Knockin' On ***'s Door   作:moco(もこ)

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Clash-5

 

「──フランカ先輩がまさか私を助手として連れていってくれるとは思いませんでした」

 

 もともと協力的な態度だったのもあり、ロドス・アイランドとの協定は一ヶ月も経たないうちに成立した。一人で行ってもよかった。でも、心のどこかでもしかしたら心苦しさがあったのかもしれない。目をかけていた後輩の訓練生であるバニラを助手として引き連れ、ロドス本艦へと乗り込んだのは。

 

 ロドス・アイランドは地上走行型艦船を保持しており、所属するものは艦内で生活をしていた。中には畑や学校まであり、砂上をゆく舟でありながらひとつの生活圏を作り上げていた。今まで見たことのない最先端技術を見てはしゃいでいたバニラが、ふと振り返った。

 

「てっきりリスカム先輩と一緒に行くのかと。なんたってお二人は“BSWの双璧” ですもんね!」

 

 その言葉には、苦笑いで返した。

 

 いささか、長いつき合いになりすぎた。文句を言って、喧嘩をして、それでもずっと隣にいた。それを当たり前に思ってしまうくらいには、長い時間が過ぎていた。

 

 ──そうやって人に寄りかかれば、いつか痛い目を見るのにね。

 

『意味わかんねぇよ、勝手をするな!』

 

 信頼は信頼で返されないことを知っている。自分の抱える信条を理解できるのも、自分の人生を切り開くのも己だけ。人と人は、結局違う者同士である以上、完全にわかりあえることなんてない。だから適当にへらへら笑って、自分の想いも何もかも誤魔化して、自分の中にだけ留める。この想いを守れるのは、いつだって自分だけだから。

 

 なのになぜ、バニラを連れてきてしまったのだろう。

 どうして離れてもあいつの顔が浮かぶのだろう。

 

『そうやって自己完結するのがあんたの悪い癖だ。あたしはね、フランカ。あんたに必要なのは真っ向から喧嘩できる相手だと思うよ』

 

 どうして去り際のジャネットの言葉が、頭をよぎるのだろう。

 

 一人で考える時間が欲しかった。バニラはあいつのように口うるさくないし、いい機会だと思っていた。

 

 永遠の別れを想って少しだけセンチメンタルになっていたのかもしれない。

 だから、ロドスに来て二日後に人事部から出てくるあいつの面を拝むはめになったら、そりゃあキレたってしょうがないと思うのよ。いくらなんだって早すぎない、ねぇ? 

 

 

『BSWには、感染問題を共に解決するための信頼できるパートナーが必要だと思うの』

 

 微かな違和感があった。いつも以上に真剣な眼差し。いつもは自分の考えなんて滅多に言わないのに、フランカはそのときばかりは饒舌だった。

 一度ばかりではない、その後もなにかと黙って考え込んでいたり、ロングフェロー博士の執務室に頻繁に出入りしていたり。長年つき合ってきたからこその違和感。それとなく彼女の動向を調査し、いくつもの情報を組み合わせることでパズルのピースがはまるようにその原因に思い当たった頃、ロックフェロー博士に呼び出された。

 

「フランカはBSWを辞めました」

 

 なんだ、それは。そう思った。

 

「どこに行ったかとか事情は個人情報にあたるから言えないんだけど、質問は?」

「──ロドス・アイランド」

 

 フランカがBSWを辞める直前に資料として配布された鉱石病に関する治験報告書。ここ一ヶ月でのロドスとの協定に、ロックフェロー博士の執務に頻繁に出入りをしていた事実。

 執務机に乱暴に資料を広げ、ダンッと両手をついた。

 

「フランカに黙秘する権利があるなら、わたしにだって知る権利があるはずです」

「……」

「仮にもパートナーだったはずです、死地を一緒にくぐり抜けた仲間だったはずです。去るにしても、なにか一言くらい残すのが礼儀ではないでしょうか」

 

 いつかどこかに、ふらりと消えてしまうのではないかとぼんやり思うことはあった。行動力があり、身軽な彼女がBSWに留まり続ける必要性はない。彼女の奔放さがここでは異端であるのなら、それを活かせる場所に行った方がいい。いつか彼女がここを出ていくのなら、なにか一言声をかけよう。それは元気で、という当たり障りのない言葉であったかもしれないし、そんなんでやっていけるのかという小言であったかもしれない。

 

 ──でもそれすら言わせてくれないのなら、こっちだって考えがある。

 

「わたしをロドス・アイランドの特別駐在オペレーターとして派遣してください」

「……」

「フランカも新天地で心細いことでしょう。気心の知れた同伴者がいたほうが行動しやすいのではないでしょうか。それにわたしはフランカとの共同作戦にも慣れています」

「本音は?」

 

 建前はすらすらと口をついた。それが建前であることを見抜いたロックフェロー博士は、品定めをするようにじっとわたしを見つめた。だから、一呼吸をおいて言ってやった。

 

「直接文句を言ってやらないと、気が済みません」

 

 BSWでのパートナー契約は最長四年。もう三年に差し掛かろうとしていた。だからいつか来る終わりを意識していなかったわけではない。

 

 ──でもこんな終わり方はあんまりじゃないか。こんなの、認めてなんてやらない。

 

 自分のことを話さないやつだった。別に、秘密を全部打ち明けろというわけではない。でも、なにを考えてるかを言ってくれたっていいじゃないか。相談してくれたって、いいじゃないか。わたしは、わたしたちは。

 

 ──パートナーじゃ、なかったの。

 

「……わかった、好きにするといい。ただし向こうに行ったらフランカは確実に怒るだろうね」

「知ったことではないですね」

「そうかい。……ちゃんと喧嘩してきなさい」

「手加減できるかはわかりかねます」

「いいんじゃないかい、フランカにとっていいお灸になるよ。それにね」

 

 静かに机の引き出しから一枚の書類を取り出して、こちらにずいと押し出しながら、博士がまるでいたずらに成功したかのように笑った。

 

「実はそう言うと思ってもう手続きはしてあるんだよ」

 

 その書類と彼女の顔を見比べてポカンと惚けていると、博士はどこか自慢気にふんと息をついた。

 

「仕事のできる上司の元についてよかっただろう?」

 

 わたしには、いくつかの幸運があった。どれが欠けても今のわたしはいなかっただろう。

 

 ヴイーヴル連合管理区にいるときに、クルビア人の傭兵がクルビア語の教材を面白半分でくれたこと。

 BSWが人手不足で、わたしをクビにせずに教育してくれたこと、それから。

 

 ──この人の部下になれたこと、だ。

 

 




短いんですが、完成してから投稿している関係で次のお話を入れると長くなりすぎるのが見えているので、ここで区切らせていただきます。

次話は11/21/22 22:00投稿予定
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