちょっと待って!1人じゃ危ないし、私も行く!」
「おいちょっと待てよ金田一‼︎どうしてそこへ行くんだ?」
はじめは振り返ることなく、淡々と説明する。
「この川の流れと蝋燭の減り具合から、光太郎は恐らくその場所から流されたんだ。単純な物理の計算だよ」
はじめにとっては単純でも、綺世を除いた全員は彼の推理力に驚くばかりだった。話はこれくらいにして、はじめは駆け始める。
はじめを1人に出来ない綺世を筆頭に、全員がはじめの後を追い始める。
そこに行くまでの道程は簡単では無かった。道は舗装されておらず、バイクどころか自転車もまともに走行出来ないものだった。更に暗い
そして乾が流された場所であろうところに到着して、すぐに陸が声を上げた。
「おい金田一!これ…!」
「それ、光太郎のか?」
「私…光太郎の携帯番号交換したから…‼︎」
すぐにあかりが通話を開始する。
それとほぼ同時に陸が見つけた携帯が音を鳴らした。
「間違いない、光太郎の携帯だ」
「じゃあ光太郎はここから流されたのか…」
心平の言葉にはじめは頷いた。
問題は誰がこんなことをしたかだ。
少なくとも動機を持っている可能性があるのははじめたち、カブスカウト仲間だが…全員にアリバイがある。はじめは手に持った自身の携帯を見る。あの場所から走って20分以上が経過していた。つまり往復40分は掛かるということだ。あの時、30分以上姿を見せなかった人物はいない…と思っていたが、はじめの脳裏に1人…ある人物が浮上する。
(まさか…
心の中で自分に言い聞かせるはじめだが、それとは裏腹に綺世は淡々とはじめに耳打ちする。
「どうする?会いに行く?
綺世は既に彼女を怪しんでいるようだ。
「…ああ。陸!あかり!ついて来てくれ。話がある」
陸とあかりは顔を合わせて、ゆっくりとはじめと綺世の後を追う。
2人から見たはじめの背中は、酷く寂しいものだった。