金田一少年と神津少女の事件簿   作:GZL

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青山刑事の報せで明智と共にはじめと綺世は魚崎の遺体が見つかったラブホテルへと向かった。その間、後部座席から見ていた綺世は青山の表情が気になって仕方なかった。それは刑事が急いで向かう時のものではなかった。まるで…誰かの仇を取るために急いで向かうように感じられた。

毒島が入院する病院からそれほど離れていないホテルに車は急停車する。既に他の警官が集まり、事情聴取が始まっている。

そして、1番警官が集まっている部屋に入り、その浴室に入った途端、全員息を飲んだ。

それもそのはずだった。

口を含め、身体中をガムテープで浴槽の底に固定され、身動きを完全に封じていた。その状態のまま、水責めを受けたのか…魚崎は狂気を顔に張り詰めたまま絶命していた。

明智はそんな彼の状態に哀れみを感じたのか、浴槽の栓を引き抜いた。

 

「…まるで拷問だな」

「ええ。少しずつ出る水を視認させ、確実な死を届ける…。悪魔でもここまで残虐なことは出来ないでしょう」

 

更に底には携帯電話も落ちており、防水性だったためか灯りが付いた状態だった。それを拾った明智はすぐに事件直前の状況を推理した。

 

「携帯の履歴に毒島からの着信が残っている。それと現場清掃員の話を聞いた限り、水は浴槽から少し溢れ出ている程度だったらしい。それを見ても、犯人は毒島からの電話を受け取り、それを沈めて逃げた…と考えていいでしょう」

「…ふん、こいつにはお似合いの死に様だ」

 

その時、はじめの後ろにいた青山がふと呟いた。

それは明智にも聞こえており、同様に振り向いた。

 

「青山くん、その物言いはどういうことですか?」

「死人に口無しです。被害者のことをどう思っていようが、私の勝手です」

 

刑事らしからぬ発言にはじめも黙っていない。

 

「…刑事が言うことか?」

「何も知らない君には何も言われたくない。それより警視、彼とそこの女性は無関係でしょう?ここから追い出すべきです」

「…そうですね。金田一くん、綺世くん。すまないが、頼めますか?」

 

はじめと綺世は何も言わずに静かに退室した。

綺世は出る直前に青山の方を睨むが、彼は毅然とした態度のままだった。

2人はそのままラブホテルから外に出ると、すぐに明智もついて来た。

 

「すまないね」

「いいや、部外者なことは間違いではない」

「でもあの青井って刑事、様子おかしくない?」

「…確かに。私も調べてみますよ。2人は学校へ戻りなさい」

「剣持警部は?」

「なんとも言えないね」

 

2人はホテルへ背を向けて規制線の下をくぐった。

やりきれない気持ちだが、何も出来ることがない状況ではどうしようもなかった。

その時、背後から「すいません!」と呼び止める声が2人の耳に入った。

思わず振り返ると、制服姿の女子高生が立っていた。

 

「君は?」

「私、十神えりなです。…毒島たちに殺された十神まりなの妹です」

 

急に現れた被害者の遺族に思わず2人は驚く。

 

「私たちに、何か?」

 

それまでおどおどしていた様子だったえりなだったが、不意に表情が一変する。そして…低い声でこのように問いてきた。

 

「魚崎は、どのように死んでました?」

 

その問いに対してはじめは答えることに躊躇する。

勿論、それは捜査情報でもあるために多く語れないという理由もあるが、それ以上に若干16歳の少女が放つ殺気に似た視線に圧倒されたのだ。

綺世は逆にその気持ちを感じ取り、こう言った。

 

「ここでは言えない」

「じゃあ、私の家に来てください。そこで色々聞きたいし、話したいです」

 

2人は了承して、えりなの家へとお邪魔することになった。

机にお茶を置き、綺世から早速話を切り出した。

 

「魚崎の死に様を知りたいと言っていたわね?」

「はい」

「それは何故?」

 

綺世の問いに対して、えりなは視線を右へと向ける。

そこには…亡くなった十神まりなの仏壇があった。

 

「姉…いや、お姉ちゃんに報告するためです。あのクズ共が…どんな悲惨な末路を辿ったかって」

「…悪いけど、言えないの。捜査情報だから」

 

はじめは内心安堵する。

綺世の性格上、同情して言ってしまうのではないかと思っていたからだ。

 

「ですよね…。ごめんなさい」

「別に謝る必要はないわ。こっちも聞きたいことがあるの」

「何をでしょう?」

「剣持警部と…十神まりなさんは、どのような関係だったんですか?」

「お姉ちゃんは、剣道に通ってたんです。そこで師範をしていたのが、剣持警部です」

 

剣持と3年前の被害者:十神まりなの関係性に驚く綺世。

はじめは至って冷静に聞く。

 

「つまり…おっさんは亡き生徒のために復讐してると?」

「そうとしか思えないわよ‼︎剣持警部、昨日もここに来て線香を上げに来たわ。そこでこうも言ってた。『会わなきゃならない奴がいる』って」

「会わなきゃならない奴?」

 

はじめはそれが毒島だとすぐに見抜いた。

毒島が仮出所したのが一昨日、何か事情があって会った事だけは推察出来た。

 

「…それからもう1つ聞きたい。君のお姉さんは、どのような目に遭った?」

「はじめちゃん、何を聞いて!?」

「……何故、知りたいんですか?」

「魚崎は見せしめのために殺された感じがした。更にわざと時間をかけて…。犯人はもしかして、君のお姉さんの苦しみを加害者に何倍にして与えるつもりだろう。次の事件を防ぐためにも、教えて欲しいんだ」

 

淀みなくはじめは言うが、えりなは冷たい視線を向ける。

 

「私に…()()()()を語れって言うんですか?」

「…辛いだろうけど、お願いしたい」

「それだけじゃない。アイツらを助けようって言うんですか?私の姉を痛めつけ、殺し…ゴミのように埋めたのに?」

「どんだけクズだろうけど、俺は人殺しを許さない。それがポリシーだ」

「そうでしょうかね…。まあ、良いですよ。代わりに条件があります」

「条件?」

「魚崎の死に様…改めて教えてください」

 

綺世ははじめを見て『言ってはいけない』という表情を見せたが、はじめは構わずに伝えた。魚崎がバスタブの底で沈められて息絶えていたことを。

それを聞いたえりなは微かに笑みを浮かべた。

 

「そう…それはさぞ苦しかったでしょう…。でも、因果応報です。姉さんも同じように苦しんだんですから」

「水責めもあったということか。他には?」

「ライターで肌を炙られる【火刑】、漫画を積み上げただけの踏み台で両手を縛られ、首に縄をかけた状態で長時間放置される【絞首刑】…ごめんなさい、それ以上は言いたくない」

「大丈夫だ。ありがとう」

 

はじめは立ち上がり、十神家から去ろうとする。

背を向けたはじめが居間から出た後に、えりなは黙ったままの綺世に声をかける。

 

「綺世…さんでしたっけ?」

「ええ」

「多間木、学校でどうしてた?」

 

その質問に綺世は思わず訝しい表情を向けた。

 

「どうして多間木が私の高校にいることを知っているの?」

「調べてないとでも思ったの?姉を殺した1人よ?」

「……」

 

綺世は一市民であるえりながそんなことを調べられるはずがないと確信していた。他に情報源があるのだろう。

 

「彼は私の高校でも懲りずに女子生徒漁っていたわよ」

「…そう。綺世さんは、そんな反省もクソもない男が生きている価値はあると思っているんですか?」

「……」

 

綺世は何も言わずにはじめの後を追った。

はじめからは何度も同じことを言われている。どれだけ最低最悪なことをした奴でも、そいつが殺されていい道理にはならないと。

しかし、時々それが揺らいでしまう。

 

(本当に…死んで良い人間なんて、いないんだろうか)

 

綺世はそれを確かめたくて、ある行動に出た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

校舎裏に綺世は多間木を呼び出した。

多間木は女子から呼び出されたことに惚気ており、綺世からすれば胸糞悪くなること間違い無かった。

 

「どうしたの〜?僕を呼び出して…」

「そうね。是非とも聞きたいことがあって呼んだの。女性をボロ雑巾のように痛めつけて埋めた感想を」

 

綺世の発言に多間木は驚愕の表情を浮かべたが、見繕う必要が無くなったため、邪悪な表情を綺世に向けた。

 

「へえ、知ってんだ。俺があの事件の関係者だと」

「とある人から聞いてね」

「ふーん……で、俺を呼んだ本当の理由は何?」

「性懲りも無く、また女子生徒に近付いてるけど、彼女らに貴方の過去を教えたらどのような反応をするかしらね?」

 

これは脅しでもあり、多間木が現在、どのような人間であるかを確かめるために放ったものだった。

そして、多間木の反応は…予想通りのものだった。

 

「テメエ…脅してんのか!?」

「…だったらどうするの?」

「黙ってろ‼︎このクソアマ‼︎」

 

途端に多間木は怒りのままに綺世に拳を振るってくる。

綺世は焦ることなく、その拳が来るのを待つだけだ。

しかしそれが綺世に届くことはない。

拳は横から割って入ったはじめの掌の中に埋まっていた。

 

「貴様…!」

「性根は3年前とちっとも変わってねえようだな」

 

多間木は腕を振り払って、はじめから離れると、鬱憤を吐き出し始めた。

 

「変わってない?そりゃ当然だろ!弁護士に言われた通りに適当な言葉をつらつら並べていれば、『反省している』って扱いになるんだからな!」

「……」

「貴方…人の心ってものはないの!?」

「ああ?俺の好きなようにやって何が悪い?」

「……」

 

はじめは静かに多間木を見据えているが、その瞳は怒りを通り越して軽蔑なものになっていた。

 

「もうこれ以上テメエらの詰まらない話に付き合う時間はねえ。お迎えが来てるんでな」

「ま、待ちなさいよ!」

「やなこった。にしても…少年法って便利だねえ!日本で犯罪するのは、20歳(はたち)前ってーか?」

 

そう笑いながら迎えの車に乗り込んでいく。

はじめと綺世は悔しくて歯を噛み締めながら、乗り込んでいく多間木を大人しく見ていることしか出来なかった。

だが、多間木が乗り込んだ瞬間だった。

自動車の下から爆音が響くと同時に業火が広がったのだ。

 

「「え……」」

 

流石にはじめと綺世も今の状況に思考が停止する。

 

「た、多間木くん!」

 

運転手が叫ぶが、火の手が激しくて近付けない。

 

「や、やべえ!逃げないとっ‼︎」

 

多間木も慌てて車から降りて脱出を試みたが…。

 

「うわああああああああああああああっ‼︎」

 

多間木の身体に炎が燃え移ったのだ。彼は断末魔の声を上げて、はじめたちに助けを求める。

だが、はじめも綺世も彼を助ける手立てはなかった。

それと同時に2人は思い出す。

十神まりなが受けた刑の中に【火刑】があったことを…。

やがてその燃える姿は、焼け焦げた塊へと変わっていった…。

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