Knockin' On ***'s Door   作:moco(もこ)

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Clash-2

 

 レイピアを使わず、なめ腐った態度でこちらの攻撃を流してゆくフランカに対して苛立ちがなかったかといえば、嘘だ。そして徒手空拳だけでの攻撃ですら歯が立たない自分にも苛立つ。だからだろうか、絶対に一撃は入れてやると普段ならやらないようなトリッキーな動きを加えたのは。今までの自分ならば、こんなことは絶対にしなかったのに。

 

「……」

「こっち睨まないのー。敗者が勝者に対して口答えをする権利があると思う?」

「もう一回」

 

 フランカがレイピアを手にしたことにより、防戦一方となった。おかげさまで顔の落書きが増える増える、負ける度に追加されている落書きが果たしてどんなものなのか。鏡を見るのが怖い。

 

 レイピアは一般的に突きに特化した武器だと思われているが、決して斬撃を放てない武器ではない。滑らかにカーブがかかった両刃。刃の先端は細やかに研がれており、刃筋を通して素早く彼女がレイピアを横薙ぎにすれば、通常の状態でもある程度のものは切れるということを知っている人は少ない。ましてやそれが、防御を無視して金属装甲ごとなで斬ることのできる放熱系アーツを纏って自身を絶命させるなど、誰も考えすらしないだろう。だから敵は、真っ二つに切られた金属装甲を前に呆然とする。そしてその隙は、フランカにとって十分な時間なのだ。自分の二倍ほどの背丈の、屈強な男に膝をつかせるには。

 

 だから彼女の緩やかな斬撃でさえ受けてはいけない。本気のフランカの斬撃も刺突も、普段は爆風すら受け止めるこの盾では防げないことをよく知っている。

 

 激しく火花を散らしながら切断された金属装甲。真っ二つの切断面は黒く酸化し、恐る恐る触れてみれば脆く崩れ去る。あれは金属を高熱で溶かし切ったというにはどうにもおかしい。どんなカラクリがあるのかいまだにわからないが、それでもあれをまともに受けてはならないという事実だけは身に沁みていた。

 

 練習用のレイピアで、お互いにアーツを使っていないとはいえ、実戦だったら何度殺されていたことか。

 

「諦め悪いわねぇ」

 

 そう言っていたずら書き用のマーカーのキャップを閉めてフランカが笑う。

 

 ……待って、油性って書いてあるんだけど。後で落とすときにフランカの高そうなフェイスオイルで落としてやると誓いながらごし、と汗を肩口で拭い、姿勢を整える。

 フランカはそんなわたしの様子を見て、肩をすくめて嘆息しながらも、レイピアを構えた。

 

 型らしい型もなく、ゆらゆらと怪しく揺れるフランカのレイピアの切先の動きを捉えるのは、とても難しい。刺突の際は体で刺突点をギリギリまで隠すから避けにくいったらない。レイピアを操る腕をどうにか払って攻撃を逸らしても、その勢いを利用してさらに加速した剣先が襲い掛かる。しかも攻撃のタイミングは変則的で呼吸が入れづらいとくる。

 

 やりにくい相手だ、絶対に敵に回したくない。それでもそういう敵が相手として襲ってくる可能性だってある。ならばわたしがやることは、データを蓄積し、意表をつく攻撃を流れの中で予想に組み込む。何パターンものトリッキーな動きを体系的に分析し、自分の攻防パターンに組み込めばいい。

 

「へぇ?」

「そう何度もひっかからない──そこ、だ!!」

 

 彼女の攻撃に少しずつ目が慣れてきたところで、刺突されたレイピアを半身を逸らすことでかわし、彼女の突き出された右腕を引っ込められる前に肉薄して掴む。相手の勢いを利用し、体を内へと捻り体勢を崩しにかかる。そして、た、た、と回転の重心を右、左足と入れ替え背後から回し蹴りを叩き込もうとした、そのとき。

 

「うーん、蹴りはもう飽きたわ」

 

 場違いなほどの明るい声に、ぞっと身の毛がよだつ。崩されつつあった体勢を左足でこらえ、倒された勢いを利用して右足を後ろに振り上げ──あろうことか、私の回し蹴りを絶妙なタイミングで蹴り上げたのだ。

 

 こちらが体勢を崩す形となり焦っていると、フランカは焦った拍子に放してしまった右手でくるりとレイピアを逆手に持ち替え、私の足を蹴り上げた右足を支点に軽い調子で体を捻り、レイピアを喉元に突き刺すように──。

 

 ──バチチッ!!! 

 

「いった!!」

 

 カランカランと音を立てて落ちる練習用レイピアとフランカの悲鳴により、ハッと我に返る。無意識のうちに危機的状況下でBSW製電気遮断ブレスレットの制御を超えて放電していたらしい。

 

 顔をしかめながら手を振っているフランカに、ズボンの後ろのポケットに突っ込んでいた絶縁手袋をはめながら慌てて駆け寄る。

 

「ごめん、大丈夫!?」

「もう、びっくりするじゃない」

「手、見せて」

「これくらい大丈夫よ」

「いいから」

 

 ひらひらと手を振って大丈夫と態度で示すフランカを無視して、レイピアの金属部分を伝って感電したであろう彼女の手をむんずと掴み確認する。

 

「熱傷……問題なし。脈拍、正常。循環不全も起こってなさそうね」

「大袈裟ねぇ」

「大袈裟じゃない。フランカはすぐそうやって誤魔化すんだから」

 

 じっと彼女の内心を探るように瞳を見つめると、ふいと視線を外された。そんな彼女に軽くため息をつきつつ、本当に大事にはなっていないようなのでほっと安心する。

 銃の扱いは慣れたものだが、こっちのアーツはどうにも使いこなせないままでいた。こういうことがあるから能力を抑えるブレスレットをつけていたのだけれど、どうやら能力を完全には遮断できないらしい。

 

『無駄が多いんだよ、お前は。自分が感電してちゃ世話ねぇ』

 

 ホワイトボードにきゅきゅっと音をたてながら簡単な図を書いて説明してくれた教官を思い出す。

 

『リスカム、お前のアーツ貯蔵量は一級品だ。だがな、アーツコントロールがそれをゴミにしている』

 

 体内でアーツを練り、必要な分を源石に流し込んでアーツユニット、つまり源石回路を作動させることで能力を発揮する。フランカは放熱、私は放電といった具合に。私の場合、流し込んだ量と実際に使えている量が割に合ってないのだという。

 

『うまい奴だと流し込んだ量に対して5%くらいのロスで済むが、お前は60%流して10%くらいしか使えてないんだよ。ちゃんとアーツを練り込め、純度が低いからロスも増える。あと何回力加減に気をつけろっつたらお前は覚えるんだ』

 

 一気に流すと暴発するって言ってんだろうが、とバンバンとホワイトボードを叩きながら教官にキレられたが、説明だけでは感覚がわからないのだからしょうがない。電気系アーツは見本になる先輩もいないし。今は多少はマシになっていると思うけど、もともとこういった繊細な操作は苦手だ。

 

「リスカムのそれも、使いこなせれば戦闘のバリエーションが増えると思うんだけどなぁ」

「……例えば?」

「神経の伝達って電気信号なの知ってる? どこにどう電気を流せば筋肉が動くかわかっていたら、放電アーツによる外部刺激で動かせるんじゃないかしら」

 

 自分では考えてもみなかったアイデアがすらすらとフランカの口から出てきて、思わず目を丸くした。この力は、相手を感電させるためものだとすっかり思い込んでいた。感心して褒めようと口を開く前に、フランカがニヤリと笑う。

 

「まぁでも、機械でさえ十数個の電極を使って二百パターン近くの筋肉の動きを検出して、ようやっと指を思い通りに動かせる程度らしいし、リスカムのその雑なアーツコントロールじゃ神経焼き切っておしまいね」

 

 一言多いんだ、こいつは。出かけた褒め言葉を引っ込め、むすりと睨みつける。フランカはそんなわたしの様子を愉快そうに見ていた。

 

「悪かったわね」

「でも事実でしょ? だから不思議なのよねぇ」

「なにが?」

「よくそんなので銃が使えるなって」

 

 ちょいちょい、と左腿の銃が入ってるホルスターを指差して心底疑問そうにフランカが首を傾げる。それに対して、ああ、とひとつ頷いて答える。

 

「銃はコツを教えてもらったから」

「へえ? 誰に?」

「知らない」

「え?」

「通りすがりの人」

 

 逆光で顔は見られなかったし、生体防護服を着てたから向こうもわたしのことはわかっていないだろうけれど。

 

「腕を銃の内部に繋げるイメージで、正確に弾丸の装填状態を確認することから始める。全てを把握してから銃弾の源石回路にアーツを流し込んで撃つ。基本的なことだけど、最初の感覚がずっとつかめなかったからあのアドバイスは助かった」

「ふーん?」

 

 アーツコントロールが下手なんだからやめとけ、と周りに言われても銃にこだわったのは、遠距離から味方の援護ができるからだった。重盾衛士に機動力は求められない。でも、銃を扱えればできることが増えるのではないだろうかと思い、周りに呆れられながらも訓練を続けた。それでも劇的にうまくなったのは、あのアドバイスを受けてからだった。

 なんとなく声がフランカに似ていたようなと思い当たり、いやまさかと首を振る。BSW内にはたくさんの社員がいるのだ。いくらなんでもそんな偶然はありえないだろう。

 

「このアーツも、ああいった感覚的なことを教えてくれる人がいれば……ううん、これは言い訳ね」

「ん~、でもその感覚って大事よ? みんな当たり前にできることだから言語化できる人は少ないだろうけど」

 

 人差し指を顎に当てながらそう言ったフランカに、ふと尋ねる。

 

「フランカはアーツを練って放出するとき、どういうイメージをしているの?」

「あたし? うーん、ホース?」

「……ホース?」

「そう。アーツを練り始めるときは体に水を満たしてくイメージ。全身に行き渡ったら、あとは流路をコントロールする」

 

 馴染みのないイメージに首を捻ると、フランカはジェスチャーでホースの口をつぶしながら言葉を続けた。

 

「ホースの口をつぶすと水が勢いよく出るじゃない、あれよ。質量保存の法則」

「しつ……?」

「流路が狭まっても流量は同じ。だからアーツ流路を絞れば断面積が小さくなって、同じ流量を保つために流速、つまりアーツの威力が上がる。みんなリスカムみたいに体力おばけじゃないんだから。普通はそうやって力を加減して、アーツの無駄遣いを抑えるのよ」

 

 その言葉にポカンと口が開く。そんなわたしの様子を見て、どこか気まずそうにフランカが口を開いた。

 

「言っとくけど、基本よ?」

「誰もそんなの、教えてくれなかった……」

「みたいね……もしかして、最初から練り込む量を変えてアーツの威力コントロールしてたの?」

「うん」

「ある意味器用というか……」

 

 呆れるようにため息をつき、両手をぐっと伸ばしてフランカが伸びをした。

 

「まぁ、アーツコントロールに関しては結構みんなイメージが違うみたいだし、あくまで参考程度だけどね~」

「いや、助かる。感覚的なところまで説明してくれた人、いなかったから」

「子供でも知ってることだしね」

 

 そうやってからかうような調子で続けたフランカをまっすぐに見上げる。

 

「ありがとう、フランカ」

 

 いつも口喧嘩をするほどに反りが合わないが、フランカの説明は不思議とすとんと入ってきた。だから思ったことをそのまま感謝として伝えると、変な顔をされた。それは、一体どういう心境なんだと内心突っ込んでいると、背を向けられた。

 

「はい、今日はおしま~い」

「え、ちょっと」

「優等生のリスカムさんの訓練量にはつき合ってられないわ」

 

 そうちゃかして後ろ手でひらりと手を振り、フランカが訓練室から出ていく。静寂と共に一人残され、呆気にとられる。

 

「……その割には、いつもよりつき合ってくれてたじゃない」

 

 誰もいない訓練室で、一人ごちる。訓練をさぼったかと思えば、こうやってつき合ってくれることもある。気まぐれなのか、なんなのか。激しく口喧嘩をしながらもコンビを続け、しばらく経ったけれど、わたしはいまだに彼女のことをよくわからないままでいたのだった。

 

 

 怒りで震える拳で扉をノックをし、中からの返答を聞くやいなや荒々しく扉を開けた。

 

「フランカとのパートナーを解消してください」

 

 またか……とでも言いたげに、ロックフェロー博士が深い溜息をついた。

 

「最近は落ち着いてきたと思ってたんだけどね。それにしてもフランカのおかげで、随分クルビア語(公用語)が流暢になったじゃないか」

「誤魔化さないでください」

 

 確かにフランカと口喧嘩をしているうちに大分思ったことを反射的にクルビア語で言えるようにはなった。

 ヒートアップしてくるとフランカは早口になるから聞き取りづらくなるし、対抗しようと言うべき言葉を探して考え込むと、ここぞとばかりに捲し立てて勝ち誇るかのようにわたしの頬をつんつんしてくるのである。控えめに言って鬱陶しい。

 

 コンビを組んだ当初はフランカの早口を半分も聞き取れなかったけれど、それが悔しくてボイスレコーダーを仕込み、隙間時間にこれはなんと言っているんだ、とフランカ以外の同僚に教えてもらって書き起こし続けた。そうやってフランカの発音と実際の文を書き起こして比べているうちに、滑らかに発音するための音の脱落、そしてその音が脱落していても主要な動詞や名詞にアクセントを置くことによってクルビア語を母国語にしている人達は意思の疎通ができているのだということに気づいた。

 それに気づいて、意味を覚えた上で録音したフランカの発音を真似ているうちに大分滑らかに喋ることができるようになった。ついでに言うと多種多様な罵倒と嫌味も覚えた、おかげさまで。

 

 しかしそれはそれ、これはこれ、だ。わたしはここに語学留学に来ているわけではない、仕事をするためにいる。そして半年以上をフランカとパートナーとして過ごし、やはり彼女とわたしはベストパートナーとは言えないだろうという結論に至って抗議しに来たのである。決して怒りに任せてだけではない。

 

「人員も大分増えてきました。仕事の効率を考えるのならば、わたしたちがパートナー同士であり続ける必要性はないはずです。見てわかる通り、わたしたちは水と油、いえ、むしろお互いに火に油を注ぐ関係と言っても過言ではありません」

「口達者になっちゃって、まぁ」

「口達者な相棒にチクチクといじめられてますから」

 

 すました顔でそう言えば、博士が再度ため息をつく。

 

「確かにフランカはなに考えてるかわからないし、気まぐれで、あんたにとっちゃつき合いづらいかもね」

「ええ、だから……」

「でもね、その気まぐれにつき合える人ってのは、なかなかいないんだよ」

 

 真面目で頑固な者が多いBSWの社風において、フランカは異質な存在だ。きっとそれはみんな思っている。

 それでもあの人当たりのよい態度と笑顔は、そんな異質さを補って余りあるのだろう。実際フランカを慕う者は多い、作戦中の彼女以外を見てではあるだろうけれど。だからこそ、もともと性格が合わないわたしなんかより、それこそフランカに合わせて行動できる人はBSW内においてもたくさんいると思った。

 それにロックフェロー博士の言い方は、幾分かひっかかる。

 

「……わたしに貧乏くじを引けという意味でしょうか?」

「本当に貧乏くじだと思ってるのかい?」

 

 彼女の言葉に思わず声を詰まらせる。自分でフランカのことを貧乏くじだと表現したけれど、彼女と組むことは決して悪いことばかりではなかった。

 性格は合わないけれど、彼女の戦場での機動性、戦術やアーツコントロールが参考にならないかといえば、そんなことはない。こちらの意表をついて突出するということは、敵の意表もついているということ。彼女の柔軟な発想と判断に助けられたことが何度もあった。

 

『──あなたのそういう考え方が、まさに「THE 優等生」よね』

『リスカム、あたしたちはあなたの思い通りに動く駒じゃなくて、人なのよ?』

 

 フランカの口癖だった。わたし達は人なんだから、と。それは大体が任務をサボるための口実ではあったけれど、一理はあった。

 

『……二十分程度であれば、自由行動を取っても問題ないでしょう。この地方の地酒は有名らしいですね。もともと行動計画書にその時間を組み込んであります。もっとも飲むのは全てが終わってからに──』

『やった!』

『リスカム隊長さっすが! 堅物なんて言ってごめんなさい!』

『……はぁ』

 

 規律だけでは効率を最大化できないことも、フランカの言う息抜きとやらが隊全体のパフォーマンスを上げることも理解し始めていた。それに気づけたのは、真っ向から食ってかかってきたフランカがいたからであるということは、認めなければならない。

 

 わたしが正しさでもって隊員を説き伏せていたとき、フランカがまぁまぁと割って入って、どちらの立場の考え方も尊重しながら仲裁したことはひとつやふたつではない。人によって態度を変えられる彼女は、言い換えれば人の気持ちを理解してあげられる人だ。人の心を癒やし、鼓舞する言葉を知っている人。だから、問題行動ばかりが目につくフランカではあるけれど、わたしの隊での人間関係における潤滑油になっていた事実は否定できない。

 

『リスカムさんが、もしあたしの「トリッキー」な行動も予想して対応できるなら、あたしにとっていいパートナーになれるかもね』

 

 出会って三日で口論になり。あのときはお前にそんな価値があるのかと言外に皮肉ってやったが、今はどうだろう。

 戦場でフランカの突飛な行動に敵と共に驚くことが少なくなった。なにかあるごとに彼女と衝突を続けるうちに、フランカ以外の人間のなんと聞き分けのいいことだと彼女以外の人々の大らかさに気づき、怒る回数が極端に減っていった。いつもどこか張り詰めた態度だった隊員たちが、笑顔で歩み寄ってくるようになった。

 

「そこで言葉に詰まるなら、もう少し続けてもらおうかね」

 

 視線を上げると、ロックフェロー博士がどこか嬉しそうに呟いた。ぎ、と音をたてて背もたれから身を起こし、こちらに身を乗り出して言葉を続ける。

 

「あたしはね、リスカムの忍耐強さを気に入ってるんだ。頭は多少固いが、あんたはどんなに自分と違う人であっても向き合い続けることをやめないだろう」

「……」

「それに、いつまでも好き嫌いだけで人間関係を考えてちゃいけないよ」

「……どういう意味でしょうか?」

「似た者同士で集まったところで、幅広く、柔軟な感性は養えないんだよ。いいかい」

 

 静かに語る彼女の言葉を、黙って聞き続ける。

 

「その人の歩んできた人生に想いを馳せなさい。どうしてそういう風に行動するのか、どうして自分と相手は違うのか」

「……」

「様々な価値観を、文化を学びなさい。あなたが振りかざした正義が誰かを傷つけることを学びなさい」

「博士……」

「人の弱さを赦しなさい。人のいいところを褒めるのは簡単だが、悪いところを受け入れるのはとても難しいことなんだよ」

 

 だからいつまでも人は争い、悲劇は世に蔓延る。そう静かに目をつむり言葉を切った後、ゆっくりと博士が私を見上げた。

 

「リスカムはまだ若いんだから。自分で自分の世界を閉じちゃもったいないよ」

 

 それに対して返す言葉を見つけることができなかったわたしは、結局いつもの通り。彼女に丸め込まれたまま執務室を退室する他、なかったのだ。

 




次話は11/20/22 12:00投稿予定
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