Knockin' On ***'s Door   作:moco(もこ)

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Clash-6

 

 ロドス二日目でのリスカムとの感動の再会に対する挨拶は、お互いに胸倉を掴み合って罵倒を浴びせることで済ませた。人事部の前で揉み合っていると、バニラが心配そうに駆けつけてしまったため、挨拶はそこで終了となった。

 

『あーあー聞こえないねー、ここ一週間くらいロドスとの通信は悪いみたいだ』

 

 そう言って電話をぶつ切りしたジャネットに対して、あんのクソババアと口汚く脳内で罵るくらいにはキレていたあたしは、バニラという後輩の存在のおかげでどうにか表面上を取り繕うことができていた。

 

 さすがに先輩として見苦しいところを見せるわけにはいかない。いまさらな気がしなくもないが、一応先輩としてのプライドもある。だから素敵な挨拶を済ませた後は、しばらくはリスカムとの国交を断絶し、バニラを構い倒すことでストレスを発散した。

 

『リスカムせんぱぁい!!!』

 

 そうして遅れて、リスカムの後輩であるジェシカも研修という名目でロドスにやってきた。きっとカッとなって勢いでロドスに乗り込んできたのだろう、見捨てられたのかと思いましたと泣きじゃくるジェシカをなだめながら、リスカムがどこか気まずそうにしているのを遠目で見た。

 

「──で?」

 

 後輩達の存在のおかげでここ一週間、冷戦状態程度で済んでいたのに、こりずに話があるとリスカムが人目を避けてロドスの訓練室にあたしを呼び出した。腕を組んでイライラと指でとんとんと叩き、あからさまな態度でとっとと終わらせろと言外に伝えていると、リスカムはそんなあたしの様子を無視して重い口を開いた。

 

「BSWの本部に、ロドスでの派遣責任者をわたしにするように要請する。あなたは感染者でしょう? 現地任務に出て、症状が悪化したらどうするの」

 

 予想してた言葉に盛大にため息をつく。だから嫌だったのよね。

 

『──俺は、感染者だから』

 

「なに? お優しいリスカムさんは、感染者で、か弱ーいヴァルポのあたしに何もするなって言いたいの?」

「当たり前でしょう。フランカ、あなた、自分の状況をわかってるの?」

「少なくともあたしのことを“感染者”って一括りに見ているあなたより、よっぽどね」

 

 ざり、と床を足で蹴り、いら立ちを前面に出しながら髪をかきあげる。

 

「少しはあたしがなんで何も言わないで出ていったのかとか考えなかったわけ?」

「わからなかったから直接来たんじゃない」

「そのデリカシーのなさとしつこさは死なないと直らないわけ?」

 

 真顔でピッと親指で首をかき切るジェスチャーをしてみせると、サムズダウンでリスカムが答える。

 

「三つ子の魂百までって知らないの? フランカに殺されたくらいじゃ直らないし、そもそもフランカなんかに負けない」

 

 ──ぶっ倒すわよ? 

 ──やってみなさいよ。

 

 幾度となく繰り返されてきた、喧嘩の合図。

 

 レイピアを引き抜くと同時に、リスカムが盾を構えた。挨拶代わりに軽いフェイントから刺突を繰り出せば、器用に盾で防いで見せる。訓練室に響いた金属音がゴングの代わりだ。

 弾かれた瞬間に逆手に持ち替え、盾の隙間をぬって首を狙うと、リスカムが盾を持っていない右手をかざした。

 

 ──バチン! 

 

 弾かれた反動で宙を舞い、着地と同時にレイピアをくるりと回して順手に持ち替える。

 

 まったく、教えるんじゃなかったわ。高電圧のうず電流を構築することで発生する電磁力による反発。それによって、刀身に触れることなく剣撃を弾く。言うのは簡単だけど、一瞬の判断をミスれば腕は体からさようならをするというのに、相変わらず肝が据わっている。

 

 ──バカの一つ覚えに放電するんじゃなくて、磁力を利用するとか。

 ──磁力? 

 ──電流が流れれば磁場が発生する。簡易的に磁石が作れると思えばいいわ、そしてその磁石を使って金属──銃弾、剣、弓矢の矢じりだって金属ね、理論上はほぼなんでも弾ける。

 

 右ねじの法則、左手の法則。小学校でやるような内容を教えると、リスカムは熱心に聞いて頷いた。

 そうだ、自分でも言ってたじゃないか。リスカムは頑固だけど、教わったことは素直に実践できるって。

 

「あー、ホント。イラつくわ」

 

 微かな振動と共に、埋め込まれた源石を中心に、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()レイピアが灼熱色に染まってゆく。

 最高で千度以上の高熱を発することができる長年の相棒をアーツコントロールによって吸熱から放熱へと切り替え、地を蹴った。

 

 まっすぐリスカムに向かって突っ込んでいる最中、カチャと何かが外れる音がした。なんの音なのかを理解する前に、リスカムはあろうことか盾を思い切り蹴り倒してきた。

 

「なっ」

 

 重盾は十キロ程度はある。それが勢いよくこちらを押し潰そうと倒れてくるわけだから、慌てて横に跳んでかわすと、リスカムと目が合った。そして彼女の手に、ハンズフリーで持ち運ぶために盾に取り付けられているスリングが握られているのを見て、反射的に身を屈める。

 

 ──砲弾投げの要領で飛んできた盾が、間一髪のところで頭上を掠めていった。

 

「むちゃくちゃね!」

「フランカよりはマシ」

「あの、ねぇ! そんな軽々振り回せるのあなたくらいよ!」

 

 リスカムが遠心力による勢いのまま盾を放り投げ、それが背後の壁に鈍い音を立て激突した。パラパラと瓦礫をこぼしながら激しく陥没した壁を視界におさめながら、果たして今回の喧嘩の修理請求総額はいくらになるのだろう、と他人事のように考えてレイピアを振った。

 放熱から吸熱に切り替え、刀身を赤く、赤く染めてゆく。

 

「自慢の盾を手放しちゃっていいの?」

 

 わかっていながら軽い調子で話しかける。この状態のレイピアを、あの盾では防げないということをリスカムも知っている。

 いつかの訓練を思い出しながらレイピアを構えた。

 

「銃使っていいわよ、フェアじゃないものね」

「使わない」

「あら。感染者に対するお情け? 優しくなったじゃない、それなら勝ちも譲ってくれない?」

 

 こちらの言葉にも動じず、何を考えているのかわからない表情のまま構えたリスカムに内心舌打ちしながらレイピアをゆらりと操った。レイピアの刃からゆらり、ゆらりと陽炎が立ち昇り、空気を揺らす。光の屈折率を変え、間合いを惑わせるいつもの手だ。

 

 手加減はなしだ。感染者だからと舐め腐っているこいつに一発叩き込まないと気が済まない。

 

 地を蹴るのではなく、左足を抜き、体の重心移動を利用して一歩、二歩と踏み込んで、ほぼノータイムで加速する。蹴る動作の起点は体全体に力が入るから、相手に初動を探知されやすい。だから初動は足を抜くことによって動作の起点を悟らせないようにするといいぜ、と教えてくれた同僚は、いつの間にかいなくなってしまった。

 彼は死んでしまったけれど、彼の教えは自身の血肉となり、息づいている。──人は、そうやって死んだ後も人々の心の中で生きてゆく、生きてゆける。

 

 瞬時に距離を詰めると、リスカムはやりづらそうに舌打ちして、先ほどよりも強力な電磁力を発生させて読みにくいレイピアの軌道を無理矢理弾いた。そうやって無茶をすれば隙ができるのに。弾かれた勢いを利用して弧を描き、切先を返す。攻撃に緩急をつけ、決して相手のペースにさせない。そうやって防御を捨てた、文字通りの捨て身攻撃を繰り出していると、いら立ったリスカムが大声を張り上げた。

 

「そうやって味方にもわかりづらいリズムで勝手に突っ込んでいくから毎回毎回孤立するのよ!」

「あら。単調なリズムで敵にすらわかりやすい攻撃、戦術しか使わないで裏をかかれることが多いリスカムには言われたくないわね」

「そうやっていつもいつも、誰にも相談せずに勝手に自己完結して突っ走らないでって、言ってるの!!」

 

 レイピアを叩き折るように腕を振り降ろしたリスカムに、レイピアを手放すことで衝撃を逃す。電磁力により剣先を勢いよく床に叩きつけられたレイピアは、跳ねるように回転しながら宙を舞った。それを跳躍により掴み取り、空中で身を捻った際についでのように一撃を入れてやった。

 こちらに見向きもせずに、まるでわかっていたとでも言わんばかりに、リスカムが後ろ手で拳を叩き込む。反発によりレイピアと一緒に体も勢いよく吹き飛ばされた。ちょうどいい、仕切り直しだ。そのまま距離を取ろうと、くるりと回転しながら着地をしようとしたときだった。着地の瞬間を狙い、リスカムが地に手をついて指向性の雷撃を放ってきた。

 

 大地の電気抵抗は、限りなくゼロに近い。光速にも近いその攻撃を、ただただ勘と反射だけで回避せんと脳が危機的状況に活性化する。こちらをめがけて突き進む電流をスローモーションで確認しながら、レイピアを地に突き刺して着地点を微妙にずらすと、横を電撃が通り過ぎていった。

 

「ほんっとうに、フランカの戦いにおける勘のよさと俊敏性は嫌になる」

「褒め言葉として受け取っておくわ」

 

 相手の攻撃、守りから反撃へと転身する際の癖。お互いにお互いをよく知っているからこそ、リスカムはこちらの捨て身の猛攻をぎりぎりのところでいなして決定打にさせないし、あたしはあたしで彼女に有効打を与えてはやらなかった。

 

 レイピアで刺突すると見せかけての蹴り、投げ技。時にはレイピアの動きを囮にして短剣で掻き切る。そんなあたしの動きを、よく知っているとでも言わんばかりにリスカムは防ぎ続ける。

 正反対の思考、正反対のスタイル。早々に決着はつかないということをお互いにわかっていながら、なおも手を緩めない。お互いに掲げるものが正反対であるからこそ、交わることも、妥協することもない。

 攻撃の流れ弾によって床は抉れ飛び、一部の天井は崩落し、壁にいたってはそろそろ大穴があきそうだった。

 

 お互いに無事というわけにはいかない。かすめた電撃で皮膚が焼け、指先の感覚が鈍くなる。リスカムはといえば、電磁力で弾くことができるとはいえ、千度以上の熱を発するレイピアをすんでのところでいなしていた代償に、服は所々焼け落ち、腕にも火傷を負っていた。

 どう見たってリスカムの方が重症に見えるんだけど、我慢しているのか、あるいは本当に平気なのか、平然とした様子で構え直したリスカムを見て、やっぱりヴイーヴルという種族はずるいと思った。

 

 いい加減、決着をつけよう。レイピアを振るい、後ろへとバックステップで距離を取る。呼吸を整えて、もう一度、今度こそ予想不可能な斬撃でかたをつけてやろうと構えたときだった。

 

 こちらの攻撃を回避する際に体を倒し、流れるように地に手をついてバク転をする形になっていたリスカムの右手が、パリ、と放電している様が見えた。大地に通電させて磁場を作っている。くん、と金属性のレイピアが軽く反応して引っ張られるのと感じると共に、リスカムが足裏に帯電させているのを見てぞくりと悪寒が走った。

 

 なにをしているのかを理解するよりも前に、反射的に飛び退く。通常ではあり得ないほどの速度で突っ込んできたリスカムの掌底が左頬を掠め、冷や汗が流れた。

 攻撃が外れると思っていなかったのだろう、舌打ちをしながら距離をとったリスカムを見て内心ほっとしているのがバレないように軽い調子で話しかけた。

 

「随分な態度じゃない、それを教えてあげたのはあたしよ?」

 

 リスカムの左手から弱く放出されていた電気が消える。大方スタンガンの要領で気絶させようとでもしたんだろうけれど。昔に比べてアーツコントロールが随分上達したものだ、本当に。

 

「電流が作る磁場と、それを利用した電磁推進(でんじすいしん)。まさか実用レベルまでもっていってるなんて思わなかったけど」

「随分余裕ね、お喋りなんて」

「これでも内心ヒヤヒヤしたわよ?」

 

 盾を手放し、身軽になったからこそ出来る技なのだろう、実戦では見たことがなかったし。

 さすがに強力な磁場を作るほどの電気を放ったせいか、いまだに肩で息しているリスカムに笑いかける。

 

「まだ奥の手ある?」

「言うわけ、ないでしょ」

「そうよねぇ、敵を騙すならまず味方からって言うものね。まぁ、面白かったわ」

 

 頭が固いくせに。人が言ったことは律儀に実践してものにしている。その素直さが、少し羨ましかった。その素直さが、少し疎ましかった。こんな世の中に身を置きながら、人の善性を信じて疑わない姿も、そんな強情な彼女を見て少しずつ変わる人達も、全てがほんの少しだけ、疎ましかった。

 

「でもこれで、終わりにしましょう?」

 

 わかりあえないということを頭で理解できないのならば、体に叩き込んでやるまでだ。人は傷つける存在にだってなれるということを、あたしが教えてあげようではないか。

 

 アーツを解除し、レイピアを吸熱から放熱へと切り替える。訓練室は、先ほどから繰り返される熱の放射によりうだるような暑さになっていた。自身のレイピアが発生させた陽炎越しに揺れるリスカムを見て、口端が上がる。

 

 ──ギィン!! 

 

 会話が終わるや否や、先ほども見せた極東における縮地法と呼ばれる体裁きでもって一瞬のうちに距離を詰め、一撃を放つ。

 

 いい反射ね、腕の一本くらい持っていってやろうと思ってたんだけど。さすがの反射速度ではあったけれど、無理矢理攻撃を捌いたことによりリスカムの体勢が崩れた。手をついて体を反転させて体勢を整えようとしたリスカムの右手めがけて、吸熱を開始したレイピアが()()()()()()()()()()()()()()()()()、吸い込まれるように加速する。地に縫い留めようと襲い掛かるレイピアを見、驚愕している彼女に、絶対に表に出すことはしないけれど、ごめんね、と内心で小さく謝った。

 

 レイピアが鈍い音を立てた。肉を貫く感触はなく、ただただ地に突き刺さったレイピアを見て呆然としていると、パリ、と空気を揺らしながら、通常ではあり得ないほどのスピードで腕を振り上げ、地にレイピアが突き刺さる瞬間に回避したらしいリスカムが体を捻って呆然としていたあたしの腕に取りつき、そのままねじ伏せるように床に叩きつけた。

 

「な、に……!」

「生体電流を解析して電気アーツによる外部刺激で動かす、だっけ? 数年かければ、これくらいは出来るようになるよ」

 

 がっちりと腕を固定しているリスカムには見えないところにあるレイピアが、()()()()()()()()()()()()()()()()()()震えていた。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。両者にかけているアーツを解除して黙らせると、そんなあたしの様子に気づいていないらしいリスカムが静かに降参を促してきた。

 

「腕っぷしでわたしに勝てると思う? お願い、降参して」

 

 地に縫いつけられた右手は、抜け出そうともがくものの、びくとも動かない。リスカムが本気を出せば、こんなもの、折るのだって容易いだろう。

 

 ──それが甘ちゃんだって言ってんのよ。

 

「ねぇ、リスカム。人間の電気抵抗性って主に皮膚が担ってるの、知ってる?」

 

 自由な指先を弄びながら、楽しくてしょうがなくなってくすくすと笑うと、不審に思ったリスカムが振り返った。

 

「? いきなり、なんの……」

電磁誘導(でんじゆうどう)、知ってるわよね? あたしが教えたんだもの」

 

 指先に意識を集中させ、()()()()()()()()。磁界が変化すれば、導体(電気を通す物体)に電流が発生する。あたしが皮膚という絶縁体を越えることのできない電流しか発生させられないのならば、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「リスカムほどの威力は出せないけど。どう?」

 

 人体には生体電流が流れている。血液も弱アルカリ性で電気を通しやすい。電気抵抗の高い空気中にすら放電できるリスカムは、知る必要もないことだろうけど。

 

 故意にリスカムの体内で発生させた電流による攻撃で膝をついた彼女を見、拘束が緩んだのを確認してゆっくりと立ち上がり、笑った。

 




次回は区切りが悪いので2話同時投稿です。
11/22/22 22:00投稿予定
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