み〜あろっく 作:幽霊部In
バンドサウンドの根幹であるリズム体の要。それがドラム。
ロックバンドにドラムはマストって言っていいぐらいに、ドラムは必要不可欠の楽器だとわたしは考える。
ドラムの代わりを出来る楽器は無いとは言わないけれど、ドラムの刻むリズムに勝るものはない、だからドラマーに最も求められるのは、リズムキープ能力ただ一つ。
言っちゃえば派手なリフもスティック回しも必要ない……っていうのはいいすぎだけれど。
速いBPM*1から繰り出す高速テクニックを覚えるよりもまず先に、リズム感を完璧に近付ける事から始めた方がいい。
リズム隊が安定するとバンドのレベルは跳ね上がる。どんなジャンルでもどんなテーマで奏でる曲でもそれは共通する。
ベースもそうだけれどドラムはそれ以上に、バンド全体の音をより良く届ける楽器だ、ドラムの上手いバンドは聞いていて違和感や不快感が全くない。
正直いえば、ここ近年の音楽シーンを考えると打ち込み音源*2で済むよ、使う音源にも寄るけれど、高くて安定したクオリティの音源もある。
打ち込みで作っちゃえばリズムが狂うこともない。ただライブハウスで奏でる音は打ち込みで作る音じゃない、人が生きて叩くその人のリズムは、その場で熱狂する空間に強く響く。
ギターやベースとは違って練習する場所を取るのも難しいし、バンドの花形では決してないから人口も少ないけれど、でもね。そのバンドの結束を強く持つのはドラマーなんだ。
でもじゃあ何を一番意識すれば上達に繋がるの、って思った時がわたしにもある、最初にドラムを叩き始めた時とかは酷かったのを覚えてる。
バスドラム*3とか、スネア*4とかも大事だけれど、音の刻みが一番反映されるのはハイハット*5を叩く間隔。これを最初から最後まで一定に叩けるようにならないと、やっぱりガチャつく音になっちゃう。
「…… うん、ドラム譜はできた。これでいい」
出来たドラム譜をパソコンで書き写して印刷する。これをこのまま打ち込みしちゃっても良いんだけれど、それは今のわたしがやりたいことじゃない。
だってそれはたのしくない。
だからもう少し一歩、前に歩く必要がある。
「行かないとな……レコーディングスタジオ」
☆
都内に着いた。ここから歩いて数分程度の場所に、数日前から予約したレコーディングスタジオがある。
何度も行ったことがある場所だけど、こうして利用するのは懐かしい。
ちょっとした機材を持ち込んで電車に乗ったのは、久しぶりになる。
それこそ、本当に数年ぶりで何だか新鮮な気持ちだ、少しだけ人目が気になったけれど、わたしを気にするような目はない。
外で作業する時に使うノートパソコンはバッグに入れていて。
ドラム録音用のオーディオインターフェイスに、ドラム用のマイクの入ったケース。後はマイクプリアンプ*6だったり使い慣れているドラムスティックとかの諸々をキャリーケースに詰めて持ち歩いている。
どれもこれも最近は使っていなかったやつだ、ノートPCは時折、持ち歩くこともあったけれども、それも半年以上前の話になる。
ちょっと重い、でもこの重さが心地良い。
打ち込み音源を利用するとこの重さと離れる時期が多くなる。どうしても準備と用意に時間がかかるから、それ相応の労力がするんだよね。
わたし自身の事例ではないけれど。気分や調子で大きくその日のコンディションが変わる人なんかは特に、本番とバンド練以外は打ち込みで。って人もいたりしたり。
「______あ!」
「ん?」
聞いたことがある声がわたしの前から聞こえた。考え事をしていた思考を一回やめて、現実に戻る。
金髪の元気そうな女の子だ、ん?というか見知った顔だ、彼女は結束バンドのドラム担当の子では?伊地知虹夏ちゃんだったよね。
「みあさんですよねっ、どうして下北沢に?」
「覚えてたんだ、ちょっとびっくり、
「覚えてますよ〜〜!今日は夕方からです!それで今はお買い物に行こうかなーって思って。みあさんは、なんだか旅にでも行くみたいな格好ですけど〜……」
「旅?あは、良いねその表現」
「わぁ何だかリョウ味のある回答された……?!」
確かに旅って言われると、間違ってるよって一概にはいえないね、音に鳴るところはいつだって旅の始まり……なんちゃって。
ひとりちゃんに「この日ってライブやる?」って前以って聞いていた。
だから都内に行ってレコーディングして、一通り録り終わったら帰る前に結束バンドのライブも見ていこうって思うのは、ひとりちゃんのファンだからかな。下北沢に拘る理由の大半はそれ。
後はまあ、値段と信頼……?比較的良いレンタル料で、使ったことのあるスタジオが、たまたま下北沢にもあったって感じかな。
「ドラム叩きにいくんだ」
「えっ!」
「意外だった?」
「ど、ドラマーだとは思わなかったです」
ドラマーって言われるような人ではないけれどね、ドラムも叩くってだけだから、でもこれは言わなくて良いことだから、曖昧に笑っておいた。
それにしてもなんだろうな、なんていえば良いんだ。こう、きらきらした目を向けられると、変な感じ。
ドラム叩いてる人をライブハウス以外の場所で初めて見つけた!って感じの目だけれど、ああうんまあ……人口少ない楽器だから気持ちはわかるけど。
「それじゃあそろそろ行くね、今日のライブ楽しみに_____「あのっ!」」
「良ければで良いんですけど……付いて行っても良いですか?」
「それはどうして?」
「聞かせて欲しいんです、私も……ドラム上手くなりたいから」
「良い理由だね、良いよ。一応星歌ちゃんには一言伝えておいてね」
「あ、ありがとうございます!……えっお姉ちゃんのことちゃん呼び……!?」
スタジオにもよるけれど、私がこれから行くところは一部屋分の料金で取っているから、人数が増えること自体は別に良い。
だから虹夏ちゃんが着いてくるのは別にかまわない。虹夏ちゃんの様子から
その理由がドラムを上手くなりたいっていう理由なら、なおさらわたしが拒む理由はない。
だってわたしは、未来ある若者の音楽に対する情熱を不意にするほど、まだ音楽を辞めてないって……。
自分ではそう思いたいから。
★
みあさんにここに座ってて良いよって言われた席に座って、観察する。
たぶん、一週間ぐらい前のことかな、お姉ちゃんから今日は外食しに行くって連絡が来た次の日、いつもより機嫌の良さそうな表情が気になって、その理由を聞いてみた。
素直に言ってくれなかったけど、要約すると、すごい久しぶりに、好きなバンドの曲を聞くことが出来たって嬉しそうに言っていた。
そんな様子が新鮮だったから、つい私も知っているバンドの曲?って聞いてみた、すると、昔を思い出すようにちょっと複雑そうな顔をして、私の知らないバンドだって言ってた。
ただ、わたしが少し離れて、お姉ちゃんとPAさんがお話ししている内容がたまたま耳に入って、みあさんの話題が断片的にだけど聞こえた。
いつも酔っ払ってるあの人の様子を見れば、何かしらの楽器経験者なんだろうなぁ〜〜っていうのは、なんとなく察する事が出来た。
声も綺麗だし、もしかしたらボーカルなのかな?なんて思ってもいた。
だけど今日偶然出会って、下北沢にいる理由を聞いてみると、まさかドラムを叩く人とは思っていなかったから、びっくり。
びっくりだけど、それ以上にワクワクした。お姉ちゃんとそんなに年の差も無さそうで、ドラマーなんて多分いや絶対、私よりも上手い人だ!って思ったから。
公園にいたぼっちちゃんを誘って、喜多ちゃんも加入して、バンドとして活動し始めて、わたしの夢に向かって一歩進めて。
だからわたしも頑張ろう!って気持ちで、今まで以上にドラム上手くなりたいから。
つい……引き留めて「付いて行っても良いですか」って思い切って言ってみた。
断られちゃうかな、って思ったけれどみあさんは優しくて、一緒に来てくれる事を許可してくれた。
「___________マイキングおっけ」
マイクの取り付けが終わったのかな、みあさんが呟いた。ドラムを叩きにいくって聞いた時は思わなかったけれど、まさかレコーディングだったなんて。
レコーディングって事は、曲を作る人なんだよね、音楽で生計出来ている人なんだ。そう考えればなんだか、凄いなって気持ちが強くなる。
それ以上に、緊張する。
だって今、私の目の前にいるこの人は、私の遥か先の音楽人だ、そんなすごい人のレコーディング現場にいるんだって意識が、ここに私が居るのが何だか場違いなんじゃないかって。
ちょっと弱気になる、ぼっちちゃんの影響かな?らしくないよ、しっかりしろ虹夏っ!
「虹夏ちゃん」
「ひゃい!」
「え……ごめん。びっくりさせた?」
「あっだっだっ大丈夫です!」
うう……みあさんから、どうしてぼっちちゃんみたいな反応になってるの?って目線を感じるぅ……。
うそ、まさか、ぼっちちゃんの家に行った時の瘴気が、まだ私の体に______っ?!
「気楽にしてて良いからね」
そう言ってみあさんはドラムカウントの後に、音を奏で始めた。
聴いたことのない出だしの入り方、私の知ってる曲じゃない。レコーディングで来てるって言ってたし、それならこれは、まだ世に出てない曲?
それより、なにより。
「___________すごい」
少しドラムを叩いたことのある人ならみんな、多分共感してくれる。流線型に振るわれる腕から落とす一定の速度、スネアやシンバルを叩く規則性、バスドラムを踏むタイミング。
タム*7の使い分けに、それから______それから……!
この人のドラムの音……すごい綺麗、真似したくても真似できないんじゃないかって思うぐらいに_____綺麗。
多分、リズムキープだ、リズム感が纏っていてブレない、ブレないから綺麗に音が出てる、ブレないから合間合間のテクニックがはっきりわかる。
みあさんは今、他の楽器と合わせる事を前提にして叩いているんだ、それは当たり前のことだって言われればそうかもしれないけれど、だからって一人で叩いていて、こんなにも間隔がブレない、凄い……!
わたしじゃ真似できない、違う。諦めとかじゃない、ただ、ドラムと付き合っている年月が違う、経験が物語っている。
ドラムを聞いていて、激しいって思う事はある。
上手いなって思う事もいっぱいあるけど、でも綺麗って思ったのは、もしかしたら、今が始めてかもしれない。
何時からかわからないけれど、みあさんが笑いながら歌うようにドラムの音を奏でていることに気づいた。
それからすぐに、無意識にわたしの口角が上がっているのに気づいた。
良く知る感情、私がいっぱい感じている感情……!
たのしい……!聴いてるだけで、こんなにもたのしい!
引き出しが多くなってきた、私の知らない複雑なノリのリズムキープ……!
もっと
それと同じぐらい私も、いつかこんな風に______
★
「……ふぅ」
少し、肩の力を抜く。
ドラムのレコーディングは出来る限り一発録りで終わらせることがベスト。
仕方なくパンチイン*8する事もあるけれど、マイク数が多くなるドラムだとそれで全てカバー出来る訳じゃないし、やり過ぎると不自然な音や違和感が起きる。
だからわたしの場合、一回最初から最後までやって、パソコンから聞こえる音に合わせて気に入らないところがわたしの基準より多かったらまた初めから。
それで修正しつつ納得できたのを今度はミックスして手を加えて、よりわたしが求めているものに近付ける、この作業は家でも出来るけど出来る限り直ぐにわたしは完成に近づけるようにしている。
その時のわたしの熱が、心のたのしさが冷めないうちに作らないと良いものは出来ない、完成しないって思ってるから。
でも結局、わたしが完成したって思うより先に、時間切れになっちゃって、持ち帰り作業になっちゃう事が多々あるけどね。
「______す、すごかったです!」
と、虹夏ちゃんが声をかけてきた。
忘れていた訳じゃないけど、集中し過ぎてたからかな、それとも。他の人に見られながらレコーディングは……久しぶりだからかな。
こうして声をかけられるまで忘れてた。
あ、いやっ忘れてないよ、うん。言葉のあや。
「ありがとう、何か勉強になったかな」
「すっごく!あっあの……!」
「ところで虹夏ちゃん、時間大丈夫?」
「えっ……あ“!」
私も今気づいたけど、すっかり夕方の時間になっていた。そんな時間になるまで虹夏ちゃんがわたしの音に夢中になってくれた、のかな。そうなら嬉しいけれど、聞いてくれて嬉しい。
慌てる虹夏ちゃんをみて罪悪感、ちょっとなんだかいじわるな気持ちも湧いてきたけどいやそんなことはない。
昔の悪い癖が最近再熱してきてる、どうしてってひとりちゃんのせいだよ、まったくもう。
「気付かなくてごめんね」
「いえっ私が悪いです!やばいどうしよ……怒られる〜〜……!すっすいません!行かないと!」
慌てながらもしっかりお辞儀をしてくれて、スタジオ部屋の扉を開けてやや走り気味にSTARRYに戻る虹夏ちゃん。
付いて来ていいよって言ったのは私だし、フォローしとかないとな。携帯を取り出して星歌ちゃんに送るチャットを考えていると、忘れ物かな?虹夏ちゃんが戻って来た。
うん?でも見える限り忘れ物らしいのは無いけれど、どうしたんだろう。
「あっ、ありがとうございました!また、また聴かせてくださいっ!」
「……うん、今日のライブ頑張ってね」
「はいっ!」
今度こそ虹夏ちゃんはSTARRYに戻って行った、廣井ちゃんが見習うべき礼儀正しい子だ。
何か技術を教えた訳でもない、これはこうやってやると良いよってアドバイスする事もしなかったけれど、虹夏ちゃんはわたしのドラムを見て、何か感じてくれたかな。
少しでも自分の実力に繋がるような事を感じ取れたら嬉しい。
心に暖かいものが感じ取れる、虹夏ちゃんの、たのしそうな目がそうさせたのかな。
今日は虹夏ちゃんを中心に聴こう、多分きっと。良い音を聴かせてくれるから。
感想くれるしお気に入りはいっぱい増えるし嬉しいっすね……だからよ、ぼっちちゃん、止まるんじゃねえぞ……。
ところで。スタジオ練は金掛かるけど楽しいよね、宅レコの時代だけどやっぱ合わせて弾くに勝るものはないよね。でも俺が言いたいのはそうじゃなくって酒クズこと廣井さんのあまりにも無防備な脇についてなんd(文字数