Knockin' On ***'s Door   作:moco(もこ)

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Epilogue

 

 とある小規模作戦を終え、久しぶりの休日でロドス艦内をふらふらと歩いていると、見知った顔を見つけた。爽やかに笑ってジャケットのポケットに入っている携帯端末を取り出して歩み寄る。

 

「リスカム~。はい、これ」

「……また?」

 

 後輩であるジェシカとなにか真剣に話していたらしい、同じくオフであるはずのリスカムは、あたしが充電の切れた携帯端末を差し出すとげんなりとした顔でロドス製の電気遮断ブレスレットを外した。

 

 指先から小さく放電して急速充電してくれているリスカムを見て、ジェシカが目を丸くした。

 

「充電にはいつも気をつけてって言ってるよね」

「オフの日だけだも~ん」

「はぁ」

 

 もし一生でため息をつく回数、なんてギネス記録があったら、きっとリスカムは一位を取れるかもしれないなと思っていると、ジェシカが感心したように声をあげた。

 

「そんなこともできるんですね、リスカム先輩」

「フランカのおかげでね」

「え?」

「ただ相手をビリビリさせるだけじゃ芸がないでしょ? それにこれ、アーツコントロールの訓練にいいのよ?」

「壊したらもれなくその代金を払わせられるからね」

「コントロールできないリスカムのせいじゃない」

「そもそも頼んだフランカのせい……はぁ。いつまで経ってもフランカに口論で勝てる気がしない」

「あたしがクルビア語の先生だから当たり前よね~」

 

 いつものように軽口の応酬をしていると、リスカムのこめかみがピクピクとひきつった。そんな様子の彼女を見て愉快になり、ついつい弄り倒してしまう。

 

「ほらほら、今日は中指立てないの?」

「ええ!?」

 

 驚いたジェシカが振り返ってあたしの顔を見た。そしてリスカムはそんな様子のジェシカを見て、こっちを見て、盛大なため息をついた。

 

「それに地獄に落ちろって返したのは誰よ……」

「売り言葉に買い言葉、みたいな? 昨日はリスカムがやったじゃない」

「え!?!?」

「それこそ売り言葉に買い言葉でしょ。そもそもあの時は、口喧嘩で負けそうならコレをするといいぞって同僚にはめられたんだってば」

「サムズダウンで返したときのハテナマークが浮かんだ顔を見ればわかるわよ。懐かしいわね〜、まだたどたどしいクルビア語だったわよねぇ、あのときは。あとそれ、他の人にやっちゃダメよ?」

「フランカ以外はやらない」

「あら、珍しくデレた?」

「……はぁ」

 

 本日何回目になるのかわからないため息をこぼしながら、こちらを無視するようにリスカムがジェシカに話しかけた。

 

「ジェシカ、ハンドサインは各国で違うから気をつけて」

 

 そしてリスカムのその言葉に、茶々をいれる。

 

「そもそもクルビア語はヴィクトリア語をルーツにしてるから、ジェシカがなにかあたしたちの知らないことをやったとしても、それが正しいのよ? ヴィクトリア人に言わせると」

「え?」

「あはは……他国の言語を輸入した場合、ずっと変化せずに残るって聞いたことがあります」

「……つまり、どういうこと?」

「クルビア語は古くさいって皮肉られてるのよ」

「ち、違います!! ほら、ロ、龍門(ロンメン)と極東出身の子! あの子達が話してたんです、極東の漢字、というものは、龍門の旧字体に当たるって」

「つまり?」

「ジェシカはあたし達の言葉が古くさくてたまんないってもう一度遠回しに教えてくれたのよ、いい加減ヴィクトリア人の挨拶(ひにく)に慣れたら?」

「うわーん! ち、違うのに……!」

「あ、泣かせちゃった」

「冗談よジェシカ、真に受けないでちょうだい。あなたはいい子よ、あなたが後輩で本当によかったと思ってる」

「リ゛ス゛カ゛ムぜんばい!!」

「*ヴイーヴルの誉め言葉*」

「なんて言ったんですか!?」

「なーんちゃって、うっそー、だって」

「うわーん!」

「……じゃなくて。これは、ヴイーヴルでの親しい間柄の人にかける最大級の誉め言葉……って聞いてないわね」

 

 わいわいがやがやと騒いでいると、ちょうどバニラが通りかかった。リスカムがバニラをちょいちょいと手招きで呼び寄せ話しかける。

 

「バニラ」

「なんですか?」

「*ヴイーヴルの誉め言葉*」

「え、え? *ヴイーヴル語で照れ隠しを捲し立てる*」

「?」

「ってジェシカに言ったんだけど」

「照れた私が馬鹿みたいじゃないですか!!!」

 

 バニラがやけくそ気味にジェシカに抱きつき、いつもありがとう、大好きって意味ですよー! と叫んで振り回す。バニラの突然のハグにジェシカが目を白黒させ、リスカムがそんな彼女達の様子を見て息をつく。

 

「異文化交流は難しいわね?」

「改めて身に沁みてるわ」

 

 にやにやと話しかけると、リスカムがぼやいた。そして同時にきゃーと黄色い声が上がった。ジェシカもバニラにつられて笑っているのを見て表情を緩めたリスカムが、そんな彼女たちを見ながらぽつりと問いかけた。

 

「楽しい?」

「え?」

「思い描いてた未来とは、違ったかもしれないけれど」

 

 感染者にならなければ、ロドスアイランドには来なかっただろう。いい機会だと黙っていなくなったあたしをリスカムが追いかけてこなければ、ジャネットがここへのつてを作ってくれなければこの現実はなかった。後輩達がここに来ることも、感染者である自分を受け入れてくれる未来も、なかったのかもしれない。

 

「わたしは、フランカを追っかけてここに来てよかったと思う。フランカは?」

 

 他人なんて、信用ならない。平気で嘘をつき、人を陥れる。そういう人達をたくさん見てきた。人を信用したって、いいことなんてない。そう思って突き放したのに馬鹿正直に追ってきた目の前のお人好しがいなければ、こんな日常はなかったのかもしれない。

 

「フランカが前に言っていた、世界を旅するっていうのは難しいのかもしれないけれど。ロドスが辿り着いた場所に、休日なら艦を降りて観光するくらいは……なに?」

「覚えてたんだ?」

「……フランカが初めて、あのとき自分のやりたいことを言ったから」

 

 信じなければ傷つかない。そんなあたしの態度をバカじゃないの? と真っ向から否定することができる相棒と、こんなあたしを慕ってついてきてくれた後輩。

 

「……」

「? なに?」

「じゃあ今からつき合って?」

「は?」

「せっかくラテラーノに来てるんだから。ジェラート食べるわよ」

「いや、今、冬……」

 

 感染者である自分の命は、そう長くはないだろう。都合よく治療法が見つかるほど、ここは優しい世界ではないことも知っている。

 

「ジェシカー、バニラー、ラテラーノ特製ジェラート奢るわよ~」

「「!!」」

「食いついた……」

「なになに、艦降りんの?」

「アンブリエル!? 一体どこから……」

「案内しよっか? シロートがふらふら出歩いて爆破に巻き込まれても知らないかんね」

「望みはなぁに?」

「スイーツ奢って、今マジで金欠なの。なんなら美味しいケーキ屋さんも教えてあげるし」

「乗ったわ」

「サンキュー。ついでに他のオフのみんな誘っていい?」

「話を……勝手に……」

 

 いつの間にか大所帯になってきたスイーツ探検隊のメンツを見てリスカムが頭を抱えた。それを見て、とどめとばかりに笑いかける。

 

「つき合ってくれるんでしょ?」

 

 いつもいつも、そうやって頭を抱えながら、結局はつき合ってくれることを、あたしは知ってるんだから。

 

 

 天にまします、この世界を創った悪趣味な神様へ。

 

 きっとあたしは、道半ばで燃え尽きるんでしょう。描いた未来を見届けることなく力尽きてしまうのかもしれないわね。

 それでも、あたしはあたしらしく、あの世の扉を前にするまでは足掻いてやるわ。

 

 そしてその道のりを、隣で一緒に歩む者がいるのも悪くはない。

 歩んできた道を、追ってくる者がいるのも悪くはない。

 

 生は陽炎、死は隣人。死は怖くはない、死は等しくみんなに降り注ぐものだから。それでも、この命がいつか消える灯火であるのだとしても。命がついえるその日までに、何かをやり遂げたい。この世界に生きた証を、爪痕を残したい。精一杯生きてやったのだと、命が燃え尽きる瞬間に胸を張って高らかに言えるように。

 そんなちっぽけな願いを、ずっと自分の中に仕舞い込んで誰にも話さないでいたけれど。この人達なら、言ってもいいのかもしれない。

 

 こんな世界で、もがき、苦しみながらも希望という名の光を探すロドスアイランドの人達と。ずっと傍にいてくれる、気のいい仲間との時間ってやつを。もう少しだけ、大切に楽しむことにするわね。

 

 そして満足げに殴り飛ばしてあげる、その扉を。

 

 天国か、地獄か。どちらに繋がってるのかは知らないし、どうでもいいけどね。

 

 ──Knockin' On ***'s Door Fin.




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