金田一少年と神津少女の事件簿   作:GZL

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はじめは不思議に思っていた。

あれほど気を遣っていた綺世が突然1人でどこかへと行き、帰りが少し遅いことに。

別にはじめは気を遣ってほしくなかったのだが、それを強要するつもりも起きず、綺世を好きなままにさせていたのだが…。

 

「まさかな」

 

昨日の光景が頭を()ぎる。

はじめは見てしまっていたのだ。綺世が男性と喫茶店でコーヒーを飲み、握手しているところを。当の綺世は全く気付いていなかったようだが。

綺世がどこで何をしていようとどうでもいい…そう思っていたはじめだったが、今回ばかりはそのモヤモヤが頭を支配して離れてくれない。

 

「…あー、なんか落ち着かねえ」

 

1回綺世と話をするのもあるだと思っていた時、真横を数台のパトカーと救急車が横切る。だが、最後方のパトカーは速度を緩めてはじめの足取りに合わせる。

何かと思うと、パトカーからは剣持が顔を覗かせていた。

 

「おう!金田一!どうした?悄気(しょげ)くれた顔して…」

 

「…別に。それよりも事件なんじゃないのか?さっさと急ぎなよ」

 

「あ?お前も神津くんに呼ばれたんじゃないのか?」

 

「綺世が?何のことだ?」

 

「神津くんから通報があってな。四ノ倉学園って場所で首吊り死体が出たってな。殺人の可能性もあるから急いでくれってことだ」

 

それを聞いたはじめは無言でパトカーのドアを開けると、剣持の横に座った。

 

「お、おいお前‼︎」

 

警官が声を荒げたが「構わん!急げ!奴のスイッチが入ったようだ」と言って、はじめの乗車を認めた。警官は戸惑いながらも、少し遅れた車列に間に合わせるためにスピードを上げる。

 

(綺世…お前は一体何に巻き込まれているんだ?)

 

はじめの視線はただ真っ直ぐと見詰めているだけだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

パトカーなどが到着して、綺世は「やっと来た」と呟いた。

はじめには知らせていない。面倒なことになるからだ。

そう思って、油断したのが…ミスだった。

なんと1台のパトカーから、剣持と共にはじめが降りて来たのだ。

 

「えっ!?ど、どうして…!?」

 

狼狽する綺世を見つけたはじめは、スタスタと綺世に歩を進める。

何を言われるのか分からない綺世は、ただその場で立ち尽くすばかりだ。そして彼が目の前に来た、と思えば…その真横を通過して校舎の中へと入って行った。

 

「え?」

 

「ほら、行くぞ。綺世」

 

はじめは綺世に事情を聞かなかった。

その事に関して綺世はゆっくりと安堵の息を吐いた。そしてはじめの後を追うように、あの事件現場へと向かった。

はじめも部屋に入るなり、少し顔を歪めた。

多少の時間でも血液が腐敗臭を発するようになり、窓もほとんど開かないこの部屋では溜まるようになっていたのだ。先程の綺世の調べた限り、首から流れる血は足元に転がるナイフによって出来たものだった。彼女も抵抗したのだろう。腕や手には防御した後で切り傷が大量にあった。そして足元に転がるの文字…。

最初の鶏の吊し上げで見つかったの順番から考えても、犯人はコモリウタを作ろうとしていることは明白だった。

 

「お前の話を聞く限り、まだ事件は終わらないな」

 

「ええ、まだが残っている。そして恐らく標的は…」

 

そこで綺世は言葉を止めた。

古谷の死体現場をブルブルと震えながら見る女子生徒に視線を移す綺世。

彼女はあの子守唄のメロディーが聞こえた時に、恐怖で叫んでいた者だ。彼女は綺世の視線に気付くと、怯えて逃げた。

それを見逃さなかった綺世は教室を飛び出して、彼女を追うが…それは別の人物に止められていた。

 

「宮園くん…!」

 

「逃げる気?仁藤」

 

「わ、私は…逃げてなんか…!」

 

「その割には随分と怯えているね。恐れているんだろ?深町と()()に」

 

【深町】というキーワードに仁藤は絶叫した。

 

「いやあああああああああああああぁッ‼︎」

 

そのまま宮園の肩にぶつかって、一目散に綺世たちの前から消えた。

宮園は冷めた視線を彼女が消えた廊下にぶつけつつ、校庭へと出る。そこで今度は綺世が宮園を止めた。

 

「待って‼︎貴方…何を知っているの?」

 

「……」

 

彼は少しの沈黙の後に、語り出した。

 

「君も聞いただろ?この予備校が【首吊り学園】と呼ばれていることに。そのせいで受験ノイローゼで首を吊る奴なんてたくさんいる。だけど…深町だけは違う。あいつは…古谷、室井、仁藤のイジメを受けて…自殺に追い込まれたんだ‼︎」

 

「い、イジメって…!」

 

「ふっ、そんなこと…知ってるのは僕だけじゃない。他の生徒も知っているし、先生も黙認だ。それに…」

 

宮園は学ランのボタンを外して、首元を見せた。

その凄惨な縄の痕に綺世は絶句した。

 

()()奴らの被害者さ」

 

「……」

 

「だから分かるんだよ。この事件は、まだ終わらないよ。深町の無念が晴れるまで、いつまでもね…」

 

そんな不気味な言葉を残して、彼は花壇に向いた。

それ以降は話してくれない雰囲気が漂い、綺世ははじめの下に戻る。

しかし…その時には浅野は複数の警官に囲まれて、パトカーへ向かっている途中だった。思わず綺世は「ちょっと…!」と声を上げて、剣持とはじめに理由を聞いた。

 

「お前がいない間に話を聞いた。浅野サン曰く、例の子守唄を聞いてこの部屋に入ると死体を発見。それとほぼ同時に後頭部を殴られて気絶していたようだ」

 

「だったら…‼︎」

 

「そこからが問題だ。じゃあ犯人はどうやって逃げたんだ?扉には鍵、窓は10cm程度しか開かない。…普通に考えて、浅野サンを重要参考人として連れて行く警察の判断は正しいよ」

 

理路整然と諭された綺世は唇を噛む。

そのまま浅野は警察署へと連れて行かれ、綺世は自身の無能に悔しさが込み上げた。隣にいるはじめも少し納得いっていない様子らしく、綺世の気持ちを尊重した。

 

「お前の気持ちも分かるよ。あんな意味不明な密室の中に残るなんて、犯人だって言ってるようなもんだ。それに…()()()が警察に連れて行かれるのを見るのは嫌なことだ」

 

綺世はピクッと肩を動かす。

 

「…想い人って、どういうこと?」

 

綺世の視線ははじめを向いていない。

はじめは逆に綺世の方を見ながら、淡々と話す。

 

「お前、あの浅野サンとかいう先生と喫茶店で何か話してただろ?どーゆう関係かは知らないけど、複雑な関係じゃ」

 

その時、はじめの頬がバチンと大きな音を奏でた。

それは綺世が振るったものだった。

 

「…最低。今回は、はじめちゃんの手は借りないから。私が浅野先生の無実を証明してみせる」

 

そう言って、殺人現場となった部屋へと戻っていく綺世。

はじめは痛む頬を摩りながら、ふと思った。

 

「……あいつ。そもそも何でここに?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

綺世は再び殺人現場へと足を赴いた。

ドアには鍵、窓は10cmしか開かないことを確認した。

 

「でも、何かあるはず…。人が煙のように消えるはずはない」

 

「それには同意するが、かと言ってこの部屋には抜け道とかなかったぜ?」

 

そこに綺世自身の手形がはっきりと頬に付くはじめが立っていた。

さっきの会話のこともあり、綺世はすぐに視線を外した。

 

「何しに来たの?私を茶化す気?」

 

「そんな訳ねえだろ。仮にも殺人事件だ。目の前の事件を放って置くことは出来ない」

 

はじめはそう言って、10cmしか開かない窓の側に立った。

そして、ふとこんな話を始めたのだ。

 

「お前、この学園が昔何に使われていたか、知ってるか?」

 

「さあ?いつも通り学校じゃないの?」

 

綺世は素っ気ない反応を見せる。

だが、その回答は新たに部屋に入って来た別の人物によって明らかになる。

 

「“プリズン”だよ」

 

「え?」

 

そこにはこの学園の管理人:梶間が立っていた。

 

「プリズンって…戦争大罪人…いわゆる戦犯を投獄していた施設のことですか?」

 

「ああそうだ。ここは元プリズンで…今回の事件もそれに関係している」

 

それを聞いたはじめは訝しげな表情を見せた。

 

「梶間…さんだったか。詳しく教えてくれ」

 

梶間は少し息を吐くと、今まで溜め込んできた物を吐き出すように話し出した。

 

「ここは昔プリズンで戦争指導者、元軍人などが投獄されていた。そんな時、ふと牢屋の中から子守唄が聞こえて来たんだ」

 

「子守唄…!」

 

「そして、子守唄は徐々に大きくなり…最後は投獄者全員が合唱のようになった。もちろん、看守は止めようとした。だが、彼らが牢獄に入る直前…ピタッと唄は止んだ。そして…恐る恐る牢屋の中を見れば、全員…首を吊っていたんだ」

 

「……」

 

「私の想像でしかないが、彼らはお国のために戦ったのに、お偉いさんは逃げ延びた。そして…全員は処刑か死ぬまで投獄…。そんな絶望的な中でも、母から聞かされた子守唄を歌いながら逝くことで、安らかな気持ちで最期を迎えようとしたのだろう」

 

「確かに、子守唄と首吊り…今回の事件とそっくりだ」

 

「それで終わりじゃない。ここのプリズンが経っていた場所が解体されると、まず結婚式場が出来た。だが、営業開始して1ヶ月で花嫁が原因不明の首吊り自殺をした。それ以降も様々な者がここに何かを建てたが、必ず首を吊った!」

 

「四ノ倉学園になっても…ですか?」

 

「ああ、この学園が出来て10年経つが…毎年五人以上は未遂を含めても首を吊っている」

 

「それでよく進学希望者が減らないな」

 

「そこが奇妙なのだよ。むしろ学園の進学希望者は増えるばかり。私は思うんだ。首を吊った者は、この学園の人柱になったんだとな‼︎」

 

恐ろしい話を聞いた綺世は、先程までの勢いを失っていた。

浅野が犯人ではない、しかし…この学園の禍々しい空気が浅野を変えた、または…過去の亡霊が彷徨っているのではないかと、思えてならなかった。

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