もうすぐ社会人かつ、大学院の修士論文が忙しくて投稿が遅れました。
「【首吊り学園】って異名にそんな裏があったとはな」
「だけど、犯人はそんなことのために見立てているわけじゃない」
綺世は即座に解答した。
いくらなんでも安直すぎる見立てをするとは思えなかったのだ。
「…まあ、そう考えるのはお前の勝手だが、何か意図があることは間違いない」
「でも犯人を突き止める前に、私は先に浅野先生の無実を証明する。はじめちゃんに頼らずにね!」
そう言って綺世ははじめを置いて小走りで自宅に帰る。
はじめは溜め息を吐いて「あの野郎…」と呆れるのだった。
次の日、四ノ倉学園に着くと同時にパトカー止まる。
そこからなんと浅野が出て来たのだ。しかし、周囲には刑事と思われる人物が複数人、浅野から見えない位置から見張っているおまけ付きであった。
(早く無実を証明しないと…って、でもどうしてここに?)
「浅野サン以外に容疑者が浮上したからだよ」
すると後方から綺世の心の内を見透かしたかのように、その答えが返ってきた。
声の主ははじめだった。
「はじめちゃん…!」
「剣持のオッサンから聞いた。例の古谷と
「あの女が?」
「ああ、だから一旦浅野サンは釈放だと。…まあまだ重要参考人ではあるだろうが。ほら、行くぞ」
「行くって…」
「講義受けるんだろ?俺もここの予備校受けることにしたんだよ。まあ勉強じゃなくて、事件解決が目的だけどな」
「……フン」
綺世ははじめの誘いを無視して、先に教室へと赴く。
そこには既に佐木もおり、はじめの姿を見た途端に目を輝かせた。
「先輩!金田一先輩も参戦ですか!?」
「まあな」
そして最後に浅野が教室に入ってくる。
だが、窓の外には剣持たち刑事が見張っている。
「綺世先輩…これじゃあ…」
「ええ、こんなんじゃ容疑者同然よ」
(早く突破口を見つけないと…)
そんなことを考えつつ、授業が始まる。
しかし、始まってすぐだった。
教室の外から微かだが、例の子守唄が聞こえて来たのだ。
それは徐々に綺世やはじめ以外の生徒たちにも聞こえるくらいに声量が大きくなっていく。浅野は生徒たちの混乱を落ち着けようと指示を出すが、先生1人でどうにか出来るものでは無かった。
更にそこにいた仁藤は、ブルブル震えてまた声を上げた。
「も、もうやめてえええええええええええぇっ‼︎」
明らかに動揺した仁藤は放って、綺世は先に廊下へと飛び出した。
古谷が殺されていた部屋とはまた別室で、あの子守唄が不気味に木霊していた。綺世は構うことなく、扉を開ける。
するとまず綺世の鼻を強烈に突いた。公衆トイレの臭いなど比にならない腐臭が部屋全体に蔓延していた。吐き気を催しながらも、部屋の中央に目をやると…そこでは室井が首を吊っていた。古谷の時と同じで、ばら撒かれた答案用紙は血塗れで1枚だけ、カタカナで【ウ】と書いてあった。
恐らく死んでから3〜4日経っているのだろう。室井の死体の周りにはハエが飛び回り、足元には餌がなく餓死した数匹の蛆虫が転がっていた。
「綺世!うっ!?これは…!?」
「金田一!神津くん!こ、こいつはぁ酷い!おい!鑑識を呼べ‼︎」
すぐに鑑識が呼ばれて、検死が始まった。
腐敗が進みすぎて、正確な死亡時刻は推定出来なかったが、少なくとも古谷が殺されてすぐに室井も殺されたと考えられた。
そこでまた、浅野は警察に連れて行かれてしまった。
「どうしてまた浅野先生をっ‼︎」
綺世は剣持に問い詰める。
「安心しろ、少し話を聞いただけですぐに釈放した。同一犯なのはロープの購入先から分かっているが、浅野が犯人だという確証がないんだ。長くは拘束できない」
「なら、いいですけど…」
「ただ、そこで気になったことがあってな…」
その日、そのまま綺世は剣持から聞いた浅野の自宅へと向かった。当然、男性の自宅に女子高生1人で行かせられないということで、はじめが同行する。
ピンポンと押すと、すぐに浅野が出て来てくれた。しかし既に寝間着姿で、明らかに来るタイミングを間違えたと言えよう。
「神津さんか、お隣は…」
「金田一はじめです。まあ、こいつの」
「ただの幼馴染みです。私1人で行かせられないということで、勝手について来ました。浅野先生が私を襲うはずがないのにね」
少し棘のある発言だが、はじめはまるで気にしない。
「それで、こんな時間になんだい?」
「ちょっとだけ、お話を聞きたいんです」
「少し着替えさせてくれ。流石にこんな姿じゃ…」
綺世とはじめは浅野のアパートにお邪魔すると、小さなちゃぶ台を囲うように座る。浅野は隣の部屋で着替えている。
「お前な、せめて次の日に予定を空けてほしいとか言えよ。急に来られたら困るだろ」
「心配だったのよ!別にいいでしょ!」
「金田一くん、だったっけ?そこに置いてあるセーターを取ってくれないか?」
不意に浅野ははじめに部屋の隅に置かれたセーターを要求した。
襖の隙間から腕を伸ばして、はじめから受け取る。
それからすぐに出てきた浅野はコーヒーを淹れ、綺世たちの前に置く。
はじめはコーヒーに口を付けつつ、部屋の中を伺う。さっき取ったセーターだけでなく、写真や荷物が山積みになっており、少し散らかっている。
「浅野サン、どこか引っ越す予定なんですか?」
「引っ越しはしないよ。ただ…さっき久米学長から電話があってね。3日後に予備校教師を辞めてくれってね」
「え!?どうして!?」
「綺世、殺人容疑がかかった社員を残しておく会社があると思うか?」
「で、でも!」
「神津さん、気遣ってくれるのは嬉しいけど、もう決まってしまったことなんだ。だから今までの資料や写真を整理していたんだ」
それを1枚取り、浅野はそれを綺世たちに見せた。
裏には【四ノ倉学園、朝にて 深町満】とあった。その名前に2人は瞬時に反応した。
「これ…例の自殺した…」
「ああ、僕が殺した生徒の1人だ。ここには深町以外にも、自殺した生徒の写真がある」
「殺したって…先生は何も…」
浅野は写真を手に持って、優しく呟いた。
「自殺したって簡単に言うが、彼らは生きていく意義…つまり【支え】を失ったから、自ら命を絶ったんだ。生徒たちの両親、僕たち教師、周囲の人間関係がしっかりしていれば、そうなることもなかった。実質、僕が殺したようなものだ」
そう呟く浅野の目は悲哀に満ちていた。
そんな浅野を見てもはじめは心が揺らがなかったのか、容赦なく新たな質問を飛ばしていく。
「浅野サン、貴方の曽祖父があの四ノ倉学園で戦犯として自殺したのは本当ですか?」
「…刑事さんに聞いたのか?」
初めて浅野が嫌悪感を含めた表情を作る。
「はい」
「確かにそうだ。だけど、君自身はどう感じているんだ?」
「俺は「私は犯人に繋がるようなことをするとは思えないから、浅野先生は犯人ではないと思うけどね」
はじめの意見を聞きもせず、綺世は勝手に意見を述べた。
はじめも少し苛つきを含めた表情を綺世に向けたが、歪みあっても仕方がないと感じたのか、それ以上言及することはなかった。
「では、お邪魔しました。また来るかもしれないけど、その時は…」
「いや、こちらからもよろしく頼むよ。僕も…もう疑われるのはごめんだからね」
そのまま浅野の自宅を後にした。
はじめと綺世は一定の距離を取って、一言も話さずに自らの自宅へと帰った。2人はそれぞれのベッドに横になりつつ、浅野の無実を証明する方法を、はじめは誰が犯人なのかを考える。
(浅野先生は古谷の死体発見前に試験監督をしていた…。その後に室井が……「試験?」
最後の言葉だけ口に出た綺世。
その瞬間、バッと飛び起きて自らの仮説が正しいか確かめに再び自宅を飛び出した。
ドアが開く音にはじめは眠くなり始めていた意識を戻して、自宅前の道路を見る。そこにはどこかへ駆けていく綺世の姿だった。
「全く…こんな夜更けに元気なもんだ。…夜更け…」
その瞬間、はじめにも何か思い至ったのか、自らの考えをまとめに入る。
だが、綺世と違い…はじめは少し思い悩んだ表情だった。
「しかし…でもあれは…」
はじめは時計を見て、何時ごろに図書館に行くのか決める。
「明日は朝一だ。綺世と違ってな…」
はじめは再びベッドに横になり、目を瞑った。
それでも頭の中にうねる考えに簡単に眠れそうにない。
何故なら無理もなかった。彼には…犯人が誰なのか分かったからだ。