み〜あろっく 作:幽霊部In
作曲をする時にまず初めに何から手を付けるか。
あくまでも一般例ではあるけれど。楽器でコードを鳴らしながらその伴奏の上でメロディを考えて、コードを二つ目のものに変えてメロディをさらに伸ばす、それが出来たらコードを三つ目以降のものにさらに変えていってその後への展開……。
そうやって繋げた音が曲として出来ていく。
必ずしもそうでは無いけれど、メロディ、ハーモニー、リズムが均等な三角形に収まっていればいる程曲の完成度は高い。
メロディラインが良くないと目立つ事は難しいし和音が広がってないと音の種類が少な過ぎる、だからってリズムが取れてないと他がどれだけ良くてもガチャついた音に変わる。
どれだけ尖っていてもこの基本が出来ていないと話にならない、寧ろ尖っているのは、その基本が出来てそこに楽しみを入れているからだ。
ひたすらの重低音だったり、不協和音を取り入れたり、バズ音を敢えて活かしてみたり、そうした工夫は結局基本の完成度ありきのものだ。
わたしから言わせてみれば、売れ線の曲を嫌って売れ線の良さも何も取り入れられない作曲家は三流だ。
音楽は人が演奏する数だけその音がある、同じFコードでも楽器が違えば響く音は違う、同じ楽器でも弦の厚みや高さで歪みは変わる、弾き一つで全く別の音だって作れる。
時折、そんな当たり前のことを忘れることがある。
そういう時わたしは一回何も考えずに、全ての音を調和するエレクトリック・ベースを弾く。
ベースから奏でる重低音から作るベースラインが、わたしの心を広く落ち着かせてくれるから。
「______________……今の所、良いな」
一度ベースを弾く手を止めて、ヘッドホンをかけてさっき弾いた音をパソコンで音を確認する。
かけたヘッドホンを半分ずらして、今度はスピーカーから流れるベース音に注目する、ヘッドホン越しから聞こえる音とスピーカーから流れる音は必ずしも同じじゃないから、この確認は必要だ。
「やっぱり良い」
うん……。
久しぶりに、納得いくベースラインを弾けた。
作曲をする時にまず初めに何から手を付けるか。
わたしの場合は、今こうやって気に入った音があった時、そこから始める。
良いギターソロが出来そうならギターから始めるし、ドラムを打ってリズムが良かったらそれから始める。
歌詞を最初に思いついたらアカペラで歌ってみてから考えるし、DAWでリズムトラックして音を重ねる事から始める時もあるし、ジャンルを選ぶ為にシンセサイザーから入ることもある。
今回はたまたま手に取ったベースから、楽しめなくなってからめっきり無くなった懐かしい感覚がした。
ミュージシャンとしての感覚。
ここから生み出した音が主軸になって曲として作り上げていく、この感覚。
「嬉しいな……」
楽しまないと新しい着想は得られない。
わたしは、今自覚が出来るぐらいに、ベースを弾いている瞬間確かに音楽を楽しむことができたんだ。
その事が嬉しいよ。
☆
基本的に、わたしは外に出る必要のない生活をしている。
今の時代ネットショッピングで大抵のモノは買えるし、昔なら兎も角今となっては外の出る理由もないから、ずっと家にいる事が殆ど。
とは言っても、だからって週に1、2回ぐらいは外に出る理由を適当に作って外に出ないと体力が落ちる一方だ。気も滅入るしね。
ちょうどコンビニ限定のスイーツがある情報をキャッチしたわたしはコンビニに向かうことにしたのだが。
「ひとりちゃん?奇遇だね」
「ピ!……あ、みあさん……」
向かいからずぅ〜〜〜んって感じの空気を纏わせたひとりちゃんが歩いているのを見かけた。
時刻は夜、下北沢のライブハウス
気まずそうにしているけれど、せっかくばったり会ったし……。
「ねえ、ちょっとお話しない?」
「えっあっ、はい」
「ありがと、とりあえずコンビニ行こっか」
ひとりちゃんを連れてコンビニに向かうことにした、それにしてもひとりちゃん、冷静に考えればなんでここから下北沢までバイトしに行っているんだろう。
高校生だよね、地元の高校に向かわないで都内の方の高校に通っているのかな。
なんで?わたし気になります。
でも聴いて良いのか?わざわざ都内の方の学校に通う理由があるってことだもんね、触れない方が良さそうだ。すごい気になるけど、機会があったらひとりちゃんのバンドメンバーの子に聞いてみるか……。
「夏休み、のシーズンだよね。ひとりちゃんは何処かに行ったりした?」
「あっ、いえその……どこにも……家でギター弾いてます……」
「ふぅーん、バンドメンバーとかと何処か行ったりしないの?」
「アッイエソノまっまだ1ヶ月もあるので焦る必要もナイカトオモッテルンデスケドソノ……」
そういうつもりはなかったんだけどどんどん声が震えて体が溶けてきちゃった、わあ。
自分で誘う勇気はないけれどそれそれとして予定は開けているんだろうなあ、そんな感じする。
結束バンドの雰囲気的に、バンドメンバー同士で遊ばないようなストイック過ぎるロックバンドでもなさそうだし。
いや中にはそういうバンドもいるんだけどね、大体解散しては加入を繰り返すんだけどさ、インディーズバンドには結構良くあることだし有名なレーベルと契約した所でも
それが原因で音楽シーンから離れる人だっているから、腕は確かなだけに悲しかったりするんだよね。
「そういえば、ひとりちゃんはギターを弾く時の癖が良いね」
「えっ」
語っていくうちに自己嫌悪に走り始めたのかだんだん遠くに行きそうになっていくひとりちゃんをみて、ふと前に思った事を言ってみる。
弾ける奏法が増えたりするとその人の癖が確立されてくる。ひとりちゃんが好きなんだろうなって弾き方だと、例を挙げるなら速弾き。
速弾きを上手く弾こうとすればする程そういう風に腕の振りと手首の捻り方が変化する。
ただ、癖にも悪い癖と良い癖があって、ひとりちゃんの場合はどちらかといえば良い癖があるギターの弾き方だなって思う弾き方だ。
悪い例として、ある程度上達するとアップピッキング*1が上手くいかなくなる例がある。
手首を支点としたピッキングが癖になってる人にありがちな症状で、これ自体は肘の返しの反動を使った弾き方にするとか、単純に指の筋力を鍛えるとかで修正できる。
ただそれらを意識しないまま、治さなくても弾けはする、だからそのままにしている人もいる、ただそうすれば当然上達に翳りが起きる。
癖っていうのは習慣で、それまでの弾いてきた方法や練習の仕方を一から直さないと、根本的には解決しづらい。
その点、ひとりちゃんの良くする所々のギタービブラート*2とかは、聴いていて心地良い。
「基礎練は上手な方?」
「えっあっ、そ、そうなんですかね……へへ、えへへ……ふひ……」
露骨に喜び始めた。
「でも人と合わせるの下手だよねぇ」
「アッすいません調子乗りましたわたしはツチノコです消えます埋まります」
あはっ、なんだこれ。かわいい生き物だなあ、たのし。
☆
「あっ、あの、すいません、私の分まで……」
「別に良いよ、わたしがひとりちゃんに奢りたかっただけだし」
ひとりちゃんにもコンビニ限定のスイーツと、ジュースを奢ってコンビニから出た。
廣井ちゃんみたいな酔っ払いに奢るのはともかく、ひとりちゃんみたいな未来あるギタリストになら幾らでも投資しても良い、流石に限度は踏まえないとだけどね。
……そういえばこの前の飲み代返してもらってないな。だからってそれ目的に新宿まで行くのもなあ。
「ひとりちゃんはどうしてバンドを始めたの?」
「あっそれは、公園にいる時に、虹夏ちゃんに誘われて、それで……」
「ロマンチックだね、今時珍しくて新鮮」
「そ、そうなんですかね……」
「そうだよ、だから結束バンドのまま続けて行って欲しいな」
「は、はい……!」
ひとりちゃんにしては力強い返事で、自然と口角が上がった。
普通のバンドがメンバーの補充をする時はSNSとかが基本だ、後は人づてで聞いて引き抜いたり誘ったりする事が殆ど。
ひとりちゃんみたいな出会い方は、少ないと思う。だからこそ簡単に音楽性の違いとかで終わって欲しくないと思うのかな、初めてのバンドのまま突き進んで欲しい。
それでもし、ひとりちゃんが悩んだら力になりたいな。
わたしがしなくても、結束バンドの子たちがしてくれると思うけれどね、少し話しただけでも性格が良いのはわかったし。
「あっ……この先曲がります」
「んー、じゃあここでお別れだね」
何だか話し足りないな、って思っちゃうのは、普段人と会話する必要がないことによる寂しさからか、それともわたしがひとりちゃんっていう一人の人間を、好ましいと思ってるから?
多分どっちもだろうけれど、だからって夜に未成年を連れて何処か行くのは色々アウトだし。
でもそうだなあ……。
「ひとりちゃん、明日は暇かな」
「あっはい……えっ、え?
「良かった、それじゃ明日」
約束を取り付けてひとりちゃんと別れる。少し強引かもしれないけれど、人見知りにはこれぐらいの距離感が良いってわたしは知っているんだ。
ひとりちゃんほどではないけれど、学生の頃はわたしも人見知り寄りの性格だったからね。
☆
次の日。
ひとりちゃんとは連絡先を交換しているから、お昼前に駅前で集合する事に決めた。
人と出掛けるような服装はと言えば、まあ恥ずかしくない程度にはあるから問題無いし、別に遠出するわけでもないからそこそこのお洒落ぐらいにしてる。
ひとりちゃんがそういうの気にする子だとは思わないから、それは良いんだけれど。
「ひとりちゃん今日もジャージなんだねえ」
「あっすいません……」
「良いよ、ひとりちゃんらしい。似合ってる似合ってる」
ちゃんと言われた通りギター持って来てくれたみたいだ、それなら私服も着てほしかったなあ、前髪に隠れてるけれど顔立ち良いし、姿勢が悪過ぎるから目立たないけどスタイルも悪くない筈だし。
私服のひとりちゃんを見てみたいっていうのはあるけれど、多分すごいストレス溜まるんだろうなあ……って思うぐらいに人見知りだしなあ。
自分に対する評価がヘンテコなんだよなぁ、いや結構そういう人いるよ、バンドマンって変だし、うん。
さて、駅前に集合したは良いけれど時刻はお昼前、今日ひとりちゃんに何をするか言っていないけれど、それより先に。
「ご飯は食べた?」
「あっいえ、まだです……あっ、た、食べて来た方がよかったですか……」
「ん、そんな事ない。オススメのお寿司屋知ってるんだ、行こう」
「えっあっ、お金無いですすいませんごめんなさい」
「……ん?いや、学生にお金出させないよ、気にしないでいいからね」
「ウッえっ、えっえっ」
お昼からお寿司は初めてかな、すごいあたふたしてる、かわいい。
「な、なんでですか?」
「んー?」
「そこまでしてもらう、ような事なんて」
「ううん、それは違う、そこまでしてもらうことをひとりちゃんはしてくれた、ほら。行くよ」
「わっ」
ひとりちゃんの手を取ってお店に向かう、あの日、偶然だけれど出会ってわたしは久しぶりに人と演奏出来た。
それが全て。久しぶりにたのしかったんだ、ひとりちゃんだけじゃなくて廣井ちゃんにもそれは当てはまる。まあ絶対に直接言わないけれどね、ちょっとどころじゃ無いぐらいに酒癖が悪すぎるよあのベーシスト。
それに一度やりたかったんだ、歳下のしかも高校生にお寿司奢るの。なんだかいけないことしてるみたいでたのしくなる、あは。
☆
「ほ、本当にいいんですか……?」
「大丈夫だよ、それともひとりちゃんは、わたしが廣井ちゃんみたいな人に見える?」
「いっいえ」
オススメのお寿司屋の個室に来た、わたしのこと大将は覚えてくれてたみたいで、久しぶりに来たのに喜んでくれたのが少し嬉しい。
「好きなの食べてね」
「はっはい……!」
良かった、遠慮はしているけれど喜んでくれてるみたい、人とこうしてご飯に出かけたのはわたしも久しぶりだけど、ひとりちゃんはどうかな。
流石に一度も他人と行ったことがない、なんてことはないと思うけれど。
……そんなことないよね?いくらなんでも、うーん。どうなんだ。聞くのは流石にひとりちゃんに失礼だしなあ。
「お、美味しいでふ」
「でしょ、良かった。おススメはね____」
わたしに妹はいないけれど、もし妹がいたらこういう風に甘やかすのだろうか。多分甘やかすんだろうなあ、昔は歳下の子って好きじゃなかったけれど、今では真逆だ。
というより、なんだろう。ある程度ファン層が確立した平均年齢の低いバンドマンって色々擦れてて*3嫌なんだよね、都内は特にそう。だから都内から離れてこっちに住み始めたんだけれど。
ひとりちゃん含めた結束バンドの子達は、まだそういうのに染まってないから見ていて嫌な気持ちはしないし、今後次第だけれど、そういう雰囲気に負けてほしくないな。
「今日は、何時まで付き合ってくれるかな」
「えっ、えっと。夜まで大丈夫です……けど……?」
「よし____じゃあ食べたらわたしのお家に行こっか」
「あっはい……?エ……?ん……!?」
ひとりちゃんなら見られてもいいし、見られたからってわたしが『Mia』である事に気付ける訳じゃないだろうし。
気付かれたらその時はその時だね、あんまり知られたくない事だけれど、わたしはそれ以上に、ひとりちゃんをもっと成長させたいんだ。
_______ん、まぐろ美味しい、これもう一貫頼も。
嬉しいねえ赤バー、でも感想も欲しいなあ(乞食)
ところで。ひとりちゃんって仲良くなったら凄い依存するだろうけれど陰キャの成分強すぎてヤンデレにならないだろうから、めちゃくちゃ仲良くなった後に急に冷めた態度とったらめちゃくちゃかわいそうかわいいと思うだよね、どう?