ご了承ください。
File1
憂鬱な気分だった。
はじめの目の前で忙しなく、テレビのキャスターが様々なニュースを伝えている。その中で白狐村の話題が入る。
『先月、村で高校生3名が殺害された事件で、犯人は同じキャンプに行った同い年の高校生と警察が』
プツッとはじめはそのニュースを切る。聞きたくなかったのだ。
あの後、やはりと言うべきか…他のメンバーから連絡が来た。
どうして陸が犯人だったのか。
説明したくないはじめは全ての問いに関して『俺も初めて聞いた。理由は分からない』と逃げるような返答を続けた。それでもはじめ自身、如何に自身の声に余裕がなかったかが分かるものだった。
はじめはその時の記憶をどうにか頭の隅へと追いやり、鞄を持って家を出た。同時に綺世の家の玄関も音が鳴る。
「おはよう、はじめちゃん」
「…おう」
今も元気が戻らないはじめの声に綺世は複雑な気持ちになる。
登校中もはじめは一言も口を開かない。
いつも孤立を好むはじめであったが、いつに増して酷い状況だった。
そんな中でもはじめは試験で好成績を取り続けて、綺世は悔しさ半分心配半分の心境になる。
(このままじゃはじめちゃん…感情がない、まるでロボットみたいに生きていくんじゃ…)
やはり友人が殺人犯だったことは相当堪えているようだった。
どうにかはじめを元気付ける方法を探していると、ふと校内で配られているチラシに目が入った。それは予備校の宣伝だった。
「四ノ倉学園の受講生、どんどん募集中…。毎年、超難関大学の合格者数多数…」
当たり前のことしか書いていないチラシに綺世は一瞬目を背けようとしたが、ここで天啓が舞い降りた。
「私がこの予備校に行って…成績を上げてはじめちゃんよりも上になれば…少しは私に構うようになって元気を取り戻すんじゃ!?」
とても神津恭介の孫娘とは思えない理論だが、綺世はこの考えを実行することにした。しかし1人で行くのは不安だった綺世は、『
「もしもし?ちょっと来て欲しいところがあるんだけど…」
そして、綺世は予備校の先生と予定を取り、とある人物と四ノ倉学園前で待ち合わせをしていた。既に16時半を過ぎており、予備校内にはたくさんの予備校生が行き来していた。
「せんぱーい!」
「あ、佐木くん。来てくれてありがとう」
「いえいえ!先輩のような綺麗で頭の良い方とこんな最高の予備校に来れるなんて、僕には勿体無いくらいです!」
「やっぱり有名なのね。この予備校…」
「はい!
『色んな』という言葉に引っ掛かったが、聞いたフリをした。
綺世は早速面談室へ向かおうとしたのだが、1階のカーテンが揺れる部屋に目が行った。そこでは椅子の上でガタガタと足を揺らす女子高生の姿があった。電灯でも入れ替えているのだろうと思った綺世が目を切ろうとした瞬間、ガタンと少し大きな音がした。
もう一度同じ部屋に目を向けると…宙を舞う足が見えた。
「‼︎」
綺世は佐木に言葉をかける間も無く、駆け出した。
窓から部屋に飛び込むと、首を吊った女生徒がそこにあった。
「うわっ!先輩!」
「佐木くん!早く下ろすのを手伝って‼︎」
すぐに救急車がやって来て、彼女は運ばれた。
予備校に来てすぐにトラブルにあってしまい、綺世は溜め息を吐く。
だが、綺世は気付いた。
すぐそこで自殺未遂があったはずなのだが、ここにいる受講生たちは何事もなかったかのように教室へと歩き、勉強に勤しんでいた。
「……」
綺世はそんな異様な様子を見つつも面談室へと入る。
そこにいたのは30代の男性だった。髪を掻き上げ、立派な背広、髭は遠目ではほとんど見えない。
「貴女が…我が予備校に入りたいという生徒だね?」
「はい、では…成績表をお見せください」
綺世は自信満々で成績表を見せる。
それを見た男性講師は納得が言ったように頷くと同時に、どこか不思議そうな表情を浮かべた。
「貴女…この予備校でもトップクラスの成績なのに、どうして我が校に?まさか【例の噂】を聞いて遊び半分で来たんじゃないでしょうね?」
「い、いえ!まず噂なんて知りませんし…。それにここに行きたい理由は…その…同級生がいつも私より成績が上なので、それを超えるために来たんです」
綺世の正直な眼差しに男性講師は漸く表情を和らげた。
「失礼しました、最近適当な受講生も多いもので…。明後日から受講を開始してください。申し遅れた、私は浅野遥人と言います」
「はい、よろしくお願いします!私は神津綺世と言います」
「神津…?もしかして、近くの不動高校で殺人事件を解決した神津とは…」
「あ、はい…私です」
ここまで自分の名声が広がっていることに綺世は少し恥ずかしさを感じる。
「……まあ、何はともあれ、これからも頑張ってください。その同級生に負けないように…」
その時の浅野の表情は、どこか曇ったものだった。
2日後、はじめには内緒で再び四ノ倉学園に来ていた。勿論、隣には佐木もいる。
「いやあ!どんな授業なのか、楽しみです!」
「まあ、かなり優秀な予備校らしいから、それなりの授業を…」
その時、救急車が学園前で止まった。更に大勢の人に担がれた男子生徒がぐったりした状態で救急車に中に運ばれた。
「また…自殺ですかね?」
「…どうやらそのようね」
綺世は怪訝な表情のまま、浅野に言われた教室に入る。
途端に彼女の表情は一変する。
「こ、これは!?」
黒板には大きく【やめちまえ‼︎ニワトリ殺し‼︎】と書かれていたのだ。
この時間は浅野が担当する授業だ。どう考えても浅野に対して書いていることは明白だった。
誰がやったのかを綺世が究明する前に、浅野がやって来てしまった。
「!」
浅野も当然黒板の内容に気付き、教科書やプリントを叩きつけた。
「誰だ?こんなことをしたのは…」
しかし、この教室にいる誰も言葉を発しない。
いや…浅野の言葉に一切反応せず、教科書や参考書を読んだり、英単語帳に目を向けている、まるで浅野がこの場に居ないかのような対応だった。
浅野は怒りを心の奥底に押し込んだ。
「こんなことしてる余裕があるなら、偏差値を上げる努力でもするんだな。今日は抜き打ちのテストをする」
(どういうこと?今の浅野先生の態度を見ると、今回の件が初めてじゃないような対応ね…。面談の時は何も感じなかったけど、浅野先生はここの受講生から嫌われているの?それとも他の理由が…)
浅野は黒板に書かれた罵詈雑言を消して、1枚ずつテスト用紙を渡していく。その時、1人の受講生が浅野に噛み付いた。
「ねえ、先生ぇ?まーたこの試験を
「…静かに、室井さん。これから試験ですよ」
金髪にピアスといかにもギャルといった風貌の室井という女生徒は注意されてもなお、浅野に文句を垂れ流した。
「へっ!帰って来ないかもしれない試験を誰がやりたがるのよ!」
「静かにと言ってるだろう。追放されたいですか?」
「はいはい、私もここで追い出されたら…親から勘当だしねえ。でも、すっごいよねえ、この学園。ニワトリまで首を吊っちゃうんだから!流石、首吊り学園って言われるだけあるわよねえ!」
その単語に全生徒が反応した。
綺世もそんな言葉は初耳で、思わず小さな声で「首吊り学園?」と呟いてしまった。だが、綺世以外の受講生は、禁句を言うなと言いたげな表情を作っていた。
その時、教室のドアが激しく開かれる。
そこには息を荒げた用務員が立っていた。
「浅野先生‼︎また…!」
それを聞いた浅野は「各自自習をするように‼︎」と言って、教室から飛び出した。綺世も何が起きたのか、気になってしまい浅野の後を追うように教室から出た。
「あっ!待ってください!せんぱーい‼︎」
佐木も金魚の糞のようについて来たが、気にすることはなかった。
浅野の後を追っていくと、徐々に歌声が聞こえて来た。懐かしさを感じつつも、不気味に感じた歌だった。
「…子守唄?」
そして、浅野たちが入った部屋に綺世たちも入ったが、即座にその事を公開した。
「うっ…!」
鼻を突いたのは血だった。
少し時間が経って、空気中に浮遊した血の臭い、そしてその中では1匹の鶏がロープで首を吊っていた。周囲にはその鶏の血と無数の試験用紙が撒き散らされており、異様な光景を作っていた。試験用紙の1枚にはカタカナで『モ』と書かれていたが、綺世がそれを詳しく調べる前に…。
「神津さん!教室にいるようにと言ったのに!」
浅野は綺世と佐木を追い出そうとする。
しかし、この光景はどう見ても異常だった。そして、彼女はもう一つ、気になるものを見つけていた。浅野の間を掻い潜り、壁にナイフで貼り付けられた血文字の脅迫状を読む。
「『我らの呪い、未だこの地から離れられず。新たな生贄を馳走として用意しておけ 地獄の子守唄』」
綺世たちは思ってもいなかった。
まさかこの意味不明なイタズラが、本当に地獄への入り口になるとは…。